第31節
とりあえず、7万PVと8千ユニーク達成です。
ありがたや、ありがたや。
まあ、2か月掛かってやっと、と云った所ですが。
精進有るのみか…。
と言った矢先から、上手く書けない。
第31節
王宮の上空では三匹の異形達が舞い続けていた。水竜が飛翔し、それに神竜が追いすがり、己の爪や牙で襲いかかり、それを人狼が捌く。
状況は一見硬直しているように見えるが、実際には少しずつ綻びを生じ始めていた。
『――っ!』
「大丈夫か、ナギ!?」
『問題有りません、かすり傷です』
「そうか…。しかし、このままじゃジリ貧だな…」
アキト達と神竜との戦闘は泥沼の様相を呈していた。
狂ったように猛烈な攻撃を仕掛けて来る神竜に対し、アキト達の目的はただの時間稼ぎだ。
程良く避けて、程良く反撃して、上手く神竜の注意をこちらに引き付け続けなければならない。
その為には、敢えて攻撃を喰らう事も作戦の内、だったのだが…。
「傷口が塞がらないなんて、予定外だ…」
『どうやら、アレは『竜』と『人』の両方の性質を持っているようですわね』
そう、ある程度の攻撃を喰らうのは良いが、すぐさま回復するはずのナギの傷が全く治らなかったのだ。
竜を傷付けられるのは人間だけ、そのはずなのだがナギの言う通り『人』の部分が残っているのかもしれない。
『危険な攻撃はご主人様が防いでくれているので大丈夫ですわ。傷も治りが遅いと云うだけで、治らない訳ではありませんから』
「………。分かった、作戦続行と行きますか!傷物にした責任はちゃんと取るから安心してくれ!!」
『はい!もちろんです!!』
異形達の輪舞は続く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
王宮前の人々は誰もが空を見上げ、竜達の戦いを見守っていた。
そんな屹立した人ごみの中をヒカルとシノは掻き分けて王宮へと向かう。
作戦の締め、アキト達との合流地点は王宮の中庭を使う。女王や近衛の兵達には悪いが、他にひらけた場所が無かったし、大聖堂から距離が有り過ぎてもヒカル達が到着するのに時間が掛かるからだ。
人ごみを掻き分けながら、ヒカルは手を引いているシノを見る。さっきから何だか顔色も悪く、俯いてしまっている。
「シノ、顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
「………」
ヒカルの心配する声にも答えず、ただひたすら何かに耐えるように唇をきつく結び、必死に足を動かしている。
しかし、王宮へと続く跳ね橋を渡り終えようとした時、突然シノが立ち止まってしまった。
急に立ち止まったシノに手を引かれたヒカルは立ち止まる。
「どうしたんだ?どこか痛いのか?」
「……違うの」
「じゃあ、どうしたんだ?」
ヒカルはいつものように優しく問い掛ける。実際にヒカルはアキトよりもずっとシノに甘い。彼女にしてみれば可愛い妹のような感覚なのだろう。
だが、そんなヒカルの問いにもしばらくシノは沈黙したままだった。よく見れば彼女の肩は震えている。
「怖がっているのか?」
「…っ!」
「…一体何を恐れているんだ?私にちゃんと教えて欲しい」
「それは……」
ヒカルの優しい口調に背中を押されるように口を開きかけるシノだが、やはり言葉にならず口籠ってしまう。
それでもヒカルは待った。今は一刻でも早くアキト達との合流を果たし、作戦を成し遂げなければならないが、それでもシノをこのままで連れていくのは心配だ。
それにアキトとナギが二人がかりで時間を稼いでくれているのだ、この程度のロスは問題無い。問題無いと信じる。
そしてどれだけ経っただろう。シノが意を決したようにゆっくりと話し始めた。
「私は私の力が怖い…」
「シノの力?」
そう、とシノは頷く。
「…シノの力は全部を曖昧にしちゃうの。あの白金の光は何もかも不確かにしてしまうの」
「それはどういう意味なんだ?」
「アキトの白銀の光とよく似てる。けど、全然違う。アキトの力が『真実』を露わにするなら、私の力も『真実』を浮き彫りにしてしまうの」
「?」
「アキトの力は直接『真実』を照らし出すけど、私の力は『真実』以外の物を曖昧にしてしまうことで『真実』を浮き彫りにするの…」
そう言われても、想像が付かない。
だが、続くシノの言葉に息を飲む事になる。
「この力が有れば、『人』と『竜』も、『自分』と『他人』も、『有』と『無』さえ意味が無くなってしまうの。その境目はあやふやになって、入り混じってしまう」
「なに!?」
「アキトの白銀の世界と同じで、『真実』を持つ者しか確かなカタチを保てない世界。それが私の力なの」
だから、あの竜は三人が入り混じり、竜とも人とも取れる姿をしているのか。
だが、アキトと同じ力だと言うのなら、それは―――
「シノ自身にも影響すると言うのか!?」
そう、アキトだって『真実』で身を護る事であの世界に居られるのだ、それはシノの産み出す世界も同じではないのだろうか。
その問いにシノは一回だけコクンと頷いた。
「だから怖いの…。あの光に包まれると自分が自分でなくなってしまいそうで、何処にも居なくなってしまいそうで…」
俯き、今にも泣き出してしまいそうなシノを勇気付けるようにヒカルは声をかける。
「だが、一度力を使ってもシノはシノのままじゃないか。だから、きっと―――」
「そんなの分からないでしょ!!」
だが、それは逆効果だったようだ。ヒカルの諭すような言葉はシノの叫ぶような言葉にかき消されでしまう。
「ヒカルには分からないからそんな事が言えるんだ!!」
シノの叫びには悲痛な響きと、無知なヒカルに対する怒りが込められていた。
「今なら分かる、アキトがあの世界にどんな覚悟で存在してるか!」
それはきっとシノだけの話では無く、彼女の大好きな『彼』の侮辱にも繋がっているから。
「『真実』を露わにする、つまりそれは他に何も無いって事なの!その覚悟がヒカルに分かるの!?自分しか、ううん!自分すらいなくなってしまいそうな恐怖が!!」
「………」
ヒカルは何も答えられない。シノの怒りを受け止める事しか出来なかった。
だって、シノの言っている事は正しい。私はアキトの力をただの『役立つ能力』程度にしか見ていなかった。そこに彼がどんな覚悟で立っているか想像したことも無かったのだから。
それほどまでに彼はあの世界に当たり前に存在していたし、他の何よりも輝き、圧倒的な存在感を持っていた。
だから私もあの世界に立てれば彼と同じように輝けるかもしれないと思ったのだ。
けれど、シノの言う通りあれは、あの世界にいるから輝いている訳では無く、輝いているからこそあの世界にいられるのだ。
その勘違いこそが私の最大の間違い。
だから、私にはシノに何も言えない。
そう、私には。
「そのアキトから伝言が有る」
「アキト…から?」
それまで取り乱し、ヒカルに喰って掛かっていたシノの瞳がその言葉に、『彼』の名前にゆっくりと理性を取り戻して行く。
そんなシノに肯きかけ、そっとその肩に手を添えてやり、子供に言い聞かせるように伝言を伝える。
「ああ、たった一言。『信じている』と」
「え?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え?」
自分の声が随分と遠くに感じる。
『信じている』
アキトの言葉。文字にすればたったこれだけの言葉。
けれど、シノには大きな意味を持つ言葉だった。
今回の騒動はシノがアキトの事を信じられなかったから起きてしまったのだ。そのアキトを信じなかった私に対して『信じている』と言った。
その言葉を彼はどんな気持ちで言ったのだろう?
分からない、分からないけれど、これだけは分かる。
(アキトはシノの事嫌いになってなかった)
そう、こんな事になってしまっても、結局一番恐ろしかったのは彼に嫌われてしまう事だった。
こんな事を引き起こして、色んな人にいっぱい迷惑を掛けてしまった。それはいけない事だ。悪い事だ。
悪い事をする人は嫌われてしまう。きっとアキトも私の事を嫌いになってしまったと思っていた。
けど、違った。
だって、嫌いな人に『信じる』なんて言わない。
ドクン、と心臓が跳ねる。数日間牢に閉じ込められていたせいですっかり冷え切ってしまっていた胸が熱くなる。
視界がぼやける。
彼に嫌われていない、彼に信じて貰える、彼に必要とされている。
『信じている』
たったこれだけの言葉なのに、どうしてこんなにも私を満たしてくれるのだろう?
私はアキトに求められている。それこそが誰にも否定できない『真実』。
ゆっくりと深呼吸をする。
私は高鳴る胸を抑え、ヒカルに向き合う。さっきは感情に任せてヒカルに酷い事を言ってしまった。
「ヒカル、ごめんなさい」
「え?」
ヒカルが不思議そうな顔をする。何故謝られているのか分からない、といった表情だ。
「さっきは酷い事言っちゃってごめんなさい」
「え?ああ、別に構わない。シノの言う通りだ、私は彼の覚悟なんて知ろうともしなかった…」
自分を嘲笑うように唇を歪めるヒカル。その表情にチクリと胸が痛む。
「それでも、ごめんなさい。それと、やってみる」
「…何を?」
「私の力をアキトが必要としてるなら、頑張る!アキトが信じてくれるなら、何だって出来るもん!!」
「いや、それはどうかな…?」
「出来るもん!!」
そう、彼の言葉が私に『真実』をくれたから。私を信じてくれたアキトを信じる。
「行こう!ヒカル!」
「…ああ。行こう」
彼女達は走り出す。その歩幅は少しだけ大きくなっていた。
シノの力はアキト君の物とは正反対の物となりました。
『別つ』力と『混ぜる』力。
うん、両方ともチートですね。
シノの力の方が数倍チートですが。




