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神域超越の継承者  作者: ネコ光一
1章 天族
6/18

アルカ学園


 生活安定の為に忙しかったのでここに来るのは初めてなのだが、近くで見ると本当に大きい学園だ。

 何でも、偉業を成して英雄と呼ばれるようになった一人の天族がいて、その英雄が主導となり作られた学園だとか。

 そして学園の理念は『未来の為に』との事で、それは英雄本人が発した言葉らしい。


「未来の為に……か。立派なものだ」


 ユキナを探して訪れたわけだが、ここまで立派な学園だとちょっと中を見学したくなってくるな。

 だが学園は立派な門と壁に囲われており、正門には守衛もいるので無関係の俺が中に入れるとは到底思えなかった。


「そこのお前、学生ではないな? そんな所で何をしている?」


 正門から離れているとはいえ、じっと立っているのを怪しまれて守衛に呼ばれてしまったので、大人しくそちらへ向かう事にする。


「お手数かけてすいません。俺は最近この町に来た冒険者なのですが、有名なアルカ学園をちょっと見に来ただけでして」

「ふむ……まあ我々にとって自慢の学園だからな。人族にしては、目の付け所は悪くないと思うぞ」

「ええ、本当に立派な学園だと思います。ところで無理を承知でお聞きしますが、学園の見学とか出来るのでしょうか?」

「……駄目に決まっているだろう。未熟な子供たちを大勢預かっている以上、得体の知れぬ者を入れるわけにはいかん」


 やはり無理そうだな。

 これ以上粘ったら怪しまれそうだが、ここは思い切ってユキナがいるか聞いてー……。


「クエスさん!」


 聞いてみるかと思ったその時、正門の奥からユキナが手を振りながら駆け寄って来るのが見えたのである。


「はぁ……はぁ……やっぱり、クエスさんだったんですね」


 かなり急いできたのか、ユキナは俺の前へ来た時にはかなり息を乱していた。


「やっぱりって、俺が来たのを気付いたのか?」

「あはは、何となくです。どこか覚えがある感覚が近づいている気がしたので、様子を見に来たらクエスさんがいたんですよ」

「そうか。実は君を探していたから、そっちが気付いてくれて本当に良かったよ」


 ユキナの好意的な笑顔に俺の頬も自然と緩むが、空気を読んで黙っていた守衛が痺れを切らしたかのように咳払いをする。


「ごほん……失礼ですが、こちらの方は貴方のお知り合いなのですかな?」

「あ、はい! えーと、私の家の客人……です」

「そうでしたか。ところで、こちらの方は学園の見学を希望されているようですが、案内は貴方が?」

「え?」


 首を傾げつつも俺の様子から状況を察してくれたのか、ユキナは守衛に向き直りながら答えた。


「はい。私が案内するので、警備の方は不要です」

「……わかりました。ですが、彼が何か問題を起こした場合は、貴方の責任となりますのでご理解を。そちらの君も、武器はこちらで預からせていただく」


 その後、釘を刺すようにこちらを睨む守衛から学園内のルールや禁足事項を簡単に教えてもらい、俺はユキナの後に続いてアルカ学園へと入った。




 そして正門から離れ、俺たちの声が守衛に届かない所まで進んだところ、俺はまずユキナへと謝罪していた。


「すまなかった、ユキナ。話の流れで見学したいと口走ってしまってさ、合わせてくれて助かったよ」

「構いませんよ。ですがそうなると、すぐに学園を出ては怪しまれそうですね」

「いや、見学したいのは本当なんだ。君の予定がなければ、少しだけ案内をしてくれないかな?」

「……わかりました。さすがに……うん!」


 俺の我儘に付き合ってくれたのは嬉しいが、何故そんな覚悟を決めた表情をしているのだろう?

 まあ後で聞いてみるかと思いつつ、改めて学園内を確認してみれば、座学の為の教室棟を始め、武器や奇跡を存分に振るえる大きな訓練場が複数あり、学園内はまるで小さな町みたいだった。

 あちこちから武器を振るう掛け声や奇跡を発動する音が響く中、ユキナは前を歩きながら学園について色々と説明してくれる。


「向こうの一番大きい建物は生徒たちを集める為の議事堂で、あの平たい建物は食堂ですね。他にも、遠くから学園に来る方が多いので宿舎もあります」


 敷地内には購買もあるらしく、最悪この学園内だけでも過ごせるくらいに施設が整っているようだ。

 途中、訓練場にいる天族の生徒が複数見られ、前に見たユキナと同じ奇跡を放っているのが見える。


『ほらほら、見てよ! 私が言った通りでしょ!』

「別に嘘だとは言っちゃいないが、そうか……あれが一般的なのか」


 ルルはユキナの奇跡を見事だと評価していたが、確かにあそこにいる同年代や年上の生徒たちが放つ奇跡は少し劣っているように感じる。

 中には天族が本気で戦う際の光の翼を発動させ、広範囲を薙ぎ払う風の奇跡を放ってもいたが、ユキナだったらもっと強力になりそうだと思えてしまう。

 あの時見た光の翼の違いや、卓越した槍捌きといい、やはりこの子は別格なんだな。


「しかし、あれ程の奇跡を放っても外に被害がないとはな。施設も充実しているし、見事な学園だ」

「ふふ、嬉しそうで何よりです。こういう場所が好きなんですか?」

「どうだろうな? しかしこんな立派な学園を作るには、相当な影響力を持つ存在が皆を引っ張らないと不可能だろう。天族の英雄ってのは本当に凄い人だったんだな」

「そう……ですね。それでも反対する者は多くいたらしく、苦労をしたと聞きます」


 天族の中でも語り継がれているのか、ユキナは神妙な面持ちで頷いていた。

 更に歩いていると生徒たちの姿が目に付くようになり、こちらへ向けられる視線の数も増えていく。まあ生徒でもない男が学内を歩いていれば気にもなるだろう。

 興味、疑問、困惑と、実に様々な感情を乗せた視線が飛んでくるのだが、その中の一部が俺ではなくユキナに向けられているような気がした。

 この感じは妬みと……落胆?

 しかも視線だけでなく、明らかにユキナへ近づきたくないと避けている雰囲気も感じられた。


「なあ、ユキナ。この学園では、外からの客は珍しいのか?」

「講師として外の方が招待されたりはするので、そこまで珍しくはないですよ。やはり……気になりますか?」

「俺だけじゃなく、ユキナを見ている生徒が多いと思うんだ。それにあまり良い感じじゃないと言うのか、何か……あるのか?」


 お節介だとは理解しているが、どうしても気になった俺はついユキナに聞いてしまった。


「それは……」

「……すまない。言い辛いなら別にいいんだ。忘れてくれ」

「いえ、言わせてください」


 覚悟を決めたのか、ユキナは真剣な表情で俺の正面に立った。


「クエスさん。まだ私の名前を全部教えていませんでしたよね?」

「……ああ」


 ここまできたら聞かない振りも失礼なので、俺も頷いてから彼女の言葉を待つ。


「私の名前は、ユキナ……ユキナ・エルドラと言います。そしてエルドラ家はこの学園の創立者でもあり、天族では英雄と呼ばれる御方の子孫なんです」

「……なるほどな」


 てっきり天族で有名な貴族の娘とか、町の権力者の子供辺りだと思っていたのだが、まさか英雄の子孫だったとは。

 予想以上の正体にどう返すべきか迷っていると、ユキナは申し訳なさそうに目を伏せていた。


「本当は最初に名乗るべきだったのですが、エルドラ家だと知ったら本当の私を見てくれない気がして……ごめんなさい」

「いや、聞かなかった俺もあれだし、そもそもエルドラ家だからユキナに会いたかったわけじゃないからな。気にしなくていいさ」

「……ありがとうございます」

「やっぱり、英雄の子孫となれば色々とあるわけか」

「あはは……はい。この学園で私に話し掛けて来る方は、ほとんどいませんね」


 自嘲するように、ユキナは寂しそうに笑っていた。


「だから、メリルちゃんと仲良くなれたのが凄く嬉しかったですし、その……以前クエスさんに仲間と言われた時は本当に嬉しかったです」


 英雄の子孫という事で、様々な苦労があったんだろうな。どうりでエルドラという名前を俺に隠していたわけだ。

 しかし……そうなると少し不明な点もある。

 英雄の子孫だから関わると面倒だとか、妬み視線は理解出来たのだが、落胆しているのはどういう事だ?

 もちろん期待しているから落胆をするわけだが、そもそもユキナはこの若さでありながら、オウガのような強敵を一人で倒せる実力者である。大人たちがどれだけ強いとはいえ、生徒たちからこんな目を向けられるだろうか?

 人族の俺にはわからない要因があるのかと、ユキナへ質問しようとしたその時、背後から声を掛ける者が現れた。


「ユキナさん。こんな所で何をしているのですか?」


 話し掛けてきたのは生徒ではなく大人の女性……学園の教師だと思われる。

 生徒たちとは違いユキナを見る目は真剣そのものであるが、どこか困った様子を見せていた。


「あ、先生。今私は学園の案内をしていまして……」

「客人ですか? まあ貴方の家の事ですから私は何も言えませんが、案内ならば他の方に頼むべきです。貴方にはやるべき事が沢山あるのですから」


 厳しい物言いであるが、彼女の表情からは純粋にユキナを心配しているのを感じられた。


「何度も言っていますが、貴方は槍の鍛錬が足りていません。もう少し盾や奇跡の鍛錬の時間を削ってみてはどうですか?」

「いえ、どちらも大切なんです」

「その向上心と挑戦は評価しますが、貴方はエルドラ家の者なのです。そしてエルドラ家の槍術は変幻自在であり、攻防一体の槍。槍を極めれば盾は必要ないでしょう?」


 その後も教師からの小言は続き、僅かながら言い返していたユキナも、次第に反論がなくなりただ聞くだけとなっていった。

 萎んでいくユキナを見るのは忍びないが、二人のやり取りを聞いている内にエルドラ家について色々と知る事は出来た。

 天族の中で最も主流となっている槍術は英雄が振るっていた槍らしく、つまりエルドラ家は最も有名な槍術の開祖みたいな存在なわけだ。故にエルドラ家は槍術を学ぶのが絶対であり、一族の多くは槍の名手として名を馳せているとか。

 しかしユキナは槍よりも盾の方が好きらしく、槍の上達が遅れているから注意されているわけだ。


「ですから、明日は盾ではなく槍の鍛錬に変更しなさい。今のままでは、アイラ様を越えるのは夢のまた夢でしょう」


 オウガと戦った時、彼女が盾の事で意地を張った理由がわかった気がする。

 盾が好きで認めてもらいたいのに、周りが槍ばかりだと言われてしまえば反発したくなるものだ。まだ精神的に幼いのもあるが、ユキナは一度決めたら頑固な面もありそうなので、その反発も大きいのかもしれない。

 更にエルドラの名によって彼女へ近づきそうな生徒は少ないだろうし、不満や悩みを相談出来る相手がいないのかもな。

 ……と、あまり考え過ぎてユキナを放置するのも悪いか。

 真剣な教師には悪いと思いつつ、俺はちょっと強引に二人の間に割り込んだ。


「なあ、ユキナ。向こうの建物は何の施設なんだ?」

「え……あ、はい。あれは購買ですね」

「……ふぅ、客人の事を忘れていましたね。この話は明日にしましょうか。それと、集団演習が近づいていますので、準備を怠らぬように」


 邪魔された事で少し睨まれた気もするが、教師はようやく去って行った。真面目だが、思い込むと一つの事しか見えない人な気がするな。


「うぅ……助かりました。でも、クエスさんが悪く見られてしまって……」

「俺がこの学園に通う事なんてないんだから問題はないさ。それより、あの先生が言っていた内容が全部間違いじゃないって事は、わかっているんだよな?」

「うっ! わかってはいるんですが……」


 反発だけじゃ駄目なのを理解出来ているなら、これ以上俺から言う事はあるまい。


「そういえば、さっきアイラ様という名前が出たが、それが英雄の名前なのかい?」

「それは今のエルドラ家の当主で、私の母さんですね。天族で最強と呼ばれる程に強いんですよ」


 母親の事を語っている時は誇らし気な様子なので、別に家族仲は悪いわけじゃなさそうだ。


「じゃあ、英雄の名前はー……ん?」


 質問の途中、遠くからこちらへ向かって走る金色が見えたので、俺の興味はそちらへと向いた。 


「あれは……金髪の生徒か? こっちに向かってきているようだが……」

「エルカさんですね。凄く急いでいるみたいだけど、何かあったのかな?」

「知り合いなのか?」

「はい。盾を信条とするパラディン家のご息女で、私と同じ学園の生徒です」


 彼女を一言で表すなら、金髪縦ロールなお嬢様……という感じだな。

 そんなエルカは金髪を振り乱しながら走り続け、俺たちの前で止まるなり口を開くが……。


「はぁ……はぁ……ユ、ユキナさん! こんな所で……いつ……待ってぇ……」


 息も絶え絶えで、まともに喋れないようである。

 あーあ、そんな肩で息をして……先程のユキナより酷いな。


「だ、大丈夫ですか? ほら、息を吸って、吐いて……」

「あ、ありがとう……です……わ」


 ユキナが背中を擦っている内に回復したのか、エルカは乱れた髪を軽く整えてから改めて俺たちへと向き直った。


「ユキナさん! 何時になったら訓練場に来るんですの! 私、待ちくたびれてしまいましたわ!」

「えーと……会う約束をしましたっけ?」

「し、してませんけど! ですが、いつもこの時間帯は訓練場で盾の鍛錬をしているでしょう!」


 盾の……なるほど、そういうわけか。

 金髪縦ロールに目が向いていたが、このエルカと呼ばれるお嬢さんは、己の身を隠せる程の立派な大盾を背負っているのである。つまりユキナとは、盾を愛用する同士という事かな?


「確かに今日もそのつもりだったのですが、こちらの客人を案内する事になりまして……」

「なっ!? せっかく待っていたのに……って、客人とは貴方ですか? ユキナさんとどういう関係ですの?」

「いや、関係も何も最近会ったばかりで、一緒にギルドの仕事をした仲間ってだけさ。前に学園を見たいと言ったら彼女が案内してくれると言ってくれてね、それに甘えているだけなんだよ」

「本当ですの?」


 当然ながらこんな説明で納得出来る筈もなく、エルカは怪しそうにこちらをジロジロと見ている。

 この視線に不快感を覚えないのは、俺を怪しむと言うよりもユキナとの訓練を邪魔されて悔しいという、どこか微笑ましいものを感じたからだ。

 失礼ながら、ユキナにはメリル以外の友達がいないんじゃないかと思っていたのだが、ここにちゃんといるじゃないか。


「エルカさん、この人は大丈夫です。信頼出来る方ですから」


 こっちもこっちで信頼し過ぎだと思うが、突っ込むと面倒になるので黙っておく。


「ふん! ユキナさんがそこまで言うのでしたら認めましょう。それよりも、今日が無理そうなら明日の盾の鍛錬は必ず出てくださいませ」

「もちろんと言いたいのですが、明日は槍の鍛錬をしなければならなくて……」

「そんな後ろ向きでどうするのです! 確かに槍も大切ですが、正義の盾は一日にしてならず! 私の域に並びたいと言っていたあの言葉は嘘だったのですか?」

「もちろん諦めてなんかいません! エルカさんの盾は私の目標ですから!」

「そうでしょう、そうでしょう! パラディン家の盾は正義の盾なのですから、ユキナさんが憧れるのも当然ですわ! おーっほっほっほ!」


 どこかで聞いたかのような高笑いを響かせ、満足気な表情でエルカは何度も頷く。


『この子、面白いね。あのビヨンビヨンした髪とか引っ張ってみたい』

「止めとけって」


 ああいうのは毎日のセットが大変そうだしな。

 そんな少々自信家で高慢そうなエルカであるが、ひとしきり笑った後で頬を染めながら明後日の方角を向いた。


「ところでユキナさん。明日は鍛錬が終わった後はお暇でしょう? よろしければ私と優雅なお茶をー……おほん、盾の素晴らしさについて語り合いませんか?」

「とても魅力的な話ですが、明日は早く家に戻らなければならなくて。ごめんなさい」

「そ、そうですか……」


 何か哀れに思う程の落ち込みを見せていたが、すぐに持ち直して再び高笑いを響かせていた。


「おほほほ! ではまた後日にでもお誘いしますわ。それでは、私はもう少し盾の鍛錬をしてから帰りますので、ごきげんよう!」


 そして優雅に去って行くエルカを見送っていたが、こうして改めてみると彼女の背中にある大盾は本当に立派なものだ。

 しかも盾の重さを全く感じさせない歩き方だし、ユキナに物怖じせず言い返す点から相当な実力者なんだろう。性格はかなり特殊なようだが。


「何と言うか、凄い子だな。色んな意味で」

「実際に凄いですよ、エルカさんは。盾の扱いに関してはこの学園で右に出る方はいませんし、学園の教師でさえ簡単に崩せない程ですから」

「大人顔負けってやつか。目標と言っていたし、切磋琢磨し合える良い友達のようだな」

「エルカさんとは友達ではないですね」

「は?」


 盾が好きな者同士で話も合うだろうし、険悪な仲じゃないのならそう呼べる間柄なのでは?


「私としては友達になりたいのですが、エルカさんが馴れ合うのではなくぶつかり合って高め合う好敵手ライバルだとよく言うので、中々上手くいかないんです」


 いや、先程の反応からして好敵手宣言はただの照れ隠しで、本当は友達になりたいのでは? こう……好意を察せない天然と、素直になれない天然の二人が見事に噛み合ってないって感じである。

 あのエルカという子もまた、ユキナと同じく学園内で浮いた存在な気がしてきた。


「失礼を承知で聞くが、あのエルカって子に友達は……」

「えーと、察してください……としか。まあ、私もなんですけど……」

「……すまなかった」


 つい口を滑らせてしまったが、あまりにもいたたまれず俺は謝罪する他なかった。




続きは明日の17時投稿予定です。

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