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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第2節

 竜さんのお話。



第2節



 なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!




 俺は叫んでいた。


 愚図、能なし、考えなし、あんぽんたん、ピーマン、ごぼう、だいこん―――


 とりあえず思い付く限りの罵詈雑言を自分に浴びせかける。


 おそらく何言ってるか分からないだろう。

 では順を追って話そうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ―――それは3時間前に遡る。


 怪我を負った小動物を救うべく駆けだした俺だったが、3時間ぶっ通しで走り続け、医者どころか人っ子一人、村一つ見つけられないまま―――――


 今に至る。


 説明終わり。


 さあ、存分に罵るがいいさ!!笑うがいいさ!!この俺の滑稽さと馬鹿さ加減を!土地勘もない森を闇雲に走りまわったこの俺を!


 そんな混乱と自虐に耽る俺に更に追い打ちをかけたのが、俺の腕の中ですやすやと眠るこの子だった…。

 弱弱しかった呼吸は安定しており、ひとまずの危機が去ったことを告げている。

 そしてなにより俺を驚かせたのは―――その肩に深々と刻まれていた傷口は既に塞がっていることだ。



 そのことに気がついたのは、暗い森の中を裸足で3時間駆けずりまわった後、一向に抜け出せない木々の壁に辟易とし、偶然行き当たった小川で一回この子の包帯を替えておこうとした時だった。


 血の付いた包帯をゆっくり取る。ようやく登ってきた朝日に照らされたそこに傷らしき痕跡は残っていなかった。その肩はただ美しい白金の鱗に覆われている。

 見間違いか?と自分を一瞬疑いそうになるが、いまだ真っ赤な血が付着した包帯が俺を弁護してくれる。となると、この子は恐るべき回復力をもって短時間であの深々と肩に刻まれた傷を癒したことになる。少し前までは今にも死にそうに見えていただけに、安堵と動揺を隠せない。


 どうやら呼吸も安定しているようだし、ひとまずこの子から死の危険が遠ざかったのだろうな~、と漠然と考え胸を撫で下ろす。


 さて、と。


 深呼吸、深呼吸。

 

 ヒーヒー、フーフー。ヒーヒー、フーフー。


 ………。


 なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 …と俺は(心の中で)叫んでいた。


 俺の3時間は一体…。


 脱力しきった俺を完全に顔を出した朝日が無遠慮に照らす。

 「ドンマイ!」と声がしたような気すらする。


 …さてと。

 ひとしきり心の中で叫び終わった俺は冷静さを少し取り戻す。そしてこの子の命の危機が去ったことにより余裕の生まれた自分の思考に、いままで放り投げていた疑問が浮かんでくる。そう、考えなければならない事は腐るほどあった。事態は切迫してはいないが、俺の手には十分余りそうだ。そんな事を考えながら疑問を一つずつ解決することにする。こういうごちゃごちゃして、収集がつかなそうな問題は片っ端から片付けるに限る、といのが俺の持論だ。


 まずはここがどこなのか?だ。

 俺の住んでいた所は確かに田舎ではあったが、俺が全力で3時間疾走して抜けられないような深い森や山は無かった。有ってもちょっとした竹林や雑木林程度である。

つまり、少なくともここは俺の住んでいた町ではないであろうという事。

植生もなんか違うし。


 次に、どうしてこんな所にいるのかということ。

 まあ、これが祖父と父が仕組んだ『鍛練』という名の無茶振りである可能性も無くはないが、『鍛練』が家の敷地の外で行われた例が無い事と、こうしてへたり込んでいるにも関わらず祖父や父の蹴りが飛んでこない所をみると、その可能性は極めて低い。自分で思い浮かべた想像のその有り様にげんなりとしてしまう。祖父と父には「休憩」という概念がないらしい。

 とにかく、祖父や父に寝ている間に連れてこられたという線は無い。

 しかし他の可能性が有るか、と言われると首を傾げるしかない。この問いも答えが得られそうにない。


 そして最後に、今まで自分が助けようと躍起になっていたこの小動物は一体何なのかという事だ。

 外見的に一番似ているのは猫だろうか。大きさも丁度そのくらい。

 ただ、本来毛で覆われているはずの体表は毛ではなく白金の鱗に覆われており、朝日を受けて美しく輝いている。

 なでると、まるでシルクのようにきめ細かく柔らかな感触が返ってくる。

 鱗、ということは爬虫類なのだろうか?

 だがこの子は四肢が身体の真横ではなく獣のように垂直に突き出ている。トカゲやワニを想像してもらえば分かりやすいと思うが、多くの爬虫類は四肢が身体の真横に突き出している。

 そんな爬虫類は恐竜くらいしか知らないな~、なんて少ない知識で思ったりするが、それもちがうだろうな~、とぼんやり考える。


 別にタイムスリップが非現実的だとかそういった理由ではなく、自分にはこの子が既存の生物種の分類に当てはまらない存在であることを確信していた。


 何故なら…。


 その子の背中には羽根が生えていたのだ。

 長さ10㎝ほどの、おおよそ飛ぶための物ではない事が容易にわかるほど小さな一対の翼が。


 本来羽根とは、前肢が進化の過程で変化したものである。(もちろん昆虫の羽根などの例外もあるが)


 しかし、その子には前肢と後肢の4本の脚がきちんと存在していた。


 つまり、この羽根は前肢でも後肢でもない3組目の脚が変化したものであり、6本の脚をもつ生物から進化した証拠であり、このことから導き出される答えは…。


 この子は昆虫だったのだ!!


 ………。


 うん、嘘。


 そもそもこの子が口で呼吸しているのは確認済みだし(昆虫は腹にある「腹腔」と呼ばれる器官で呼吸する)、この子が何なのかなんて最初に一目見た時から薄々気付いていた。


 ただ、それがあまりに荒唐無稽で、自分が今置かれている状況をさらに混迷させるであろう事から、極力無視してきた。


 しかし、現状認識のための第一歩を踏み出すためには避けて通れそうにないようだ。

 たとえそれが、どんなに荒唐無稽であり得ないことでも。


(ま、俺が他人の事言えた義理でもないんだが…)


 今こそ認識しなければなるまい。

 この猫のように愛らしい、白金の鱗に覆われた生き物の名を。


「この子、どう見ても(ドラゴン)だよな…」


 言った。


 理屈っぽいのか理屈っぽくないのか。案外適当な所が有る主人公です。

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