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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
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序章

 第二章の始まり始まり。


 このまま行くと、ハーレム物になりそうだったので、さくっとアキト君を殺すことにした。


 まさかの主人公交代か?





序章


 少女は囚われていた。


 そこは『聖域』と呼ばれる場所。しかし、その名に反して陰気な気配をにじませるその場所に少女は囚われていた。


 そっと少女の手が己と世界を隔てる鉄格子に触れる。大の男が揺らしてもびくともしないような頑丈なそれ。彼女のような少女にはどうする事も出来ないそれ。


 しかし。


 ガンッ!!


 あろうことか、少女はその鉄格子を殴りつける。もちろん彼女は武器の類は持ち合わせてなどいない。


 しかし、少女はその華奢きゃしゃな腕で、その小さなこぶしでそれを殴りつける。


 当然、鉄格子はびくともしない。


「ッ~~~~~~!!」


 殴りつけた彼女の顔が歪む。それはそうだろう。

 現に彼女のてのひらの皮が剥けて、そこから血がにじんでいる。


 しかし、しばらくの後再び鉄格子に挑む彼女。


 ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!


 出血は酷くなり、当然手は痛む。


 けれど。


「けれど、私は諦める事を許されていないんだから!!」


 そう。それこそが彼女が『彼』から学んだ事。


 それに、だ。


「それに、アキトはきっと…ううん、絶対!助けに来てくれるもん!!」


 そうなのだ。

 世界中の誰が私を見捨てても、彼だけは私を見捨てない。その自信が在った。信頼が在った。


 だからこそ、簡単に諦める事なんて出来る訳が無い。


 首に巻いたシルバーのチョーカーをそっと撫でる。そこそこの値がしたこれを彼にねだって強引に買わせたのが随分前のような気がする。

 それでも、これを巻いていると何だか彼がすぐ近くに居るような気になるのだ。


 彼が近くに居てくれるだけで、元気が出る。勇気が出る。力が出る。


 こんな鉄格子がなんだ!!こんな物で私を阻もうなどと、恐悦至極…じゃない。え~と、なんとか千万だったような…。


 と、とにかく!無駄な事だ!!


 そうして、再びそのこぶしを振り上げたその時だった。


 ――――ガチャリ


 重々しい音を立てて、この部屋の重々しい扉が、重々しく開き、光が差し込む。


 彼が助けに来てくれたのか、そう思ったのも一瞬。すぐさま少女の表情は曇る事になる。


 入って来たのは彼とは似ても似つかない、三人の男。彼女をここに幽閉している張本人達だ。


 そいつらは部屋に入ると、うやうやしくこうべを垂れてひざまずく。


 その様子に彼女は思わず一歩引いてしまう。しかし、それも一瞬の事。すぐさま鉄格子に掴みかかり、そいつらに喰って掛かる。


「早くここから出してよ!!いつまで私を閉じ込めておくつもり!?」


 しかし、男達は静かな調子を変えずに答える。


「はい。もちろん貴女様が我々の願いを聞き届けてくださるまでに御座います」


 その様子にも、言葉にもイラつきながら、少女は果敢に口撃こうげきする。


「あんた達の願いなんて知らないって言ってるでしょ!?それに、早く私を解放しないと大変な事になるんだから!!」


 その通り。彼がここに来れば、こんな奴らなんてひとたまりも無いのだ!


 しかし、彼らはその言葉に対して不気味な笑みを浮かべる。彼らだって、アキトの強さは知っているはずなのに…。


 そんな少女の疑問に答えるように、彼らの一人が答える。


「貴女の守護者。名は…確かアキトとか言いましたか?彼なら、もうこの世には居ませんよ?」


「――え?」


 え?今こいつは何て言った?アキトがもう居ない?それは何の冗談だろう。そんな事、有り得る筈が無い。

 咄嗟に少女は叫んでいた。


「嘘!嘘ウソ!!そんなの嘘だもん!アキトはあんた達にやられたりしないもん!!どうせ出鱈目でたらめを言って、私を騙して利用する気なんでしょ!?」


 凄まじい剣幕で否定する少女。彼女にとってそれは、それ程までに有り得ない事だったから。


 しかし、彼らは全くその表情を崩さない。あの不気味な笑顔を。


「嘘では御座いません。あの者は既に死んでいます」


「だから、嘘だって言ってるでしょ!?それとも証拠が有るの!?」


 そう、証拠だ。彼が死ぬはずが無い。だからこいつらは証拠なんか出せる筈が無い。例え出せたとしても、誰にでもでっち上げられるようなしょうも無い物を出して来るに違いない。


 だが――


「もちろん、証拠なら御座いますよ?流石に彼の者の首を持って来ては貴女様がお心を痛められると思いましたので、こちらをお持ちしました」


 そう言って、その言葉とは裏腹にぞんざいな扱いで鉄格子の間から『ソレ』をこちらに投げ入れて来る。


 チャリ、チャリ――


 金属質な音を立てて投げ入れられたのは、一つの首輪だった。革のベルトに金属製のプレートがはめ込まれたソレ。


 証拠に首輪とは何を考えているのだろう、と普通の者なら疑問に思うだろう。


 だが、彼女だけは違った。


 ソレに見覚えがあった。


 顔色を真っ青にしてそれを拾い上げる。部屋の扉から漏れて来る明りにかざすと、その首輪がはめ込まれた金属板ごと、何か強い力で歪められてしまっているのが分かる。


「うそ…」


 少女の口から思わず、といった調子の呟きが漏れる。


 この首輪は、自分が今しているチョーカーの姉妹品だ。彼にこのチョーカーをねだった時に、我が儘を言って買ってもらった物だ。これを渡した時の彼の渋い顔は今でも鮮明に思い出せる。この世に二つとない、彼と私の絆の証。


 だが、それは今私の前に無残な状態で存在していた。


 彼がこれを手放した可能性だって?ないない。有る訳無い。いくらこれを渡した時に渋い顔をしていたと言っても、彼は私が贈ったものをぞんざいに扱ったりしない。現に嫌々ながらも着けていたし、隠れて大切そうに手入れしている所を見た。そんな彼がこれを手放す?無い。絶対無い。


 むしろ、彼ならこれを守るために自分の身すら傷付けるのを躊躇わないだろう、とすら容易に想像できた。それだけが私の心配だったのだから。


 だが、それは今私の前に無残にひしゃげ、歪んだ姿を晒していた。


 首輪の金具すら歪んで動かせないようになってしまっている。


 つまり―――


「いや、いや。大変でしたよ?首を持って帰る訳にもいかず、かといって何もないと貴女様は納得していただけないだろうと思いまして。首輪にしようと思ったものの、金具が壊れておりまして。彼の者の『首を刎ねて』ようやく手に入りました」


 あ。ああ。ああああああ。


 少女の膝から力が抜ける。今の今まで屈する事のなかった彼女が、今崩れ落ちた。その首輪を胸に抱えてうずくまる。


 助けが来ない?そんな事はどうでもいい。

 彼がもう居ない?そんな事があってはならない筈なのに。


「あ――、ああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 少女の喉から嗚咽がもれる。それを止めてくれる者はもう居ないのだ。


 少女の頬から滴る涙が、ここの薄暗い床を濡らす。それを止められる者はもう居ないのだ。


 それを満足そうに見ていた男達は、やはり不気味な笑顔を浮かべて異口同音に喋り始める。


「さあ、貴女様を助けに来る者がもう居ないのはご理解いただけたでしょうか?いただけたようですね」


「では、今度こそ我らの願いを聞き届けていただきたい。なに、我らの願いさえ聞いていただけたら、貴女様はもう用済みです。勿論、解放して差し上げますよ」


「我らの願いを覚えておいでですか?おいででしょうね?しかし、覚えておられない可能性も御座いますので、もう一度だけお耳汚しをさせていただきましょうか」


 そして、一拍置いた後、不気味な笑顔を満面にして彼らは己の『欲望』を口にする。


「さあ、」


「太陽竜よ」


「我らに」



「「「永遠の命を」」」



 その言葉を呆然と聞いていた彼女の髪の色は、首輪にはめ込まれた金属板と同じく美しい白金の輝きを持っていた。

 え?どうせ死んでないんだろう、って?


 そうですね、死んで無いんじゃないですか?


 全身黒焦げにされて、首を落とされて死なない『人間』が居るとするなら、ですが。

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