表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
104/115

第29節

良い物を書かねば、と思うほどに筆が進まないのは

自分が未熟の証なのだろうな、と思ふ。






第29節


 俺は”無自覚”が嫌いだ。

 ”無自覚”であると云う事は、この”世界”の多くの《真実ほんとう》から目を背けていることになるから。

 これが、《オガミ》のさがに起因する物なのか、俺個人に由来する物なのかは、少し分からない。

 だけど俺は、この”世界”に『知らなくて良い事』が有るとは思わない。


 だが誤解しないで欲しいのだが、この信条はあくまで自分に対しての物で、これを他人に当てはめるつもりは無い。

 ”真実ほんとう”が他人に押し付けた瞬間に”欺瞞ほんとう”へと代わるように、俺個人の信念を他人に強要した瞬間、それは”傲慢”となるだろう。

 この事を教えてくれたのはどこぞのネコミミ少女なのだが―――そこからも分かるように俺にも分からない事、すなわち”無自覚”であることは多々ある。


 でも…。――それでも、俺は走っている。


 己が無知であることも、これからやろうとしている事が傲慢な事だということも、全て自覚したうえで。

 俺はフーカに伝えなければいけない。

 俺は彼女に教えなければならない。

 セツカ老が伝えたかった言葉や、想いを。


(きっと気付いてないんだろうな…)


 その無自覚に、他人事ひとごとながら腹が立つ。

 彼女が気付いていない事、その最たるものが”かざはな号”だろう。


(”風花かざはな”に”風華ふうか”、だもんな…)


 その名を聞いた瞬間に理解出来てしまう程に、単純で直球な符合。漢字に類するアルファベットが普及していないからこその、”無自覚”。

 それだけで、セツカ老がなんの為に、どんな気持ちであの船を造ったか分かってしまうのに。


 きっとあの船は、フーカそのもの(・・・・)なのだ。


 今のフーカは、真実を知った事により自暴自棄になっているのだろう。

 自分には意味も価値も、そして居場所すらなかったのだ――と。


 だが、それは違う。そう叫びたい衝動に駆られる。

 唇を強く噛み、想いを封殺しようとする。

 しかし、やはり耐えられず、アキトは誰にともなく言い放った。


「お前、あの船(自分)の事をあんなにも誇らしげに語ってたじゃねえか!!」


 それを、知らなかった、気付かなかったでは済ませない!

 あのでかくて、そのくせ役に立たない垂れ耳を引っ張り上げて、怒鳴ってやらなければ気が済まない!


「”復讐”なんてしてる暇が有ったら、操船の訓練(自分の事)をしろよな!!」


 彼が死んでも彼女を操舵士ヘルムスマンにすると意地になった瞬間であった。

 だからこそ、今はひたすら駆ける。

 彼女のもとへと。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 わたしはただ一言をもって、その男を糾弾する。

 ―――すなわち。


「―――殺す!!」


 それこそが、お前の為した罪に値する罰なのだと。


「殺すっ!!」


 吠える。

 あらん限りの声量で叫ぶ。

 その言葉こそが、呪詛となり相手を殺すと信じているかの如く。


「―――――」


 だが当然、その程度で人が死ぬはずも無く――。

 しかし、あまりの事態に誰もが言葉を失くし、ただ雨に打たれた。

 少女のギラつくまなこと、その小さな体躯から発せられる敵意と殺意がそうさせた。


 だが―――。


「…おい、」


 例外とは何事においても生じるものだろう。

 誰も身動きできないその場において、げんどうを発する者が居た。

 レオとルルだ。


「いきなり突っかかってこられて、『殺す!』なんて一人で盛りあがられても、こっちは訳分かんねえんだよ」


 彼らはゴールドランクの冒険者だ。レオ達にとって、フーカが発する程度の敵意など、彼らが普段相対する魔獣に比べればその程度(・・・・)でしかない。

 しかし、いくら言葉を紡げたとしても、今のフーカには届かなかった。

 最初から、標的と見定めたロイガー氏しか目に入っていなかったのだ。

 相も変わらず、ただひたすらに呪詛を振りまくフーカ。

 それは徐々にレオを苛立たせる。


「こっちの話を―――」


「レオ」


 苛立ち紛れに怒鳴りつけようとしたレオをルルが制止する。


「待って、レオ。その子、見覚えは無い?」


「あぁ?こんなキ○ガイ娘に見覚えなんて―――」


「レオ、言葉遣いが汚い」


 それは、今この場で指摘される事なのだろうか…とレオの脳裏に疑問が浮かぶが、反論しても時間の無駄だと悟り―――。


「………。イっちゃってる系女子に見覚えはねえぞ」


「…それもどうかと思うけど、まあいいわ。それより、本当に覚えて無いの?」


「ねえな」


「そう」


 もの凄く残念な物を見るような眼で見られた!

 嘆息混じりに、ルルが言葉を続ける。


「前に会った時は、まだ”イっちゃってる系女子”では無かったわ」


「前…?」


「ちなみに、昨日よ」


 残念な物を見るような眼が増えた。いつしか、硬直してしまった状況から、船員達が我に帰ったのだ。

 その船員(テスト含む)が、若干の憐れみすら感じさせる視線を送って来る。


「み、見るな――!俺をそんな目で見るな―――!!」


 いつぞやの喫茶店の如く、顔を真っ赤にして大きな体を悶えさせる。

 そんなレオを援護フォローするような口調で、ルルが口をはさむ。


「そうね、レオの残念さと暑苦しさは今に始まった事では無いものね」


「いつも思うんだが、それ全然フォローになってねえよ!!」


 叫ぶと同時、昨日という言葉に思い当たることが有った。


(確か、アキトと一緒にいた、ルルと同じくらい無口な獣人の娘…?)


 『確か』で始まるのに、最後が疑問符で終わったのは、その時の少女と目の前のそれがどうしても一致しなかったからだ。

 それはそれとして―――、

 とりあえず、まずは自分の不名誉からそそぐべきだろう。


「思い出した!思い出しましたぁ!!だから、その眼はよせ!」


 だがその言葉にルル達は一様に顔を突き合わせ、ヒソヒソ話を始める。


「聞きましたか、ロイガーさん?逆切れですよ?」


「ああ、最近の若い者は短気が多いと聞いたが、よもや彼もだったとはね…。世も末か…」


「いいえ、ロイガーさん。レオのそれを一般の方と比較するのは、いささか早計かと」


「ううむ…」


 なんだろう?急に腕を緩めたくなってきた。

 ちなみに、宙ぶらりんの少女はいまだに歯を剥き出しにして「殺す!」と叫んでいるのだが…いささか緊張感に欠けないだろうか。もちろん、相手は雇い主だから何も言わないが。


 その時、横合いから駆けつけた何者かが、レオに反応する暇すら与えず、腕の少女を奪い去る。


 ――――アキトだ。

笑いに逃げたのは、自分が一人の少女の復讐を書ききるだけの力を持っていないと判断したからです…。


ええ、小心者チキンですが、なにか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ