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神域超越の継承者  作者: ネコ光一
1章 天族
17/18

帰還

本日は2話連続投稿となります。

順番のお間違えに気をつけてくださいませ。




 そして茶の用意がされた部屋に集まったわけだが、内容がエルドラ家の深い部分になるので、部屋にいるのはユキナとアイラの三人だけである。

 緊張した面持ちのユキナと、期待の表情をしたアイラに見られながら、俺は思い出せた内容を二人へと語った。

 俺は百年以上前の人物であり、レイアの兄代わりだった事。そして彼女と一緒に神人討伐の旅に出て、よくわからないが俺は死にかけて、彼女の光翼で命を救われた等と……実に長い一人語りとなった。

 さすがに俺の前世についてはややこしいので止めたが、一通り説明を聞いた二人は唖然とした表情で固まっていた。


「……とまあ、色々と言いましたが、俺も未だに信じられない部分もあります。ですが、俺の中のある彼女の力がそうとしか思えない状況でして」

「百年前って……でも、クエスさんはどう見ても……」

「曾祖母様の。なるほど、そうなると……」


 ユキナが俺の顔をじっくりと眺めたり、腕に触れて肌を調べたりする中、アイラは何か気になる点があるのか静かに思案している。


「だから皆さんが俺に気を許しやすいのは、きっとレイアの光翼があるからと思うんです。お二人の先祖の力なのですから」

「関係ないよ。確かにレイア様の力に惹かれたかもしれないけど、今はクエスさんだから一緒にいたいって私は思ってる!」

「その通りだ。そもそも天族全てに好かれるわけではないのだから、今の信頼は君の人徳によるものだ。もう少し自分を誇るといい」


 過去の話で感傷に浸り、少し自虐的になっていたかもな。

 二人の言葉に照れ臭さを覚え、それを誤魔化すかのように茶を飲んでいると、アイラが真剣な表情で語り出した。


「それで? 君はこれからどうするつもりだ?」

「……過去の俺たちは、神人を倒す為の旅をしていたと思います。そしてレイアがその為に生涯を掛けて準備をしていたのなら、俺はその意思を継ぐだけです」


 神人の使徒とやらが宣戦布告したという事は、いずれそいつ等だけでなく神人と戦う事となるだろう。

 ならばレイアから貰った力は、その為に使うべきだと思うのだ。


「ふ……百年前の戦士か。これは頼もしい仲間が出来たものだ」

「俺は戦士じゃないですよ。あの子たちの後で見守っていただけの、ただの人族ですから」

「だが君の経験や記憶は、これから神人たちと戦う我々にとって大きな力となるだろう。そうなると、記憶が完全に戻っていないのは痛いな」


 そう……問題は神人の姿や戦い方、そしてその場所への行き方といった肝心な記憶がぽっかり抜けている点である。


「記憶については焦っても仕方があるまい。とりあえず、君には世界の情勢について教えておこう。各大陸から届いた情報によると、向こうも我々と同じように大規模な攻撃を受けたそうだ」


 やはりあの宣戦布告は魔族、獣族、人族の大陸にも届いていたわけか。

 そして襲撃も同時に行われ、撃退は成功したものの結構な被害が出たらしく、世界中が混乱状態らしい。


「近い内に各大陸の要人を集め、世界会議が行われる筈だ。今頃、平和ボケで武力は必要ないと喚いていた連中も慌てているだろうな」


 何でも、この町の発展の為に軍事費を削ろうと訴えていた連中は、ここ数日でほとんどの者が黙るか、いなくなったらしい。さすがにこの状況で軍事費の削減とか言ってはいられないからな。

 中には町の発展と言いながら不正で懐に入れていた者もいたらしく、そういうアホな連中は完全に一掃されたとか。ここ数日忙しそうにしていたし、間違いなくアイラの搦め手によるものだろう。

 強引ではあるが、味方に足を引っ張られるのが一番の敵だし、彼女がやった事については何も言うまい。というか、彼女が敵じゃなくて本当に良かったと思う。


「共通の敵が出来た以上、我々は種族問わず協力していかねばなるまい。すでに魔族と獣族の個人的な知り合いに書簡を送り、世界を動かす事について話し合う予定だ。近い内に別の大陸へ行く事になるかもしれん」

「そうだ。協力するなら、クエスさんも一緒に行けばいいんじゃない?」

「それは……」

「止めておくべきだ」


 レイアによる繋がりがある二人は俺を信じられるが、関係のない者にそれは通じまい。

 それに、人族でありながら天族の光翼を持つ俺は、研究者からすれば垂涎ものだろう。兵器として研究しようと、変な連中に狙われる可能性もある。

 さすがにそれは考え過ぎかとも思うが、アイラの真剣な表情から完全に否定出来ないのがちょっと怖い。


「彼の事を世界に公開するのは、記憶が全て戻り、各種族の代表や上層部にクエスの存在を理解してもらってからだ。変な奴に利用されないよう、味方を増やして後ろ盾になってもらわなければな」

「その辺についてですが、一つ気になる事がありまして……」


 今はレイアの事しか思い出せていないが、記憶の中には彼女以外の存在もあるのだ。

 槍の技はレイアだが、俺には剣術と体術も多少ながら使えるのだ。この二つを使っていたのが……。


「過去の俺には、レイア以外の仲間がいた筈なんです。顔も名前も思い出せないのですが、おそらく魔族と獣族だと思います」

「異なる種族でのパーティー……か。過去の記録と合致するな」

「同じ種族じゃなく、別の種族でパーティーを組んでいたの? 昔って種族間の問題が多かったと聞くし、そうなると仲違いとか……起こりやすいよね?」


 おそらく人族への風当たりについてなのか、ユキナが申し訳なさそうに俺を見ていたが、事実なので気にするなと伝えるように手を振った。


「種族間の不和を減らす為に、神人の討伐を平等の成果にしようとした……という記録が残っているのだ。まあ、ただの建前であり、そもそも当時の人々は神人を甘く見ていたのだろう」


 情けない話だと言わんばかりに、アイラは鼻を鳴らしていた。


「少し話が脱線しましたが、その仲間の子孫に会えれば、記憶が戻ると思うんです。実際、レイアの事を思い出せた切っ掛けは、ユキナの天力を浴びた事でしたから」

「うぅ……」

「もう気にするなって。そして魔族や獣族にも、アイラさんのように英雄の子孫として強い権力を持つ者がいると思うです」


 つまり二人の子孫を見つければ、記憶だけでなく強力な後ろ盾も得られるというわけだ。


「だから体が復調したら、俺は魔族か獣族の大陸へ向かおうと思います」

「え!?」

「……そうか」


 何となくそう思っていたのだろう、アイラは静かに目を閉じていた。


「ならば、まず魔族の大陸へ向かうといい。大陸にいる知り合いへの連絡と、紹介の手紙も用意しよう」

「ありがとうございます」

「礼など不要だ。君が曾祖母様の兄のような存在だったのなら、私たちにとっても家族みたいなものだ。いくらでも頼ってほしい」


 男気溢れる台詞に照れ臭さを覚えるが、家族と言われて悪い気はしなかった。

 その照れを誤魔化したくて、俺はつい話を変えようと質問をしていた。


「と、ところで魔族と獣族の英雄について何か知りませんか?」

「すまぬが、他種族の英雄についてはあまり詳しくなくてな。確か、魔族の英雄の名は……」


 彼女からかつての仲間と思われる名前を聞いたが……何も感じない。

 やはり直接会うしかないわけだが、今更ながら適当だなと思う。


「どうしたのだ? 何やら不安そうな面持ちだが?」

「いえ、こんな行き当たりばったりで、本当に子孫と会えるのかなとも思いまして」

「ふ……心配はいらないさ。偶然が重なった結果ではあるが、君と私たちが巡り会えたのは、曾祖母様によって導かれたからだと思うのだよ」


 だから大丈夫だと、こちらを安心させてくれる笑みに心が軽くなる。この人は中々の人たらしだな。

 伝えるべき事は一通り伝え、今後の方針も決定したので、そろそろこの茶会も解散かなと思っていたのだが、先程からユキナの様子が変な気がする。

 俯いて何か考えているようで、どうしたのかと声を掛けようとしたところで、急に顔を上げて俺を真っ直ぐ見つめてきたのだ。


「クエスさん! あの、私も……連れて行ってくれませんか?」

「……は?」


 ユキナが俺の旅に同行したいと?

 目標はあっても道筋が曖昧だし、一人で行くつもりだったのだが……何故急にこんな事を言い出したのだろうか?

 まあ俺が断る理由はないのだが、英雄の生まれ変わりと言われる子が、この大陸から安易に離れていいものなのかと思う。

 その証拠に、アイラが厳しい表情で娘を睨みつけていた。


「何故だ? お前は曾祖母様と同じ光翼を持つ者なのだぞ。それを理解した上での言葉なのだな?」

「そのレイア様がー……ううん、それだけじゃない。私が行きたいって思ったの」

「……お前の意志じゃない何かを感じるな。だからお前の意志を……彼と行きたい理由を語ってみせろ」

「わ、わからないよ! でもクエスさんと一緒に行かなかったら、私は凄く後悔すると思うの。そっちの方が嫌だって……だから!」


 俺が言うのも何だが、若さと感情に任せた……という感じに見えなくもない。

 だが彼女の目は、かつてのあの子を思い返させる。絶対諦めないと語るその目に、俺は背中を押そうとしたが……。


「よくぞ言った! 言葉に出来ずとも、私を跳ね除ける程の強い意志があるのなら、それでいい!」


 母親の方が背中を押すどころか、蹴飛ばす勢いで言い放った。

 つまり、ユキナの覚悟を試していたわけか。


「全く、もっと早く言わんか! お前が言わなければ、首根っこを掴んで彼に渡そうと思っていたぞ?」

「ええぇ……」


 そんなおまけみたいに簡単に渡されたら、俺は大いに困っていたと思う。


「でも母さん、本当に……いいの?」

「そう言っている。もしここに曾祖母様がいらしたら、必ず行けと言うだろう。いや、寧ろ自分が行こうとするだろうな」


 そんな冗談を交えつつも、ユキナの肩に手を置いたアイラは不敵な笑みを浮かべる。


「さて、そうとなればお前に教えようと思ったものを急ぎ詰め込まなくてな。ユキナよ、今から光翼の維持を半日だ。力の加減を体で覚えろ」

「半日!?」

「いずれ一日は維持出来るようになってもらう。他にも教える事は沢山あるが、耐えて見せろ。お前は守られるのではなく、彼を守る為に行くのだからな」

「……はい!」


 ユキナは俺を一瞥した後に、覚悟を決めたかのように返事をしていた。

 大変だとは思うが、俺には応援するくらいしか出来ない。ああ、でもアドバイスくらいは出来るか。


「ユキナ。そういえばさっきの訓練で見た盾は随分と小さかったな」

「あ、気付いた? 実は槍の邪魔にならない大きさにして、攻撃を防ぐだけでなく弾くだけの方法も試してみようかと思ったの」

「悪くないと思う。それにユキナなら、あの時みたいに天力でその盾を一時的に大きくして、いざという時に防ぐ事も出来そうだしな」


 前世で見たアニメの、巨大ロボットがエネルギーでシールドを作っていた感じだな。


「あ……そっか。うん、後で試してみようっと!」

「私としては、君が使った曾祖母様の奥義を知りたいのだがな。あの技はどうやればいいのだ?」

「あれはですね、ちょっと天族の常識を変えるところからでして……」


 光翼をパーツのように取り外したり、粘土のように変形させて槍にしたり、先端をドリルとか、素直かつ幼い頃から教えられたレイアだからこそ出来たようなものだからな。

 その後もしばらく雑談を続け、そろそろ昼食の時間が近いという事で茶会を切り上げる事になった。


「ふう……実に有意義な時間だった。やるべき事は多いが、逆に燃えて来るものだ」

「燃えるんですか?」

「ああ。不謹慎だとは思うが我々はこの時に備え続けていたし、何より曾祖母様の言葉が間違っていなかったのだと、皆に知ってもらえたからな」


 時間というのは残酷だ。

 百年以上も経てば、危機感も薄れていき、人々の記憶から消えていくものだからな。

 そうだ……大事な事を忘れていた。


「あの、一つ教えてほしいのですが……」

「ん、何だ?」

「レイアは……どこで眠っていますか?」




 天族の英雄であるレイアは、町の聖堂で眠っている。

 だが、最後は静かに過ごしたいという彼女の遺言により、実際は別の場所に埋葬されたらしい。

 アイラの案内によってやってきたのは、エルドラ家の敷地内にある森の中で、そこにひっそりとレイアの墓はあった。

 頻繁に掃除はされているのだろう。手入れが行き届いた墓前に花束を供えていると、俺の少し後ろに立っていたアイラが呟いた。


「……君の話を聞いて、わかった事がある」

「何がですか?」

「曾祖母様は、神人に備えた戦力を育てる事に尽力していた。しかし晩年になると突然全ての事業を子へ継がせ、まるで火が消えたかのように大人しくなったのだ」


 その内容は、以前ウルから聞いた事がある。

 とにかくレイアは長生きしたらしく、エルドラ家の中で一番の長寿だったとか。


「食事は体に優しい物に拘り、適度な運動も欠かさなかった。本を書いたとも聞くが、とにかく曾祖母様は余生を静かに過ごしていた」

「それがどうかしたの? 長生きするのは別に悪い事じゃないよね?」

「つまり……だ。曾祖母様は、君が帰ってくるのを待っていたんだろう。少しでも長く生きて、君とまた会う為に……」

「……そう……か」


 レイア……お前がやってきた事、残してきたものは、しっかりと見せてもらったぞ。

 学園を見学した時、俺が妙に嬉しく感じていたのは……無意識にお前の成果を誇らしく思っていたんだろうな。

 本当に……。


「……頑張ったんだな」


「……あれ? 何で、私……」

「……馬鹿者。軽々しく涙を零すな」

「母さんこそ、何で空を見ているの?」


 そして……お前の御蔭で俺は帰ってくる事が出来た。


 随分と待たせてしまったが……。








「ただいま……レイア」






次が一つの区切りといいますか、連日投稿の最後になります。

1時間後に投稿予定です。

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