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白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
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第24節

すみません。ほんと、すみません。





第24節


 さて、その時起こった事を説明するにはまず、この世界においての“魔術”・“魔力”という物について、少々見地を深めて貰う必要が有るだろう。

 この世界で生きていく上で、誰もが大なり小なり魔術という物に触れる。つまりそれらは生活と深く直結しており、私達が《領域エリア》と言う限られた生存可能地域で生活していく為に不可欠であると云う事だ。


 このように、基本的には誰もが“魔術”というものを扱える。まあ、小規模のものは体系化された学問という意味での“魔術”ではなく、呼吸すること歩くことと同程度にやり取りされる魔力の『うつろい』という意味での“魔術”ではあるが。


 その事からも察することが出来るように、魔力を扱う事は左程難しくは無い。

 古くには(旧文明崩壊以前の事らしいが、記録のほとんどは失われ正確な所は誰も知らない)、『魔力』という呼称が存在しなかった頃、魔力は“第三の腕(サード)”と呼ばれていたらしい。

 自己の意志の元、なんらかの現象を引き起こす見えざる手、といった所か。ここで重要なのは、魔術を扱うのに必要なのは“意志”であると云う事と、高度に体系化された学問を修める必要性は無いと云う事だ。


 私達の身体に備わった『機能・器官』の一つが、“魔力”なのだろう。


 何故そんなものが先天的に備わっているのか、それは未だに解っていない。こういった事柄は、後からいくらでも理由付け出来てしまうものだ。実際に私達が、どのような帰結でもってこれらの能力を得たのか、どのような取捨選択の結果として今が在るのかは、それこそ“神のみぞ知る”と言うやつなのだろう。


 そもそもにして、“魔力”についても分かっていない事は多い。


 我々の身体では到底為し得ない事を為し得る力。超常の力、として『魔力』と呼ばれてはいるが、結局“第三の腕”と呼ばれていた頃と大して変わっていないのが現状だ。せいぜい、『触媒』と呼ばれる魔力を集積する性質を持った物質の発見により、十分戦闘にも耐えうる規模の魔力行使が可能となった程度だろう。旧文明の崩壊により、多くの文献は失われたがそれくらいならば時間をかければなんとかなると云う事か。

 と言っても、旧文明崩壊直前の文明レベルには遠く及びはしないのだが。


 以前、魔力とは『なんでもないが、なんにでもなれるモノ』と説明しただろうか。

 この性質のせいで、魔術の探究の最大の命題は『なんでもない存在の解明』と云う、禅問答のような有り様を呈している。

 真に魔力を理解するには『魔力』そのものを研究する必要があるのだが、その状態では本当に『なんでもない』のだ。

 魔術として、炎や氷(私の場合は雷か)に変化させれば、確かに存在は証明できる。だが、その前段階の魔力自体は何の数値も持っていない。


 ある種、哲学的なこの命題の解決に、幾人もの賢人けんじんが挑んできたが、それでもせいぜい幾つかの魔力の性質を突きとめた程度だ。

 それらの性質とは、さきほど述べたように“触媒”と呼ばれる物質を介し集合すること。意志により操作出来る事。


 そして、今重要なのが魔力の『生物的特性』だ。有機特性や生物類似特性と呼ばれるこれ。


 その名の通り、魔力は生物と非常に良く似た性質を持っているのだ。その理由もやはりよく解っていないのだが。


 一例としては、“自己増殖能力”。


 私達の身体には魔力の“元”となる存在があり、それが生物の細胞のように増殖を繰り返すことで魔力は供給される―――、と考えられている。その“元”というのが何なのかは、やはり解っていない。精神的な何かだと云う者もいれば、体内でエネルギーを変換する器官が在ると主張する者もいる。あるいは、それこそが“魂”と言われる物なのかもしれない。

 とにかく、私達が半永久的に魔術を行使できるのもこの特性のおかげだ。魔力の多い少ないとは、この増殖能力の強弱に過ぎない。

 増殖のスピードが速いか遅いか、あるいは増殖の“元手もとで”が大きいか小さいか――、である。

 どうやら私はその両方であったらしく、雷の魔術という反則的な魔術を、反則級の規模で行使できる。


 今回、問題になっているのはこれではない。


 今現在、我々が危機的状況に在るのは“恒常性の維持”または“魔力保全性”と呼ばれる特性の為だ。


 これは魔力が『自己』を維持しようとする性質である。

 通常であれば、魔力は術者との繋がりを経由してこれを維持する。まるで赤子がへその緒を介して生命を育むように。

 だがこの繋がりが途切れた場合、魔力は自身で自己を維持するようになる。


 ―――そう、“捕食”によって。


 本来であれば、捕食に成功すること無く、再び『なんでもないもの』へと戻りゆくのが大半だ。なんせ、“魔術”として行使された魔力は、云わば“産まれたての赤子”と同じなのだから。


 しかし、今回は違った。赤子は赤子でも、あまりに巨大過ぎたのだ。


 この現象を、“魔力解離”、または単に“暴走”と呼ぶのだが、実際にはそうそう起こる事は無い。

 暴走が起こるレベルの魔術を扱える者の絶対数が少ないことも理由の一つだが、魔力が術者の意志の下に置かれる存在だということも大きい。

 “第三の腕”ではないが、魔力を扱うのは我々にとって難しい事では無い。自分の腕を故意に暴走させることが出来ないように、魔力を暴走させることも普通は出来ない。

 おそらく、アキトとの戦闘中に何かがあったのだろうが、外野たる私達にそれを推し量る術は無く、そして現実としてカインの魔術は暴走していた。


 結果、彼が発生させた竜巻はその質量を増しながら、“捕食”をしようと巨体を動かし始める。

 対象は“魔力”。そして、ここで魔力を持ちえる存在は“人間”なのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――と、いう理由わけだ。理解できたか?」


 ヒカルの長~ったらしい説明が終わる。


「ああ、よ~く分かった。―――手前の説明を暢気に聞いてる場合じゃねえって事がな!!」


 レオが半ば自棄になって叫ぶ。説明を求めたのは確かにこちらだが、どうやらそんな説明を悠長に聞いている場合ではなかったらしい。というか、それを先に言え。

 隣を見ると、ルルはいない。そういえば、ヒカルの説明が始まる前からいなかった気もする。

 ルルは魔術師だ。当然、先ほどヒカルが説明したような事は知っていたのだろう。


「あのアマ…」


 正直、パートナーにする仕打ちでは無い気がする。今度会ったら、あいつのヘソクリを全部酒に換えてやる。『今度』が有ればの話だが。


 そうこうしている間にも、暴走しているらしい竜巻は、おそらく内側に居るであろうカインから魔力を奪い取り(・・・・)、肥大化していく。

 それが尽きれば、今度はこちらだ。それも尽きれば、次はクラフストンの街へと矛先が向くのは目に見えている。あんな竜巻に襲われれば、街の一つ程度容易に灰燼と帰すだろう。


 その焦燥が顔に出ていたのだろう、それを見とがめたヒカルが珍しく慰めるように言う。


「なに、心配はいらない」


「なにっ!?なんとかなるのか!!」


「この街は領域エリアの外周部に位置している為、他の街までは距離が在る。他所よそに飛び火する前に消えてしまうさ」


「そうか!! ………そうか? それって、この街は助からねえって言ってねえか?」


「言ってはいないが、言外に言っている」


「超意味ねえ!!」


 この事態において目の前の猫耳娘が全く役に立たない事は理解した。


「そう喚くな、暑苦しい。そもそも心配しなくても、アキトがどうにかしてしまうのだから問題無い。心配しただけ無駄だぞ?」


「………手前はあいつにおんぶに抱っこで高見の見物かよ…。それで良いのか?」


「少なくとも、私にはその権利が有るし、アキトにはそれを為せるだけの能力ちからが有る」


「………」


「よく見ておくんだな。あれこそ君が喧嘩を売ろうと(・・・・・・・)している男だ(・・・・・・)


「なっ!? ばっ、な――――」


「気付いていないと思ったか? 確かに私はアキトにおんぶに抱っこだが、それ故にあの間の抜けた男の背中を護るのは私の役目だ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お~い、起きんかいワレ」


 バシバシバシ、とアキトがカインの横っ面をはたき倒す。だが、相も変わらず彼は白目を剥いたまま気を失ってしまっていた。

 どうやら死んではいないようだが、一向に目を覚ます気配は無い。

 周囲を取り囲む竜巻は狂ったように唸りを上げ、不規則に揺れ動いている。それもこれも、彼の指輪が砕けてしまってからだ。

 どうやら、あれが彼の魔術の触媒らしい事は理解してたが、それほど魔術に詳しくもないアキトには、現在自分の置かれている状況が理解できていなかった。


「困ってしまった………ってレベルじゃなさそうだな…」


 それでも、魔術の竜巻が、カインが意識を失ってしまった所為なのか、はたまた触媒たる指輪を破壊してしまったせいなのか、クラフストンの街の方角へゆっくりと移動を始めようとしている事は分かった。


「こんだけデカイと、笑いごとじゃ済まないぞ、おい」


 魔力の竜巻、と言う事はその内に消えてしまうのだろうが、それまで街が無事である保証は無い。

 アキトは再び、この竜巻を創りだした張本人たる白目剥いてる男を、先ほどより強めに叩くが、やはり目覚める様子は無い。


「はぁ…」


 軽く嘆息。そして、おそらく聞こえてはいないであろう相手に対して、こう告げる。


「お前が手も足も(・・・・)出さない、ってんなら―――」


 本格的に動き始めた竜巻に呑まれないようにカインを肩に担ぎあげ、唇を歪めながら。


「―――俺が出させてもらうぞ?」


 カインを担いだまま、まるで天と地を結ぶかのように真っ直ぐに屹立する。


「手も!」


 そして、大きな破裂音を響かせて、両の手を合掌させる。


「足も!」


 なかば砂地に埋まり込むように、足で地を踏みつける。


「爪も!!」


 合掌していた掌を、今度は強く結び付け、


「牙も!!」


 凶暴な笑みに、鋭い犬歯を浮かばせながら、


「全部だ!!」


 竜巻が怯え慄くようにその身を震わせる。否、竜巻だけでは無い。《世界》そのものが拒絶反応を示すかのように、砂漠の熱砂が吹き荒れる。

 しかし、それにも我関せず。終幕宣言コール


「拝無神流! “秘義”が一!」


 《オガミ》が《拝》たる、その本質を露わにするその技法の名は―――


大神オオカミ!!」


 灼熱の太陽すらも押しのけて、白銀の閃光が溢れ出す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なにかを突き抜けたような感覚と、より鮮明に、鋭敏になった五感の刺激が、己の変化を裏付ける。


「さて、と」


 自らに言い聞かせるように呟き、一旦間を開ける。《拝》は常に(たとえ激昂している最中であっても)冷静であらねばならないからだ。この姿であるときは特に。

 今問題となっているのは、自分を取り囲む巨大な竜巻だ。魔力で生成されたこの竜巻は、現在術者の手を離れ、半ば暴走状態にあると推測される。

 そして、人狼の姿となった今ならば分かるが、おそらくこの竜巻はこの後、加速を続けクラフストンの街へ到達するのは確実だ。そうなれば、被害は甚大。今から避難を促す事はほぼ不可能。


 で、あれば。この竜巻自体をどうにかする必要が有る。

 術者のカインが心神喪失状態に在る為、魔力・魔術操作による解決は難しい。否、たとえ彼の意識が有ったとしても、どうにか出来たとは思えないのだが。


 となると、それ以外の外的要因によっての解決を模索する必要がある。

 今、この場でこの竜巻に物理的な影響を与える事が出来るのは俺か、もしくは竜の成体であるナギくらいのものだろう。

 だが、竜は人の姿と竜の姿を行き来する所を見られるのはまずいようなので、すぐにはどうしようもない。

 もしかしたら、既にこの場を離れ、いざという時の為に備えているのかもしれないが、それは最後の手段としたい。


 結果、この竜巻に対応するのは自分という結論が出る。


 その場合、問題は二点。

 一つは、竜巻は空気の流れの塊であり、実体が無いということ。そして、この高さ数百mにも達しようかという巨大さだ。


 この両方の問題を解決しうる解答は――――。


「“アレ”をやるしかないのか…」


 軽くナーバスになりながら、諦めたように呟く。吹き付ける熱砂のせいだけではない理由で銀の毛に覆われた顔が歪んでいるのが分かる。

 “アレ”とはもちろん、アレの事であり、そもそもそれしか無いという結論に達したからこそ、人狼へと変化したのだし。

 そう自らに言い聞かせ、カインを落とさないように、まるで襟巻のように彼の身体を首に回して担ぎ直す。


 そして、自身の左手首を右手で掴み、宣告コール


「拝無神流! “秘義”が一!!」


 来たるであろう激痛に備え、奥歯に力を入れながら―――


「《経津主フツヌシ》!!」


 刀剣を抜刀するかのように、腰だめにした右手でもって一気に自分の左腕を引き千切る(・・・・・)

 裂傷…と称すのも馬鹿らしい断面からはおびただしい量の鮮血が溢れ出す。本来であればすぐさま再生されるはずの左腕は、だがしかし一向に再生されない。


 そして、変化は今しがた右手で引き千切った、左腕の残骸から起きていた。


 アキトは、まるで剣か何かのようにもぎ取った左腕を、天上にかざす。その左腕の断面からは、なんと再生が始まっている。

 そこから、ボコリと浮かんで来たのは、白い骨…ではなく、白銀の輝きを持つ片刃の刀身だ。それが膨張しながら、まさしく無限(・・)に天へと伸びていく。


 その間にも、止まる事の無い流血で大地を紅く染め上げながら。


 真紅に染まった大地から、幅数十センチの刀身を持つ刃が天へと伸びていく。その鮮やかなまでの紅白は、まるで(誕生)の大地から、()が生えているかのようだった。


 刀身は10m、50m、100mと伸びてゆき、やがて巨大な高さを誇る竜巻すらも追い越して、なお伸びる。


 それを確認したアキトは、激痛を堪えながら肺の腑一杯に息を吸い込む。


 そして、気合一閃。


「チェス……トオォォォォォォォォッ!!」


 吐き出した気迫と共に、手にした長大な大太刀だいだんびらを振り下ろす。


 彼の“秘義”によって生成されたその太刀は、なるほど尋常の太刀ではなかったらしい。

 その刀身が過ぎ去った場所に在った全て――空気や砂のみならず、光、空間、そして時の流れすら裂断してゆくそれは、まさしく《世界》を裂く刃なのだろう。

 その後に、以前と同じ繋がりを有しているモノは無く、それは竜巻も例外ではなかった。

 まるで《世界》に白の墨汁でもって、一筆の縦線を入れたような軌跡と共に、断たれるはずの無いモノが、白銀の骨刀によって裂かれていく。


 空気の流れ、空気の繋がりを絶たれた竜巻は、もはや渦巻く事も、霧散することも許されず、消えゆき、崩れ去る。


 太刀はそのまま振り下ろされ、大地と平行になった所で地を裂く事無く、静止した。

 そして、残心。巨大な太刀に乗せていた意識を引き戻しながら、皮肉気に呟く。


「『斬れない物は、空気と水と男女の縁』って言うけれど…」


 アキトは、大量に降って来る砂に身を紛れさせながら、変身を解いた。長大な刀身は消え失せ、引き千切られた左腕だけが残る。後で固定しておかないといけないのが、この技の不便な所だ。まあ、全裸にならないだけマシなのかもしれないが。

 そんな事を考えながら、終幕宣言。


「我に斬れぬモノ、“男女の縁”以外、無し!! ってね」


 満足気に笑い、そういえば肩に意識の無いカインを担いでいる事を思い出し、慌てて街の診療所へと走りだす。

 ここに、砂漠の私闘は幕を閉じた。

あれ?これって、零式斬かn―――ゲフンゲフン。

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