天族の英雄
訓練場の外に出た時には、もう日がほとんど落ちていた。
そろそろ夜の時間帯になる中、ユキナたちの案内でエルドラ家の屋敷……本宅へとやってきたわけだが、失礼ながら館内の第一印象は殺風景……と言うべきだろうか?
もちろん高価そうな絵画や装飾品等はあるのだが、館の大きさの割に数が少なく、正に必要最低限という感じである。
「はっはっは! 気付いたようだな。我が屋敷は実に寂しいだろう?」
「そう……ですね。あまり装飾品は好みではないのでしょうか?」
「母さんは必要のない物をあまり置きたがらないですよ。残っているのは、ウルさんに言われて仕方なく置いてある物ですね」
こういう位の高い家の場合は装飾品が少ないと質素に見えたり、他所の家に舐められてしまうものだと思うのだが、それを計算ずくでこんな状況らしい。
「我が家の内装を見て相手が油断すれば対処が楽になるし、そもそも家で人を見るような者は禄でもない奴に決まっている。さすがは母上だと俺は思っているぞ」
内装がちょっとした試金石でもあるわけか。
あの豪快なエイジが恐れる人物だし、今日は不在とわかって少しほっとしている自分がいた。
そのまま屋敷内の食堂へと案内され、大きいテーブルに着くとすぐに料理が運ばれてきたので、ありがたく夕食をいただく事にした。
しかもコース料理のように運ばれてくるかと思っていたが、大皿に乗せて個人が必要な分だけ取るという家庭的な食事方法だったので、かなり気楽に食事が出来た。
「さあ、どんどん食べるといい!」
大きな家だけあって、豪快な人物でも所作はとても上品である。ユキナも同様に所作が美しく、こう見ていると本当にお嬢様なんだなって思う。
おかわりにも寛容で、こちらとしては夕食代が浮いて助かるのだが……。
「足りなければ、遠慮なく言ってくれ。すぐに次を用意させるぞ」
「いえ……すでに十分過ぎるくらいです」
運ばれる料理は山盛りばかりで、とても三人で食べる量とは思えない。
しかしエイジの食べる量と速度は凄まじく、俺が少し食べている間に彼は早くも三人前を平らげていたので、これくらいが普通というわけか。
「うむ! やはり家の食事が一番だ。やはり外では大したものが食えなくて、物寂しくてな」
「三日ぶりだもんね。料理長も張り切っていたみたい」
ユキナが食べる量は一般的というか少し多い程度なのでちょっと安心した。
そして俺は見様見真似の所作で食事を進めているが、文句を言われないって事は問題ないらしい。彼等の母親がいないせいかもしれないが、食事マナーも寛容なのかもしれないな。
一方……。
『これも美味い! これも! ああ……楽園だわぁ!』
俺の腕に隠れながら、ルルが獣の如く料理を食い散らかしていた。体の大きさ故に食べる量は僅かであるが、あの二人に比べて何と汚い事か。
『ふぅ……さて、次は何をー……あ、そっちのお肉切ってちょうだい』
料理が消える瞬間を目撃されないよう、見えないようにお前へ分けている俺の苦労を少しは労ってもらいたいものである。
その後も食事を進める合間に雑談をしていたのだが、俺のこれまでの事について聞かれたので、謎の施設から転送されてこの町へ来たという内容を簡単に説明した。
「……なるほど、それで冒険者となり、ユキナと会ったわけか」
「いきなり盾を向けられはしましたけどね。ですが、彼女と出会えたのは幸運だったと思います」
「あ、あれは間違えただけで……」
「わかっているよ。子供を守ろうとしただけだろ?」
全く気にしていないと伝えたところで新たな料理が運ばれてきたのだが、その香しい匂いに意識が自然とそちらへと向いていた。
「この匂いは……カレー?」
「ん? こいつは我が家に伝わる料理なのだが、知っているのか?」
「い、いえ……何となくというか、無意識に浮かんできたんです」
そして並べられたカレーだが、ぱっと見は濃い色をしたスープである。
だが口に含んでみると濃厚で刺激的な味が広がり、つい次の手が伸びてしまう。癖になる味ってこういう事なんだろうな。
『うひぃ……何て辛いの……辛いよぉ。でも……もっとちょうだい!』
こちらの精霊様も、辛さに苦しみながらもすっかりカレーの虜みたいである。
更にカレーを口に運び、懐かしさだけでなくどこか物足りなさを覚えていると、自分の分を食べ終えたエイジが興味深そうにこちらを見ていた。
「ふむ……槍の件といい、カレーを知っているといい、やはりお前は我が家と無関係ではなさそうだな」
「はい。実は俺もその可能性があるかと思い、彼女へ会いにきたんです」
「そんな理由が。でも、私もクエスさんは他人とは思えないですよね」
「俺もだ! まさかご先祖様が密かに作っていた子供の子孫……なんてな。はっはっは!」
遠縁の可能性……か。
それにしては俺を知っている者は誰もいないし、そもそも俺は天族の外見特徴が一切見られない人族である。
少し根拠が薄いかもと首を傾げていると、ユキナが呆れた様子でエイジを見ている事に気付く。
「兄さん。そんな事を言ったら、母さんからボコボコにされるよ?」
「ぬぐっ!? いかん、つい口が。まさかタイミングよく帰って来てはー……いないか。ふぅ、助かった」
「なあ、ちょっと聞きたいんだが、君の母親はそんなに厳しい人なのか?」
「う、うーん……色々と厳しいですが、ご先祖様に関しては特別なんです。母さんはご先祖様をとても尊敬していますから、誇りを汚すような真似をしたらもの凄く怒ると思います」
エルドラ家の先祖はユキナの母親からすると曾祖母らしく、幼い頃にその有名な槍術を直に見た事があるとか。
「母さんが物心つく前に亡くなったそうで、実はご先祖様の事はほとんど覚えていないそうです。けど、その槍の技は魂に刻み込まれているとか言っていましたね」
「そうだな。本当に素晴らしいものは、目や頭ではなく魂に刻まれるものだと俺も思っているぞ!」
「天族の英雄となれば、槍の技も凄かったんでしょうね。アルカ学園の創立者と聞いてはいますが、英雄はどんな人だったんでしょうか?」
学園を建てただけでなく槍の技を広めたりと、かなり精力的に活躍していたようだが、一体何があってそこまでさせたのか?
これだけの偉業を生半可な気持ちでやれるとは思えないし、気付けば英雄の人物像が気になり始めていた。
「ご先祖様は正義感が強くて、考えるよりも先に体が動く人だと聞いた事がありますね」
「今の俺みたいにな! おおそうだ、ウルは実際に会っていただろう?」
「そうですな。私の個人的な目線ですが、あの御方は明朗快活と言いますか、とにかく元気の塊のような御方でした。しかし、晩年は火が消えたかのように大人しくなり、静かな日々を過ごしておられましたな」
仕事を子供たちに引き継がせた後は、屋敷からほとんど出る事もなく過ごしていたらしい。燃え尽き症候群みたいなものだろうか?
「健康に気遣っていらしたので、天族の中ではかなりの長寿でした。その御蔭もあり、現当主であるアイラ様の顔を見る事が出来たのですな」
「俺も会ってみたかったな。ご先祖様だけが使えたという、例の奥義を見せてもらいたかったよ」
「奥義?」
英雄が使っていた槍術なのだから、やはりそういう技があるっぽいのだが、話を聞いたところただの奥義ではないらしい。
「山すら軽々と貫く技だそうですが、伝えられているのは言葉だけで、一族どころか誰も使える者がいないんです」
「実際に見た人はいないのか? ウルさんとか?」
「ご先祖様が英雄と称えられた時には、もう使えなくなっていたそうです。ですから、奥義を見た人は誰もいなくて……」
「伝えられし言葉は『光翼を槍に纏わせ放つ……』と、内容は簡単だが、色々試しても奥義と呼べる程の威力とは到底思えなくてな。やはりユキナでなければー……」
「…………」
「お、おお!? そうだ、実は俺たちの母上だが、その奥義を再現しようと密かに練習しているようなのだ。生半可な知識で試すなと俺によく言っているのにな、ははははは!」
大声で笑ってはいるが、今ユキナに関する何かを誤魔化したような気がする。兄妹揃って嘘が苦手なようだ。
目に見えて落ち込むユキナに声を掛けようとしたが、その前にエイジが何かを思い出したかのように手を軽く叩いた。
「そうだ! クエスよ、ご先祖様の姿を見たくないか? 隣の部屋に肖像画があるのだが、どうだ?」
「それは……是非」
「中々立派なものだぞ。楽しみにしているがいい」
いや……空気が重くなっているし、ここは誤魔化そうとしているエイジに合わせておくとしよう。
もちろん英雄の姿にも興味があるので、食事を終えた俺たちは食堂から客間へと向かったわけだが、そこには言葉通り立派な肖像画があった。
『うわぁ……凄い絵だねぇ。今にも動き出しそう……』
俺の身長の数倍はあるその肖像画に描かれていたのは、鋭い視線を敵に向けて槍を振ろうとする妙齢の女性である。
その躍動感溢れる姿は、ルルも思わず呆けてしまう迫力を放っているのだが、俺が気になっていたのは……。
「天族で有名な絵師に書かせたものだが、凄いだろう? 彼女が天族の英雄で、俺たちのご先祖様である……レイア様だ!」
「レイ……ア?」
俺が見た姿より年上であるが……間違いない。
肖像画に描かれている女性は、夢に出て来た子にそっくりだったのだ。
「クエスさん、どうしたんですか?」
「いや……予想以上に凄い絵だと思ってな。被写体への敬意がよく表れていると思う」
「うむ、その通りだ。当時の話によると、絵師は生涯最高の絵が出来たと喜んでいたそうだぞ」
二人に夢の内容を伝えるかどうか迷ったが、正直俺も混乱している部分もあり今は黙っておく事にした。今日だけで様々な情報を得られたので、それを整理してもう少し落ち着いてから改めて話そうと思う。
その後、英雄レイアの話をもう少し詳しく聞いたところで、俺は宿へ帰る事を二人へ告げた。
「何だと? 別に宿へ戻らずとも、家に泊まればいいだろう。部屋ならすぐに用意させるぞ」
「お気持ちはありがたいのですが、知り合いになった宿の人に何も言わず来ていますし、部屋に作り掛けの道具とかもありますので」
「ふむ、ならば仕方がない。せめて見送らせてもらおう」
二人はわざわざ玄関まで見送りに来てくれたのだが、執事が扉を開けた時にエイジが真剣な表情で語り出した。
「ところで、明日は空いているか? お前は一度、母上に会うべきだと思うのだ。今の当主である母上なら、お前の事で何か気付くかもしれん」
「エイジ様。アイラ様は明日以降も予定が満載ですので、彼と面会する時間はないと思われます」
「何っ!? 仕方がない、母上を何とか説得して時間を作るから、何時でも来られるようにしておいてくれ。状況次第では使いの者を宿に送ろう」
「わかりました。では、ご馳走になりました」
別れの挨拶をして玄関から出れば、外はすっかり暗くなっていた。
明かりを手に先導してくれるウルと共にエルドラ家の正門へと向かっていると、背後から誰かが走ってくる音が聞こえた。
「ん、ユキナか? 何か忘れものでもしたかな?」
「違いますよ。あの……ちょっとだけ時間をいただけますか?」
「ああ、別に構わないが……」
「お嬢様。私は先に屋敷へ戻っておりますので、後はお任せします」
ユキナの様子を察したウルは、持っていた明かりをユキナに渡してから足音もなく去って行く。
残された俺はユキナからの言葉を待つのだが……彼女は中々口を開かない。それだけ彼女にとって重要な内容なのだろう。
だが、ここで下手に促して相手を焦らせると話し辛くなるものだ。少なくとも、俺を追いかけてきた時点で伝える意思はあるのだから、のんびりと寛容な心で待つとしよう。
「その、少し相談と言いますか、個人的な話を聞いてもらいたくて……」
「……ああ」
「クエスさんは……兄さんの光翼を見て、どう思いましたか?」
「光翼……ああ、模擬戦の時だな。どう思うと言われても、とにかく凄まじい力を感じたな」
エイジが光翼を発動させてからの一撃は、模擬戦用とはいえ鉄製の槍が折れそうな一撃だったのだ。
おそらくあの光翼を生み出した時は能力が数倍に高まっていると思われるので、天族の強さと恐ろしさを垣間見た気がする。
「光翼は天族にとって力の象徴です。先程、ご先祖様であるレイア様について色々とお話しましたが、実は一つだけ伝えていない事があります」
「それが、何か重要な話なのか?」
「いいえ、これは天族ならばほとんど知っている内容なんです。レイア様だけが持っていた特殊な光翼についてです……」
皆が周知だからわざわざ語る内容でもないので、俺は知らなかったわけだな。
「天族の光翼は二枚なのですが、レイア様には四枚あったそうです」
鳥が翼を広げたような、左右へ伸びる光翼が二対……というわけか。数百年に一度生まれるとか、そういう特殊な存在だったのだろうか?
言われて思い出したが、確かにエイジだけでなく、学園で見た生徒たちの光翼は二枚だった。
単純に考えて、光翼が多ければそれだけ能力が高いのかもしれない。じゃなきゃ、英雄と呼ばれる強さには至れないだろう。
待てよ? そういえば以前、オウガとの戦いで見たユキナの光翼は……。
「君も……じゃなかったか?」
「……はい。私はご先祖様と同じく光翼が四枚あります。天族の間で知る限り、それはレイア様と私だけ……みたいです」
つまり、ユキナは英雄の生まれ変わりとして見られており、周りから期待されているわけか。
だが、学園で見た周囲からの反応を思い出すと、期待されている印象は全くなかった。その理由が……。
「光翼は天族であれば発現出来て当然なんです。でも私は……」
「……上手く発現出来ないんだな? いや、あの時の様子からして、制御出来ていないって方が正しいのか?」
あの時、オウガに苦戦していたユキナは光翼を発現させていたがすぐに消えてしまい、それどころか苦しそうに膝を突いていたからな。
「そうなんです。光翼は出せても維持するどころか制御すら出来ず、最後には……」
「最後には?」
「体に留め切れなかった天力が暴走して、周辺を吹き飛ばしてしまうんです」
暴走によって発生する衝撃波は凄まじいらしく、初めて暴走した時は中規模の訓練場を半壊させる程だったとか。
あの時、ユキナが必死に暴走を押さえ込んでいなければ、俺も巻き込まれてしまう可能性があったんだな。
「初めて暴走した時は、母さんや兄さんや多くの人を巻き込んでしまいました。幸いながら皆さんに大きな怪我はなく、気にするなとは言ってはくださいましたが、それ以来光翼を発動させるのが怖くて……」
訓練場の半壊という、大きな被害が出た話は瞬く間に広がり、英雄と同じ力を持ちながらも使いこなせないという汚名をユキナは背負ってしまったわけだ。
中には、幼いながらも訓練場を破壊する潜在能力の高さに期待する者もいたが、数年経ってもユキナは使いこなせないという状況に、期待は失望へと変わっていった。学園で感じた落胆の視線や、生徒が近づこうとしないのはこういう事だったわけか。
「母さんは忙しい中でも、私の為に様々な手段を試してくれました。ですが、どれも上手くいかず……」
何でも、光翼の発現は感覚で掴むものらしい。
故に言葉で理解させるのは難しい上に、更に二対の光翼という英雄レイア以外に誰もわからない感覚なのだ。本人でさえわからないものに他の人が良いアドバイスなんか出来る筈もなく、彼女の家族や教育者たちは頭を悩ませているんだろうな。
「……ユキナの状況は理解出来たよ。板挟みというか、辛い立ち位置にいるんだな」
何時まで経っても力を使いこなせない無力感。
家族や皆の期待に応えられない罪悪感。
これだけ周囲からの圧力に晒され続けながら、よくもまあ家出とか非行に走ったりしなかったものだ。
いや、彼女が好きな盾に拘っていたのは、せめてもの反抗か不貞腐れているのかもしれない。どこか年齢よりも子供っぽい面があるのは、この辺りが原因なのだろうか?
「ところで、ユキナはどうして俺に話してくれたんだ? あまり知られたくない事でもあるし、何より人族の俺が何か出来ると思えないんだが」
「それが……わからないんです。でも、クエスさんには知っておいてほしかったというのか、何とかしてくれそうというか……あはは、自分でもわからないです」
どこか諦めているような乾いた笑みの中にある、縋るような瞳。
こんなにも感情を乱しているって事は、これまで何度も挑戦しては失敗し続けてきたのだろう。
「……ごめんなさい。関係のない貴方に、こんな困る事を……」
「はっきり言うが、天族の知識どころか記憶もない俺が力になれるとは思えない」
「…………」
「だから、色々と教えてくれ。そもそも何でそんなに盾が好きになったんだ? 何か盾を使う物語に憧れたとか聞いたが、何の物語だ?」
急に関係のない話を振られ、ユキナは驚きつつも質問に答えてくれた。
「え!? それは……屋敷にあった本からで、盾で仲間を守る英雄が本当に格好良い物語でー……って、それがどうかしたんですか?」
「ん? もっとユキナの事を知りたかったからに決まっているだろう。君を知らない状態じゃ、対策も方向性も決めようがない」
どうすればいいか何もわからないのに、こんなに困っている女性を無下になんて出来るわけがなかった。
惚れたとか、女性にいい恰好をしたいとか、そんなものじゃない。
彼女の力になってやりたいと、俺の奥底にある何かが背中を押しているのだ。
「とにかく、俺の出来る範囲で考えてみるし、一緒に悩んで行こう。天族じゃない視点から見れば、何か解決策が見つかるかもしれないからな」
「本当に、いいんですか?」
「前にも言っただろう? 一緒にギルドで依頼をこなして仲間になって、今日は一緒に食事もしたんだ。俺たちはもう友達みたいなものだろう?」
「……はい!」
そうだ、この子の力になる事は決して間違いじゃない。
花が咲くようなユキナの笑みに覚えのない筈の懐かしさと、不思議な充実感が胸を満たしていた。
その後、正門を出ても俺が見えなくなるまで手を振り続けるユキナに見送られながら、俺は宿に向かって夜道を歩き出した。
『あれ、まだいたの? ちょうどいいや、乗せてね』
「……どこにいたかと思えば、屋敷の厨房に忍び込んでいたな、お前?」
俺の推理を証明するように、見た事のない果実を一粒抱えていたルルは俺の頭に着地する。
『凄かったよ! 始めて見る果実とか、変わったチーズとか沢山あった! ねえねえ、次はいつここに来るの? ご馳走になりにくる?』
「ああ……はいはい。その内な、その内」
近いうちにまた訪れる事になりそうだが、色々あって疲れていた俺は適当に返事をしながら歩き続けた。
宿に戻り、作り掛けの道具を完成させた俺はベッドに寝転がっていた。
色々あって疲れてはいるが、さっきまで作業に集中していたせいか眠気はまだ来ないので、今日得た情報を改めて整理する事にした。
「まず、ユキナに何をしてやれるか……」
天族の英雄と同じ力を持ちながらも、その力を使いこなせず、周囲の重圧に潰されそうな女の子。
そんなユキナの力になると約束してしまったが、改めて考えるとどうしたものやら。
大抵の方法は家族や学園の教師が試しているだろうし、他種族の俺だから見える方法を考えていくべきだな。その為にもう少しユキナの事や、天族について詳しく調べて知ろうと思う。
そして……。
「英雄レイア……か」
何度思い返しても、あの肖像画と夢の女性は同一人物としか思えなかった。
夢ではその人物から親し気に話し掛けられていたし、年齢も随分と若かったので、そうなると夢の内容は過去の話となる。
しかし、ユキナたちから聞いたレイアの話によると、彼女が生きていたのは百年以上前の話なのだ。
つまり、夢の女性がレイアだとしたら、俺は過去に生きていたと人物という可能性があるわけだが、それなら何で百年以上も俺は生きている?
あの施設の変な箱に入っていたのが原因?
それに何故俺はあれに入っていたのか?
入ったのではなく……入れられた?
いや、そもそも彼女が話し掛けていたのは本当に俺だったのか?
あるいは、レイアと似ているだけの別人?
そして唯一覚えている、誰かを倒さなければならないというこの使命感……。
「倒すべき存在は……彼女なのか?」
そんな馬鹿なとすぐに考えを撤回するが、手に入れた記憶の断片から、この二つの手掛かりが無関係とは思えなかった。
他に思いつく限りの可能性を考えては、何か違うと否定する事を何度も繰り返していたのだが、結局はこの問題へと辿り着いてしまう。
「俺は……」
何者なのだろう?
どれだけ悩んでも答えは出ず、明かりが消えた暗い天井を眺めている内に眠気が訪れ、意識がゆっくりと沈んでいく。
今日は……この辺りにしておくか。
せめて、何らかの手掛かりとなる夢をもう一度と願いつつ、俺は意識を手放した。
続きは、明日の17時投稿予定です。




