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白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
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第22節

すみません。また怠けてました。





第22節


 面倒な事になった、とアキトは内心で独りごちる。

 まあ、あれで終わってくれるとは思っていなかったが、同時にあれで負けを認めてくれた方が楽だったのは確かだ。


(困った…)


 再度、表情には出さないように胸の内側で溜息を吐く。

 何故俺が、こうも四苦八苦しながら戦っているのか、と言うと大体あのねこみみ娘の所為だ。


 ここで、俺とカイン、両者の勝利条件について確認しておこう。


 ・カイン『アキトをぶっ殺す』


 ・アキト『????』


 こんな感じだ。

 おかげで、カインの攻撃はる気満々だった。

 まあ、それは良い。いや、良くは無いが、当たらなければどうという事も無い。

 それよりも、だ。


 なんだよ、この『????』って!?


 いや、いい!!言われなくても分かっている。どこぞのねこみみが、特に何も決めずにこの私闘を始めさせたせいだ。その事に俺が気付いた時には、既に闘いの幕は切って落とされていた。

 最初、逃げ回っていたのも大体この所為。


 ようはアレだ。俺はヒカルにていのいい厄介払いをされた訳だった。

 さしずめ、『この面倒臭い奴をとっとと追っ払え。方法はアキトに任せる。面倒臭いから私は何もしないが』といった所か。


 『????』に当てはめるとするならば、『カインを諦めさせる』と言う事になるのだろうが、これでは全く答えになっていない。結果ばかりで、過程とか方法とか経緯とかが欠如してしまっている。まさか、ぶっ殺すわけにもいかないし。


 と言う事で、相手の意表を突いて、動きを封じてみたのだが、どうやら無駄だったらしい。

 こういう、『自分は正しい!自分が正義!!』といった輩の心根を挫くのは、正直骨が折れる。というか、面倒臭い。


 『さて、どうしようか』と考えながら、今日も俺はムチを避ける。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アキトの奇策は、決着には至らなかったが、『遠距離からの魔術』による一方的な攻勢を覆した。カインが砂から脱出した時、両者の間合いは約五歩の距離。アキトの拳が届くには、さらなる踏み込みが必要な距離ではあったが、同時にカインが魔術を行使するには近すぎた。


 この間合いの変化により、戦闘は否応なしに近接戦へと移行する。


 『動きを封じる』という当初の目論見もくろみが外れたアキトは、すぐさま頭を切り替え、今度は《カタリ》による直接的な身体の拘束を行おうとする。接近する手段が存在しなかっただけで、筋肉・関節・神経など、人間の動きを止める手立てはいくらでも有った。


 だが、アキトの接近を受けても、カインは笑みを崩さない。素早く腰の後ろ側に手を回し、一振りの鞭を抜き放つ。形状は有名な冒険者兼考古学者が使うような、柄の先に革製の尾が伸びている。ただの鞭にしては異様に長いそれをカインは無造作に横に薙ぐ。


 ――瞬間。


「っ!?」


 レオにも匹敵しようかという勘で、アキトはソレを察知し、砂の地面に身を投げ出すように伏せる。カインが振るった鞭はその胴が在った場所を通り過ぎていく。だが、その様子も速度も尋常では無い。

 アキトは四つん這いのまま、顔を上げカインを見る。その時には既に、彼の腕は大上段に振り上げられており、アキトは考える間も無く、まるで虎のように四肢の力で思いきり横に跳ぶ。


 ――次の瞬間。


 やはり先ほどまで在ったアキトの身体を両断する位置に、鞭が振り下ろされる。アキトの肉を捉え損なったそれは、砂漠に叩きつけられ、地面を両断した。

 そう、両断(・・)だ。


 本来、鞭は非殺傷性の武器である。当たったところで、せいぜい皮が裂ける程度だろう。命を奪わず、ひたすら苦痛を与える事が目的の武器なのだから。

 しかし、カインが振るったあれはそんな生易しい物では無かった。そもそも、鞭であるのにしなりやたわみが無い。まるで、一本の長大な刀のように真っ直ぐに伸びている。


 かと思えば、くいっとカインが引き戻すと彼の周囲を意志を持つかのように旋回し始める。見た目としては新体操のリボンのようだ。

 おそらく、風の魔術を付加してあるのだろう。砂漠に叩き付けたからなのか、先ほどの旋風と同じく砂が混じった風が鞭を覆っている。切れ味は推して知るべし。


 守勢に回るのは不利と見たアキトは、すぐさま立ち上がり接近。《気》を解放。


「拝無神流、奥義が一、《金剛コンゴウ》!!」


 拳を繰り出しながら身体強化、硬化の技法。先ほどの旋風には実体が無かった為、使わなかったが、今度は『鞭』という実体が在る。

 そのまま勢いを十分に乗せて、最硬さいこうの一撃を放つ。


「――ふ」


 カインが僅かに微笑。アキトの拳を受け止めるかのように腕を突きだす。

 だが、これは金剛石ダイヤの如く硬化された拳だ。受けようものなら、腕の骨ごと拳が砕けるだろう。


 しかしアキトの拳はカインまで届くことは無かった。


 何故なら、カインの意志を汲んだ鞭が巻貝のような円形に集結し、盾を形作る。


「しゃらくさいっ!」


 アキトはその鞭の盾ごと、打ち貫こうとする。

 ――瞬間。


「おぉ!?」


 意外にも盾は脆く、拳はそのまま鞭の渦に飲み込まれていく。だがそれも、拳がカインに届く一歩手前でスプリングのように反発する鞭に跳ね返されてしまう。凄まじい程の質量を持つ風の塊の為せる技だった。


 しかも、鞭の動きはそこで終わらない。思わぬ反発により、上体の崩れたアキトに向けて、反発の勢いそのままに今度は螺旋の槍を形作る。槍の先端はアキトの肩口に向けて貫徹の一撃を放つ。《金剛》で強化されていないそこへ。

 アキトは崩れた体勢のまま、硬化した拳を間に無理矢理割り込ませる。


 ――――ギリギリギリギリギリギリ!!


 とても人間の拳と、革製の鞭のせめぎ合う音とは思えないような音を発し、槍の先端とアキトの拳が凌ぎを削る。火花すら散らして。


 これに目を丸くしたのはカインの方だった。


「驚いたな。君の腕は金属か何かで出来ているのかい?もしかして、それが噂に聞く《鋼の義手(オートメイル)》と言うやつなのかな?」


 その問いに対して、圧倒的な質量を持つ風に弾き跳ばされそうになる拳を必死に抑えつけながら答える。


「あいにくとこの拳も身体も、親から授かった唯一無二かつ自慢の腕でね。あんたの方こそ、この鞭は何なんだ?」


「これかい?これはね、僕の近接戦闘術さ。鞭に極度に圧縮した旋風を纏わせている。しかも僕の思い通りに動く。大型の魔獣を狩るのに魔術を何度も使うのは非効率だからね。《縛鎖の風》で捕えて、この《旋風の鞭》で首を落とすのさ」


 なるほど、確かにこれだけ長ければ、どんな大型の魔獣だろうと斬首できるだろう。リーチも威力もスピードも、どれをとっても洒落にならない。


 距離を取りたい所だが、そうすると再び竜巻との追い駆けっこをさせられるだけだ。だが、近距離も不利。


(間合いを開けて、隙を窺うしか無い…か)


 魔術を使われないギリギリの間合いで撹乱と牽制を繰り返すしかない。

 アキトは渾身の力で鞭の槍を押し返し、間合いを開けようとする。


「そうは…させないよ!!」


 だが、アキトの判断を予想していたカインが次の手を打つ。

 魔力収斂コンセントレート――、鞭を操る為の魔力を残し、その他全てをそれに注ぎ込む。


「――集結せよ、――収縮せよ、――収斂しゅうれんせよ!!

 ――森羅を囲み、万象に揺らぐ物!

 ――森羅を包み、万象に叫ぶ物!!」


 媒体となる指輪の許容量いっぱいまで注ぎ込まれた魔力は、その調しらべに従い魔術としてのかたちを得る。

 魔力より産まれた風は、本来の大気すら押し退けて、我が物顔で暴れ始める。

 それらに、『名』をて、服従の契約を交わす。


「《風竜の吐息(ゴッドブレス)》!!」


 それは、巨大な竜巻だった。

俺これが終わったら、ゲームやるんだ…。(フラグ)

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