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ようこそ 如月珈琲堂へ  作者: 花宮 翠
3/10

後ろの正面

「若旦那、右手に気を付けながら行きやしょう。」


白尾が僕を少し庇うように二歩程前を歩く。

僕は左手に握る刀を握り直していると、なんか変な感じがしてきた。


刀から紐が出てはいたけど、それは短いもので邪魔になるほどのものではなかったはずだ。

なのに、今気が付いて見てみると、それは長くなっているし幅も広くなっている。

鞘も心なしか…いや、全く違う色になっているようだ。

預かった時には海の色のようなものだったのが、今は紅色をして艶やかになってきている。

なにしろ持っている手がほんのり温かい。

自分の熱ではなく、鞘から感じてきているようだ。



「ねえ、白尾。」


「なんでやんしょ。」


「・・・(ぶふっ)」



いや。

その外人さんのように白く綺麗な肌に、襟足が肩ほどまでの前髪の長い白っぽい金髪が柔らかな感じで風に揺れる、姿は少年・・・15か16くらいで・・・目が良く見たら金色だ。背も高い。

黙っていたら、文句なしにモデルのようなやつなのに。

しゃべると・・・いただけない。

そんな容姿のやつが・・・なんでやんしょは困ったもんだ。


笑いが出てくる。


帰ったらその言葉使いを直さないと。

もしも現実の世界でこうして姿を出す事があるのなら、言葉が変だと並んで歩けない。

勿論、笑いが出てくるからだけど、本人にも良くないだろう。


「若旦那?」


「あ、ごめん、実は刀がね」

「危ない!」


ヒュン と音と共にまたさっきと同じ様な剣が飛んできた。


「どこにいやがる。」


本当だ。

どこに居るのか、気配がわからない。

そんなに敏感じゃないのは自覚があるけれども、見渡す限り神社の神域だ。

背の高い木が何本も立っては居るが、目線より少し高いところは見通しがいい。

キョロキョロと見ていると、


「若旦那、こっちへ。」

「うん。」


さっと手を引かれ、隠れるように身を屈めて入ったのは、神社の社の床下だ。


「こんなところ、初めて入ったよ。」


「そうですかい? 隠れ鬼には定番でやんすよ。」


「隠れ鬼?」


「鬼ごっことも言いやしたよね。」


「あー、。うん、言うね。」


「あの剣を投げてきたやつは、隠れながら捕まえようとしている隠れ鬼の鬼ですぜ。」


「鬼。」


「へい。 姿を悟られないようにしている辺り、忍者みたいですが忍者ではないんでさー。 そうしたなりをしたあやかしでやんすね。」


周りを見上げて床下だから木の板ばかりだけど、もしかしたらこの場所で死ぬのだろうかと思わず思ってしまった。



暗い床下には光が少なくて、隣にいる白尾のことくらいしか見えないけど、彼はもっと見えるのだろう。

そんな事を考えていたら、刀がカタカタ震えていることに気が付いた。

そうだ。 さっきも温かく感じたり、鞘の色が変ったりしていたんだった。


「ねえ、白尾。」


「へい。」


「刀がね、なんか変なんだ。温かくなったり、鞘は最初海の色みたいだったのが、ほら、赤いだろ? それに今はカタカタ言ってるんだ。 僕はこんな事マスターに聞いてないんだよ。 ただ持って行けとしか言われていないから、この変化がわからないんだ。」


「あー、それは如月の主が持つ刀ですぜ。」


「マスターの?」


「へい。 本来なら如月様しか扱えないんすよ。 ですが若旦那に持たせたっつー事は、意味があるんでやんしょ。」


「意味・・・」


「つまりは今はこの地に如月様は来る事ができないけれども、その代わりにとご自分の刀を持たされたんでやんすよ。そうでやんしょ? 紅の旦那。」


え?

紅の旦那?


そう名前を呼ばれると、刀の鞘は本当に真っ赤になって、カタカタ言うのをやめてずっしりと重たくなった。

まるでそれは納得したようで、自分の姿を正面に出してきたような感じだった。



「さて、紅の旦那も本気になってくれたようでやんすから、行きやすぜー。」


「う、うん。」


白尾の声が瞬間聞こえなくなったと思ったら、頭の上にある社の床から、「ズサッ!!!」と刀が刺さってきた。


「うわー!!」


「おっと、若旦那、こっちへ。」


ずしんと重たくなった紅の旦那(刀)を持って、腰を屈めたままその場から急いで移動する。

しかしその行く手をさえぎるように、上からは相手の刀の刃が何回もズサッと刺さってくる。


屈んで走っては逃げて、刀が刺さってきて・・・


埒が明かない。


腰を屈めているから早くは走れないし、でも白尾を信じて付いていくしかない。




「若旦那、上に上がりますぜ。」

「ああ。」


相手の刃先から逃げつつ、床下から上に急いで這い上がると、社の端についていた。

その先には小さな祠がある。

大きな社より、ずっと力が篭っているようだ。


「目的はあっちですぜ。 若旦那、あっしが合図を送りますからそしたらあの祠へ向かって一直線に走ってくだせえ。 そしたらその紅の旦那であの祠を叩っ切ってくだせえやし。」

「祠を切るの?」

「説明は後でしやすから、お願いしやす!」

「わかった。」


もう後ろからは物凄い速さで追いかけられているのがわかる。

追いかけて来ているのは、黒い影のような塊だ。

揺れるように物凄い速さで、刀を振りかざしながらこちらへ向かってくる。

来る!

こちらへ来る!


「白尾!」

「いまだ!!若旦那!!」


その声にはじかれて、祠へ一直線に走り出した。





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