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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第7節

 お気に入り登録ありがとうございます!!嬉しかったので、今出せるとこまで全部大放出!!

 ちなみに、新キャラ登場回です。






第7節


 日没後から小一時間かけて続けられた「おいかけっこ」はそろそろ終盤に差し掛かっていた。両者の間には既に大きな隔たりができており、それを挽回するのは不可能だろう。

それでも追いすがってくる彼らに、少なからぬ執念を感じつつアキトは息も切らさず疾走していた。


 天上には白銀の月がいつの間にか姿を現していた。


「この世界にも月があるんだな…」


 そういやこっちに来た時も出てたっけ。あの時は頭が目の前の命でいっぱいだったから気にしてられなかったが、この世界にも地球の月と同じような衛星があるようだ。朱や蒼のような特殊な色をしている訳ではないが。

 異世界だと思っていたけど、もしかしたら違うのかもしれない。過去か、はたまた未来か。

 あの毒々しい果物達も遺伝子操作によって作られた改良植物かもしれない。そうすると、ここは未来か?しかし、この街道は舗装とか全くされてないし、辺りの森も深いし人の手が入っているようには見えない。


(経済じゃない方のエコが発展したのかね?)


 それはそれでよい事だと思えるが、若干の寂しさも感じてしまうのは、自分が物に溢れた日本という豊かな国に住んでいたからだろうか。


 しかし、それにしても彼らはこんな長大な街道なのに乗り物くらい用意していなかったのだろうか。エコか。エコが人から脚も翼も奪ったのか。これぞ人の業≪エゴ≫。なんつって。


 そんな事を考えていたせい――という訳でもないのだろうが、とっくの昔に振り切ったと思っていた彼らの仲間が馬を引き連れて戻ってきたようだ。人の物とは違う足音と、いななく声が聞こえてくる。


(空飛ぶ乗り物とか期待したんだが…。未来じゃないのか?それともやはりエコが――)


 ともあれ、悠長に走っている場合ではなくなった。ギアを1段階上げ、速力を上げる。正直なところ短時間であれば自動車とだって競争できる自信がある。馬には悪いが、馬程度に走り負けるつもりはない。


 こちらが速度を上げたのが分かったのだろう、彼らが馬に鞭を入れる音が聞こえる。馬さんごめんよ、と思いつつも速度を落とすつもりはない。馬がどれだけ走り続けられるのかは知らないが、夜明けまで逃げ続ければ奴らも諦めるだろう。それまでなら、このペースでも余裕でいける。まあ、「はよ諦めろ」と彼らに言ってやれないのが残念ではあるが。


 しかし、馬まで持ち出して。何が彼らをそこまで駆り立てるのか。彼らは全員男だし、俺は絶世の美女というわけでもない。そもそも男だ。尻か。尻なのか。


 背筋が寒くなるようなことを考えていたその時だった。


「あれは…?人!?」


 街道の先にフードとマントを着けた人影が見える。まだ距離はあるが、このスピードで行くと10分としない内にご対面することになるだろう。

 この世界の情報が欲しい所でもあったので有り難いが、今は状況が状況だ。無視すればいいのかもしれないが、ただ相手の脇を走りぬけた後、奴らの矛先があの人影に向かわないという保証は無い。


 僅かな逡巡。


 次の瞬間には決意の光が瞳に宿る。

 そう、あの人が彼らの餌食になる前に野盗(推定)をぶちのめす――――


 のではなく。


「すーみーまーせーーーーーーーん!!」


 若干のドラップラー効果付きの謝罪を交えて、速度を緩め、人影に追いつくと、脚を止めずに人影の腰辺りを脇に抱えて再び加速。

 どっちが人攫いか分かったもんじゃないな、という思考をふりはらい走り続ける。


「…離して」


 意外にも冷静で抑揚のない声が右脇から聞こえる。声の調子からすると女性。しかも少女のようだ。そういえば、右腕にかかる重しもなんだか柔らかい。こんな状況でもなければ、そこは年頃の健全な男子である彼も何らかの感慨があるのだろうが、流石にこの状況下で欲情出来るほど人間を捨ててはいない。

 とはいえ、罵られようが怯えられようが離す訳にはいかないこちらとしては、必死に言い訳をするしかない。

 怖がらせないように言葉を選びながら、俺はその人影(マントもフードも真っ黒だったので本当に影のようだ)に言い訳を試みる。


「すまない!突然攫うような真似をして。ただ、こちらにも事情があって…。え~と何と云うか、自分は今怪しい連中に追いかけられているんだ。危ないから、このままおとなしく一緒に逃げてくれると助かる!」


 一息に云いきる。


「………」


 返事が無い、ただの人影のようだ。

 そもそも日本語が通じるのだろうか、いやでもさっき日本語で「離して」って言ってたし、あれ?日本語?いや、まあ言葉が通じないよりはいいけど、これまたお約束な…、それともやはりここは未来か過去なのか?


 ともあれ、今はそんな事を考えている場合ではない。


「…離して」


 再び先ほどと同じ平坦な、それでいて少女らしいよく通る声が聞こえてくる。


「…俺の話聞いてた?」


 もしかして通じてないんじゃないかと思い尋ねる。

 

「…聞いてた。…だから『離して』っていってるの。このままじゃ逃げ切れない」


 確かに、今のペースで少女と言えど人一人を抱えて夜明けまで逃げ切るのは正直きつい。きついが|やれなくもない≪・・・・・・・≫。だからこその「抱えて逃げる」という選択だったが――――


「大丈夫、君一人くらいなら問題ない!」


「…この先には河がある。…そこの跳ね橋は夜間は揚がってて通れないようになってる。」


「ッ!」


 少女の言葉にサッと血の気が引くのが分かる。

 河がどれくらいの幅か分からないが、橋が架かっている以上飛び越えられるほど細くは無いだろう。


(どうする。奴らを迎え撃つか?いや俺だけならまだしも、この娘と一緒はきつい。一旦この娘をどこかに隠して…)


 そんなことを考えていると、既に件の橋が見えてきている。確かに橋が揚がり、河の幅も広く簡単には飛び越えられそうにない。

 それを確認して腹を決める。


「橋まで行ったら君を降ろす。そこでしばらく隠れていて欲しい」


 心配するな、と言い聞かせるように説明する。

 しかし。


「…いい。ヤる」


 ………。


「いやいやいや!流石に無理があるよ!」


 そう、腕に抱えているこの娘の身体はお世辞にも筋肉質とは言い難い。


「…ム。…舐めないで。…野盗如きに後れはとらない」


 気遣ったつもりなのだが、彼女のプライドを傷つけてしまったようで、先ほどまでの冷静さとは裏腹に子供じみた意固地さが垣間見える。


「…それに――――」


「それに?」


「…時間切れ」


 気付くと既に跳ね橋まで来てしまっていた。そしてどうやら彼女に隠れる意思は無いらしい。


「~~ッ!こうなったら出来るだけ俺から離れないで!絶対に前に出ない事!」


 ほとんどやけくそ気味に云い放つ。

 対して彼女はというと、


「…ん。すぐ済む」


 と、未だにフードに覆われていてよくわからない顔を上下に動かし、不穏なことを言うのだった。


 女史の登場回。いかがだったでしょうか?

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