第25節
エーデル嬢の背景説明回。正直に言うと蛇足です。
なかなか、ストーリーが進みませんね。次回からはまた動き出すと思うので、もしばらくお待ちを。
あと、怪獣大決戦ですが、もちろんやらせますよ?
第25節
『死神』。
『死神』、ヒカル=エーデルライト。
それが、私に付いた二つ名だった。
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「…終わり」
誰にともなく、そう呟く。銀で出来た自分のギルドカードを見て、依頼の達成状況の欄に在る「達成完了」の印を確認する。
どうやら、問題無く依頼を完了したようだ。
今回の依頼は風竜の国の外周部の村に現れる魔獣「ハードウルフ」の一団の討伐。
後は街に戻り、ギルドで報酬を貰うだけだ。最近路銀が心許無くなっていたので、これでようやく火竜の国へと旅立つ準備が出来る。
そんな事を考えながら、地面に転がる黒い塊を見る。
今回の獲物、「ハードウルフ」。
子牛程も有るその狼は、攻撃性も高く、基本的に集団行動を好むため、彼らの討伐はCランク、つまりシルバー以上の実力が要求される。
地面に転がる塊は七つ。「ハードウルフ」は五頭だと聞いていたが、どうやら追加で報酬を要求する必要が有りそうだ。
と云っても、彼女の前では数の多さなど大した意味を持たないが。
彼らの残骸から、視線を離した彼女は再び来た道を引き返して行った。
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風竜の国の北東部に位置する街“ヤシマ”。
風竜の国は他の三国全てと大竜脈路で繋がっているため、交易の中心として大いに栄えている。
しかし、このヤシマのように交易路から外れた場所にある街は、交易路として利用される街と比べると数段寂れているように見える。実際、人口も比べるべくも無いが。
そのため、騎士団もあまり配置されておらず、領域内に入り込んだ魔獣の対処が遅れがちになってしまうのも仕方が無い、と言えるだろう。
それに、その為の「冒険者」でもあるのだし。
そう思いながら、街に有るギルドの支部へと向かう。
程なくして、どこの街でも変わらない見た目のギルド支部が見えて来る。
いつもより、冒険者の数が多いようだ。おそらく、ハードウルフの出没の報せを受けて集まったのだろう。
さっきも言ったが、ハードウルフは集団行動を好む。本来なら複数人の「パーティ」を組んで討伐に当たるものだからだ。
だが、彼らの行動はもう無意味だ。ハードウルフは既に物云わぬ塊になっているのだから。
ギルドに入る際、彼らの傍を通り抜ける時に彼らの話が聞こえた。
「なんだよ…。こんな辺境まで来たってのに、依頼が達成されてるってどういう事だよ?」
ギルドカードは相互に通信できる機能が有り、依頼の達成状況はすぐさまギルドに届いてしまう。彼らが来た時には既に私が依頼を達成してしまったのだろう。
「なんでも、あの『死神』が受けたらしいぜ…」
「『死神』って、あの『死神』か!?」
「ああ、丁度こっちに来てたらしい。しかも、たった一人で、だ」
「ハードウルフの群れを一人で討伐するなんて、出来る訳ねえだろ!」
「ホントなんだって!もしかしたら、もうすぐここに来るかもよ?」
………。
すぐ傍に居るのだが…。どうやら、噂が一人歩きしているらしい。
彼らは目の前の少女が、その『死神』だとは気付きもせず話を続けている。
『死神』、それが私に付けられた二つ名だ。
私の扱う魔術は、威力と規模の大きさに特化している。要は「殲滅」するのに特化している。
そのため、私が受ける依頼は必然的に討伐に絞られてしまう。
行く先々で『死』をまき散らす、黒マントに黒フードの女。まさしく『死神』だ。
さらに言えば、私が『死の霧』について研究しているのも大きいだろう。
この大陸の人間にとって、永遠存在である竜すら殺すソレはまさしく「死の象徴」だ。その『死の霧』について研究するために、私は国中の文献や識者に話を聞いて回った。得られた物はあまり無かったが。
とにかく、それらの行動が私に『死神』などと云う大仰な二つ名を付けてしまった。
死を撒き散らし、死を尋ねて回る。まさしく『死神』。
その私の能力と名を求めて何回か他のパーティに誘われた事も有った。
けれど、
「…貴方達も一緒に消し炭にしても良いなら好きにすれば良い」
そう言うと、皆血相を変えて去って行った。私としては事実を言っているだけなのだが。
とにかく、私は独りだった。彼と出会うまでは。
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「…ん。むぅ」
「起きてくれた!?ヒカルさん!」
アキトの必死な声が聞こえる。どうやら少し眠ってしまったようだ。そう云えば、自分が今彼と密着している状況に有る事を思い出し、のぼせる頭で身体を起こそうとするが、身体が言う事を聞いてくれない。
どうやら完全に湯当たりしてしまったようだ。
なんだか何もかもがどうでも良くなって、脱力してしまう。
「ヒカルさん!?もうすぐ入浴時間が終わるから、寝るなら部屋に戻ってからにしてっ!?」
アキトの慌てた声が聞こえて来る。どうやらそうとう切羽詰まっているらしい。少し良い気味だと思ってしまうのは何故だろうか?
とにかく、なんとか起きないと次の客が来てしまう。そうなれば獣人である私が見つかってしまい、彼もろとも騎士団の牢屋入りだ。ただでさえ、異性と密着したきわどい状況でもあるのだし。
そう自分に言い聞かせ、なんとか彼から身体を離す。なんだか少し名残惜しいが、仕方ない。
なんとか彼に支えて貰いながら、脱衣所に戻る。
そして、備え付けのバスローブを羽織った所で、私はまたもや意識を失った。
「ヒカルさ―――――ん!?」
と云う、彼の涙声を聞きながら。
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「よっと」
背中に背負っている少女が落ちてしまわないように、彼は彼女を背負い直す。
宿の廊下を歩いているが、彼女の頭にはタオルが掛けてあるので、ねこみみを見られる心配は無い。
程なくして自分達の部屋に辿り着く。
背中のヒカルを落としてしまわないように、器用に鍵を開けると、そのまま彼女を寝室まで連れて行き、ベットに横たえてやる。
そして、彼女から身を離そうとするのだが…。彼女の腕が首を掴んで放してくれない。なんとか彼女の手を解こうとするのだが、なかなか手荒な事は出来ない。
彼が四苦八苦している、その時だった。
「…パパ、ママ…」
おそらく寝言なのだろう。けれど普段の彼女からは考えられないような、か細い声。よく見てみると、閉じられた瞳からは涙が流れていた。
それを見た彼は、腕を解くのを諦める。
そして、そのまま彼女の頭を優しく撫でる。
いつか、彼が悪夢を見た時、彼女がそうしてくれたように。
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ヒカル=『エーデルライト』
エーデルライトとは、地竜の国で採掘される希少金属の事だ。
魔術の媒体にも、質の良い武器にもなるその鉱石は各国で高値で取引される。
ほんのりと緑色の燐光を放つそれは装飾品としても人気が高い。
けれど、その採掘量は多く無い。だからこその「希少」。
彼女の両親はエーデルライトの鉱山で働く鉱夫だった。否、獣人だった彼らは、正確には「鉱山奴隷」だった。
彼らの働く鉱山は地竜の国の領域の外側にあったのだ。
当然、危険な魔獣も出没する。けれど、彼らに拒否権など存在しなかった。
幼いヒカルも、大人では入れないような細い隙間に入り、淡い光を放つ鉱石を掘るのを手伝っていた。幼いヒカルにしてみれば、ただ綺麗な石を集めれば両親の助けになる、と思っていただけなのだが。
貧しいながらも、それでも両親と三人そろって暮らしたあの頃こそ、ヒカルの人生において、最も優しい時間の一つで有った事に違いない。
しかし、ソレは突然現れた。
幼かった彼女が覚えているのは、崩れ落ちる鉱山、ヒカルを庇う両親。
そして、何か巨大な物の「眼」。
それは、嗤っていたのだ、逃げ惑う小さな命を。
ヒカルは絶叫していた。
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とっくの昔に気付いているのだ。これが私の見ている悪夢だと。
もう忘れたと思っていた。けれど、彼に自分の目的を話す際に記憶の奥底から這い上がって来てしまったようだ。
夢は私の物であって、私の物では無い。
自分に楽しい夢が見られるかは分からないが、どうせならもっと無害な夢を見たいが仕方が無い。
そう考えて、諦める彼女。
しかし、彼女の頭を誰かがそっと撫でる感触がする。
その感触は、悪夢を塗り替え、世界を再構築する。
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それは、懐かしい記憶。
その日の仕事が終わり、彼女ら一家は粗末な宿舎にて休息を取っていた。
その時、彼女の母親がヒカルを膝に乗せて頭を優しく撫でてくれながら、こう言ったのだ。
「ヒカル、あなたは私達の『希望』なのですよ?」
「『希望』?」
「そう。あなたは私達の『希望』。いつかあなたも、きっと『希望』を見つけられる。例え、獣人だろうと、奴隷だろうと、何だろうと」
「?」
幼いヒカルには両親が何を言っているのか分からなかったが、彼らの荒れた手が、優しく彼女の頭を撫でてくれるのが嬉しくて、ただ笑っていたのだった。
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私の頭を優しく撫でてくれる、この掌。そんな掌なんてこの世界にどれ程あるだろう?私はこの掌以上に優しい掌を二つしか知らなかった。
ありがとうの気持ちを伝えたいのだけれど、それは何だか気恥ずかしい。
両親は私の事を『希望』だ、と言っていた。そして、私にも『希望』が有ると。
もしかしたら。もしかしたら、彼こそが私の――――
そこまで考えて、彼女は今度こそ深い眠りに落ちて行った。
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「眠れない…」
アキトは誰にともなく呟いた。
ヒカルの寝息はすっかり穏やかになっていた。もう、悪夢を見ていないと良いな…と思いながらも、そっとその頭を撫でる。
しかし、未だに彼女の腕は彼の首に巻き付いたままだった。
彼女の顔が至近に有るこの状況で眠れるほど、自分は度胸が有る訳ではない。
「眠れない…」
どうやら、永い夜になりそうだった。
「…おはよ、アキト。凄いクマだな」
「あぁ、うん…。ちょっと寝られなくてな…」
「?今日は買い出しをするだけだから、部屋で寝ていると良い」
「そうさせてもらう…」
「…本当に大丈夫か?」
「…大丈夫。大丈夫だから、これ以上刺激しないで…」
「?」




