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神域超越の継承者  作者: ネコ光一
1章 天族
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アークティア


 しばらく道なき森の中を歩き続け、体が疲労と空腹を訴え始めた頃、俺たちはようやく目的の町に辿り着いた。

 町は高い防壁に囲まれており、見た感じ町と言うより国と呼べるくらいの大きさだと思われる。


『ようやく着いたね。あそこに天族が沢山いて、この大陸で二番目に大きい町とか聞いた事があるよ』

「人が集まるなら、色んな情報が集まりそうだが……」


 敵も拒む立派な防壁と門に加え、武器を持った門番のような者までいるとなれば、余所者は簡単に入れそうにない気がするな。


「さて、身分を証明する物がないし、どうやって中に入ったものか」

『だね! だって今のクエスってすんごく怪しいもん』


 ボロ切れを纏った上に、記憶喪失だからな。

 とりあえず移動中に適当な己の設定を作ったので、それで何とか相手の同情を誘ってみるしかあるまい。

 敵ではないと察してもらう為に堂々と門へと近づけば、当然の如く門番から鋭い声が飛んだ。


「そこのお前、止まれ! 何者だ?」

「あ、すみません。実は旅の者なのですが、森で迷っているところを魔物に襲われまして、何とか逃げてきたところなんです」


 愛想笑いを浮かべつつ、俺は両手を上げて相手を観察していた。

 ルルが言うにあの門番が天族らしいが、纏う雰囲気と耳の形が横に長いくらいで、外見は人族と大きく違いはなさそうだな。


「ふむ、それは災難な事だが、何ゆえ向こうの森を歩いていた? そちらに街道は整備されていなかった筈だがな」

「それが……わからないんです。魔物に襲われた際に頭を殴られたみたいで、何故あそこにいたのか思い出せなくて……」

「ギルドで依頼を受けた新人か? よく生きて帰ってこられたものだな」


 襲われたと言わんばかりに服はボロボロだし、更に痛みを堪えるように頭を擦ってみれば、門番の天族は少しだけ警戒を解いてくれたようだ。

 もう一押しか……なんて考えていると、近くにいたもう一人の門番が面倒臭そうな表情でこちらに近づいてきた。


「ふん、魔物にやられるなんて情けない。人族が無理をするからそうなるのだ」

「そう言うな。新人であれば失敗は付きものだろう」


 こちらの天族は妙に辛辣というか、心底呆れた目で俺を見ている。

 なるほど……人族は特殊な能力を持たず、他の種族から見下されているとルルから聞いてはいたが、これがそうってわけか。

 しかしもう片方の天族は優しそうな人なので、こちらから攻めていくとしよう。


「ところで、俺はどうすればここを通れますか? 俺を知っている人がいるかもしれませんので、中に入りたいのですが」

「確かにその可能性は高そうだが、かと言って簡単に通すわけには……」

「駄目に決まっているだろう! 素性が知れぬどころか、通行料も払えそうにない人族ではな」

「待て待て! うーむ……本来であれば、身分証を持たない者は銅貨一枚を支払う必要があるのだが、状況が状況だし、少し上に話を聞いてくるとしよう。すまないが、少しだけここで待っていてくれ」

「ありがとうございます!」


 まだ安心は出来ないが、これで多少は希望が持てそうだ。

 とりあえず大人しくその場で待っていると、頭の上のルルが不機嫌そうにぼやいている。


『あの天族、何か嫌な感じだねぇ。さっきからずっと睨んでいるよ』

「確かに露骨だとは思うが、あれが普通の反応だと思うぞ。門番は怪しい奴を見つけて、追い払うのが仕事なんだからな」


 寧ろ上に話を通してくれた、あちらの天族の方が変わっているのだ。

 元からの性格もあると思うが、妙にあっさりと信頼してくれたので逆に怪しいくらいである。まあこちらとしてはありがたい話なので、今は彼に甘える他あるまい。


「おい! さっきから何をぶつぶつと言っている」

「あ、すいません。まだ混乱しているようですね」


 しまった、ルルが俺以外に見えないどころか声も聞こえないのを忘れていた。

 傍目には独り言をする怪しい人物にしか見えないので、もっと周囲の目に気をつけなければ。

 改めて気を引き締めつつしばらく待っていると呼び出されたので、俺は門番の詰め所へと入るのだった。


 詰め所では様々な質問をされた。

 記憶どころか常識も怪しいので詰問は長引いてしまったが、温情みたいなものもあって何とか町に入る許可を貰える事が出来た。

 質問の嵐に辟易としたものの、御蔭でこの町について色々と知る事も出来たのは幸いだ。

 まずこの町の名前は『アークティア』と呼ばれ、元々は大陸で中規模程度の町だったそうだが、英雄と呼ばれる天族の故郷という事で大陸有数の町へと発展したらしい。

 立派な防壁の門を通り、町に入って目に飛び込んできたのは、建ち並ぶ様々な建物と店、馬車や荷物を運搬している大きな鳥、そして町を行き交う多くの人々……天族といった多種多様の種族たちである。


「へぇ……天族の大陸だけあって天族ばかりだが、違う種族も交じっているんだな」

『そうだよ。ほら、あっちの頭に角が生えているのが魔族で、向こうの狼みたいな耳と尻尾の人が獣族だね』


 ルルが指した先には、頭部に角が生えた肌が褐色の男と、狼のような耳と尻尾が生えた女性がいた。雰囲気は明らかに違うが、どちらも天族と同じく人族の外見と大きく離れた感じはなさそうだ。

 それにしても、種族名を聞いた時はどんな見た目何だろうと興味が湧いていたのに、こうして実際に見るとあまり感動がないな。

 期待外れ? いや、見慣れている……のか?

 何だろう……どうも心と体がずれているというか、言葉に出来ない何らかの違和感が多い。


『どうしたの? そんな風にぼーっと歩いていたら、誰かとぶつかっちゃうよ?』

「ん? 大丈夫だって。前はちゃんと見ているし、それに今の俺へぶつかりに来る奴もいないだろうさ」


 周りを見ても明らかに数が少ない人族な上に、ボロボロの服を着たみすぼらしい姿だからな。

 そんなわけで若干注目を集めつつ町を歩き続け、なるべく町の構造を確認しながら門番に教えてもらった場所に辿り着いた。


『目的の場所って、あの辺りかな?』

「そのようだな。さて、武器屋は……と」


 そこは様々な店が並ぶ商店通りであり、俺がまず欲しいのはきちんとした服とかなのだが、先に行くのは武器屋である。


『でもその槍、本当に売れるの? ゴブリンが拾った物なんでしょ?』

「それは交渉次第だな。どちらにしろこれが売れなきゃ、服どころか飯も買えないぞ」


 確かに拾い物ではあるが、刃は欠けておらず武器としては十分使えるし、何より使い心地から良質な槍だと俺は思う。少なくとも売れないとは思えなかった。

 店に入るなり、店主や客から怪しむような視線を向けられたが、気にせず店内を見渡しながら店主が待つカウンター前へと立つ。


「……いらっしゃい。人族とは珍しいな」

「ちょっと事情があってさ、まずはこれを買い取ってくれないかい?」


 背中に紐で括っていた槍をカウンターに置くと、店主は不審そうな表情を浮かべながらも槍を手に取って鑑定を始めた。

 その間に俺は店内の武器を観察し、一通り見終わったところで店主は槍を置きながら金額を告げた。


「銀貨三枚……といったところだな」

「三枚ですか。うーん……」

「嫌なら他所へ行ったらどうだ? 入手について聞かない店はうちくらいだぜ?」


 よし、今の俺にとって当たりの店だな。

 人族を相手にそこまで露骨な態度は見せていないし、そもそも盗品とか疑われて面倒事になられても困るので、そこを見ない振りをしてくれる相手はありがたい。

 そうなると、問題は槍の売却額か。

 門番に聞いた話によると、銀貨一枚あれば宿に泊まるには十分らしい。

 だが、今の俺は宿代だけでなく服や日用品も買わなければならないのだ。少しでも手元に残る金額を増やしたいところである。


「向こうにある同じ槍は銀貨十枚ですよね? 多少汚れているとはいえ、せめてもう一枚くらいは……」

「目敏い奴だ。だが、三枚は譲らん」

「なら、このナイフを一本付けてくれませんか? 他のより刃も短めですし、なんなら銀貨から銅貨一枚分引いて売ってくれません?」


 金額を増やせないのであれば、物で代替するだけだ。状況的に形振り構っていられないので、少し強引にやっていこうと思う。

 銀貨は銅貨十枚分の価値と聞いたので、銅貨二枚分の安いナイフなら行けるかもしれないと踏んだが、ナイフを見た店主は不敵な笑みを浮かべていた。


「ふん、いいだろう。槍を売るなら、そいつをただでくれてやる。元々は武器じゃなくて、道具製作に使われる安物だからな」

「ありがとうございます。それと……この剣は幾らですかね?」


 近くの壁に立てかけられていた、刃の長さが若干短めの剣である。

 長く置かれているのか少し埃っぽく、刃の部分を見た感じ量産品と思われるただの鉄の剣だ。


「そいつは銅貨六枚だ」


 一番安い槍でも銀貨一枚だというのに、剣は銅貨六枚か。

 天族は主に槍を使うと聞いたので、剣を使う者がほとんどおらず売れ残っているのかもしれない。


「銅貨五枚分で……どうです?」

「……そんな服装といい、随分と訳有りそうだなお前は」 

「あはは、恥ずかしながら外で魔物に襲われてしまい、色々と失ってしまいまして。少しでも倹約しないと不味いんですよ」

「ああ……ったく。わかったわかった。手入れが面倒になってきたし、そいつも五枚でくれてやるよ」


 これ以上はごめんだと言わんばかりに、店主は俺の返事を聞く前に剣の代金を引いた金額を置いていた。

 少し申し訳ないと思いつつ金を受け取り、改めて剣の状態を確認していると、店主が溜息を吐きながら俺を見る。


「お前さん、槍を使っていたのに、剣なんか買っていいのか?」

「剣も使えますので問題ありません。それより、色々我儘を聞いてくれて本当に助かりました」

「ふん。長く売れ残っていた在庫が減ったんだ。礼は言わねえが、損はしてねえ。気にするな」


 不愛想だが、根は悪い人ではなさそうだ。こういう店主は信頼出来そうなので、今後余裕が出来たら何か買いに来るとしよう。


 その後、近くにある服屋と防具店にも寄り、槍を売った金で一通りの服と日用品、そして防具を購入した。


「よし、これで最低限の身嗜みは整えられたかな?」

『うん、それならもう外を歩いていても目立たないね!』


 動きやすさを重視したので、防具は鉄製ではなく皮で急所を守る簡易的なもので済ませていた。金がない……という根本的な理由もある。

 その場で防具が腕や足の動きを阻害しないかを確認していると、ルルが感心したような表情で俺を見ている事に気付く。


『クエスって口が回るんだね。それだけ買って、よくお金が余ったと思う』

「ああ、自分でも驚くぐらい上手くいったと思う。交渉の仕方が無意識にわかっていたのもあるが、不思議と店主が許してくれた気がするんだよな」


 以前の俺は何らかの商売をしていたのかもしれないな。

 商売に経験があり、戦闘能力もある……か。

 更に自分の謎が深まるが、ここで悩んでいても仕方がない。

 とにかく必要な物を確保が出来たのなら、後は安全な寝床だ。

 先程と同じく、門番が教えてくれた宿がある場所を目指し、町の中心を走る大通りを歩いていると、ルルがとある露店を指しながら俺の髪を軽く引っ張ってきた。

 あれは……串肉を売っている露店か?

 ルルじゃないが、確かにこの漂ってくる香しい匂いが堪らないな。


『ねえ、あれ美味しそう!』

「ああ、美味そうだな。だが無駄遣いをしている余裕はないー……あ」


 肉の焼ける旨そうな匂いに、腹の虫が盛大に鳴った。

 考えてみれば目覚めてから何も食べていないし、宿代に銀貨一枚を使うと仮定しても銅貨数枚分の余裕はある。ルルも騒がしいし、一本だけ買ってみるとするか。


「すいません。一本欲しいんですけど、いくらですか?」

「鉄貨二個だよ」

「なら一本ください。美味そうですけど、何の肉なんですか?」

「ああ、こいつはプラマリザードの肉だよ。見た目はあれで避ける人もいるが、肉としてはそれなりに美味いし、安く入荷出来るのがいいんだ」


 周りを見たところ、この串肉を食べている天族が数人見られるので、一般に浸透している食べ物のようだ。

 確か銅貨一枚で、鉄貨十枚分だったか? これが高いのか安いのかはわからないが勉強代だと思って購入し、少し店から離れた所でいただく事にした。

 ちなみにルルは串肉の先端の一つを奪い取り、己の頭部くらいはある大きさの肉に齧り付いている。


『美味しい! ちょっと硬い部分はあるけど、これは中々!』

「うん、油が少し強いが確かに美味い。ところで、お前はこういうのを食べられるんだな。森の中で木の実を食べていたから草食だと思っていたぞ」

『んー? 草食も何も、精霊は別に食べなくても平気なんだよ。でも美味しいから私は食べるの!』

「俺の分が減るだけじゃないか……」


 たかが肉の一切れとはいえ、どこか釈然としない気分である。

 空腹なのであっと言う間に串肉を食べ終わった俺は、改めて目的地である宿を目指すのだった。


 多少寄り道をしながら歩き続けている内に日が暮れてしまったが、俺たちはようやく宿に到着した。

 話によると、値段が安い分だけ部屋も狭いそうだが、全体の雰囲気が良く多くの人に愛用される宿だそうだ。

 それを証明するように、中へと入れば恰幅のいい、人当たりの良さそうな女性が柔らかい笑みで迎えてくれた。


「いらっしゃい。『翼の宿』へ、ようこそ。初めて見る顔だけど、泊まりかい? それとも食事かい?」

「泊まりにきたんですが、銀貨一枚だと何泊可能でしょうか?」

「そうだね、銀貨一枚で宿泊するだけなら……三日分くらいかな? 食事は別料金だけど、欲しい時はいつでも言っておくれよ」


 受付の隣の部屋が食堂になっているらしく、そこでは多くの人々が食事を楽しんでいた。湯気が立つ具沢山のスープが美味そうだが、さっき串肉を食べたから今は止めておこう。


「じゃあ、とりあえず二日分でお願いします」

「あいよ。ならこちらに名前を書いておくれ」


 受付台に置かれた宿帳に名前を書いて銀貨を渡せば、お釣りと鍵を渡しながら女将さんは笑みを浮かべる。


「クエス……さんね。一階の部屋は全部埋まっているから、二階の端にある八番の部屋を使っておくれ。水が欲しければー……」


 洗濯や体を拭く水は中庭の井戸を使ってくれと、部屋を使う上での注意事項等を説明してくれるのはありがたい。

 更に宿泊の際の注意と説明を受けた後、二階へと向かい八番と書かれた部屋へと入る。


「うん……悪くないな。机まであるのはありがたい」

「ひゃっほーっ!」


 確かに狭い部屋であるが、一人で過ごすなら十分な広さだ。

 ベッドに寝転がるルルを横目に部屋の様子や窓を確認していると、とある物を見つけて足を止めた。


「鏡……か。こんな物まであるとはな」


 机に置かれた小さな鏡を覗き込めば、どこか不安気な表情をした自分の顔が写る。

 水面や鋼の反射で見えはしたが、こうして己の顔をはっきりと見たのは目覚めてから初めてだった。

 色が完全に抜けている白髪以外、特に目立った特徴はない顔ではあるが、こうして眺めていると……。


「見覚えがないな……」


 以前は鏡を見なかった生活だとしても、普通に考えて己の顔を見て違和感を覚えるだろうか?

 もちろん記憶を失っているからだろうが、それでも何か思い出すとか、僅かでも何か覚えている感覚くらいあってもおかしくはないと思う。

 本当に俺は何者なんだろうと自問しながら、机に購入したばかりの荷物を広げて状態を確認するのだった。

 荷物の整理を終え、ベッドに寝転がりながら今後について考えようとしたのだが、予想以上に疲れていたのだろう。すぐに眠気が訪れ、俺は考える間もなく眠りにつくのだった。




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