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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
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第1節

 ハーレム要員その一登場。


 ある意味、この娘のせいでアキト君は死にます。殺されます。作者に。






第1節


「………んが!?」


 俺はベットから飛び起きる。何やら嫌な夢を見ていたような…。


 というより、


「…ここ、どこだ?」


 目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった…。


 いやいや、混ざってる混ざってる。


 自分に突っ込みを入れながら、状況を整理する。


 確か、水竜の頭を皆と一緒に撫でている所までは思い出せるのだが…。その先がどうにも思い出せない。

 推測するに、『加具土カグツチ』を使用した時にできた火傷のせいで意識を失ってしまったようだった。


 腕を見てみると、既に火傷はほぼ治っている。治っているとは言っても、まだ腕の皮膚はピンク色をしていてパンパンに張っているのだが。もう痛みは無いが、かゆい、ひたすらかゆい。もうしばらくこの腕には悩まされそうだった。


 それはさておき、腕の経過を見るにまだ一日ほどしか経っていないようだった。もちろん常人の回復力では、まだまだ痛みにうなされているのだろうが、あいにく自分は常人と呼べるほど生易しい存在では無い。


 とにかく、それほど長い間気を失っていた訳では無いようだ。ほっと胸を撫で下ろす。


 しかし、そうなるとここはどこだろう?


 自分が寝ていたベットを見やる。

 普通の宿屋の物にしては随分と高級品のように見える。質の良い布地、細かい刺繍、シーツも洗いたてなのか真っ白でお日様の匂いがする。病院、という訳でもなさそうだが…。


 そのほかの部屋に置いてある装飾品の数々も、ただの宿屋や病室にしては豪華絢爛にすぎる。一番近いのは、以前逗留したクルスの実家だろうか。だが、クルスには悪いが豪華さはオルドウェイ家の比では無い。


「となると、ここどこだ?」


 問いが最初に戻ってしまった。いくら考えても答えが出そうに無い。困った…、と思っていると、部屋の扉が控えめにノックされた後、返事も聞かずに誰かが入って来る。まあ、相手は俺がまだ寝てると思っているのだろうが。


 入って来たのは、ヒカル…では無かった。


 見知らぬ女性。おそらく自分は会った事が無い。何故なら、一度でも会った事があれば、決してその顔を忘れはしないだろうというような美貌の持ち主だったからだ。


 歳の頃は二十歳前後だろうか?若々しくも、十分に女性としての色気を持つ顔。それでありながら、どこか慈愛のようなものを感じさせる。所謂、『お姉さん』というやつだろうか?ここで肝心なのは、血縁関係にある『姉』ではなく、近所に住んでる憧れの『お姉さん』、という意味の『お姉さん』であることだ。

 ん?俺に姉がいるのかって?いないよ?


 とにかく、その女性がランプを持ってゆっくりとこちらに近付いて来る。部屋が暗いのは窓をカーテンで閉め切っているせいかと思ったが、どうやら既に夜中であるようだった。


 女性が歩くたびに、彼女の腰まである長い髪がゆらゆらと揺れている。彼女の髪はランプに照らされて赤みを帯びていたが、その色は幻想的な蒼だった。さすが異世界、ファンタジー。元の世界だったなら、そんな髪の色が人間に似合う訳ねーだろ、と思っていたのだろうが、その女性にやけに似合っている。


 その女性は俺の寝ているベットの横まで来ると、近くのテーブルにランプを置き、そして俺に向かって頭を垂れ、ひざまずいてこう言った。


「おはようございます、ご主人様」


 その外見に違わぬ女性らしい柔らかな響きを持ったその声。寝起きでぼんやりとしている俺はその言葉の意味が全然頭に入って来ずに、その声の響きに酔いしれていた。


 しばし、酔いしれた後に徐々に言葉の意味が頭に入って来る。だが、寝起きの鈍い頭のせいなのか、特に慌てる事も無く、こう言う事が出来た。


「はい、おはようございます。ところで、『ご主人様』というのは?」


 今この部屋には俺と彼女だけだ。だが、俺にはこんな美人に『ご主人様』なんて呼ばれるような覚えは無かった。


 その問いに、彼女も柔らかな調子と笑みを崩さずに、こう答える。


「もちろん、アキト様のことで御座います。わたくしあるじとして仰ぐのは、未来永劫貴方様のみで御座いますから」


「?」


 そこまで思い入れて貰うほどの事が有っただろうか?特に思い当たらない。さっきも言ったが、俺は彼女と会うのは初めてのはずだ。

 しかし、彼女は俺の事を『アキト様』と呼んだ。つまり人違いである可能性は低い。そういえば、彼女の名前を聞いていない事に気付いた。


「ところで、貴女のお名前は?どこかでお会いしましたか?俺と貴女はどういった関係なのでしょう?」


 ついつい、一度に多くの事を聞いてしまった。どうやら、ようやく頭が起き出して来て、混乱を始めたらしい。


 そんな俺の問いにも、嫌な顔一つせず、柔和な笑顔で答えてくれる彼女。


「はい。まず、わたくしに名前は有りません。次に、わたくしがご主人様にちゃんと挨拶をするのはこれが初めてで御座います。最後にご主人様とわたくしとの関係ですが…」


 そこまで言って、彼女は一拍置いてこう言った。


「ご主人様とわたくしとの関係は、勿論『主人』と『奴隷』で御座います」


 そこまで言って彼女は俺の眼を見て、にっこり微笑んだ。


 その笑顔に対して、俺もにっこり微笑んだ後――――、


 バサッ!


 再び布団をかぶってベットにこもる。


 今の状況を説明できる言葉を俺は知っている。


 『夢オチ』


 それだ。それに違いない。


 大体なんだよ『奴隷』って。俺が『主人』?ハッハッハ!なかなかパンチの効いた夢だ。多分、気を失うちょっと前にヒカルが言っていた『奴隷としてずっと一緒に居て貰う』という言葉のせいだ。目が覚めたらヒカルに文句の一つでも言ってやらないと。


『ヒカルのせいで変な夢見ちまった』


『?どんな夢だ?』


『カクカクシカジカ(説明中)』


『馬鹿か、貴方は』


『…デスヨネー』


 そうとも、ヒカルに話せば一笑された揚句、一刀の元に切り捨てられるだろう。まあ、しょうもない笑い話だ。ただの夢なのだ。


 ただの夢のはずなのに…。


「お休みになられるのですね。でしたら、添い寝を致しましょう」


 そう言って、女性がいそいそと布団に潜り込んで来る。そして、そっと腰に腕を回し、女性特有の柔らか~いマシュマロのような身体を押しつけて来る。


 すでに気付いていた事なのだが、その女性は傍目から見ても、ボンッ、キュッ、ボンッ!の凹凸の激しい身体をしていた。

 ヒカルも脱げば凄いのだが、この女性はその比では無い。豊満を通り越して、豊饒ほうじょうだった。豊饒ほうじょうの大地だった。 


 だが、慌ててはいけない。これは俺の夢なのだ。夢相手に欲情していては、ヒカルの誘惑に抗う事など出来はしない。彼女の頭には最終兵器『Ne-KO/Mi×Ⅱ』が装備されているのだ。

 起伏の激しい大地程度で、この俺が――――


 ―――ふにょん


 ふおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 ごめんなさい!ホントごめんなさい!!嘘です!俺、嘘吐きました!!


 若干死にそうです!だって俺、童貞なんだよ!?女性に対する免疫ゼロだよ!?死ぬわ!!色々と!理性とか!男の矜持とか!


 慌てて身体を起こし、彼女の肩を掴んで身体を引き剥がす。


 が、それがいけなかった。


「キャッ!あの、ご主人様…わたくしこういった事は初めてなので、優しく…」


 何を勘違いしたのか、うつむき頬を染める彼女。その様子はいかにも儚気はかなげで、引き剥がそうと掴んだ肩をさらに強く掴んでしまう。


 しかも。しかも、だ。


 今の今まで気付かなかったが、彼女の着ている青い服。


 部屋に入って来た時は、ランプの光が当たって照り返していたため『青い服』に見えていたそれ。

 しかし、今ランプは近くのテーブルの上に在り、逆光気味に彼女を照らしている。そして、逆光のランプに照らされた『青い服』に見えていたそれは…。


 『青いヴェール』だった。


 いや、なに。大した違いが有る訳ではない。

 ただ、一つ違うとすれば…。『青い服』と違い、『青いヴェール』はスケスケだと云う事ぐらいだろうか?


 ついでに、もう一つ言うとするなら。彼女は逆光によってスケスケになった『青いヴェール』の下に何も着けて無い、という事くらいだろうか?


 そこまで考えて、俺は気を失った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「………んが!?」


 目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。


 いや、混ざってる混ざってる。そして、なにやら既視感が有った。


「ここ、どこだ?」


 なにやら豪華な部屋だった。そして、何故か見覚えが有った。


 美しい装飾のされた窓からは朝日が射しこんでいる。どうやら朝のようだった。


 その時。


 ――――コンコン。


 ドアがノックされる音がする。


 びっくぅ!!と背筋が反応し、思わず頭から布団をかぶってしまう。何故か。


 そして、返事はしていないはずなのに勝手にドアが開き、誰かが部屋に入って来る。


 ヒカルだった。


「む。目が覚めたか」


 布団にくるまり、震えている俺を見つけたのだろう。声を掛けて来る。

 その声に『何故か』安心し、布団から顔をだす俺。


 視線の先には、ヒカルとその腕に抱えられたシノがいた。思わず安堵の溜息が口を吐く。何故か。

 そして、彼女に挨拶をする。


「おはよう、ヒカル。シノ」


「ああ、おはよう」


「おはよー!」


 二者それぞれの挨拶を返してくれる。それが『何故か』嬉しい。


 そして、さっそく今の状況をヒカルに聞いてみる。


「ここはどこなんだ?今、状況はどうなってる?」


「ふむ。少し長くなるが、まあ良いだろう。怪我の調子も良いようだし」


 そう言って、俺の腕をチラリと見る。どうやら心配を掛けてしまったようだ。

 俺は元気である事を示す為、腕をまくり火傷の痕を見せる。まだまだピンクのパッツンパッツンの皮膚ではあったが、それでももう問題無い事は伝わったようだ。安堵する表情をのぞかせるヒカル。


 そして、頷いたあと話を始める。


「まずアキトの事だが、貴方は丸一日寝ていたんだ。水竜を撫でている時に急にパタリと倒れてから、だが」


 そうだろう。俺も火傷の治り具合から見てそれくらいだと思っていた。腕を見る前からそんな気がしてはいたが。何故か。


「そして、ここは水竜の国だ」


「水竜の国?」


 たしか、俺達はスチム街道の中程に居たはずだ。あれから一日しか経っていないのに、もう水竜の国に着いたのだろうか?しかも気を失った俺を連れて。


 ヒカルもそんな俺の疑問は分かっているのだろう。軽く頷くと、話を続ける。


「アキトの考えている事は大体分かる。だが、その説明はややこしいので後回しにしよう」


「?」


 ヒカルの言い回しに首を傾げながら、続きを聞く。


「まず、今居るこの館だが。アキトは以前スチム街道で会った水竜騎士団の隊長を覚えているか?」


「ん?ああ。確か名前は…、タケシ。タケシ=カッツィオ、だったかな?」


「そうだ。今私達は水竜の国の王都に在る、彼の実家に居る」


「ええ!?」


 水竜の国というだけでなく、その王都に居る?それこそ、一日二日で辿り着けるような距離ではないだろう。王都と云うのは、領域エリアのほぼ中心に位置しているのだから。


「彼の実家は優秀な騎士を輩出してきた有名な貴族の家で、今私達が居るのがその邸宅の一つ、と云う訳だ」


「何故そんな事に…?」


「うむ。一つはアキトが意識を失ってしまった為、早急に貴方を安静にする必要が有ったため。もう一つは…」


 なにやら、ヒカルが言い難そうに口籠る。何があったのだろうか?

 ヒカルも黙っていては話が進まないと思ったのだろう。結局、言葉を続けてくれる。


「もう一つは、貴方は今、この国で『英雄的』扱いを受けている事だ」


「は?」


 エーユー的?携帯みたいな扱い?なんじゃそりゃ?

 俺が間抜け面でそんな事を考えている間にも彼女の話は続く。


「アキトが『死の霧』から水竜を救った事は、既にこの国の誰もが知る所となっている。それこそ、おちおち普通の診療所に寝かせておけない程に」


 情報早っ!!まだ一日しか経ってないんじゃないの!?


「そこで、以前連絡先を聞いていたタケシ殿に連絡を付け、こうして匿ってもらっている、と云う訳だ」


 なる~。状況は理解した。しかし、やはり不可解な点が多い気がする。特に移動の問題。

 その疑問をヒカルにぶつけてみる。


「それにしたって、まだ一日しか経っていないのに水竜の国に着いているなんて、いくらなんでもおかしいだろ?」


「それは…」


 ヒカルが再び口籠る。そんなに言い辛い事なんだろうか?


 そんな時だった。再び部屋のドアがノックされ、誰かが入って来る。

 それは、


「あ、ああ、ああああーーー!!」


「おはようございます、ご主人様」


 驚き、まともな言葉が発せない俺に対して、その女性はうやうやしく頭を下げる。

 それは俺の夢に出て来た(はずの)女性だった。夢とは違い、今は『青いヴェール』ではなく、清楚な青いワンピースのドレスを身に着けている。


 言葉が発せないまま、口をあんぐりと開けたままの間抜け面でヒカルの方を見る。


 そのヒカルと云えば、頭痛でもするのか片手で頭を押さえている。


 そして、こう切り出したのだった。


「私達が今ここに居るのは彼女のおかげだ。同時にアキトがこんなにも早く英雄的扱いを受ける原因を作ったとも言える」


「???」


 頭の上に疑問符を幾つも浮かべる俺を一瞥いちべつし、溜息混じりにヒカルはこう言った。


「彼女は水竜の化身。そう、アキトが助けたあの水竜だ」


「えええぇぇぇぇぇぇ!?」


 意味分からん。

「え?ええ?」


「どうされたのです?ご主人様?」


「え?じゃあ、昨日のあれは夢じゃない?」


「昨夜はおたのしみでしたね、キャッ!」(ぽっ)


「え?ええ?」


「昨夜?どういう事だ?」(ギロリ)


「昨夜はご主人様がわたくしの肩を強く抱き寄せて…」


「ほう…」(ゴゴゴゴ)


「え?何、この展開?死ぬの?俺、死ぬの?」


「これをするのも久しぶりだな」(バチバチ)


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

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