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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第14節

 お気に入り登録UP!&2,000PV突破!!ということで再び2節投稿。

 今回はアキト君が頑張ります。






第14節


 ――――ザッザッザッ


 どうやら、火竜の国の騎士団一行のご到着のようだ。かといって、態々出迎えてやる義理も無い俺達は、知らん顔をして焚火と食事を続ける。


 ――――ザッザッザッザ。


 そうしていると、騎士団は俺達の真横まで来るとその行進を止めた。

 一行の長であろう人物が声を掛けてくる。先ほど会った水竜の騎士体長が全身に甲冑を纏っていたのに対し、その騎士は最初から兜を取っていた。あまり真面目な性格では無いようだ。

 その声からも権力を持つもの特有の傲慢さをにじませている。


「おい、貴様ら。ここで何をしている」


 傲慢な騎士は名乗りも無しに問うてくる。既に詰問口調だ。


 その声に対し、俺はやや間延びした声で持って返す。その口調には若干の芝居じみた響きが含まれる。


「おや、騎士さま。見てお分かりになりませんか?焚火でございますよ。宜しければ当たられて行きませんか?」


 その声に苛立つように騎士が答える。


「そんな事は見れば分かる!こんな所で何故焚火をしているのか聞いているのだ!」


「何故、と問われても。ベーコンを熱するには焚火でも起こさねば、どうしようも無いではありませんか」


 要領を得ない俺の答えに騎士はさらに苛立っているようだ。その額には早くも青筋が浮かんでいる。

 このまま呆れて此処を立ち去ってくれるのが一番良いのだが、どうやらその騎士は粘着な気質であるようで、口調をさらに激しくして問うて来る。


「この街道に野盗が出るのを知らぬ筈が無いだろう!何故そんな場所で暢気(のんき)に焚火を起こし、ベーコンを熱し、食事をしているのかと問うているのだ!」


 チッ、何故ベーコンを熱しているのかと聞かれたら、食事の為ですよと答えるつもりだったのに…。短気な事だ。

 仕方が無いので件の野盗の話に移る。


「あぁ、その野盗でしたら既に水竜騎士団に討伐されたようでございますよ?私達もその様子を見ておりましたから」


「なんだと!?いつだ!?」


「つい今朝方。この先の跳ね橋のところで、遺体を馬車に積み込んでいる水竜の騎士様方からも確認いたしましたから、間違い無いかと」


 その言葉にその騎士は驚きの声を上げる。


「嘘を吐くな!水竜騎士団が派遣されるのは二日後だぞ!話が違うではないか!」


 その台詞に疑問を感じながら、それでも表面上は笑顔で対応する。


「私どもに申されましても…。直接水竜の国に問い合わせて見られてはどうでしょう?」


「クッ……」


 赤い鎧を着たその騎士はしばし考えていたようだが、そのうち何かを決めたのか真っ赤にした顔をこちらに向けて言い捨てる。


「仕方が無い、我々は一度国に戻る。その後、教会を通じて抗議をさせてもらう。覚悟しておくんだな!」


 別に俺達は水竜の国の者じゃ、無いんだが…。


 とにかく、立ち去ってくれると言うならそれでいい。なんとかなりそうだな、と思ったその時だった。


「…あ、こら!」


 どうやら、シノが腕の中で暴れるかじゃれるかしたのだろう、それを押し止めようとしたヒカルのフードがパサリと外れ、その可愛いねこみみが露わになる。


「――獣人!」


 ヒカルは「獣人と見ていきなり斬りかかるのは極少数だ」と言っていたが、どうやら目の前の騎士はその数少ない一人であるようだった。

 騎士の腕が、腰に差した剣に伸びるのが見える。

 ――――そうはさせない。


 俺はいざと云う時の為に握っていた小石を指で素早く弾く。それは騎士の眼にも指にも当たらず、見当外れの方向へ飛び、木の幹に当たり小さな音を立てるに留まる。


 ――が。


「――んなっ!?」


 次の瞬間、その場にいた全員が驚きに息を飲む事になる。


 剣を抜こうとした騎士の目の前には、いつの間にか俺が立っており、抜こうとしていた剣には俺の手が柄を押さえるように添えられている。それも、その場の全員が気付かない内に――だ。


 俺は剣を抜こうとした騎士に対して微笑みかける。もちろん眼は笑っていない。

 その騎士は驚きから立ち直れないままの茫然とした表情でこちらを見ている。何が起きたのか分からない、という顔だ。


 種明かしをするならば、これはうちの流派の技の一つである。

 最初に弾いた小石によって立てられた小さな音。いくら視界の外とは云え、全員の注意を逸らすのは不可能だろう。雑音の一つとして聞き流されるのがいい所である。

 しかし、人間の脳はこんな小さな音でも律儀に拾い上げ、無意識のうちにそれを「雑音」という音だと処理してしまう。

 俺はその無意識に出来てしまう「意識の空白」を利用し、騎士に接近、剣を押さえたのである。


 この様に、俺の扱う武術は「騙す」事に特化している。

 騙す事を『騙り』と言い、


『人を語り(かたり)、物を騙り(かたり)、世界を傾る(かたる)


 どこかで聞いた事のあるようなそれが、うちの流派「拝無神流」の極意だ。


 この内、人を騙す技を「(かたり)」と言い、物を騙す技を「奥義」、世界を騙す技を「秘義」と云う。

 ちなみに、秘儀の上にも免許皆伝した者だけが使える大技が一つ有るのだが、正確にはうちの流派の技で無いのと、祖父に「使ったら死ぬ」と言われているので割愛する。


 今、俺が使ったのは「語」の一つ「空耳(うつみ)」であり、人の意識の空白を意図的に作り出し、その内に攻撃する技である。


 感覚としては「剣道の試合中、いつの間にか相手は残心に入っており、審判が全員白旗を上げていた」と云う状況に似ている。まさしく狐につままれた、と云うやつだ。


 とにかく、俺に騙された哀れな騎士は目を白黒させながら動けないでいたが、なんとか気持ちを立て直し剣を抜こうとする、しかし俺が柄を押さえた剣はピクリとも動かない。

 この体勢からではどうやっても剣を抜くのは無理だろう。一旦間合いを開けるか、身体を開いて剣の柄から俺の手を離さない限り。


 騎士もどうやらその結論に達したのか、それでも獣人であるヒカルとの間合いを遠ざけたくなかったらしく、身体を半身にするように開き、剣から俺の手を離そうとする。


 剣の柄が俺の手から離れる一瞬、俺はそっと柄を押してやる。これも「語」の一つ、相手の重心を崩す「潰崩(かいほう)」という技だ。


 本来であれば、重心を崩しよろめく程度の技であるが、相手は重たい甲冑を身に纏う騎士だ。崩れた重心は重たい鎧によってさらなる崩壊を始め、騎士は『ビッタ――ン』とばかりに背中から地面に倒れる。

 背後に控える彼の部下達から、失笑が漏れる。

 

 それに顔を真っ赤にして、さりとてそのままの体勢では起き上がれなかったのか、一旦四つん這いになってから、起き上がろうとする騎士。


 だが―――


「(よっと)」


 起き上がろうとした騎士は、今度は顔面から地面に倒れてしまう。周囲の失笑が一層大きくなる。どうやら彼は部下に慕われている訳ではないらしい。こんな状況でも助け起こそうとする者は誰もいない。


 ちなみに、彼を顔面から地面に叩き付けたのは技でも何でも無く、唯の「目にも留まらぬ足払い」であったのだが、それに気付いた者は(受けた本人を含めて)いなかった。

 彼らの眼には七転八倒する上司の姿が見えただけだし、本人に至っては何が起こっているのかすら分かっていないだろう。


 そんな彼に白々しくも俺は心配そうな声を掛ける。


「だ、大丈夫ですか騎士様!もしかして酔っておられるのではないですか?」


 そう言って助け起こそうと差しのべた手を払い、顔を真っ青にして俺から距離を取るべく尻もちを突くような格好で後ずさる。

 どうやら、俺から不気味な物を感じたらしい。


 そして、泡を食うようにして立ちあがった彼は逃げるように部下を率いて元来た道に取って返して行った。

 遠目に先ほど失笑していた部下を殴りつけているのが見える。


「そりゃ、部下から慕われんわ…」


 彼らが去った静寂の中、俺は呟いた。


 そんな事を考えていると、横から声が掛かる。


「…ありがと」


「うにゃ、別にいい」


「…ん」


 頷き、それでも嬉しそうにしている。やはり、ああ云う人間に対して思うところが有るらしい。俺もああいう手合いは好きじゃないし、二度と会いたいとは思えなかった。


「…それより、本当に強かったのね。唯者じゃないとは思っていたけど、昨日は吐きそうになっていたから本当は半信半疑だった」


「流石に人が死ぬ所を見るのは初めてだったからなぁ…。とにかく、昨日の事は忘れてくださいお願いします」


 そう言って恥ずかしそうにする俺を見て、ヒカルはいつまでも笑っているのだった。

「とりあえず、今日はここで野営にしよう」


「え?早過ぎないか?」


「今すぐに立つと、彼らに追いつく事になるぞ?」


「それは…、遠慮したい…」


「だろう?」


「あぁ」


「じゃあ、テントを張るのは頼んだぞ」


「ホント便利なポーチっすね…」


「そうだろう、そうだろう」(うんうん)


「で。俺がテントを立てている間、ヒカルは何をするんだ?」


「もちろん、シノを愛でるに決まっているだろう!」


「………。突っ込まないからな」


「…むう。張り合いのない」


「確信犯かよっ!!」


「おっ!」


「…あっ!?」


「「………」」


「さーて、頑張ってテントを張るぞ~!!」


「あぁ、頑張ってくれたまえ」(なでなで)

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