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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第26節

 繋ぎ回です。あと10節くらいで第一章を終わらせたい…。入りきるかな…。



第26節


「見えました。あれが王都“フランベル”です」


 御者台のクルスが声を掛けて来る。その声に俺とシノは馬車の荷台から顔を覗かせ、道の先に有る大きな都市を見つける。

 ノーレの街を発って、三日だ。俺達はクルスと合流し、彼の用意してくれた馬車で王都を目指していた。


「おっきいね~」


 頭の上のシノが茫然とした調子で呟く。確かにシノの言う通り凄まじく大きな都市であることが、遠目からでも十分(うかが)える。

 中でも眼を引くのは、都市の中心にそびえ立つ白亜の塔だ。まるで天すら穿たんばかりの高さと巨大さ。それに眼を奪われているのが分かったのだろう、同じく荷台に座っているヒカルが説明してくれる。


「あの白い塔こそ、各国家に一つずつ存在する『大聖堂』の一つ。『火竜大聖堂』だ。あれこそが、この国の宗教の象徴であり、四国間を巡礼する巡礼者たちの目的地だ」


「へ~」


 ヒカルの説明に頷く。確かに尋常ならざる威容を誇っている。宗教には疎いのだが、確かにあれなら、それだけでも大きな信仰を得られるだろう。


「じゃあ、あそこに大火竜がいるのか?」


「そうらしいな」


「そうらしい?」


 何だか彼女らしくない歯切れの悪い物言いに疑問符で返してしまう。


「大火竜に会えるのは、あの教会のトップである大司教だけだ。そして大司教は『大火竜の安全』という名目で、その存在の場所を大衆に公開した事は無い」


「そんなんで大衆は納得するのか?」


 俺だったら、一目でも大火竜に会いたいと思う所だが…。それにその方が信仰も集めやすく無いか?神様に会えるような物だろうに。


「納得せざるを得ない、と言った所か。それ程までにこの国で教会の力は強いんだ。ほら、塔の根元にこぢんまりとした宮殿が有るだろう?」


「ああ。何か塔と比べってってのも有るけど、どことなくしょぼくれてると云うか…」


 隣の白亜の塔の眩しいまでの白さに比べ、そちらはやけにくすんでいる。


「あれは王宮だ」


「うそぉ!?」


 だって、言っては悪いがみずぼらしいよ!?王様あんな所に住まわせて大丈夫なのか?


「以前言っただろう?この国は宗教の力が強くて、王は飾り物に過ぎない、と。あの見た目こそ、その力関係を表している」


 いやいや、待て待て。あれは飾り物ですら無いよ!飾って無いもん!!飾る気無いもん!!


「表し過ぎだろ…。置いておく必要が有るのか疑問になるレベルだよ…」


 そんな俺の言葉に、若干意地悪そうに笑ってヒカルが答えてくれる。


「何を言っている。税金が取れるだろう?教会だけでは『お布施』しか手に入らないからな。居ないよりは居る方が遥かにマシなのさ。教会にとって、な」


 怖えーよ、教会。


 そんな俺達のやりとりにクルスが肩を震わせて笑っている。

 彼は騎士のはずだが、王様に仕えている訳じゃないのだろうか?そう思って、彼に聞いてみたら、


「騎士と云う物は、王族や宗教では無く『国』に仕える存在ですから。彼らの争いに巻き込まれる事は有っても、私達の為すべき事が変わる訳ではありません」


 そう言って、また笑っていた。


 そんなやり取りをしている内に、どうやら王都への検問所に着いたようだ。衛兵の騎士がこちらに近づいて来る。


「ようこそ、王都“フランベル”へ。この先へ進むなら身分証の提示を。無い場合は通行許可証の発行が必要になります」


 そう言って来るので、俺は懐から先日貰ったばかりのギルドカードを出す。ヒカルも同じように銀色のプレートを出している。クルスはどうするのかと思ったが、首元からドックタグのような物を取り出している。どうやらあれが騎士団の身分証のような物らしい。


 それを確認した騎士が、懐から紅い石を取り出す。それを俺達の身分証にそれぞれ当てていく。石が当てられたギルドカードを確認すると、『通行可』という文字が浮かんでいる。


「はい、全員の通行許可が下りました。どうぞ、お通り下さい」


 それを見た騎士はそう言って道を勧めてくれる。どうやら、あれも魔石の一種だったようだ。


 その騎士の言葉に従い、俺達は王都へと入ったのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 王都に着いたヒカルは早速、野盗討伐の依頼主の元へ向かった。既にヒカルからギルドを通じて連絡が入っていると云う事で、俺達は王都に有る冒険者ギルドを目指した。そこが依頼主との待ち合わせ場所らしい。


 ノーレの街に在った支部と同じような外観のギルドの建物に近付いて行くと、ヒカルの特徴的な黒マントとフードを見つけたのだろう、依頼主であると思われる女性がこちらに駆けて来る。

 そして、その息の整わない内から勢い込んで言葉を発して来る。


「あのっ!あの、野盗が水竜騎士団に討伐されたってっ!でも、でも…。貴女なんでしょう?貴女がっ!」


 どうやら、既に野盗が水竜騎士団に討伐されたという報せが王都まで届いていたようだ。息を切らして問うてくるその女性。

 けれど、二国間の問題に関わって来るため、俺達にはそれに答えてあげる術が無い。

 それが分かっているのだろう、ヒカルは彼女を落ち着かせるように優しい声で言う。


「ごめんなさい。私にはその質問に答える事は出来ない。けれど、野盗は確かに討伐されたから。だから、もう苦しむ必要は無い」


 けれど、その言葉だけで十分伝わってしまったのだろう。彼女は何度も何度も頭を下げて、感謝の言葉を口にしていた。


 そうそう、報酬の方だが、彼女は「野盗が討伐されたなら同じ事です」と言って最初全額支払おうとしていたのだが、俺が仲介に入って、半額の金貨一枚で済ませて貰う事になった。金貨二枚と云えば大金だろう。彼女にだって生活が有る。


 そして、再び何度も頭を下げながら去っていく彼女を俺達はずっと見送っていた。


「彼女には本当に悪い事をしましたね…。本来であるなら我々騎士団の役目であるというのに、それすら果たせないなんて情けないです」


 そう言って、俺達に付いて来ていたクルスが顔を歪ませて呟いた。責任感の強い彼の事だ。きっと罪悪感を感じているのだろう。


 その声にヒカルが答える。


「問題無い。その為の『冒険者』だ。それに今回の討伐は『水竜騎士団が』やったんだ。面子めんつさえ気にしなければ同じ事さ」


 その言葉にクルスは苦笑して答えた。


「そうですね。それでも、『冒険者』と云うのが少し羨ましくなる時が有りますけど」


 自由な意志で、自由に人々を助けるのが冒険者。彼にはそう見えているのかもしれない。現実は決してその通りではないけれど、それでも自分達騎士には出来ない事をやり遂げる冒険者が羨ましくなってしまうのだろう。隣の芝は…、と云う奴かもしれない。


 そんなクルスに何とも言えない気まずい思いを抱いてしまう俺。

 重くなってしまった空気を感じたのだろう。クルスはまたおどけた敬語で俺達に語りかけて来る。


「さて皆様方。今晩のお宿はお決まりでしょうか?もしお決まりで無いのなら、是非我が屋敷へ招待させていただきたい。弱小と言えど貴族です。それなりのもてなしをさせていただきますよ?」


 そう言って、大仰な振舞いをする彼に苦笑しながら、俺達は彼の実家へと向かうのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


クルスの実家、オルドウェイ家の屋敷は貴族街の端にあった。クルスは弱小貴族だ、と言っていたがとんでもない。庶民の俺からしてみればその屋敷は十分に豪華な、まさしく『お屋敷』だった。


 彼にうながされて、オルドウェイ家の門をくぐると、よく手入れされた庭園が見る者の眼を楽しませてくれる。その庭から一匹の犬が彼の元に駆けて来る。コーギーによく似た犬種だが、その尻尾は長く毛がフサフサしている。人懐っこい表情を浮かべてクルスにじゃれついている。


 その鳴き声が聞こえたのだろう、屋敷の玄関から一組の年配の男女が出て来る。どうやら彼の両親のようだ。

 彼の父は彼に近付き、大きくその腕を開いて彼を迎え入れる。


「よく帰った、息子よ。滅多に顔を見せないから、心配していたのだぞ?」


「はい、ただいま帰りました父上。あまり帰って来れず申し訳ない」


 そう言って、互いにハグを交わす。貴族といっても案外アットホームなのかもしれない。

 そんな妙な所に感心している俺に気付いたのだろう。彼の父がその目で問うて来る。俺がその目線に対してペコリと一礼する。


「彼らは私の命の恩人なのです。この度、この王都に滞在なさると云う事なので、我が家に招待させていただきました」


「そうだったのか。ようこそお客人、オルドウェイ家へ。私はこの家の主人の、ラント=オルドウェイだ。そして、こちらが妻の…」


「ヨーコ=オルドウェイと申します」


 そう言って一礼をしてくれる。

 俺も慌てて名乗る事にする。


「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。俺…じゃない私はアキト=オガミです。そしてこちらが…」


「…ヒカル=エーデルライトと申します」


 そう言って、フードを外して一礼するヒカル。

 その瞬間、場の空気が凍りつく。クルスの両親は目を見開いてヒカルのねこみみを見ている。やはり、獣人であるヒカルを受け入れるのは難しいのだろう。ヒカルも、やっぱり…と云う顔をしている。まあ、追い返されるのならそれでもいい。俺だって望まれないのに、無理にここに居ようとは思わない。


「彼女は…」


 何事か言い掛けるクルスの父。しかし、その言葉を遮ったのはクルス自身だった。


「父上。先ほども言ったように、彼らは私の命の恩人です。失礼な事があっては私の、ひいてはオルドウェイ家の恥です」


「しかし、獣人なのだぞ!?世間体というものが…」


「父上!私達にはそんな物より大切な『義務』が有る事を教えて下さったのは、他でも無い、父上のはずです!私は騎士団に入り、その『世間体』とやらばかりを大事にして、自身の持つ『義務』を果たそうとしない愚物を何人も見てきました!父上も私にそうしろと!?命を救ってくださった恩人に対して、あだでもって返せと?」


 クルスが声を荒げて父をいさめる。その様子に彼の父は少し逡巡してから、彼の言葉に頷いた。


「…そうか。そうだな。すまなかった、お客人よ。息子の命の恩人に対して、失礼な事を言ってしまった。許して欲しい」


 そう言って、頭を下げる。それに慌てたようにヒカルが答える。


「頭を上げて欲しい。私が獣人であることに違いは無いし、獣人が差別の対象である事は動かしようの無い事実だ。貴方の反応は至極当然と云える」


 そう言って、両手を身体の前で振る。傍から見ている分には面白い。


 どうやら、追い出されずに済みそうだ。ホッと胸を撫で下ろす。撫で下ろすついでに、シノの紹介を済ませてしまう事にする。


「それと、この子はシノと申します。どうぞお見知りおきを」


 そう言って、シノを抱き上げ彼らに紹介する。


 しかし、再び凍りつく場。横でクルスが「あちゃー」と云う顔をしている。え?何、何かまずい事をしてしまったのか?


 そして再び始まる、阿鼻叫喚。


 後で知った事なのだが、クルスの両親は大変信心深い方達で、毎日の礼拝を欠かさないそうだ。


 まあ、おかげでヒカルから話題が逸れたから、良しとする。

「ヒカル。これから、どうするんだ?」


「うむ。まずは王都にある文献を当たって、それから竜を探そうと思う」


「ふ~ん。竜ってどこに住んでるんだ?」


「色々だ。森に住んでいる者もいれば、山に住んでいる者もいる」


「そんなに簡単に会えるものなのか?」


「さあな」


「さあな、って…。もしかして会った事無いのか?」


「会ってどうするんだ?」


「あ~」

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