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白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
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第10節

 すみません!告知も無く、更新を止めてしまって…。


 別に書けなくなったとか、お気に入り登録が100件超えるの待ってたとか、そういうのじゃ無いよ!?


 ゴールデンウィークは恐ろしいのです、はい。





第10節


 《風竜走》への出場を決めた俺達は、早速街の集会場(要は役場)へと足を運んでいた。


 …いたのだが―――――


 何故か、アキトの背中にはヒカルが張り付いている。まるでコアラの子供のようだった。

 おんぶをしている訳では無く、勝手にヒカルが乗っているのでバランスが取りずらい。


「なあ、もの凄く歩きにくいんだが」


「気のせいだ」


「いやいやいや!ヒカルはなんで、俺に無理矢理くっつこうとするの!?」


 そう、昨日からヒカルがやけにアキトと密着したがる。


 昨日の夜、話を終えて就寝しようとすると、アキトの布団に潜り込み、『寒いから』という理由で彼のお腹を両手でがっちりとホールドしたのに始まり、朝食を作る時は、流石に危ないので抱きついてはこなかったが、後ろでジッとアキトの背中を見ていたり、果てはトイレまで付いて来ようとしたのだ。


「これはあれ?俺は命を狙われてるの?隙を見せたら死ぬのか?」


「大丈夫だ。その為に私が常に見張っているのだから」


「いやいや、この構図だと狙ってるのはヒカルだから」


「問題無い」


「有るわっ!!」


 ついでに会話も通じていなかった。


 原因は…なんとなくだが分かっている。昨夜のあの話のせいだろう。

 あの話の何が、彼女が俺を見張らなければならない理由に繋がるのかは分からないが。


「納得のできる説明を求める」


「ふむ、良いだろう」


 ヒカルは一つ頷くと、顎に手を当て頭の中を整理するようにしばらく地面を睨んでた。

 そして、顔を上げ再び頷くと、たどたどしい片言と手ぶり身振りを交えて、説明を始める。


「アキト、困ってる人、放っておけない。私、アキト、護る。困ってる人、消し炭にする」


「もう、どこから突っ込んで良いの分からない…」


 俺はどこぞの原住民か…。そもそも、護るってどういう意味だよ…。消し炭って、怖っ!


 そんな突っ込みがアキトの脳内をぐるぐる巡る。


 とにかく、彼女が危険な思想に目覚めた事だけは理解できた。


 これは、何か間違いが起きる前に、彼女を問い質す必要があるらしい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「毎年の事とは言え、何で毎回毎回こんなに早い時期から、この街に留まらねえといけねーんだ」


「仕方が有りません。クライアントの指示です。宿泊費も向こう持ちなのですから、文句を言うのは筋違いです」


 あまりの暑さについつい口を吐いた愚痴を、隣の女性の冷静な口調でたしなめられる。


「たった一カ月程度、この街に留まって、船に乗り、魔獣を追い払うだけで、金貨十枚です。こんなに美味しい話はそうそう有りません」


 女性はその口調の通り、涼やかなまなざしと、スッとまっすぐに伸びた背筋が印象的な、文句なしの美女だった。

 モデルのような細くて長い手足と、短く切りそろえられた髪がその印象をさらに際立たせる。


「それは去年も聞いた…。そんで、俺はこう答えたはずだ。『俺は水竜の国と、風竜の国にだけは留まりたくねえ』ってな」


 そんな彼女に対して、ウンザリだという表情で答えを返すのは、長身の彼女ですら小さく見える程の大男だった。

 つなぎのようなズボンに、簡易なシャツを身に付けただけの彼は、赤銅色の肌と、ぶ厚い筋肉に覆われた、大きな肩が剥き出しに太陽に晒されて、暑苦しい。

 顔には髭が無遠慮に伸び放題となっており、ボサボサの髪と相まって、まるで獅子のようだ。そこがさらに暑苦しい。


 先立って歩いていた女性は、その姿を一瞥いちべつすると、その暑苦しさに、こうコメントした。


「そして、私もこう言った筈ですよ。『私だって、むさ苦しい男と、暑苦しい街に、一か月も留まるなんて、拷問以外の何物でもありませんが、お金の為です。この程度の我慢はします、暑苦しい』、と」


 その瞳は、この灼熱の太陽すらも冷やっこく感じるような怜悧な物だったが、大男には慣れた物なのか、悪態を吐き続ける。


「暑苦しい、暑苦しいって、お前一人だけ魔術で冷房効かせてるくせに、何言ってやがんだ!そして、俺には一度もそれを掛けてくれた事なんてねえじゃねーか!!」


 その怒鳴り声にも、女性は冷徹な表情を崩さずに、薄く、これまた背筋が寒くなるような笑みを浮かべる。


「ならば、掛けてあげましょうか?氷漬けにされたいのであれば、ご自由にどうぞ?」


 その台詞に、流石の大男も寒気を覚えたのか、ぶるりと一つ肩を震わせる。


「怖えーよ!お前は、あの《死神》かよ!?」


 ちょっとしたトラウマを刺激された大男は、その無骨な顔を引きつらせている。

 若干、身体を縮こまらせてはいるが、その暑苦しさは全く衰えていない。


「ちくしょー!これだから、魔術師って連中は…」


「何か言ったかしら?」


「何でもねーよ!さっさと挨拶済ませて、酒飲みてえ、って言ったんだよ!!」


 ズンズンと肩をいからせて、女性を追い越しギルドの支部へと歩を進める大男に、女性が遅れて歩き出す。


「お酒を飲むのは自由だけど、支部長とクライアントへの挨拶は、失礼の無いようにしてちょうだいね、レオ(・・)


「わーってるっての!!お前は金の事になると、口喧しいんだよルル(・・)!」


 喧喧囂囂と言い合いながら、まるで炎と氷のような大男と女性は、ギルドの方角へと消えて行った。


 彼らの名前は、《レオン=スタンレイ》と《ルルティア=ヘキサフル》。


 両者とも、ゴールドランクの冒険者である。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アキトはちょうど通りがけに在った喫茶店へ入り、小一時間ヒカルを問い詰めた所、彼女の変調の大体の理由を理解していた。


「ようは、あれだ。俺が何でもかんでも助けようとするから、ヒカルがそれを抹殺…もとい、セーブしようとしてたんだな?」


「ああ。アキトはまったくもって、危なっかしいからな」


「誰かこの子に『危険』って意味を教えてあげて…」


 アキトは頭を抱えつつも、同時に胸を撫で下ろした。

 良かった…、ヒカルが大量殺人者になる前に止められて本当に良かった…。


(昨夜の話で伝えたかったのは、そういう事じゃないんだけどな…)


 つまり、ヒカルはアキトを神格化しているのだ。神聖視してしまっているのだ。

 行動が、まさしく狂信者のそれだった。


 早急に是正しなければ、大惨事になりかねない。


 アキトはヒカルに向かい合い、真剣なまなざしと口調でもって、彼女に語りかける。


「ヒカル。確かに、俺は昨夜『助けを求められれば、誰でも助ける』って言ったけど、俺が伝えたかったのはそこじゃない」


「私にとっては、そこが一番重要だ」


「いいから聞きなさい。俺が伝えたかったのはね―――――」


 そこで、アキトは一旦言葉を切り、目をつむる。

 ヒカルの琥珀の瞳がアキトを見詰め返しているのが瞼を下ろしていても分かる。

 そして、アキトの口から自嘲するような、自戒するような、とにかく負の雰囲気を纏った声が絞り出される。


「本当に伝えたかったのは、俺にだって『出来る事』と『出来ない事』が有るんだよ、ってことだ」


 まるで、それこそが自分の罪であるかのように、彼は表情を曇らせる。


「いくら《おがみ》だからって、結局は人間だ。限度が有る、それくらい、ちゃんと理解してるよ。《拝無神(・・)流》。《おがみ》は決して、神様じゃないんだ」


「だが、アキトは助けを求められれば、限度を超えて手を差し伸べてしまう。きっと、いや必ず。神様じゃない、『人間』の貴方が」


 昨日、そう言っていたじゃないか、とヒカルがアキトを睨む。

 別に怒っている訳ではない。そこを誤魔化さないで欲しいだけだ。


 そんなヒカルの言葉を、アキトは苦笑で肯定する。


「そうだね、俺は『これがお前の限界だ』…なんて言われても、きっと諦め切れないだろうからね。だから…さ、」


 うって変わって、恥ずかしそうに鼻の頭をかく。


「だから、俺が限度を超えた『何か』をしようとした時は、力を貸して欲しいんだ。…抹殺とかそういうのじゃ無くて、仲間として、パートナーとして、ヒカルの力をアテにしたい、って言いたかったんだよ」


 そんな事、当たり前ではないか―――と言いそうになって、ヒカルは言葉を飲み込んだ。


『当たり前など、無い』


 彼の口癖だ。彼にとっては、そんな事すら『当たり前』では無いのだ。こうして、赤面しながらに、告白する程度には。


「今回の事だって、そうだ。俺一人じゃ、絶対に《砂船》を動かすことなんて『出来ない』。シノに、ナギ、フーカ、そしてヒカル。皆の力が有って、初めて『出来る』んだ」


 まるで物語の主人公が吐くような、むず痒くなるような台詞を、当然とばかりに口にするアキト。

 その言葉に、むしろヒカルの方が赤面してしまう。


 そもそも、彼女はアキト達と出会うまで、誰かと協力して何かをそうと言う発想が無かったのだ。

 立ち塞がるなら、焼き払い、襲い来るなら、薙ぎ払う。


 今回の件も、それと同様に解決するつもりだった。


 そんな荒んだ日々を送っていたヒカルにとって、アキトの言う事は、とても恥ずかしく、とてもこそばゆい。


 だが同時に、とても眩しく、とても温かだった。


 そんな気恥ずかしさも手伝って、ヒカルはしどろもどろになりながら答えるのだった。


「――あー、まあ、なんだ。確かに、『抹殺』は行き過ぎだったかもしれないな。わ、私達は――仲間なのだし、パートナーなのだし、相手の意志を尊重することも、大切…かもしれないな」


「分かってくれたか!」


 喜びを顔に出しつつ、ヒカルにバレないように冷や汗を拭う。


 色んな意味で、危機が回避された瞬間だった。


「じゃあ、《風竜走》にも協力して欲しい!」


「アキト一人に背負わせるのは、私の本意では無い。だから…だな、その―――」


 共に背負おう―――、そう言いかけたその時だった。


 この喫茶店に、全く似合わない、相応しく無い、場違いな、大男が入って来て、大声で喚き始めたのは。


「だぁーー!何でこんな茶店に入らにゃならんのだ!行くなら酒場だろうが!!」


 その大声は、それまで静かだった店内に響き渡り、ヒカルのみならず、他の客からも迷惑そうな視線が大男に集まる。


 その大男の後ろから、冷やかな声が聞こえてくる。


「クライアントの都合で、挨拶がまだ終わって無いのだから、仕方が無いでしょう?それよりも、見られてるわよ。あなたの不様で暑苦しい姿が、大衆に曝け出されてるわよ」


「ちくしょーー!!見てんじゃねーー!俺だってなぁ、こんな店、入りたくて入ったわけじゃねえんだぞ!?」


 ただでさえ赤銅色の肌を、さらに紅潮させて喚く大男。


 そんな大男に対し、今まさに決め台詞を言わんとしていたヒカルのこめかみの青筋が立つ。


 そして、今店内に入って来た女性に負けず劣らずの冷気を纏った言葉を、ボソリと呟く。


「――――くか」


 不幸にも、聴力が人並外れて良いアキトの耳は、それを拾ってしまう。

 こころなしかヒカルの周囲に紫電が走ったような気がした。


 それが気のせいでも、なんでも無い事に気付いたのは、彼女が魔法のポーチ(マジック・ポーチ)から、彼女の武器、竜の血の結晶がはまった杖、《零れ落ちる真紅(スピル・ブラッド)》を取り出した為だった。


「ちょっ、ヒカルさん!?止めてぇーー!!これじゃ、何の為に危機回避したのか分からないよ!!」


 慌ててヒカルを取り押さえようとするアキト。


 それが、彼らの眼に止まったのだろう。大男と女性の視線がこちらに向けられる。


 ―――――と。


 ギョッと、大男の眼が大きく見開かれる。そこには、驚愕やら、恐怖やら、戦慄やら、トラウマやら、とにかくあんまり親身になりたくないような感情が込められている。


 そして、大男はプルプル震える指をヒカルに向けると、こう叫んだ。


「て、手前っ!?し、《死神》ヒカル! ヒカル=エーデルライトじゃねえか!!」


 店内に大男の情けない叫びが響き渡る。


 一方、アキト達は杖を取り合い、必死の攻防を繰り広げていた為、その叫びは届いていなかったのだが。

 おかしい。

 この章は、フーカメインでいくつもりだったのに…。


 エーデル嬢は2章では存在感薄かったから、そのせいかもしれませんね。

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