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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第6節

 主人公に最初の危機がせまる!




第6節


 それは突然目の前に広がっていた。見通しの悪い森を進んで行ると、急に何もない更地に行き当たった。あまりに突然現れたそれに驚きを隠せないアキトだったが、さらに驚くべきことにこの更地は道路のようである。アスファルトで舗装されているわけでもなく、標識が立っているわけでもないが、街道が森を切り裂くように、唯唯ひたすらまっすぐ100メートルほどの幅の更地が続いている。それこそ地平線が見えるほどに。


 それほどに広大かつ長大な道にも関わらず、整地がきちんとされており雑草の一本も生えていない。それがまたアキトの驚きを買っていた。


「けど、人が居ないな」


 そう、これ程までに見通しのよい街道であるにも関わらず、この街道を使用している人の姿が見当たらない。不思議に思ったがそれでもここに留まっていても仕方がない。これが街道ならば道の先には町なり村なり有るだろう。ちょうど、辿ってきた小川が大きく流れを替え街道に沿って続いているのでまたそれを辿ることにする。満腹になって、いつしか眠ってしまった竜を起こさないようにそっと歩き始める。



 どれほど進んだだろう。日は既に色を濃くして沈みかけていた。道は果てしなく、未だに町どころか人とすら会えない。


「パキッ」


 今日は野宿かね、と夜の算段を付けていたアキトの耳にかすかに枝を踏み折る音が周囲の森から聞こえる。それは場所としては遠く、本当に小さな音だったがアキトの自慢の耳はそれを聞き逃さなかった。


 まだ気付いていないふりをして、歩調を変えずに周囲の気配を探る。


(ひの、ふの、みぃの……10か、多いな。しかもこの足音は人間のものだし)


 あまりいい予感がしない。これがファンタジーなら盗賊とか出てくるのだろうが、自分は今たいした物をもっていないし、作務衣を着ているせいで裕福にもみえないだろう。


(ハッ!もしかして奴隷とかが存在するのか?俺を売り飛ばして…?)


 ここが元居た世界とは違う事は既になんとなくではあったが感じていたし、植生(毒々しい果物とか)を見て半ば覚悟していたことではあったが、あまりにヘビーな想像にげんなりしてしまう。


 ただ、奴隷として売る人間を攫うのが目的ならすぐにでも襲ってきそうのものだ。街道には人っ子一人見当たらないし、自分は武装している訳ではない。けれど彼らはそうしていないのだ。おそらく日没を待っているのだろう。そうまでして用心深く襲われる心当たりが全くない。

 頭の上で眠るこの子が狙いであるのかもしれないが、この世界に置いて竜というのがどういう存在かを知らないので判断に困る。もちろんこの子に無遠慮に触れようものなら、ただでは済まさないが。


(とにかく相手の動きを待つしかないな…。こちらから仕掛ける訳にもいかないし…)


 相手の考えが読めない以上どうすることもできない。ただ単純にスト―キングごっこしてるだけかもしれないし。ないだろうけど。

 大体なんだよストーキングごっこって。本人の許可なくスト―キングしてる時点で犯罪だよ。この世界にそれを取り締まる法律があるかどうかは別として。


 そんな事を考えていると、太陽はその身体の大部分を地平に沈め、これが最後だ!と言わんばかりに真っ赤な夕日を燃やしている。こんな状況でもなければ、しばし見入ってしまいそうな程美しい日没。それすらも燃え落ちればあとに残るのは俺と奴らだけだろう。剣呑な雰囲気が強くなっている。


 じりじりと太陽は沈み、とうとう辺りがいっそうの暗闇に包まれた。


 と、その時を待っていたように走り出したのは|アキト≪・・・≫の方だった。


(確かに動きを待つとは言ったが、タイミングまでまかせるとは言ってないぜ!)


 突然走り出したアキトに、驚いた彼らは慌てたように追いすがる。どうやらこちらが気付いているとは思っていなかったようだ。ちょっとだけ自分を褒めてやる。まあ、この場に父が居たら「調子に乗るなよ」とやんわり言われて、口調とは裏腹に重たい拳骨を貰うのだろうが。


 とにかく、相手の意表を突いたおかげで彼らはそれまでの統制を失ってバラバラに追いかけてくる。そうなれば個人の脚力の違いで、常に互いに連携できる位置を保っていた彼らの相互の距離が開き始める。相手にもそれは分かっているのだろうが俺に逃げられる訳にはいかないらしく、それでもなお追いすがってくる。


(このまま逃げ切るのが一番なんだが、この世界の情報も欲しいし…。う~ん)


 自分はこのペースならこのまま何時間でも走れるしな~、などと走りながら考える。すると頭の上でもぞもぞと動く気配がする。どうやら起こしてしまったらしい。


「アキト?」


 状況が飲み込めず、不思議そうな声を上げるが、自分も正直何が何だか分かっていないので答えようがない。ので、答える代りにそっとその頭を撫でてやる。それで安心したのか再び顎を頭頂部に押し付け、落ちないように四肢でしっかりと後頭部を抱え込んだ。


 その動きに愛おしさを感じ、とにかくこの子を危険に晒す訳にもいかないと思い直し、脚にさらに力を込める。


日没後の追いかけっこはこのまま『鬼』が替わることなく終わる|かに見えた≪・・・・・≫。



 そう簡単にはいかせへんで。

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