第22節
一万PV突破&ユニーク千人突破&お気に入り登録十人突破!!ありがたや、ありがたや。
これからもアキト君を頑張ってイジメて行きたいと思います。
それが、鳥越九朗クアンティティー。
という事で、第22節です。こういうのは苦手なので(得意なのがあるかどうかはともかく)、上手く書けているか不安だ…。
第22節
ボ――――――――――――――――――――っ。
「アキト!アキト!」
ぼ――――――――――――――――――――っ。
「アキト!アキト!?」
「はっ!?」
気付けば、どこぞと知れないベンチの上で「ボ―っ」としていた。
さっきまで心配そうに俺の名前を呼んでいたのはシノだ。
「うわ~ん!アキトが戻って来たよ~~!」
先ほどまでの俺の様子を心配していたのだろう、ようやく正気を取り戻した俺に縋りついて来る。
俺は、そんなシノをあやしながらアヤフヤな記憶を辿る。
そう、あれはヒカルに「合格だ」と言われた後の事。
真っ白に燃え尽きている俺に向かって、あのねこみみ小悪魔は言ったのだ。
「アキト、お金を渡すから自分の服を買って来ると良い」
茫然としていた俺はなんとか、そのお金を受け取り宿を出た。
出たのだが………。
その先が思い出せない。
状況から推測するに、宿を出た俺はフラフラと街を彷徨って、偶然見つけたこのベンチに座り込み、日が傾くこんな時間まで「ぼ―――っ」としていたのだろう。
そう、夕日だ。
既に、西の空は真っ赤に染まり、ベンチに座る自分の影も長く伸びてしまっている。随分長い時間こうしていたのだろう、お尻が痛い。
ヒカルの云いつけを守るなら、今すぐにでも立ち上がり服屋に急ぐべきなのだろうが、俺の脚も腰も重い。
「はぁ~~~~~~~~~~っ」
辺りに人影が無いのを良い事に、盛大な溜息を吐く。
正気を取り戻してしまった今、今日の事を思い出してしまったのだ。
「良い匂いだったな…」
思い出すのは、俺の上に跨ったヒカルの柔らかさとか、温かさとか、匂いばかりだ。俺の思考はそれらの放つピンクオーラに囚われて、一向に前進しない。
「どんな顔して宿に戻れば良いんだよ…」
とうとう、愚痴が口を突いてしまう。
「アキト、どうしたの?どこか痛いの?」
そんな俺を心配して、シノが声を掛けてくれる。
たったそれだけの事なのに、俺の心は洗われるようだ。洗われるついでに、脳内のピンクオーラを幾分和らげてくれる。
「シノは本当にいい子だな~」
俺は感動してしまい、シノの頭をいつもより多めに撫でてやる。
「本当にシノが人間だったら、嫁に欲しいよ…」
「嫁?」
「いや、シノはまだ知らなくていい言葉だから、気にしないで」
「?」
首を傾げるシノは本当に可愛らしくて…、別に竜のままでもいいや…、とかちょっと危ない思考に入りかける。
けれど、そんな現実逃避をしている場合ではない。とにかく、ここから動かなければ。
シノに元気を貰った俺はベンチから腰を上げ、魔術の街灯が点き始めた街に繰り出した。
――――――――――――――――――――――――――――
「私は…私は……」
ヒカルは宿の一室にて、一人悶々としていた。
原因はもちろん、昼間の『アレ』だ。
「私は何と云う事を……」
恥ずかしさのあまり、ベットの枕に突っ伏してしまう。その枕は、流石に一級の宿の物だ、柔らかく、しかし確かな弾力をもってヒカルを押し返す。この枕で寝たら、さぞかし寝心地が良いだろう。
そう、ここはいつも彼女が泊まるような、『獣人専用』の宿では無い。そもそも、獣人宿には枕など置いていない。大抵は雑魚寝部屋か、個室が有っても、監獄のような簡素な部屋に、これまた質素――というより粗末と言った方がしっくり来るような寝台が有るだけだ。もちろん、毛布も布団も無い。
それに比べれば、今彼女が泊まっているこの部屋はまるで天国だ。
暖かみのある、壁には暖色系の壁紙にインテリアの絵画が掛けられている。部屋はリビング、寝室、そして簡易なバスルームまで備え付けられている。通りに面した窓からは既に真っ赤な夕日が差し込んでいる。その窓から夕日に染まるノーレの街を見たらさぞかし美しいことだろう。ケープの種子が舞うこの季節ならなおさらだ。
彼女が突っ伏しているこのベットにしてもそうだ。
ダブルベットである事を差し引いても、悠々とした面積を誇り、心地よいスプリングの効いたマットに、よく洗われた清潔なシーツ、それを覆う羽毛の掛け布団。
何をどう比べても獣人宿とは比較するのすら失礼だ。
こんな良い宿に泊まれているのは、他でも無い。彼女の研究の相棒のおかげだ。
あの時、強引に彼女を引き寄せた彼の腕の感触を思い出す。
何かの武術をしているせいなのだろう、その腕は筋肉に覆われており、有無を言わさぬ力強さでもって、彼女をここまで連れて来てしまった。
ちなみにその彼はと云うと、彼女の適当な良い訳で茫然としている所に、これまた適当な理由を付けてお金を渡し、宿の外に放り出してしまった。
「私はどうしてしまったんだ…」
ベットに突っ伏したまま、彼女は呟く。
そう、今彼女がベットに突っ伏して頭を抱えているのは、自分らしくない自分の行動に頭を悩ませているからだ。
その悩みの種の青年の顔を思い出す。
その優しい、もっと言えば間の抜けた彼の顔。
確かに、彼は優しい。その優しさを好ましいと思う。そして間の抜けているようで、実際には底の知れない強さを持つ彼を頼もしいとも思っている。
けれど、彼と出会ってまだ十日程しか経っていないのだ。その程度の時間で身体を許すほど安い女では無いつもりだ。
しかし、そうなると今日のアレは何だったのだ、と云う事になる。
その答えを得るためには、自分の中に「そういった感情」が有る事を認める事になる。だが、さっきも言ったように、彼と出会ってまだ十日なのだ。しかし、そうなると……。
彼女は思考に没頭するあまり、自分の思考がループしてしまっている事にすら気付いていない。
少女の煩悶は、彼女を眠りが捕えるまで続いたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふう、なんとかお遣いは終わりそうだな」
そう言ってアキトは安堵のため息を吐く。
すっかり日が沈みかけた街で、なんとか装飾店を見つけ、そこにあった風竜の国の民族衣装だと云う袴と、振袖のような上着を購入する事ができた。
どちらも、鍛練の時に着ていた道着に近い物を選んだ。特に振袖のような上着はうちの流派独特の道着で、大きく余った袖の部分が何かと便利なのだ。
不眼に使えるように、色も白系と黒系の両方を買っている。
「アキト、お腹すいた」
頭の上のシノが訴えてくる。
そう云えば、ずっとボーっとしていたせいで何も食べていなかった事に気付く。
「じゃ、屋台で何か食べようか」
そう言って大通りに店を出している屋台に近づいて行く。どれが良いかな~、なんて考えながら店を覗いて行く。
この国は牧畜が盛んなため、肉系の食べ物の屋台が多い。ソーセージやベーコンを使った物や、豚の肉を煮込んだ角煮のような物も有る。
「お!美味そうな匂いだ!」
そんな中でも、俺の自慢の鼻はその匂いを逃さなかった。
香ばしいニンニクとタレの匂いのするそれ。牛串だ。
俺はこの牛串が大好きだった。近くの祭りがあると、必ず牛串を買ってもらったものだ。祭りの雰囲気と相まってとても美味かった。
「おっちゃん!牛串四本!」
「あいよ!」
そう言って、屋台のおっちゃんは牛串を筍の皮のようなもので出来た筒に差してくれる。
礼を言って、服を買ったあまりで支払いを済ませる。
「アキト!アキト!」
フードの中のシノは千切れんばかりに尻尾を振って催促して来る。だが、あまり人目のある所で食べる訳にもいかない。
俺達は先ほどまで俺がボーっとしていたベンチを目指した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はっ!?」
どうやら思考に没頭するあまり、寝てしまったようだ。既に窓の外は暗い。
「…アキト達はまだ帰っていないのか」
目を擦りながら呟く。
服を買いに行かせたはずだが、それにしては随分と時間が掛かっているようだ。
まあ、彼と顔を合わせるのはまだ勘弁して欲しかったので、都合が良いと云えば都合が良い。
実際の所は、彼はどこぞのベンチで夕食の牛串を頬張っているだけなのだが、それは知らぬが仏だろう。
ガランとした部屋を見る。
いつも泊まっている宿部屋よりも何倍も大きいため、何だか落ち着かなくなって来る。
「…早く帰って来ないだろうか…」
ポツリと呟く。
この大き過ぎる部屋に独りきりと云うのは寂しいものがある。
だが、彼らが帰って来る前に自分の心の整理の方をしてしまわなければならない事を思い出す。
「…ん?『早く帰って来ないだろうか』?」
先ほど自分が呟いた言葉。何か違和感を感じる。
そして、彼女はその違和感の正体に気付いてしまう。
「…私は…アキトが居るのが当たり前になって…っ!?」
そうなのだ、彼女は今まで一人で旅をしてきた。それは獣人であった為でもあるし、そもそも心を許せるような人物など居なかったからだ。
だからこそ、彼女は一人で旅を続けた。
だから、一人で宿に泊まることも有る。その時に寂しいと思った事が有るだろうか?
無い。一度も無い。
いつだって彼女は、獣人宿の粗末な寝台に身を横たえて、ただ休息の為だけの睡眠を取るだけだった。
そこに、寂しいだとか、誰かが帰って来るのを焦がれるような気持ちになった事など無い。
それは彼女にとって当たり前の事でもあったし、これからも未来永劫そうである事を覚悟していた事でもある。
自分には目的が有る。それを果たさないままで、そんな気持ちを抱く事など無いと、『思っていた』。
彼と出会ってしまうまでは。
彼が竜と話せると分かった時。私は『使える』と思っただけなのだ。彼を道具か何かのようにしか見ていなかった。「便利な翻訳機」程度にしか。
けれど、私は気付いておかなければならなかったのだ。
『そんな人間など居ない』と。心を持ち、自分で考えるのが『人間』なのだと。
しかし、私は気付かなかった。
気付かなかったが為に、私は今ここで自分の心と無理矢理にでも向き合わされているのだ。
今まで、私が一人でやってこれたのは隣に『誰も』居なかったからだ。
誰の心にも触れる事が無かったから、私は心を揺るがせる事は無かった。
けれど、私は自らその『決まり』を破ってしまった。一人ではいなくなってしまった。
彼が心を震わす度に、私の心も奮わされていたのだ。
彼が笑えば、私も何だか楽しかった。彼が泣いているのを見た時、私自身が傷ついてしまったかのように心が痛んだ。
まるで、砂の中に沈んでいた物が、振動によって浮かび上がるように。彼の心が震える度に、私の心の軽くて脆くて柔らかい部分が浮かび上がっていたのだ。
なんて浅はかな…。
昼間のアレを思い出す。
彼を道具として連れて来た上に、彼によって勝手に刺激された心のやり場を求めて、彼にぶつけてしまうなんて。
なんて愚かで自分勝手なのだろう…。
ぽたり、と何かが頬から落ちる。
涙だった。
私は最初、それが何なのか分からなかった。だって、私は『あれ以来』一度も涙なんか流した事がない。涙を流す事に意味なんか見つけられなかったから。
でもそれも自分の勘違いだったのだ。
『涙を流す意味』なんて無いのだから。意味なんて無くても、涙と云う物は止めようも無く己の瞳から溢れてしまうのだから。
私は弱くなってしまったのだろうか?
あぁ、きっとそうだ。
『独り』でなくなってしまった瞬間から、それは既に始まっていたのだ。
何故なら、彼と共に行けば今後何度もこんな感情に囚われるだろうと分かっているのに。
私は彼と分かれて独りで旅をする事を、こんなにも怖がっている。
彼と共に在れば、もっと私の心の弱い部分が浮き彫りになり、もっともっと傷つくであろう事も分かっているのに。
彼が隣に居ない事が、そんな未来より恐ろしい。
『独り』だったからこそ、私は強く在れた。けれど、その『強さ』は彼の心の震動の前に脆くも崩れ去り、『弱さ』を曝け出してしまっている。
涙は後から後から絶える事無く、溢れて来る。
それは、彼への謝罪の涙なのか、自分の浅はかさを嘆いているのか、思い描いてしまった未来への恐怖の涙なのか、もう自分では分からなかった。
こんな姿を彼に見せる訳にはいかない。
そうして、揺れ動いてしまうであろう彼の心によって、私はもっと『弱く』なってしまうだろうから。
彼の前でだけは、私は『強く』在らねば。
けれど、少女は考えてしまうのだ。
『弱く』なってしまった自分を見た彼は、さらなる『弱さ』で私を癒そうとするのだろうな…と。
「私が『弱く』なってしまったのは、貴方の責任でもあるんだぞ。アキト…」
少女の呟きは誰にも届く事無く、暗い部屋の空気に溶けて消えた。
「うう、やっぱり入り辛い…」
「アキト!ガンバレ!」
「シノ…。ありがとな…」(なでなで)
「えへへ~」
「よし!ってアレ?鍵が無い…」
「?」
「自動施錠だから開かないぞ!?ヒカル!開けてくれー!!」
『………』(しーん)
「ヒカル?ヒカルさん!?」
『………』(しーん)
「ヒカルさーーん!!何!?何かした!?謝るから!土下座するから開けてーー!」
『………』(しーん)
「ごめんなさい!ホント反省してます!!あれだよね!?ヒカルに迫られた時、本当は結構ギリギリだったのを怒ってるんだろ!?」
(ガチャ)「…そうなのか?」
「え?違うの?」
「そうなのか、と聞いている」
「はい!そうですホントです!だって仕方ないじゃない!?男の子だもん!!」
「そうか…」(ガチャ)
「ヒカルさ――――――ん!?何で閉めるの!?」
『危ないからな。色々と』
「危ないって何が!?俺か!!」
『(それだけでも無いんだがな…)』




