第23節
すみません。何度書いても納得できなかったので…。
最初に書いた時はもっとライトな感じだったのですが、自分で自分の書いた物に「くそくらえ!!」とか思ったのは初めてだった。
ここら辺の話は『欲望』の話なので綺麗事で終わらせたくなかったんです。ごめんなさい。
結局書きあがったのはこんな話になってしまいました。綺麗事よりも酷い作者の自己満足みたいな話になってしまいました…。
この回については是非感想をいただきたいですね…。
第23節
アキトの様子がおかしい。
これは私達三人の共通見解だった。
彼が不自然な行動を取るようになったのは、約一か月前。私達がこの水竜の国に来てから大体一週間ほどの頃だ。
あの夜、突然シノが私の部屋を訪ねて来て、一緒に寝させて欲しいと言ってきたあの晩。
その時は特に何も思わなかった。
ナギが彼と何を話しているのか、という野次馬根性は多少なりとも存在したが、そう云う事も有るのだろう、程度にしか考えてなかった。
だが、その次の日から既にアキトの様子はおかしくなっていた。
不意に私達から目を逸らしたり、シノにナギと寝るように言ったり。
極めつけは、私達に二、三言告げただけでカッツィオ家を飛び出し、ギルドから彼が受けられる最も危険な依頼を受け、王都をまるで逃げるように出て行ってしまった。
そのまま何日も帰って来る事は無く、たまにふらりと現れたと思うと、私の鍛練の状況とシノの無事だけを確認すると一日たりともこの家に留まる事は無く、再びふらりとどこか辺境の依頼を受けて出て行ってしまうのだった。
流石におかしいと思いシノと二人でナギを問い質した。
ナギ思い当たる節が有ったのだろう。それに何らかの負い目を感じてもいたのだろう。
あの夜、彼女と彼のした『大事な話』とその時にあった大まかな事を教えてくれた。
シノは「ずるいずるい!」と憤慨していたが、特に何も無かったという彼女の言葉は信じたのだろう。それ以上の追及はしなかった。
かく言う私も、不覚にも胸を撫で下ろしたのを覚えている。
思えば私の彼に対する想いはこの時には既に形を持ち始めていたらしい。
以前のような曖昧な感情では無く、確固たる好意の対象として彼を見ていたのだ。
このような形でそれを自覚する破目になるとは、つくづく私も鈍いと言わざるをえないだろう。
そして、同時に思い付く。
もしかして、彼もそうなのではないか、と。
彼は、以前の彼の言質を取るならば、彼は私達の事を『友達』、あるいは『仲間』としてだけ見ようとしていた。
それは、彼なりに私達の事を気遣ってのことであろうし、そもそも彼自身それ以上の感情に慣れていなかったのだろう。私のように。
そんな彼が、以前の私がしたような冗談 (にしてしまったアレ)ではなく、本気でナギに求められ、それ以上の感情に至ったのではないか。
いや、『感情』と言ってしまうと言い過ぎかもしれないが、少なくとも私達を『女性』として強く意識するようになったのではないか。
もちろん彼だって木や石で出来ている訳ではない。
それ以前からもちゃんと私達を『女性』として見てはいたのだろうが、『そういった対象』として見てはいなかった。
それがナギとの一件で一変したのだろう。
相談して欲しかった、とは言えない。
彼にしてみれば戸惑うばかりの感情であったかもしれないし、私達を『そういった対象』として見てしまう事に負い目を感じてしまうのだろう。
それはまあ、そんな目で見られるのはあまり気分の良い物では無いが、逆に見て欲しく無いか、と言えば…ごにょごにょごにょ。
と、とにかく複雑なのだ!
おほん、話を戻そう。
彼の変調の理由は大体こんなものだろう。
そして、その解決策が見つかっていないのも彼の放浪が終わっていない事から分かる。
だが、だからと言って私達に何が出来るか、と言われると困ってしまうのだ。
ナギなどはこの話をしてやると、『私が、私が何とかして差し上げなければ!!』と息巻いて、もとい鼻息を荒くしていたが、それを彼が望む場面をどうしても想像出来ない。
彼は以前そうしたように、自分が大切だと判断したものの為ならば平気で自分の命すら投げ出すような男だ。
そんな彼が、欲望や快楽の為だけに私達に手を出すとは思えない。
事実、今彼はここに居ない。
彼は、彼が平気で命を投げ出すのと同じようにナギが彼の為ならば平気でその身体を捧げるであろう事を知っている。
彼が求める物は容易に手に入れる事が出来るはずなのだ。
だが、ここに彼は居ない。
それは何故か。
彼は、それ以外の答えを探しているのだ。
そして、私はそれを提示してあげられる、かもしれない。
それは、つまり――――
「おう、鍛練頑張ってるな!」
ビック――ン!!と背筋が緊張する。
あまりに突然な彼の言葉に、それまで思考していたことも相まって頭が真っ白になってしまう。
「あ、あ、アキト!?わわ、わわわ!!」
訳の分からない音が口から出ていくが、全くもって言語の体をなさない。
挙動不審の私をアキトが不思議そうに見ている。その表情には以前のような明るさが若干ではあったが戻りつつあった。
だが、今の私にそんな事を気にしている余裕は無い。
「わわ!!わわわ!」
慌ててその場から逃げようとするが、そう言えば鍛練の為に手足をグルグルにされているので、当然立ち上がる事もできなければ逃げ出す事も出来ない。
しかし、てんぱった私はその限界を超えた。
「わわわわ~!!」
私は意味不明な言葉を発しながら、手足を縛られた状態で中庭の芝の上をもの凄いスピードで転がり、彼から逃げていくのだった。
そんな彼女を見ながらアキトはこう呟く。
「なんか鍛練を変な方向に習得していってるな…」
さもあらん。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「~~♪」
俺は上機嫌だった。
ヒカルにちゃんと普通に挨拶が出来たのだ。
帰って来るまでずっと不安で仕方無かったのだが、どうやらミズキの言う通り大丈夫そうだ。
もちろん、『欲望』が無くなっている訳では無いことぐらい分かっている。
でも、解決への糸口が見えて来たのだから、そりゃあ上機嫌にもなろうというものだ。
俺はそのまま荷物を置きに自分の部屋へと向かう。
「ただいま~」
誰かが居る訳でもないのに、扉を開ける時にそう呟く。
が、そうでも無かったようだ。
「アキト!おかえりなさい!!」
シノの元気な声が聞こえる。
こうして、シノの声を聞くのはとても久し振りで、充足感と共になんだか安堵がこみ上げて、俺は泣きそうになるのをぐっと堪える。
安心して泣き出すなんて子供かよ、と自分に苦笑しつつ部屋に――――
「ご主人様!!」
――――え?
それは俺が反応する事も出来ないほど唐突に訪れた。
いや、実際にはシノの声が聞けて気が抜けてしまい油断していたのだろう。
だから、俺はそれを避ける事が出来なかった。
部屋にはシノだけではなく、ナギも一緒に居た。
おそらくシノと一緒にお茶をしいていたのだろう、部屋には紅茶と焼き菓子の良い匂いが漂い鼻孔をくすぐる。
けれど、今の俺にはそんな事を気にしている余裕は無かった。
(…あ。あ、ああ)
何かが砕けて、崩れて、倒れる音がした気がした。
それは、あの時ミズキが与えてくれた勇気とか元気とか呼ばれる物だったのかもしれない。
それは、俺が必死になってミズキの助けを得て、なんとか『欲望』を止めていた『何か』だったのかもしれない。
けれど、それが何だったのか今となっては分からない。
ミズキは言っていた。『アキトが襲いかかるような事は無い』と。
確かに俺が彼女達に襲いかかるような事は無かった。
けれど。
けれど、俺が襲いかからなくても相手が襲いかかってきたら?
今、俺がされているようにナギの方からキスしてきたら?
様々な『何か』が俺の脳みそをフラッシュバックしながら通り過ぎていく。
そして、這いずり出て来たのは、度し難く、抗い難く、逃れ難く、黒より黒くて、マグマより熱く、ドロドロと俺の心を溶かし染めていく『何か』。
『欲望』。
――――『モット、モット』
声が聞こえた、気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この時のナギは無我夢中だった。
責任の所在は、と言えばおそらくアキトに在るのだ。
あの夜、彼女が彼を求めた夜。
あの時、彼は彼女の望みを叶える代わりに一つの約束をしたのだ。
すなわち、『この一年、ナギを騙す』という約束を。
だが、その後彼のやった事とは何だった?
王都を飛び出し、滅多に帰って来ない。帰って来ても彼女達を避ける。
ナギは次第に追い詰められていった。
約束を果たしてくれない彼にもそうだが、同時に彼をおかしくしてしまったのは自分だと己を責めた。
そして、自己憐憫と自己批判の合間で彼女もまた、『飢えて』いた。
それはもはや『あの夜』など比較にならないほどに。
あの夜は彼女が『死の霧』から救われて、まだ一週間ほどの出来事だったのに対し、今回は一カ月近くもの潜伏期間が有ったのだ。
『己の命はあと一年』という恐怖に怯える彼女にとって、一カ月とはどれほどの時間であろうか。
彼女の『飢え』は一カ月と言う、彼女にとっては貴重で長大な時間を掛けて熟成され、発酵され、腐り落ちるほどにその有り様を変えていた。
そして、極めつけはヒカルの推測だ。
『アキトは私達を「女性」として意識してしまったのではないか』という彼女の推測に、ナギは憤った。
ならば、どうして己を求めてくれないのか、と。
自分を“騙して”くれる訳でもなければ、求めてくれる訳でもない。
“契約不履行”
その言葉がナギの頭に浮かんだ。
ならば。
彼に契約を果たさせなければいけない。そうで無いなら、今度こそ己の要求を飲んでもらう。
二者択一。
そして今、その鬱屈した想いは突然帰って来た彼に対して、勢いよく噴出していた。
今はまだ昼間であり、目の前にはシノだって居るというのに、彼女は強く彼を求めていた。
(決して、逃がさない)
彼女の中の『何か』がそう昏く呟いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナギの唇がアキトの唇へと喰らいつく。
硬直。
そして、アキトの中で『何か』がガラガラと音を立て崩れ落ち、そして表出する『欲望』。
アキトは我を忘れた。
こんな事をする為に帰って来た訳でも、ましてやシノの前でこんな行為をしたい訳でも無いのに、もはや止める事が出来なかった。
「っ!?」
ナギの唇がアキトの唇から離れる。
アキトが彼女の腰を片手で引き寄せた為、ナギが驚きの声を上げたのだ。
だが、逃がさない。
一度ならず二度までも己の唇を奪ったナギの唇を、彼女の後頭部をもう一方の手で抱え込むように抱き寄せて、強引に唇を奪う。奪い返す。
ナギの身体に歓喜が走る。
ようやく、ようやく望みが叶う。
今度は自分の勘違いでも何でも無く、彼の方から己を求めてくれたのだ。
その求めに答えるように、自分の舌を精一杯伸ばし、彼の舌と絡ませる。
二人は存分に互いの求めるままに相手を貪り、喰らう。
しばし、部屋には二人が互いの唾液を混ぜ合う粘質な音が支配していた。
彼ら以外の何者も、一切の音を立てようとはしない。
彼らは己の行為に夢中になり、その口の端からこぼれ落ちた唾液が床を濡らすのも構わず濃厚な接吻を続ける。
そして、チュポンという拍子抜けするような音と共に互いの唇が離れる。
まるで前座はここまでだ、とでも言いたげに。
一旦身体を離したアキトはナギの身体を両手で抱き上げ、寝台へと運ぶ。
鈍い音を立て、ナギの身体が寝台に投げ出され、その上にアキトの身体が覆いかぶさる。
まるで『あの夜』とは真逆の位置関係だったが、やろうとしている事は変わらない。
違うとすれば、今の彼は五体満足で行為の妨げになるような物はほとんど無い、ということだろうか。
再び交わされる淫靡な接吻の嵐。
そして、アキトの手がナギの身体の輪郭をなぞるように彼女の太股へと――――
――――カチャン
その時、僅かに身じろぎし息を呑んだシノの手がテーブルの上に在ったティーセットにふれ、硬質な音が部屋に響く。
その音が、アキトに僅かばかりの正気を取り戻させる。
(シノの………)
その僅かばかりの理性を振り絞り、己を叱咤する。いや、罵声を浴びせる。
(シノの前で…何してんだぁぁぁぁぁ!!)
脳の血管が千切れんばかりの勢いで思考を回転させ、あらん限りの意志の力を総動員して一気にナギから身体を離す。
唐突に身体を離した為、それまでナギが吸い付いていた舌が彼女の唇から抜けるときに、チュッポンと間抜けな音を立てる。
加減が出来なかった為、アキトはその勢いのまま床に尻もちを着いてしまう。
「ふー、ふー、ふー、ふー!」
それまでの長い接吻の所為でほとんど無くなっていた酸素を荒い呼吸で取り込む。
それはどうやらナギも同じようで、彼女はすぐに立ち上がっては来ず、しばし客室には二人の荒い呼吸音が重なる。
そんなアキトの前に影が差す。シノだ。
アキトはシノに謝罪する。
「シノ、ごめ―――」
だが、シノは投げ出されたアキトの膝にペタンと腰を降ろし、彼の顔を覗き込むように首を反らす。
その頬は桜色に染められ、瞳は潤み切っている。
彼女はアキトとナギの行為に中てられていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
シノは謂わば真っ白な自由帳のような少女だ。そこに書き込まれた事を簡単に受け入れる事が出来る。
以前の彼の教えで、『当たり前』なんて思ったりしないようにしているようだが、彼女は全く知識の無い事に対してあまりにも無防備だ。
例えば、今まさに彼女の目の前で繰り広げられていたアキトとナギのキス。
それがどういう行為であるかは彼女も理解している。していたのだが。
その行為を実際に目の当たりにして、彼女は疑問に思っていた。
どうしてナギは、あんなにも幸せそうな顔をしていたのか。
試しに自分の唇にそっと指を這わせても何も感じない。
『アキトと』やっているから、だろうか?
ああ、きっとそうだ。
(シノもしてみたい…)
少女がその欲求を宿すまで時間は掛からなかった。
(してみたい、してみたい。『アキトと』。『アキトと』!)
そう考えていたシノの手が茶器に触れて音を立てる。
まるでその音に弾かれたようにアキトの身体がナギから離れ、床に投げ出される。
そんなアキトにフラフラと近付き、その膝に腰を降ろしねだるように首を反らす。
アキトが何か言っているが耳に入らない。
そのまま、ゆっくりと彼の唇に向けて自分の唇を近付けていく。
それはまるで夢の中にいるような、まさに夢見心地とでも言うべき心地良さ。
まだ彼の唇に触れていないのに、ただそうしているだけで彼女の何かが浮かび上がるようだった。
だが、そんな幸福な時間は唐突に終わりを告げる。夢が唐突に醒めてしまうように。
それは身体を近付けるシノの肩を押さえるように伸ばされた彼の腕だった。
それは、
明確な、
『拒絶』。
最初に浮かんできたのは、『何故?』という言葉だ。
何故ナギとは出来て、私とは出来ないのか?
彼は自分の事を『好き』だと言っていたではないか。キスとは好きな者同士がする愛情表現で、彼と私なら何の問題も無いのではなかったのか?
それとも、『好き』だと言ったのは嘘だったのだろうか?
(違う!)
それを否定したくて、なおも彼の唇を求めようとするが、彼の腕は外れる事は無く、シノの唇は彼のそれと触れる事は無かった。
どう、して?
シノは叫んでいた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
シノの唇が近付いて来る。
アキトは苦しんでいた。
目の前には、あの冷たい雨に撃たれながらも強烈に求めた『温もり』がすぐそこに在るのだから。
ああ、今すぐにでも彼女を抱きしめ、その温もりを存分に堪能したい。
もちろん、それだけでは満足出来ない。
彼女が求める通り、唇を存分に交わし合い、さらに彼女を求めていただろう。
間違い無く。
間違い無く、間違いを犯していただろう。
再び理性を総動員して、俺はその未来を拒絶する。
だから、俺は彼女の肩を押さえつけていた。
彼女の瞳が見開かれ、『何故?』と問うているのが分かる。
それはそうだろう。なんせ俺は今の今までナギと恥ずかしげも無く存分にキスをしていたのだから。
再びシノの身体がこちらに近付こうとするのを、俺は再び押し止めた。
シノの顔に絶望が浮かぶ。
「ど…して…」
シノがかすれる声で何かを呟く。呟きはすぐさま叫びへと変換される。
「どうして、シノとキスしてくれないの!?」
悲痛な、血を吐くような悲痛な叫び。
そんなシノに俺はこう答えるしかなかった。
「駄目だ。駄目なんだ…」
弱々しく首を振る俺をシノの双眸が睨みつける。初めてシノから受けるようなその視線には、彼女が初めて浮かべる憎悪が宿っていた。
「どうして!?アキトはシノの事好きじゃなかったの!?」
問い質すような彼女の叫び。
逆に俺はそれに弱々しく答えることしか出来ない。
「違う、違う!好きだ、ちゃんとシノの事は好きだ。大事だから―――」
「じゃあ、なんでキスしてくれないの!?」
「っ!!」
俺は思わず答えに窮してしまう。
彼女の『好きだから、キスをする』という幼い行動原理に怯んだのではない。
『キスをしないから、好きじゃない』という、幼い直結の思考にどう答えるべきなのか、分からなかった。
俺が言い淀んだのを見たシノは、さらに顔を歪めて叫ぶ。
「アキトは、シノの事好きじゃないんだ!!」
「違う!!」
なんとか否定するが、そんな俺の声などもはや届いていないのかもしれない。
彼女の叫びは続く。
そして、次に発せられたこの言葉こそ、アキトを殺す。
「アキトはシノの事、愛して無いんだ!!」
その言葉はアキトの中から『何か』をごっそり削り取って行く。
何故なら、彼には彼女のその叫びを否定する事が出来ない。
『愛』を理解していないから。『愛』の『真実』を得ていないから。
否定したいのだ。そんな事は無い、と否定したい。叫びたい。
けれど、どうやっても声は出なくて。まるで声帯が凍りついてしまったかのように動いてくれない。
その事にアキトは絶望していた。
こんな時に、こんな大事な時に、声が出ないような喉は切り裂いてしまいたかった。
いや、こんな時に何も言えない自分を、ひいてはこのような性質をもった『拝』である自分を呪った。
けれど、そうしている間にも時間は過ぎていく。
シノは一向に否定の声が上がらないアキトに絶望の表情を向ける。
この時、俺は嘘でもいいから『愛している』と言うべきだったのだ。
だが、やはり声は出なくて。
シノはいつまで経っても何も言わない俺を突き飛ばすようにして離れると、部屋の外へと走って行ってしまった。
そして俺は呆然とそれを見送ることしか出来なかった。
いや、既にこの時俺は『抜け殻』になっていたのだ。
そんな抜け殻の俺をベットから起き出してきたナギが貪り始める。
しかし、もはや俺がそれに反応する事はなかった。同時にナギが貪るのを止める事も無かったが。
異変を聞き付けたヒカルが俺の部屋にやって来た時、部屋の中は凄惨たる有り様だった。
抜け殻のように脱力している俺と、そんな俺にお構いなく貪り喰らうナギ。
それはヒカルがナギを引き剥がすまで続けられた。
そして。
シノは帰って来なかった。
ハーレム物だと思ったかい?
残念、愛憎劇なんだ。
この章が終わるまで多分ギャグ回は無いと思われ…。




