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ようこそ 神楽屋敷珈琲堂へ  作者: 花宮 翠
4/10

若旦那

白尾が叫んで、向かった先の祠は、それは小さめの物なのに、力が滲み出てきているような感じだった。


正直この祠を刀で切っていいものなのか躊躇う。


《 キレ、カオル 》


え?頭の中に声がする。 それもカオルと呼ばれた。 マスター? 刀?

瞬間躊躇ったけど後ろでは白尾が黒い塊と対座している。

迷っていてはいけないんだ。


「・・斬!」


走っていった先の祠に向かって、刀を振り下ろした。

ザーーーー!!!

まるでコンクリートの壁に刃先を立てて引っ張ったみたいな感覚が手元に来た。

斬れるか?!

疑うような気持ちの中に

《 任せろ 》

と聞こえたように思ったら途端に刀に入る力が加わったかのように、祠が真っ二つに裂けるように斬れていく。


うぎゃーーーーーー!!!


断末魔の叫びのような凄まじい声がしたかと思うと、斬ったはずの祠は元の姿に戻っていて、その周りには先程の禍々しい気配ではないものと変っていた。


「若旦那!」


後ろから声がして、白尾の事を思い出し慌てて振り向くと


「大丈夫ですぜ。斬れやしたね、よかった・・・」


と、息を切らした白尾はその場でぺたんと座りこんでしまった。


「白尾! 大丈夫なのか?」

「へい、大丈夫っすよ。ちょっとばかし疲れただけでやんすよ。」


ほ~~と息を吐き出して、徐に立ち上がり、「よいしょ、」と服の埃をパンパンと落としていく。

その姿を見ながら、ふとさっき斬った祠を見てみると、その場に白い蛇が頭をたれてトグロを巻いていた。


「白尾、なんかいる。」

「あー、白っすね。」


白って、白尾も白い名前だけど、とは突っ込まずにいておいた。


「白?」

「本来の祠の神様ですぜ。 ちょっと乗っ取られていたんすね。」


乗っ取られて?


不思議に思いながらもそちらへ歩いていく白尾の後を付いていくと、その白というのが恭しくまた深めに頭を垂れていた。


「白尾殿、此度は力添えを賜り申してすまぬ事じゃった。」

「なーに、屋敷様のおっしゃった事ですから気になさらねぇでくだせえ。」

「そちらの御仁にも助けていただき忝き事。」

「いえ、僕は何も。」

「そちの持たれておる紅殿は屋敷の主様のものであろうに、使えるとはまた恐ろしき御仁であろう?」

「まあ、そうっすね、なかなかいやせんぜ。」

「?」


良くわからないが、この刀は凄いんだな。


鞘を見ると


「あれ? 元の色に戻ってるよ。」


初めて手にして時と同じ、海の色をしている刀をまじまじと見た。

これはいったいどうしたことだろうか。不思議でたまらない。


「紅の旦那も一仕事終えたんでやんすよ。 さて、白い猫はいやすか?」

「おお、そうじゃった。 ほれ、そこの穴に隠しておるわ。」


顎でしゃくり示す先には、岩と岩の間に小さな穴が開いていて、その中に背中を丸くして小さくなっている白い猫がうずくまっていた。

そっと手を入れその猫を持ち上げると寝ているではないか。

寝ているのか? まさか死んでいるとか。


「いや、死んではおらぬよ。眠っておるだけじゃ。」


ほっとしてその頭を撫でてあげると、耳をぴくぴくさせている。

ほんとだ、生きてるね。


「わしがほんの少し留守にしている間にこの社を乗っ取られての。 戻れば隙があったのかこの身も囚われてしまっておった。呪縛のような鎖で巻かれて身動きも念も飛ばせず助けを求める事もできなんだ。 ならばこの魔がわしに化けて表の神域のおる猫を嫁にしたいと言い出したのじゃ。」


「それは月空と天空のお母さん?」


「お、なぜにわかるのじゃ?」


「あれ? なんでだろう。 あの子達は人の姿をしていたけれども人ではなかったのだし。という辺りかな?」


「ほほほほ。面白き御仁であるのう。 白尾殿。 その者を連れてお戻りくださりませ。 この者の子らが心配しておることでしょうからのう。」


「へい。わかりやしたよ。 若旦那、帰りやしょう。 もういつもの社と同じ様になっているはずでやんすから、帰り道は早いですぜ。」


「うん。 じゃ白さん、また。」


「おう。また参られよ。いつもここでぶつぶつ言い寄るのを聞きましょうぞ。」


「え?」


ほほほほと笑う白は、徐にお辞儀をすると、すーっと社の中に消えていった。

その場はいつもと同じ様な神域。

大きな社はいつものままで、この小さな祠はその裏手にあったのだと、今更ながらに気が付いた。


「さて、その奥方をお連れして帰りやしょう。」


「そうだね。」


腕の中で眠る白い綺麗な猫を、やさしく撫でながら祠をもう一度見て、珈琲堂へ戻る道へと足を動かした。








「「母様―!」」


月空・天空の声が響く店内にはにこやかなマスターと、モデルのような白尾がいる。

僕はといえばカウンターでそのみんなの姿を見ながら珈琲を頂いているのだ。

少々疲れたみたい、かも。


「要様。本当にありがとうございました。 母様が戻られてこんなに嬉しい事はありません。」


「うん、よかったですね。 僕も嬉しいです。」


珈琲を飲んでいる横に月空が来て、徐にお辞儀をしながら話してくれた。

その姿は嬉しさで輝いている。


「月空様。お礼はあちらにいる綺麗なお兄さんの白尾にもおっしゃってくださいますか。あの者がおりませんでしたら、皆無事に帰って来れませんでしたから。」


「はい。わかりました。 そういたします。 要様ありがとうございました。」


またぺこりとお辞儀をして、いそいそと白尾の方へ走っていく。

にこやかにする月空。横ではにかむようにしている天空。

それに対応する白尾のわたわた恥ずかしがっている事。

微笑ましく見ているマスターと彼らのお母さん。


いいな・・・・・。

見てて心がぽかぽかしてくるよ。



カウンターに肘を着きそれを見ていたのだけれども、どうにも眠たくなって・・・そのまま静かに寝てしまったようだった。





「屋敷様。若旦那寝ちまいやしたよ。」

「ああ。 疲れたんだろ。何しろ神社だとは言ったが、あれはここからしたら異界。 よく戻ったものよ。」

「それをわかってあっしに近づけたんでやんすか?」

「まあ、そうだな。 いいだろ?あいつ。」

「ええ。あっしは好きですよ。若旦那の事。 かなりのお方ですぜ。」

「そうなんだ。なにしろ・・・」

「そうでやんすね。」




気持ちが良さそうにカウンターで寝ている要に、二人がなにやら話をしていた事は要にはわからないこと。

にこやかに話す二人は、不思議な二人。






・・・そうなんだ なにしろ  あの場所で私と会ったのだからね・・・



その意味を知るのは、もう少し先の事。


屋敷の声が静かな闇にまぎれていく。





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