「悪魔の美酒」 E・T・Aホフマン原作における贖罪の意味について、About the meaning of the atonement in eta hoffman
ドイツロマン派の作家ETAホフマンの長編小説「悪魔の美酒」の
主人公メダルドウスは、自身では何の罪も犯してはいないのに、
呪われた血脈の因果によって
殺人(毒殺、刺殺、転落死)不倫、近親相姦、悪魔との契約、盗み、破戒、などの
罪を犯し続けることになっていくのである。
一体、メダルドウスに何の咎があったというのだろうか?
呪われた家系に生まれ合わせただけということで
ここまで子孫たるメダルドウスは責任を負わされねばならなかったのだろうか?
メダルドウスはむしろ被害者?なのではないだろうか?
知りもしない遠い先祖の悪魔との契約が末代まで呪いを及ぼすとは。
『まさに親の因果が子に報い、二目とみられぬこの姿、、、、、』
というお祭りの牛女の見世物小屋の呼子さんの口上のようではないか?
しかしこの因果は子孫が知らぬことゆえ、
子孫にとってはまさに不条理極まりない理不尽な罪である。
その意味では原罪といっていいかもしれない。
人間がもともと生まれ持っている罪、人間は生まれながらにして
みんな、重い十字架を背負わされているという原罪観。
たとえはあまり適切ではないかもしれないが
それは先祖からの遺伝体質ということと比肩されるのだろうか?
わが家系はみんな禿げるとか、ぜんそく持ちの家系だとか、
癌の家系?というのも喧伝されていますよね?
メダルドウスの、この先祖の魔女との淫行?も、そうした観点から見れば
子孫がそれに悩まされる、不倫や姦通、近親相姦という魔女めいた罪に巻き込まれるというのも、
仕方のないこと?なのかと変に納得したりしている私がいますね。
確かにこの人生というものは、
不条理の塊みたいなとこがあって、
何でおれがこんな目にあわなきゃいけないんだ?
ということの連続が即、人生でもありますよね。
しかしそれを言ってみても何らお許しもなく、
その不条理な災難は容赦なく降りかかってきます。
人間はただそれを切り抜け振り払いこけつ、まろびつ、
やり過ごしていくしかありません。
そうした総体が、すなわち人生の総体でもあるわけです。
その意味で人生とはただちに贖罪でもあるわけです。
かかる災難がこの無実の私に降りかかるのは
もしや遠い先祖の悪行のツケなのではないだろうか?
あるいは私の前世での醜行のカルマなのではあるまいか?
そうでも思わなければ、なんで身に覚えのない、災難がかくも、自分に降りかかってくるのか?ということが自分の心の中で整理しきれないでしょう?
私の表層意識では何らやましいことも、また、罪も犯していないとしても、
おそらくどこかで先祖が、、、あるいは前世で自身が罪を犯したのではないか。
だからこれは身には覚えがないけれど、
わたしにとって贖罪なんだと、
甘んじて受けるべき贖罪なんだと、
そう思って真摯に受け止めて贖罪行を遂行するべきなのです。
神を呪わずに、神を讃え
人生の行を真面目に遂行すべきなのです。
そうすることによってしか、この人生の不条理感からの脱却はありえません。
悪魔の美酒は、、イギリスゴシックロマンスの傑作といわれる
マシューグレゴリールイスの「マンク」(破戒僧)に
影響されているとしばしば指摘されますね?
確かに破壊僧が主人公であり
不倫や姦通があって
まあ、、構成?はよく似てはいますね。
しかし私が思うに
その内容というか
行間に燃え上がる熱情というか
炎というか
それはこの悪魔の美酒が
数段上でしょう。
確かにこういう
「悪徳修道士もの小説」というか
それ以前の聖人伝のような
偉い修道士の伝記みたいなお体裁のいいものはいっぱいありましたが
こういう生臭い?修道士ものは
この「マンク」が嚆矢でしょうね?
そしてそれを自らの魂の叫びと懊悩として
告白小説として
「マンク」よりも高めたのが「悪魔の美酒」でしょうね。
ところで
最近「薔薇の名前」という映画を見たのですが
その雰囲気は、、まさに
「悪魔の美酒」の雰囲気?でしたね。
ショーンコネリーがいい味出してました。
ついでに「デビルクエスト」という映画も見たのですが
これも十字軍とか魔女の処刑とか、、
魔女の護送馬車とか
良い雰囲気でしたね。
まるで「悪魔の美酒」の世界そのものでしたのでうれしくなりましたね。
さらに、、
「ブラックデス」という映画も見たのですが
これも中世が舞台で
黒死病が出てきて
見習い僧が出てきて
死者のよみがえり儀式があって
最高でしたね?
まさに「悪魔の美酒」の雰囲気でしたよ。
ついでにさらに、、
あまりにも有名な映画ですが
イングマールベルイマンの
「処女の泉」と「第7の封印』も
中世が舞台でいい雰囲気ですね。
私は
「悪魔の美酒」をよんでからというもの、、
こういう
中世モノ映画が大好きになりましたよ。