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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
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第3節

 最近エーデル嬢に「ヤンデレ」属性が付いてきたのは気のせいだろうか…?




第3節


 ――――コンコン


 ヒカルがアキトに付き添ってからしばらくして、病室のドアが控えめにノックされる音がする。何事かと思いドアを開けると、先ほどの近衛の隊長が居た。


「どうされましたか?」


「いえ、貴女方に面会したいという女性が居まして…」


 面会?確か水竜の国には女性の知り合いなど居ないはずだ。


「名は?」


「それが…。名のらずに『会えば分かる』とだけ」


 どういう、事だろうか?思考を巡らせるが、やはり水竜の国の知り合いと言えるような人物に心当たりが無い。もしかすると、アキトの知り合いかもしれないが、この世界に来てから日の浅い…というか、来てからはずっと私と行動を共にしてきたため、その交友関係で私の知らない部分は少ない。というか、無いと言っても良い。


 『会えば分かる』、か。


「分かった。会ってみよう」


 そう言って頷く。


 近衛の隊長に連れられて、待合室に戻るとそこには…


「良かったわ。やはりここでしたのね」


 少々間延びした、上品な声が響く。


「あ、貴女は!」


 そこには水竜の化身たる女性が居た。てっきりあのまま立ち去ってしまったのかと思ったが、そうでは無かったようだ。

 彼女は立ち上がり、深々とお辞儀をする。


「お知り合い…ですか?」


 近衛の隊長がおずおずといった調子で尋ねて来る。確かに知り合いと云えば知り合いなのだろう。


「ああ。確かに彼女は私達の『知り合い』だ」


 そう言うヒカルに、頷く彼。

 そうしている内に、彼女は用件を伝えて来る。


「彼のお見舞いに参りました。通していただけますでしょうか?」


「あ、ああ。構わない」


「ありがとうございます。では」


 そう言って、近衛の隊長に礼をしてヒカルに連れられて病室へと向かう。


「てっきり、立ち去ったのかと思っていた」


「申し訳ありません。わたくしも付き添いたかったのですが、竜からこの姿になるところは極力、人に見られないようにしなければならないのです」


「そうなのか…」


 どうやら立ち去ったのではなく、人目の無い所で姿を替えて来ただけのようだった。何かそういった掟が有るのだろうか?


 そうこうしている内に彼の病室に辿り着く。

 彼女は部屋に入ると、アキトに歩み寄りその傍らに膝を付く。その顔はとても心配そうだ。やはり、何らかの責任を感じているのだろう。

 ヒカルが声を掛けるか迷っていると、彼女の方から声を掛けて来た。


「この度はわたくしの命を救っていただき、本当にありがとうございました。改めて心からの感謝を」


「いや、私は何もしていない。貴女を救ったのは彼だ」


 そう謙遜でもなんでもなく、実際に水竜を救ったのはアキトだ。私は己の無力を嘆くばかりで、何も出来なかったのだから。

 その言葉に水竜も頷く。


「はい。おぼろげながらも、確かに覚えています。狂乱の中に在った私を包み込むような優しい白銀の光を」


 彼女は何か大切なものを胸にしまい込むように呟く。おそらく、あの美しい光を思い出しているのだろう。

 それに釣られて、私もあれを思い出す。彼の放った白銀の光の奔流、あの優しく、力強い白銀の豪雨を。しかし、あの力は彼にとっても代償を強いる諸刃の剣だったのだろう。

 あれを行ったのは彼の意志とは言え、やはりやりきれない物を感じてしまう。

 その空気を断ち切るように彼女は話を続ける。


「実はわれわれにとっても、『命を救われる』と云うのは前代未聞なのです。この恩をどう返せば良いのか見当も付かない有り様でして…」


 彼女が困ったように言う。

 それはそうだろう。永遠の命を持つ竜が命の危機に陥ることすらまれ。否、有り得ない事なのだから。その唯一の例外が『死の霧』という事になるのだが。


「ですので、彼が目覚めたらわたくしと一緒に大水竜様に会っていただきたいのです」


「は?」


 ヒカルの口から間抜けな声が出る。それほどまでにその言葉は常識外れだったのだから。

 大水竜といえば、この国の人間にとっては神様のような物でもあるし、そもそも大水竜には一部の高位司祭にしか会う事が許されていないはずだ。


 それに、会える…。


 その事実がじわじわと彼女の頭に入って来る。


 原初に太陽竜によって産み出された存在。この世界の多くを知っているであろう、その大水竜に会える?


 それは徐々に興奮となって彼女を捉える。彼のおかげで『死の霧』に対抗する手段は見つかった。しかし、それはヒカル自身の力では無いのだ。これからも研究は続けて行く。そして、大水竜に会えばその研究も大きく進むかもしれない。


 まあ、大水竜に会えるのも彼のおかげでは有るのだが。


「分かった。断わる理由も無いしな」


 ヒカルはその話を受けていた。アキトは今意識が無いのだから、私が答えるしか無いじゃないか、と内心で言い訳しながら。

 その言葉に、水竜がパッと顔を輝かせる。何か良い事でも有ったのだろうか。


「ありがとうございます!それではわたくしも彼が目覚めるまで、一緒に看病させていただきますね!」


 そう言って、早速濡れた布巾でいそいそと彼の顔を拭き始めるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――――ザワザワ


 水竜の女性が来てからしばらくした頃、何やら外が騒がしい事に気付いた。


「何の音だろうか?」


「えっと。外で何か言い争ってるようですね。内容まではちょっと分かりませんが…」


 どうやら、彼女もアキトと同じとは言わないまでも、なかなか耳が鋭いようだ。

 だが、言い争いか…。何か悪い事が起きなければ良いが。


 ヒカルがそう考えていた時、部屋に近衛の隊長が慌ただしく入って来る。どうも尋常な様子では無い。


「た、大変です!ゲフォッ!!」


 あまりの慌てように咳き込んでしまっている。

 ヒカルは彼の呼吸が整ってから、問う。


「一体何が大変なんだ?」


「そ、それが…」


 その言葉を遮るように、またもや部屋のドアが勢いよく開かれ、今度は先ほどの医師が入って来る。


「も、申し訳ない!どうやら、うちの看護師から漏れたようで…」


 医師は平謝りしている。しかし、ヒカルには何がなんだか分かる筈も無い。


「ちょ、ちょっと待て!一体何を謝っているんだ!?」


「そ、それが…」


 先ほどの近衛隊長のように言い淀み、医師と近衛隊長は目を見合わせている。


 そうしていても埒が明かないと思ったのだろう。近衛隊長が意を決した様子で説明いてくれる。


「それが、どうも貴女方が『死の霧』から竜を救った事が外に漏れてしまったようです。一部では疑問視する声も有るようですが、貴女方が竜に連れられてやって来たのは王都の誰もが知っています。その話が本当かどうか知るためにも、『死の霧』から竜を救った『英雄』に一目会いたいと云う人々がこの診療所に押し掛けているのです」


 さっきの騒ぎはそういう事か…。

 医師が言っていた、うちの看護師から漏れた、というのはその事だったのだろう。


 ん?待てよ?看護師から漏れたと云う事は、少なくともその看護師にその話をした人物が居る筈だ。そして、あの時の話を聞けたのは目の前の二人だけ。と云う事は…。


「あなたの所為か!!」


 ビシィ!っと医師を指差して叫ぶ。それしか考えられなかった。おおかたこの医師が看護師に話した事が、回り回って外に漏れてしまったのだろう。

 医師はひたすら平謝りしている。


「すいません、すいません」


 まあ、犯人を挙げた所で事態は改善されないだろう。とにかく、今は彼を安静にしてあげたい。


「今は外はどうなっているんだ?」


「はい、先ほどまで押し掛けていた人々は我々が追い返しましたが、そのうちまた来るでしょう。今度はどんな手を使っても入って来るかもしれません。身を隠すなら今の内ですね」


「ふむ」


 身を隠す、と言ってもこの水竜の国に知り合いは…。


「―――あ」


 以前スチム街道で会った騎士を思い出す。そう云えば水竜の国に来た時は連絡をくれ、と言っていた。


「?どうされました?あてがなければ、私の屋敷に匿わせてしただきますよ?」


 そう言ってくれる近衛隊長の言葉はありがたいが、この際だ。以前の借しを返してもらおう。


 そう思い、近衛隊長に聞く。


「タケシ=カッツィオという騎士に連絡が取りたい。連絡先は預かっているのだが、外を出歩く訳にもいかないしな」


「タケシ殿ですか!?」


 驚く近衛隊長。なにか不味い事でも言っただろうか?しかし、医師までも驚いているのが分からない。


「何か問題が?」


 素直に聞いてみると。


「いえ、問題は有りませんが…。分かりました。タケシ殿に連絡を取ってみましょう。彼はスチム街道に駐在している騎士なので、『死の霧』がスチム街道に出た今、王都には居ませんが…。彼に確認さえ取れれば、あとは彼の実家から迎えがくるでしょう」


「そうか。ならヒカル=エーデルライトが約束通り訪ねて来た、とだけ言ってもらえれば伝わるだろう」


 そう云うと、近衛隊長は急いで部屋を後にした。騎士団には騎士団の連絡網が有る。それを使えばすぐにでも連絡は付くだろう。あとは、早く彼の実家から迎えが来てくれるのを待つだけだが…。


 彼が私達の事を忘れていたらどうしよう。そんな心配が頭を巡るが、その時はその時だ。近衛の隊長の家にでも匿ってもらおう。

 どの道ここで慌てても、仕方が無いのだから。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、彼の実家から彼の弟と名乗る人物がやって来て、俺達を匿ってもらった、と云う所でヒカルの長~い回想は終わった。


 長過ぎてシノは俺の膝の上で寝てしまっている。


「で、今私達はそのカッツィオ邸に居ると云う訳だ」


 そうだったのか~。

 だが、この部屋を見る限りタケシ=カッツィオという人物は唯者ではないようだ。おそらく貴族。またはそれに準ずる何かで無いと、こんな屋敷には住めないだろう。


 ヒカルも俺の思っている事が分かるのだろう。したり顔で説明してくれる。


「どうやら、彼の実家は代々優秀な騎士を輩出してきた名家らしい。当然貴族、と云う事になるな」


「へー。凄い人とコネクションを持ってたもんだな。しかも自覚無しに」


「ああ」


 頷くヒカル。

 タケシ本人に礼を言いたかったが、今は居ないらしい。数日すれば王都に帰って来るらしいが。

 それならば、彼の弟に礼を言いたいと言った所で、ヒカルの顔が暗くなる。何か拙いのだろうか?と不思議に思っていると。


 ―――コンコン


 部屋のドアがノックされ、一人の男性が入って来る。見るからに貴族然とした格好に、整った容姿。そして燃えるような朱色の髪が美しい。目が悪いのか、鼻眼鏡を着用しているが、それも彼の魅力を引き出しているように見える。


 だが、その男はその見た目とは逆に、調子っぱずれな声で言う。


「ヒ~カ~ルさ~ん!!朝食の準備が出来まして御座います!!さあさあ、どうぞ遠慮なく!!」


 踊るようにヒカルの前まで歩み寄り、そして跪いて、軽い調子でそんな事を言うのだった。

 そんな彼に、ヒカルは溜息を吐きながら紹介する。


「ユウキ殿。今ちょうどアキトが目覚めた所です。アキト、この方こそ私達を匿って下さったカッツィオ家の次男、ユウキ=カッツィオ殿だ。ご挨拶を」


 ヒカルが促して来るので、若干戸惑いながらも挨拶をする。


「あ、あの。アキト=オガミと申します。この度は匿っていただき――――」


 しかし、俺の台詞は途中で遮られる事になる。


「あーはいはい。アキト君ね~。元気になって良かったね」


 あまりにもぞんざいな言葉でユウキが答える。言外に『お前に興味ねーから』と語っているようなものだ。こ、このヤロウ…。

 俺の視線がきつくなるが、それすら気にした様子も無く、ヒカルに話しかける。


「ささ、ヒカルさん。朝食が冷めてしまいます。食堂までは、不肖このユウキ=カッツィオがご案内致します」


 そう言って、うやうやしくヒカルの手を取る。

 何だ、この扱いの差は。男女差別か?しかし、俺の横に居る水竜の女性には興味無さそうだが…。


 そして、俺は気付く。気付いてしまった。


 彼の横顔には…。





 『猫獣人ペロペロ』と書いてあった。

「ヒカルさん…、いえ!ヒカル様と呼んでもよろしいですか!?」


「好きに呼べばいい」


「何でヒカルの方が偉そうなんだ…」


「ヒカル様!!この卑しいわたくしめを罵ってください!!」


「そして、何故SMプレイ…」


「この愚図!変態!!」


「ありがとうございます!!」


「そして、何故ヒカルはそんなに乗り気なんだ…」

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