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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
16/115

第15節

 若干説教くさくなってしまいましたね。アキト君をイジメるためにはどうしても必要だったので、どうかご容赦を。





第15節


 ♪~逃走(ダッシュ)逃走(ダッシュ)、ここに逃走(ダッシュ)

    あなたから~、逃走(ダッシュ)!手を伸ばして捕まえ~てよ、

     溜息の数だけ束ねた、走馬灯(ブーケ)~♪


 いや~、懐かしいな、この替え歌。『鍛練』と云う名のイジメで、じいちゃんに追いかけられる度に頭の中でエンドレスで歌ってたっけ…。


 何でこんな歌を突然歌い出したのかって?


 そりゃあ、もちろん……。




「こっちくんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 目下、絶賛逃亡中だからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 話はやや遡る。


 火竜の騎士たちに追いつかないように、その場で一泊した俺達。

 その夜は特に何も起きず、平穏な夜が過ぎた。


 次の日。

 

 朝が弱いヒカルに合わせ、テントを畳み出立する頃には既に日が高く登っていた。

 火竜の国まで五日は掛かるらしいが、こんな調子で本当に五日で着くのか?と心配していた時の事だ。


 ガサガサ――


 街道沿いの森の中から、何かが茂みを掻き分ける音がする。

 こちらを窺っているようだが、そいつの足音はほとんどしない。おそらく人間ではなく魔獣とかいう獣だろう。


 隣を歩くヒカルにアイコンタクトでそれを伝える。


――すると。


「…対処はまかせる」


 と、返事が返って来る。

 

 って、へ!?


「ちょ、待っ」


 慌てて制止をかけるが、


「…これもまた、この世界に慣れるための訓練の一環。貴方がそこそこ腕が立つのは確認済みだし、問題無い」


「…ヒカル、実は面倒事を押しつけてるだけじゃないのか…?」


「………そんな事は無い」


 いつもより、「…」が多かったのは気のせいか?


「…とにかく、私と行動を共にするのだから、最低限自分の身は自分で守って貰わなければならない」


「それは…、そうだろうけど…」


 俺の煮え切らない態度に、ヒカルが言い放つ。


「…それとも、貴方は私のような女の子に守ってもらうのがお好み?」


「グッ…。分かりましたやってみます」


「…よろしい」


 鷹揚に言い放ち、静観に徹する構えのヒカル。こうなったら、なんとか自分で乗り切るしかない。


「ちくしょう…!こうなったら蛇でも鬼でも出てきやがれってんだ!」


 そんな事を言っていると、どうやら相手もこちらを襲う覚悟ができたようだ。その殺気にも似た気配が強くなる。


 いつ来られても良いように、森から僅かに距離を取る。


 ――――そして、


「ワフッ!!」


 っとまあ、可愛らしい鳴き声と共に飛び出て来たのは五匹の子犬ほどの狼―「プチウルフ」というらしい―だった。


 そのあまりの可愛らしさに、俺は―――


 まず、隣に立つヒカルの腰を小脇に抱え、いつぞやの野盗から逃げていた時のように駆けだしていた。



――――――――――――――――――――――――――――


「…離して」


 いつぞやの再現のように抑揚のない平坦な声でヒカルが告げる。

 それに対して俺も、いつぞやの再現のように返す。


「すまない!突然襲うような真似をして。ただ、俺にも事情があって…。え~と何と言うか今俺はたいへん可愛らしい連中に追いかけられているんだ。(彼らが)危ないから、このままおとなしく一緒に逃げてくれると助かる!」


 一息に言い切る。


「………」


 無言なのも一緒。


 ――だが。


「ふざけないで。彼らは魔獣。人の敵」


「だけど、俺にはあいつらを殺す事なんて出来ない!命は大事なんだぞ!!」


「…それじゃあ、貴方はおとなしく彼らの餌になるの?」


「そういう問題じゃないだろ!?」


 こんな応酬をしている間も、俺達の後ろからは「ワフ、ワフ!」と可愛らしい鳴き声で追って来る小さな狼達。


「…では、どういう問題なのか説明してもらおう」


「………。俺の命は重いけど、彼らの命だって重いんだ!そう簡単に奪ったりなんか――」


 ――――――ゾッ


「ッ!?」


 そこまで言った時だった。ヒカルから発せられる気が重く冷たいものになったのは。

 その、あまりの変わり様に俺は言葉を失う。


「…離して」


 再び声が掛かる。

 だが、その言葉は既に氷の温度を持って俺に命令していた。

 あまりの迫力に思わずその通りにしてしまう。


 地面に降り立ったヒカルは懐から杖を取り出し、早口にて詠唱を始める。


「我は飲み込む幾百万――


 我は飲み干す幾千万――



 ―――暴飲の雷」


 淡々と詠み上げられる祝詞に呼応するように大気が震え、天が慄く。

 そして、顕現した魔術の雷はまたもやその胃袋に小さな五つの命を飲み込んで行く。

 昼、日が爛々と地上を照らしているにも関わらず、雷はさらなる閃光を持って世界を光と轟音で埋め尽くす。

 

 俺はまたもや声を無くしてその光景を見ていた。頭にしがみつくシノは怯えるように後退り、肩の辺りまでその位置を下げていた。


 暴食の限りを尽くした雷の嵐は、やがて虚空へ消え去るように消滅していった。


 辺りに静寂が戻る。


 ヒカルは依然としてこちらに顔を向けようとしない。


「…ヒ、ヒカル?」


 俺は恐る恐るといった風情でヒカルに声を掛け、その背中に近寄る。


 すると。


 ―――パァンッ!!


「ッ!?」


 振り向きざまに繰り出されたヒカルの平手打ちが見事に俺の頬に当たり、大きな音を立てる。


「なッ!?何をッ?」


 痛みより何より、驚きと何故打たれたのか分からず、声が出せずにいると、そこへヒカルの重たい声が圧し掛かるように響く。


 ――――曰く。


「…貴方は傲慢だ」


「え…?」


 何を言われているのか分からず疑問の声を上げる。


「…貴方は何サマのつもりだ」


「だから、何を言っているんだ!?」


 あまりの理不尽さに抗議の声を上げる。


「もしかして、あいつらを殺さなかった事をいっているのか?そりゃあ、ヒカルに任せると言ってもらってあの様だったのは悪かったと思うが……」


「違うっ!!」


 俺の、しどろもどろな言い訳は彼女が初めて発するような大声で遮られていた。


「貴方は、自分の命を重いと言い、彼らの命も重いと言ったな」


「?あ、あぁ」


「それが傲慢だと言っている!」


「ッ!?――でも命は大事だ!俺のも、もちろんあいつらのも!」


「『彼ら』の命の価値を『貴方』が決めるなっ!!」


「ッ!?」


 俺は彼女の剣幕とその言葉にひたすら息を飲むばかりだった。

 

 ヒカルは一旦落ち着きを取り戻すように深呼吸すると、子供を諭すように俺に言う。

 その瞳には薄っすらと涙がにじんでいるのが分かる。


「良いか、アキト?貴方が価値を決めて良いのは、貴方の命一つ『のみ』だ」


「………」


「私達は神様じゃない。いや、神様なんていないんだ。私達は自分の定めた自分の命の価値を基に、相手の命がそれより重いか軽いかの判断を着ける事しかできない」


「………」


「それは相対的なことでしか無いが、だが命に絶対は無い。無いんだ」


「………」


「ましてや、相手の命の価値を勝手に量り、それと自分の命を天秤に掛けるなんてしてはいけない」


 この二つは似ているようで、その間には大きな隔たりが有る。そういって彼女は言葉を締めくくった。


 俺より年下の彼女がどうしてそういった価値観を身に付けたのか分からなかったが、俺にはそれが一つの真理のように聞こえた。

 そして何より、彼女は心配してくれているのだ。命を天秤に掛けるような真似を続ければ、いずれ必ずその重みが相手の命に傾いてしまうであろうことを。逆に命の重さを間違えて、己の命の価値すら軽くなってしまうことを。


 そうならない為にも、己の価値を定め、それを大切にしろ!と言ってくれているのだ。


「すまない…。ありがとう」


「…ん。分かればいい」


 プイッと顔を背け、そう言い放つヒカル。


「…私達に魔獣(かれら)に食べられてやるという選択肢が無い以上、迷う訳にはいかない。例え追い払ったとしても、彼らがまた別の人々を襲わないという保証は無いのだから」


 それは魔獣のみならず、その人々の命の価値すら定める行いだ、と言ってヒカルはまた歩き始める。

 俺も慌ててその後に続く。どうやら、彼女から学ぶことは多そうだ、と思いながら。

「さて、今回のあと始末だが――――」


「え゜!?」


「今回、任せると言ったのに私の手を煩わせた罰だが――――」


「聞けよ!!」


「次に出て来た魔獣を独りで倒してもらう」


「あれ、案外普通…」


「もちろん、Sランクの化け物が出て来てもやってもらう」


「聞きなれない言葉が出て来たんですが…」


「問題無い。今の君には関係の無い言葉だ」


「あるだろ!何だよSランクって!明らかにヤバ気じゃねえか!」


「だから問題無いと言っている。そもそもそんな化け物がこんな所に出る訳が無いじゃないか」(ハッハッハ)


「フラグを立てるなーーーーーー!」

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