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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
69/115

第30節

 最近ギリギリ感が漂ってるな…。


 もっと上手く書きたいけれど、一日ではなかなか難しいですね。


 三章に入ったらもう少し時間を掛けて書きたいですね。





第30節


 ザバァという大きな水音と水柱を立て、神竜は王宮の周囲を囲む堀へと突き落とされる。周囲に集まっていた人々に水が掛かり、慌てて逃げ出して行く。


 巨大な竜が吹き飛んで来る、そんな冗談のような光景の中、彼らはそれを見る。


 国の守護神、その流麗優美なその姿を。


 ワッ、と観衆から歓声が上がる。


「水竜様だ!水竜様が陛下をお助け下さった!!」


「ありがたや!ありがたや!」


 人々は口々に水竜を讃える。


 だが、やはり子供達だけは違う物を見ていた。


「お星さまだ!きれいなお星さまが落ちて来た!!」


「お願いごと叶えてくれたんだ!!」


 そのどちらも正しく、どちらも間違っていた。


 何故なら、水竜も落星もどちらも己の意志でここに来たのだから。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうした?神様を名乗る割には随分もろいな」


 アキトは神竜を挑発しながらミズキを地面に降ろし、遅れてやって来た近衛の兵達に預ける。近衛の兵達は最初はアキトの姿を見て警戒していたが、それでも彼らのあるじを助けてくれたのだ、敵では無いようだと判断したのだろう。割と素直に彼女を受け取ってくれた。


 ミズキはと言うと、「こりゃ!余は逃げぬぞ!!」と言いながらジタバタしていたが、やはり神竜に拘束された時の影響があるのだろう、近衛の兵に支えられて立っているのがやっとのようだ。


 そんな彼女を眼で近衛の兵に頷きかけ、さっさと安全な所に連れて行って貰う。これからは少し荒事になるだろうから。


 その神竜はというと、先ほどから自分の認識以上の事が次々と起こり、完全に混乱していた。

 なんせ、彼らの認識では彼らこそが最強であり最高であり何者にも膝を屈せず全ての超越者であるはずの自分が、今は無様に吹き飛び、堀へと突っ込み、間抜けに倒れこんでいるのだ。

 その『認識』と『現実』のギャップに彼らは動きを止めていた。


 アキトにしてみれば、そのままでいてくれるのが一番楽なのだが、それでも彼らはその内『認識』と『現実』の落差を埋める為に行動を始めるだろう。その『障害』となるアキトとナギを消しに掛かるだろう。


(それで良い。来い)


『……のれ…』


 神竜のはまっている堀からくぐもった声が聞こえて来る。まるで地の底から語りかけて来るような低く、おどろおどろしい響き。


『…おのれ…。おのれ、おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれ!!』


 怨讐、怨嗟、憎悪、ありとあらゆる負の感情をありったけ込めたような罵声。それと同時に堀から水しぶきを撒き散らしながら立ち上がり、三つの首でこちらを睨んで来る。


 標的は完全にミズキからこちらへと移ったようだ。


「行くぞナギ!」


 ナギに呼びかけ、その背に飛び乗る。その俺達に神竜は強引な突撃をかましてくる。

 だが、それが届く頃には既にナギは翼をはばたかせ、離陸、上昇を始め、あっという間に高度を上げていく。

 神竜もまるで巨大な手のような翼を蠢かせ、こちらに追いすがる。


『おのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!』


 もはや神竜にはアキト達しか眼に入っていなかった。その眼は憎悪に濁り切り、ギラギラと鈍く月光を反射する。


 だが、それはアキトも同じだ。アキトは神竜に然るべき報いを受けさせる為にここに居るのだから。


 アキトはナギの背中にまるでそこが地面であるかのような気軽さで仁王立ちすると、神竜に向き合いながらナギに話しかける。


「帰ったらちゃんとお礼するから、頑張ってくれよ?」


『もちろんですわ!!存分に堪能させていただきます!!』


「………お手柔らかに頼むよ?」


『全力でイかせて貰いますわ!!』


「うん、全力で飛んでね」


『あら、いやですわ?そんなに激しくなさるおつもりですか?』


「…駄目だこの子、完全に色ボケしてる…」


 奴らに対する怒りは有るが、それでもこんなやり取りが出来る程度に落ち着いていられるのは、きっと俺の大事なものは全部取り返したからだ。


 だから、あとはこいつの始末を付けるだけ。


「ヒカル、シノ。頼んだぞ」


 そっと呟いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 月光の下、巨大な二つの竜と一つの流星が不規則な軌道を描き空を飛び回る。


 ナギとアキトが戦闘を始めたらしい。


「ハァ、ハァ、ハァ、ッ!」


 ヒカルは全力で大聖堂の階段を登っていた。ユウキの情報によれば、いやその情報が無くても、シノがこの白亜の塔の最上階に居るのは確実だ。

 ヒカルはその救出に向かっていた。


『あの竜がシノの力を使って変化した物なら、シノの力で元に戻せるかもしれない』


 アキトの言葉を思い出す。彼は今回の件に、もしかしたら最も残酷な方法で決着を着けようとしていた。

 竜になった大司教達を再び人間へと戻し、そして然るべき罰を与える。


 人間として人間の法律で、人間の刑罰を与える。たったこれだけ。


 だが、彼らの様子からするとおそらく素直に人間に戻ってはくれないだろう。竜になる、というのがどのような物なのかは分からないが、少なくとも彼らにとっては人間のままでいるよりも余程良いらしい。自分の事を『神』なんて呼んでしまうくらいだ、かなりの高揚状態なのだろう。


 である以上、彼らが何か取り返しのつかない事をする前に何とかしなくてはならない。


 そして、その為にはシノの力が必要不可欠だった。


 その為に今ヒカルはシノの下へと向かう。先の神竜の出現により教会内は大混乱だった為、ユウキ達の協力の下、内部に侵入することは難しく無かった。


 そして、もうすぐ最上階だ。


「大丈夫なのか、アキト…」


 ヒカルは誰にともなく呟く。

 アキトが提案したこの作戦には大きな欠点が有った。

 それは、


「シノが自分の力を使いこなせるとは思えないぞ…」


 そう、結局の所この作戦にはシノが自分の力を使いこなせないと意味が無い。

 そして、シノは今まで私達の前で力を使うどころか、その片鱗さえ見せていなかったのだ。推測するに、今回のアレはおそらく彼女にとってもイレギュラーな事態だったに違いない。


 そんな状況でこんな作戦に賭けて良いのだろうか?


 そう問い詰めると、アキトは何だか照れくさそうに笑って、ヒカルに伝言を頼んだ。それを聞いてもヒカルの顔から不安が消える事は無かったが。


 そもそも、『人間』であるアキトならあの竜を消滅させることくらい容易であるはずなのに。それをしないのは、やはりあの『竜』が彼の流派の『敵』では無いからなのか。それとも単純にそちらの方がより残酷だからなのか。


 それでも、彼が言うのだから、と反対する者は居なかったのだが。


 『彼が言うのだから』と言えば、鍛練の件も囮の件も結局騙されてしまっていたのだ。その弁解をまだ聞いていない。


「帰ったら覚悟しておくんだな…」


 ヒカルの瞳が妖しくギラリと光る。彼の死によって引き出され、行き場を無くしてしまったと思われた彼女の内の『欲望』は、彼の生存によって再び彼女を焼いていた。『情欲』というより『憤怒』に近かったが。


「騙すな、と言ってるのに騙すし!!」


 ダンダンと階段を踏みしめながらヒカルは目の前には居ないアキトに説教を始めてしまった。


「そもそも、アレなら私に黙っている理由は無いじゃないか!!何が『敵を騙すには味方から』だ!!帰ったら唯ではおかないからな!その身にきっちり教えてやるぞ!!」


 そうこう言っている内にどうやら最上階に到達したようだ。階段の途中で突然空が見える。神竜の出現によって最上階が吹き飛んでしまっているのだ。


「シノ!!どこだ!?」


 少女の名を呼ぶ。天辺は完全に瓦礫の山だった。


「……う…」


 微かに呻く声が聞こえた。そちらに駆けつけると、シノが半ば瓦礫に埋もれるように倒れている。


「シノ!!大丈夫か!?」


 瓦礫を取っ払い、シノを掘り起こす。簡単に身体を診てみるがどうやら軽傷は負っているが、特に大きな怪我をしている訳では無いようだ。

 軽く揺すってみると、微かな呻きを上げ、瞼を震わせる。


「ヒカ、ル…?」


 どうやら意識を取り戻したようだ。だが、モタモタしている時間は無い。アキト達が時間を稼いでくれている内にここから脱出して、作戦を実行しなければ。


「あれは…?アキト!?」


 どうやら、夜空に舞う二匹の竜と白銀の流星を見つけたらしい、そしてそれが何なのかも。


「ああ、彼らに何を言われたかは分からないが、とにかくアキトは生きている。それよりも、歩けるか?」


「え?うん、なんとか歩けるけど…。え?え?どういう事?」


 おそらく彼女もアキトが死んだと思いこんでいたようだ。顔に困惑を浮かべて戸惑っている。


「事情は後でアキトも居る時に説明する!だから、今は私の話を聞いて欲しい!」


 ヒカルの、若干アキトへの憤怒も込められた言葉にシノも姿勢を正す。


「う、うん。わかった」


 ヒカルはシノの手を引いて立ち上がり、再び塔の階段を降りながら、シノに状況とこれからの作戦を告げる。


「あの竜はシノの力で産み出されたのか?」


「うん。ごめんなさい…」


 シノはしゅんと項垂れ、泣いていた。彼女にしてみれば、意図せぬ事だったとはいえ、責任を感じてしまっているのだろう。

 そんな彼女にヒカルは言葉を続ける。


「なら、あの竜を元に戻すことはできるか?」


「………出来ると思う、けど…」


「?」


 何故かシノは言い淀んでしまう。だが、とにかく可能ならば問題無い。


 今は一刻を争う。ヒカルはシノを連れてひたすら走ったのだった。

 あと3節くらいで第2章が終わる…と思います。多分。きっと。おそらく。


 ………。


 終わらないかも…。

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