表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
64/115

第25節

 若干駆け足です。


 ようやく序章に繋がる展開になってまいりました。






第25節


 シノはその長いまつ毛を微かに震わせ、目を開ける。

 冷たい石畳の地面に投げ出されるように倒れていた身体を起こす。冷たい床と長時間接していたからだろうか、やけに身体の芯が凍えている。


 シノは手で肘をさすりながら辺りを見回す。


 唯一の灯りである蝋燭に照らされたこの石造りの部屋は、全くもって見覚えが無い。部屋自体はどこか荘厳ではあるが、日がほとんど地下なのか、それとも滅多に日が入らないせいなのか、やけに陰気だ。


 その現実に頭のどこかが痺れるような感覚に囚われながら、彼女は思考する。


「ここ、…どこ?」


 最初に浮かんできた疑問をそのまま口にする。

 確か自分は大水竜様の居る酒場を目指していたはずだ。

 眉間に細い人差し指を当てて、記憶を探る。


「え~っと、え~っと。たしかお家を出て、お店がいっぱいある所を通り過ぎて、細い道に入って……それから?」


 それから、どうだっただろう?急に息苦しくなったと思ったら、眠るように意識を失ってしまったのだったっけか。


「―――っ!?」


 急激に今の状況が現実味を持って彼女の頭に入って来る。


 そうだった、突然意識が飛んでしまったのだ。それが意味する所は…。


「誘拐…されちゃったの…?」


 ハッと面を上げ、周囲を見回す。石造りの部屋に、さっきまでは目に入らなかった縦線。

 『鉄格子』だった。しかし、それが彼女には理解できない。否、理解したくない。


「…何?…これ」


 そっとその『縦線』に触れる。まるでそこに本当に存在しているのか信じられないように。

 触れた指の先から、『ひんやり』と言うより『ゾクリ』と言った方が適切な、冷え切った金属特有の刺すような冷気が伝わって来る。


「あ…」


 それはそこに存在している。その事実が彼女を飲み込もうとする。目が覚めたら檻の中、そんな状況に陥った少女に現実は容赦なく襲いかかる。


 シノは即座に助けを求めようとした。鉄格子の合間から腕を突き出し、『彼』の名を呼ぼうとした。


「助けっ!?」


 だが、その叫びはすぐさま遮られることになる。何かが有った訳ではない。むしろ何も無い筈なのに。鉄格子と鉄格子(・・・・・・・)の合間には何も(・・・・・・・)無い筈なのに(・・・・・・)


 鉄格子と鉄格子の間を彼女の指が通り過ぎようとした時、まるでそこに見えない壁が有るかのように指先が何かに弾かれ、彼女の叫びを遮る。


「何なの…、これ?」


 呆然としながら、今度はもっとゆっくり、そっと『それ』に触れる。だが、触れた手の勢いとは関係無く手が強く弾かれる。


「え?え?」


 全くもって理解出来なかった。


 違う、逆だ。


 ここから出られない事が理解出来た。出来てしまった。これでは小さな竜の姿となってもこの鉄格子の合間をくぐり抜けることは出来ない。


 膝から力が抜け、冷たい石畳の床にお尻からペタンと座り込んでしまう。


「うわ…」


 ジワッと彼女の瞳に真珠の玉が浮かぶ。泣き出す兆候だ。

 普段ならこの時点でアキトが必死の想いでその涙を止めるのだが、今ここに彼は居ない。その事実がさらに彼女の涙腺をゆるませる。

 そして、続くのはこの石造りの部屋中に響き渡るような大音声だいおんじょう


「うわーーーーん!アキト、アキトーーーーー!!」


 そして泣きながら叫ぶのは、やはり『彼』の名前だった。

 だが、この『聖域』は魔法の鞄(マジックバック)魔法のポーチ(マジックポーチ)に掛けられている、空間拡張魔法、物質縮小魔法と同じ今では失われてしまった古代の魔法である空間圧縮魔法で造られた大聖堂に存在する『小さな庭(リトル・ガーデン)』だ。

 ここでいくら泣こうが叫ぼうが、外には聞こえない。


 だが、幼い竜の少女はそれ以外に術を知らなかった。ただ、『彼』の名前を叫び続ける。


「アキト!アキト!!助けて!!アキト!!」


 だが叫び続ける彼女の胸に一抹の不安が芽生える。それは次第に確かな形として彼女を蝕む。


(私…、私最後にアキトに何て言って出て来たっけ?)


 思い出されるのは昼の一幕。


(『アキトはシノの事、愛してないんだ』って言って出て来たんだった)


 そんな事は絶対に無いのはシノ自身が一番知っているはずなのに。いや、愛していなくたって、彼がシノの事を大事に思っているのは間違いないはずなのに。


(『愛してないんだ』って。あれで、もし。もしアキトが本当にシノの事嫌いになっちゃってたらどうしよう)


 そんな事は絶対に無いのに。そんな事は無いって分かっているのに。

 けれど、あの時のアキトの表情がシノを締め付ける。苦痛と絶望。


 そう、『苦痛』だ。

 シノはあの時確実にアキトを傷付けた。自分自身ですら信じていないような言葉で彼の心の一番大事な所を深く貫き、抉り取ったのだ。


 誰だって痛いのは嫌だ。シノもきっと自分を傷付けるような人を好きになんてなれない。


 あの時、アキトはシノにキスしてくれなかった。それはシノを傷付けたけれど、同時にシノは返す刀でアキトをもっと深く傷付けたのではないだろうか。

 傷付いた苛立ち紛れに、もっと酷い事をしたのではないだろうか。


 アキトが目の前に居ない今、それを確かめる術は無い。


 それはつまり、可能性としては十分にあり得る、と言う事だ。


(無いもん!!ないない!無い!!)


 頭を振り乱し必死に否定する。彼女の柔らかいプラチナブロンドが薄暗い檻の中を舞い、瞳に浮かんでいた涙が宙を飛ぶ。


 その時、石室の扉が重たい音を立てて開き、この部屋に誰かが入って来る。


 シノは慌てて涙を拭う。今入って来たのがアキトであれ、彼女を誘拐した張本人であれ、涙を見せたくなかった。


 薄暗いこの部屋の唯一の灯りである蝋燭に照らし出されたのは、三人の男達だった。アキトじゃ無い。その事がシノにさらなる影を落とす。


 だが、アキトの前でならともかく、この男達の前でそんな弱さを見せたくない。彼女のは気丈に彼らを睨みつける。

 だが、彼らにしてみれば目の前の(姿は)ただの少女に睨まれたところで痛くも痒くもないのだろう。涼しい顔でこちらに近付いて来る。


 そして、檻の前まで来ると仰々しく芝居がかった仕草で一礼すると、片膝を立ててシノの前にひざまずく。


「ああ、太陽竜様。お初にお目に掛かります、と言う訳ではありませんが改めてご挨拶させていただきます。私はこの水竜の国の大司教を務めております、コーキン=グラントと申します。こちらは司教のギランにドランで御座います」


「「お見知りおきを」」


 大司教がやはり芝居がかった口調で挨拶し、二人の司教が見事なユニゾンでそれに続く。


 だが、シノはその挨拶に答える気も無い。彼らからなるべく距離を取るように檻の奥の壁にその背中をピッタリとくっ付けて、それでもなお後ずさっている。


 その様子を彼らが嘲笑わらう。


「何、とって食べたりは致しません。ただ、我らのお願いを聞いていただきたいだけなのです」


 その言葉にもシノは反応しない。だって、誘拐こんなことをするような連中だ、どうせろくでも無い『お願い』に決まっている。そんな事くらいシノでも分かる。


 だが、その沈黙を了承と見たのか、はたまた端からシノの意志など知った事では無いのか(おそらく後者だ)、男達は話を続ける。


「そのお願いさえ叶えていただければ、解放して差し上げますよ」


 その言葉にシノがピクリと反応する。彼女にしてみればこんな所には一秒たりとて居たく無い。ならば、その『お願い』とやらをさっさと叶えて解放してもらいたかった。もちろん『お願い』の内容にもよるが、彼らだって馬鹿じゃないだろう。シノに出来ない事をさせようとはしないはずだ。


なに


 いつもの彼女からは考えられないような無愛想な言葉で、『お願い』の内容を聞く。ここから早く解放されてアキトの所に戻りたい、けれどこんな奴らにへつらうつもりは無いとでも言いたげだ。


 だが、彼らにしてみればそれで十分だったのだ。そう思わせる為にこのシュチュエーションを仕組んだのだから。

 その彼女に答えるように、「では」などと勿体ぶった物言いをしながらも『お願い』を彼女に告げる。


「我々に『永遠の命』を与えていただきたい」


「は?」


 シノはその答えを聞き間違えたのかと思って、まるで聞き返すように疑問を放つ。


 だが、帰って来たのは双子の司教達のシンクロした答え。


「「つまり、我々の『死』を祓っていただきたいのです」」


 意味が、分からなかった。


 そんな事出来る訳ないだろう、と答えようとしてシノはハタと気付く。


 こいつらはシノが『お願い』を叶えてくれたらここから解放すると言っていた。では、その『お願い』が叶わなかったら?シノにそんな能力が無いと分かったら?


 ………。


 想像が付かなかった。

 今、彼女が檻に入れられながらも無事であるのは、シノが彼らにとって利用価値が有るからだ。少なくとも、こいつらは『有る』と思っている。

 だが、実際にはそんな事は無いのだ。そんな能力はシノには無い。


 シノに利用価値が無いと分かった彼らはシノをどうするだろう?きっと怒り狂いシノに酷い事をするだろう。殺されてしまうかもしれない。


(アキト、アキト、アキト、アキト!!)


 心の中で『彼』の名前を呼ぶ。殺されてしまったらもう彼には会えない。そんなのは嫌だ。死んでも嫌だ(・・・・・・)


 だったらどうする?


 シノは必死に頭を巡らせる。


 アキト。そう、アキトだ。彼はきっと、ううん、必ずシノを助けに来てくれる。シノが酷い事を言った所為でシノの事を嫌いになってしまったかもしれないけれど、それならもうここから出る意味なんて無い。


 アキトはシノの『全部』だ。シノの『名前』も、『言葉』も、『心』すらも彼から貰った物だ。

 そんな彼に嫌われてしまったら、側に居られなくなってしまったら。

 彼の側に居られないなら、それがどこであろうと、この牢屋と何の違いがあるだろうか。


 そんなのは嫌だった。嫌だったけれど、彼がシノを嫌いになってしまったかどうかは分かりようが無い。


 だからアキトがシノの事を嫌いになっていないと信じるしかなかった。そうであれば、絶対にシノを助けに来てくれる。


 だから。


「やだもん!!そんな事しなくてもアキトが助けに来てくれるもん!!」


 そう答える。己の無能を悟られないように。

 彼らもそう簡単に言う事を聞いてくれるとは思っていなかったようで、怒りだすような事は無かった。

 だが、不気味な笑顔を顔に張り付けてこう言うのだ。


「アキト…。あの青年ですね。なるほど、彼が貴女様の『支え』なのですね」


 ククク、とまるでその事が可笑しくて堪らないと云う風に笑う。


 それがシノにはとても、とても不吉に思えたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「俺が死ねば良い」


「なっ!?」


 アキトのその唐突な言葉は、居間に集まっていた全員を凍りつかせた。


 ちょうどシノの救出に関する話し合いが行われていたのだが、教会に潜入するにしても突入するにしても、肝心のシノの居場所が分からなければどうしようもない。シノを探すのに時間を掛け過ぎればシノを人質にされ、手も足も出なくなってしまうからだ。


 しかし、そのシノの居場所を掴むのも一筋縄ではいかなかった。


 教会、とくにその深部は完全に部外秘クローズドで、カッツィオ家の侍女部隊をしても潜入、捜査は困難らしい。


 しかし、外部からシノの居場所を探るのは不可能だ。


 外部からは無理、しかし内部には入る事すら困難。完全に手詰まりだった。


 その時だ、完全に沈黙しきった居間に彼の意を決した声が響いたのは。

 その唐突かつ、壮絶な内容にその場の全員が息を飲み、言葉を無くす。なんせ、その言葉には一切の冗談めいた響きが含まれていなかったからだ。


「突然なにを言い出すんだアキト!!冗談を言っている場合では無い!」


 やはり最初に反応したのはヒカルだった。シノをさらわれた事により自暴自棄になってしまったとも取れるその言動に怒りを込めて答える。


 だが、対するアキトは冷静だ。


「冗談じゃ無いさ。本気も本気。真剣マジ大真剣オオマジだ」


 確かに冗談を言っている雰囲気では無いが、その言葉の節々に軽い自嘲が含まれていた。


「シノの居場所を突き止めるにはそれが一番手っ取り早い」


「…どういう事か聞かせてくれるかい?」


 ユウキがその言葉に喰いつく、正直今のままでは完全に手詰まりだったのだ。しかし、彼の性格をよく知るヒカルとナギはユウキを睨みつける。彼なら言葉の通り自分の命を捨てかねない。


 だがアキトはそんな二人を無視して、ユウキに語る。


「教会の連中の目的が何かは知らないが、シノがそれにそう簡単に協力するとは思えない。かと言って、彼らも自分達の神様であるシノに乱暴をすることも出来ないだろう」


 とりあえず、それは大丈夫なはずだ。彼は自分に言い聞かせるように話す。そうでなければ、また冷静さを失ってしまうだろうから。シノを助ける為にはそれだけは回避しなければならない。


「となれば、直接的な暴力ではなく間接的な方法でシノの心根を挫こうとするだろう。その為に俺達の命を狙って来るはずだ。そして教会の連中もシノが俺に依存していることは知っているはず。となれば、真っ先に標的となるのは俺だろう。俺を殺せばシノの心を砕き、ついでにシノを奪い返される危険も減少する。まさに一石二鳥だ」


「何が、一石二鳥か!!だからと言ってアキトが殺される道理がどこに有る!?」


 ヒカルが怒鳴る。

 だが、アキトはそんなヒカルを静かにたしなめる。


「ヒカル、人の話は最後まで聞く事。別に俺だって死にたい訳じゃ無いし、死ぬつもりは毛頭無い」


 これ以外に方法が無いから言ってるんだ、とアキトが微笑む。

 皆、黙っている。彼の言っている事は推測でしかないが、おそらく正しい。少なくとも否定することは出来ないのだろう、誰も何も喋らない。ヒカルはそんなアキトから辛そうに目を逸らす。


 そんな彼女に心の中で謝りながら、話を続ける。


「俺を殺したら、奴らはそれを示す『何か』を持ち帰るはずだ。ユウキにはそれを追跡してもらう。なに、そんなに心配そうな顔をしないでくれ。殺される、といっても『ふり』だ。俺が騙すのが得意だって知ってるだろ?」


 最後の部分だけはおどけて、ウインクをしながら。だが、やはりヒカルは納得がいかないようだ。


「しかし危険すぎる!アキトがいくら強いと言っても、奴らがどんな手を使って来るか分からない!そもそもどうやって騙すんだ!?」


「そこは、ほら。うちの流派の技で…」


「じゃあ、今やって見せてくれ!!」


「………」


「………」


 睨み合うアキトとヒカル。その末に。


「…分かった」


 アキトがそう答え、ヒカルに近付きその腕を取る。


「っ!?何を?」


 ヒカルが一瞬驚くが、彼の真剣な表情を見て彼女もすぐに冷静になる。そんな彼女に一つ頷き、彼女のてのひらを自分の胸に当てる。


「俺の鼓動、分かる?」


「ああ、分かる。驚くほど強いな…」


 ヒカルのてのひらからは彼の、ドクンドクンという心臓の音が伝わって来る。あまりの力強さと温かさに、思わずのぼせてしまいそうだ。


「じゃ、いくよ…」


 彼は確認するように彼女に告げると、自分の身体に指を突き立て始める。


「あ…!?」


 そうすると、次第に彼女のてのひらに伝わって来る鼓動が弱くなり、やがて―――


「止まった…」


 呆然と呟き、アキトを見る。だが、彼は少し息苦しそうなだけで、特に変わった所は無い。


「これは?」


「『狂流くるい』の応用で、心臓を止める代わりに全身の筋肉を使って血流を保っている状態。あんまり長くは出来ないけどね。心臓を止めるのは神経を狂わせる『惑流まどい』って言う別の技」


 ヒカルが彼の胸から手を離すと、アキトは再び自分の身体に指を突き立てていく。おそらく技を解いているのだろう。


 ふう、と息を吐き調子を確かめるように身体を触ると、ヒカルに向き合う。


「これで良いだろ?」


 確認の言葉。


「あ、ああ」


 思わず、といったヒカルの了承の言葉。これにより、シノの救出作戦の方法が決まった。


 だが、この時誰も、もしかしたらユウキ辺りは気付いていたかもしれないが、誰も、ヒカルでさえも彼の鼓動にのぼせて気付かなかった。


 この作戦の重大な欠点に。

 それはきっとアキトが騙して、隠してしまったから。

 だから、誰も気付かなかった。


 手品師は一見大仰な仕草で観客の目を惹き、その裏で気付かれぬよう精緻で巧妙なトリックを仕掛けている。彼がやったのもそれと同じ。


 誰もがアキトの『心臓を止める』という大道芸に注目して、完全に忘れてしまっていた。


『俺を殺したら、奴らはそれを示す「何か」を持ち帰るはずだ』という言葉の意味を。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ナギ、話が有るから部屋に来てくれ」


 作戦の決行は明日から、ということで今日は解散となり三々五々散って行く人の群れにアキトは声を掛ける。

 その声にナギは立ち止まり、しかし彼の方を向けずにいた。


 何せあんな事があった後だ。何も無くても気まずいのに、あれが原因でシノが誘拐されてしまったのだから責任を感じてしまうのも無理は無い。

 それだけでなく、それが原因でアキトに嫌われてしまったものだと思っていたのも有ったが。


わたくしは…、わたくしの所為で…」


 震える声で何かを言いかけるが、途中で消えてしまう。

 おそらく謝罪の言葉だったのだろう。


 だが、彼は彼女を責めるつもりなど一切無く、むしろ怯えた子犬にするように、優しく声を掛ける。


「昼間の事はナギの所為じゃ無い、全部俺の所為なんだ。だから、怒ってない。むしろ謝らなくちゃいけないのは俺の方だ。ごめんな…」


 一片の偽りも無い、心からの言葉。


「お詫びは後でいくらでもする。いや、させてくれ!だから今は俺の話を聞いてくれないか。ナギにしか頼めない事なんだ!」


わたくしにしか…?」


 その言葉に、ようやく彼女はこちらを向いてくれる。きっと俺の居ない時にたくさん泣いたのだろう、その眼は赤く腫れぼったい。

 そんな彼女に俺は強く頷く。事実、これから話す事はナギにしか頼めない。


 しばし見つめ合うアキトとナギ。


 そして、アキトが本気である事が分かったのだろう。その首が縦に振られる。


「分かりました。ご主人様のお役に立てるなら、何なりと御命じ下さい」


 『何なりと』というのがどれくらいの範囲を示していたのかは分からないが、この後彼がナギに頼んだのは、その『何なりと』を遥かに超える頼みだった。

 心臓だって筋肉なんだから、全身の筋肉使って血を流してもいいじゃないか!!


 まあ、心臓は不随筋だから自分の意思で止めれちゃ不味いだろ…、という事に気付き、急遽作ったのが神経を騙す『惑流まどい』です。


 最初は無条件にアキトの作戦でGOだったのですが、「いや、流石に無いわ」と思ったので変更いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ