プロローグ
新作を投稿しました。
初作品と同じ異世界転生ファンタジー作品ですが、興味があれば是非ともご覧くださいませ。
緊…………。
……急……報……。
緊急…………強制……。
緊……警報……起動……。
安全装……ラー……全装置……エラー……。
強制……動……強制起動……対象者……起動……。
「…………あ?」
何……だ?
俺は……何を……何でこんな……体が……。
「動か……つっ!?」
い……てぇ……何か、硬い物が……いや、倒れて……いるのか?
体に感じる……硬い感触から……床に倒れて……いるのか。
目も……意識も……ぼんやりして、ここは?
「落ち着け……呼吸を……」
何もわからないがしばらくじっとしていると、徐々に意識がはっきりとしてきたので、とりあえず立ち上がろうとするが……。
「あ……れ? 力が……入ら……」
腕に力が入らず、ただ悶えるばかりだ。
というか、床が冷たくて寒いし、何で裸なんだ俺は?
このままじゃ色んな意味で不味いし、何かないかと腕を動かせば取っ掛かりとなる物があったので、それを支えに渾身の力で何とか立ち上がった。
「はぁ……ふぅ……何だ……これ?」
ぼんやりしていた視力も戻ってきたので、支えにした物へと視線を向けてみれば、そこにあるのは淡く光る円筒状の何かである。
「灯り……じゃないな。何かの装置か?」
人一人が軽く入れる円筒状の箱で、中が見えるように透明な外装をしている。
まるでさっきまで中に何かが入っていたような感じだが、まさか……。
「俺……か?」
この中から出てきたのが、俺なのか?
そもそも、これが何で人が入る装置ってわかるー……いや、待てよ!?
「誰だ? ここはどこで、俺は……一体?」
自分がいる場所どころか、己の名前すらわからない。
どうなっている? わからない事だらけで焦る筈なのに、妙に冷静な自分が不思議だった。
だが一つだけ、はっきりと覚えているものがあった。
「そうだ……奴を……倒さないと……」
誰かを倒さなければならないという、復讐とは違う使命とも呼べるような強い思いだ。
とはいえ、その倒す相手の名前も姿もわからない以上、今は頭の片隅に置いておく他はない……か。
「と、とにかく……周りを調べてみるか」
悩んでいる内にある程度は回復してきたのか、歩くくらいなら問題はなさそうだ。
外から光が入らない場所なのに、妙に明るい部屋内を歩いていると、先程と似たような装置が複数ある事に気付く。
中身は空ばかりのようだが……。
「……へっくしっ! ぬぐ……まずは着るものが先か」
まだ我慢は出来るが、さすがにこのままじゃ風邪を引きそうだし、謎の装置しか見当たらない部屋を調べるのは後にしよう。
服の代わりになりそうな物を求めて部屋を出て、妙に長い廊下を歩いている内にわかってきた事がある。
「こりゃあ、相当でかい建物だな。一体どこなんだ?」
どれだけ歩いても鉄の壁の廊下が続くばかりで、木や石といった類の物が一切見当たらなかった。
部屋があると思ったら扉が閉まっており、押しても引いてもビクともしないので、諦めて廊下を歩き続けるしかなかった。
いい加減同じ景色ばかりで飽きてきたので、そろそろ入れそうな部屋が見つかってほしいと思い始めた頃、ある違和感に気付き足が止まる。
「ん? 揺れて……うおっ!?」
気のせいかと思っていた床の揺れが、すぐに立っているのも辛い程の地震となった。
さすがにこの揺れの勢いは不味いだろ。天井から細かい破片が落ちてきているし、生き埋めになる可能性が頭をよぎる。
地震の際は下手に動かない方がいいと聞くが、恐怖から足が勝手に動き出し、俺は安全な場所を目指して駆け出していた。
「さっきから……どうなってんだよ!?」
更に揺れが増していく中、廊下を必死に走っていた俺の前に新たな部屋の入口が見えた。
扉が閉まっていないと反射的に部屋の中へ駆け込んでみれば、そこは床に不思議かつ複雑な模様が描かれている広間だった。
「何だこの部屋はー……うおっ!?」
明らかな怪しさに二の足を踏むが、天井が崩れて大きな瓦礫が降ってきたので止まれなかった。
上からの瓦礫を避ける為に前へ飛び、不思議な模様の上に着地した俺だが、その瞬間……俺の視界が大きく乱れると同時に、体全体が浮くような感覚が襲う。
そのまま視界が完全に白に染まったかと思いきや、次に見えたのが青と白……青空だった。
「そ、外か! 良かー……ったぁ!?」
今の俺は浮いている感覚どころか、本当に上空にいたのである。
眼下に見えるは森ばかりであり、俺の真下には……水?
「水がー……おぶっ!?」
だ、大丈夫だ。空から一瞬しか見えなかったが、それ程大きくない池だったし、方角を間違わなければ陸地に辿り着ける筈。
水中内でも冷静に上下を見極め、明るい方を目掛けて水上へと出てから呼吸をする。
ふぅ……未だわからん事ばかりだが、少なくとも俺は泳げるようだ。
そのまま泳ぎ続け、陸地へと上がったところで安心した俺は、倒れるように地面へと座り込んだ。
「はぁ……はぁ……やっと一息……吐ける……」
地震から逃れたかと思えば、外へ出るなり水に落ちるなんて……一体何がどうなっているんだよ?
相変わらず何も思い出せないが、以前の俺は何か罰が当たるような事をしていたのかと悩みつつ乱れた息を整えていると、背後の木々から草木が擦れるような音が聞こえてきた。
「な、何だ!?」
もう動くのも辛い筈なのに、体は反射的に立ち上がっていた。
周囲を確認したところ、草木しか見えないのでここは森のど真ん中のようである。
だから動物がいたっておかしくはないのに、何故ここまで体が反応しているというか、まるで敵が来たとばかりに警戒を強めているのだろうか?
疑問を抱く俺の前に草木を掻き分けながら現れたのは、全身が緑色をした子供……いや、人に似ているようで全く違う存在だった。
「あれは……ゴブリン?」
無意識に漏れた言葉を切っ掛けに、こいつがゴブリンと呼ばれ、己の敵なのだと理解……思い出したと言うべきか?
そんな事を考えているとゴブリンは手にしていた棍棒を振り上げ、雄叫びを上げながらこちらへ飛びかかってきた。
「問答無用かよ!」
棍棒の一撃を横へ飛んで避けるが、こちらは武器がないどころか素っ裸なのだ。
そこら辺の木の棒を拾ったとしても、あの太い棍棒と打ち合えるとは思えない。子供のような体躯でも、筋肉の塊のようなゴブリンの肉体に俺の拳が効くとは思えー……。
「いや、行ける……か?」
冷静に、そして相手をしっかりと観察してみたところ、ゴブリンの動きは単調なので動きを簡単に読めそうだ。
脳内に浮かぶ謎の人物の動きをなぞるように、飛びかかってきたゴブリンを最小限の足運びで避け、先を読んで相手の頭部が来るであろう位置に目掛けて拳を……。
「振り抜く!」
相手の勢いを乗せたカウンターの一撃が、ゴブリンの顔面に決まった。
その一撃で意識を刈り取れたかと思いきや、俺の力が足りなかったのかまだ辛うじて意識があるようだ。
「ならば!」
再び脳裏に知らない男の動きが過る。
それをなぞるように、ゴブリンが再び棍棒を振りかぶる前に膝蹴りを鳩尾に食らわせた俺は、ゴブリンの体が浮くと同時に手刀を首へと振り下ろして相手を地面へと叩きつけた。
「双牙……だったか、この技は?」
上下から襲う急所攻撃に、さすがのゴブリンも気絶どころか息絶えたようだ。
安堵の息を吐き、怪我はないかと拳を何度も握ったり開いたりしている内に、俺はある事に気付く。
目が覚めた直後は立ち上がる事も難しかったのに、今は素手で相手を倒している。
これは……やはりそうだ。俺の肉体は衰えていたのではなく、動かし方を忘れていたという事なのか?
そしてもう一つ重要な点がある。
こうして自らの手で敵の命を奪ったというのに、何も感じていない事に違和感がー……あれ?
別に変……じゃないよな? だってこういうのが当たり前の世界で……。
「っ!? まだいたのか!」
再び草を掻き分けながらゴブリンが現れたので、思考を打ち切り振り返ってみれば……三体!?
さすがにこれは不味いと逃げようとするが、それよりも先に一体のゴブリンが飛びかかってきた。
「くそ! 剣なんか持ってきやがって!」
落ちていた物を拾ったのか、全体的に錆びて状態の悪い剣だった。
錆で切れ味は皆無だろうが、それでも武器なのは間違いない。
だが俺が最も気になったのは……。
「何だ、この感覚は?」
ゴブリンの剣の扱い方だ。
本能のまま生きる相手に言うのもなんだが、あまりにも雑な剣の扱いに、己でも不思議なくらい不快感を覚えたのである。
俺は迫るゴブリンの手元を反射的に叩き、すっぽ抜けた剣を奪いつつ相手の側面に回り込んで剣を振り下ろした。
刃が錆びていようが、振り下ろす角度と位置を正確に狙えば……斬れる!
「よし! 次は……ちっ!」
想像通りゴブリンの首は斬り落とせたが、やはり錆びた剣では耐え切れず刃が真っ二つに折れてしまった。
即座に剣を捨てて残ったゴブリンへと視線を向けてみれば、もう一体は槍を手に突撃してきて、盾を持った一体は少し遅れながら迫りつつある。
槍と盾役の立ち位置が逆だろうと内心で突っ込みつつ、突き出される槍を避けながら柄を掴んで捻れば、剣と同じくあっさりと槍を奪い取れた。先程の錆びた剣と違い、この槍は汚れているだけで比較的新しい物のようだ。
奪った勢いのまま石突きでゴブリンの体を打ち、悶えた隙に槍の刃で首元を掻っ切ってやれば、ゴブリンは血を撒き散らしながら動かなくなった。
「……二体目」
返り血を浴びながら最後の一体へと振り向けば、ゴブリンはその場で固まっていた。
仲間をやられて怯えているようだが戦意は完全に失っていないようで、盾を構えながらゆっくりとこちらへ迫ってくる。
「逃げればいいのに。仕方がない……」
槍の石突きで盾を叩けば、ゴブリンは身を守ろうと盾で完全に体を隠していた。
これだと正面からの攻撃は防がれてしまうが、致命的な欠点がある事に奴は気付いていない。もう一度石突きで盾を叩いて気を引き、その間に素早く側面へと回り込んでしまえば……。
「悪いな……」
隙だらけの首元へ槍を刺し……終わりだ。
そんな盾を壁にして隠れていたら、前が見えなくて側面への反応が遅れて当然だろう。装備を上手く扱えないのなら、素手の方が強かったかもしれない。
とにかくゴブリンの全滅を確認し、槍に付いた血を振り払っていると、自分にも返り血が付いているのを思い出したので先程落ちた池で洗う事にした。
「ふぅ、水場が近い事だけは運が良かったかもしれないな」
ぼやきながら体を洗いつつ現状を改めて考えてみるが、逆に謎が増えて混乱は増すばかりである。
そもそも、俺はこんなにも戦えたのだろうか?
脳内に浮かぶ誰かの動きを模倣していただけなのだが、それしても先程から感じるこの拭いきれない違和感は何だ?
「いや、落ち着け落ち着け。戦えるのは悪い事じゃないし、問題があるのなら一つ一つ解決をしていけば……」
そうだ、この裸の状態が不安を加速させているのだ。
現状で唯一頼りとなる槍の感触を確かめつつ水から上がり、服の代わりになりそうな物がないかと周囲を見渡していると、背後から何かの気配を感じた。
『ふーん……へぇ……』
「誰だっ!?」
『きゃっ!?』
緊張感のない声に槍を向けつつ振り向けば、そこには宙に浮かぶ少女の姿があった。
いや、少女……と言うべきなのだろうか?
見た目は確かに少女ではあるが、体の大きさは俺の掌サイズであり、その背中には透明な羽根が生えているのである。何と言うか、物語に出て来るザ・妖精って感じだ。
そんな妖精に槍を向けてしまったが、本能的に無害だと思った俺は槍をゆっくりと下ろし、恐る恐る彼女に話し掛けてみた。
「……すまない。急に現れたから、ゴブリンだと思ってな」
『何よ何よ! こんなにも可愛らしい私をゴブリンと間違うなんて、失礼しちゃうわね!』
可愛いという点は同意するが、自分で言うだろうか普通?
それにしても、見た目通り幼子のような反応をする妖精だな。
そんな妖精の機嫌を損ねてしまったのだが、目覚めてから初めて会話可能な相手と出会えたのだ。少しでも情報を得る為にも、俺は警戒をさせないように槍を地面に置く。
『そうそう! この私と話せるなんてすっごい事なんだから、武器を向けるなんて最低よ!』
「あ、ああ。ところで君は一体……何なんだ?」
『何って、私を知らないなんて無知ねぇ。なら聞いて驚きなさい! この私こそ、あの有名な精霊なんだから!』
「せいれい?」
せいれい……精霊か? これまた空想とかに出てきそうな名前だ。
その精霊とやらが自慢気に胸を張っているのだが、今の俺には精霊がどれだけ凄いのかわからないので反応に困る。
『もしかして、精霊を知らないの貴方? それに何か色んな気配を感じるし……貴方本当に人族なの?』
「人族…………ああ、俺は人族だ」
彼女の言葉から他に種族がいるようだが、自分が人族であるという事だけは自然と納得し、間違いじゃないと俺は答えていた。
『本当に? 何か怪しいなぁ。というか、何でこんな森の中で何も着ていないの? 人って服を着ているものでしょ?』
「着るものがないんだ。布切れでも何でもいいから、体を隠せるような物は見ていないかな?」
『うーん……服か。そういえば、向こうにそれっぽいのが落ちていたよ』
「本当か!? 助かったよ。この際、布であれば何でもいい!」
精霊が指した草むらの先には、数着の服が無造作に落ちていた。
先程のゴブリンが集めていたものだろうか? 手に取ってみたところ穴が空いてボロボロな服ばかりだが、裸よりは遥かにマシだ。
なるべく状態の良い服を選んで着替えていると、精霊がこちらをずっと興味深そうに眺めている事に気付く。そもそも、この子は一体何をしに俺の前に現れたのだろう?
「なあ、俺に何か用があるのか?」
『んー? 別にないよ。ただ何か珍しいというか、初めて出会うような人がいたからさ』
珍しいって、まあそう思われても仕方がない状態だしな。
色々と気になるが、せっかく会話出来る相手がいるのだから情報を少しでも得るべきだ。まず何を聞こうかと悩んでいると、精霊の方から先に質問が飛んできた。
『それで? あんたは一体何者なの? こんな所で何をしているの?』
「それは俺の方が聞きたいくらいだ。実はー……」
何もわからない以上、下手に素性を隠しても仕方があるまい。
とりあえず俺の状況を簡単に説明すると、精霊は何とも言えない表情をしていた。
『ふんふん、記憶がなくて変な場所をうろついていたら、ここに落ちて来た……と。つまり、何にもわからないんだね!』
「ああ、情けないがその通りなんだよ。だから何でもいいから教えてくれると助かるんだが……」
『いいよいいよ! この私にどーんと任せなさい!』
頼られる事が嬉しいのか、妙に楽しそうである。
何かもう幼子の相手をしている気分だが、とりあえずこちらから質問させてもらうとしよう。
「まず、ここはどこなんだ? どこの大陸とか、名前があれば教えてほしい」
『名前はよく知らないけど、ここは天族が沢山いる大陸だよ』
「天族? さっき人族とか言っていたが、種族って他にもいるのか?』
『あー、そんな事も忘れちゃっているんだね。えーと、貴方は人族で、他は天族と魔族、そして獣族かな?』
実に大雑把な妖精の説明によると、この世界は大まかに四つの種族で別けられているらしい。
耳が横に長く、光の翼を発現させる……天族。
頭部に角が生えている……魔族。
体に獣の特徴を持つ……獣族。
そして俺のように、目立った身体的特徴がない……人族。
まあ言葉で説明されてもよくわからないのだが、その後も幾つか質問を重ねて、この世界の基礎知識らしきものを色々と教わったのだが……。
「世界には四つの大陸があって、そこに各種族が主に住んでいる……か。駄目だ、どの話もピンとこないな」
『ええぇ? 本当に貴方どこから来たの? 実は人族に見えて魔物だとか?』
「だからわからないんだって。でもまあ、君の御蔭で色々と知れて助かったよ」
『ふふん! もっと褒め称えてくれたっていいんだよ!』
「…………ありがとうございます」
情報を得れれて助かったのは確かなんだが、残念ながら精霊の説明は穴や抜けが多く、細かい部分はわからないのが本音である。
精霊は人を観察はしても、関わる事がほとんどないからだそうだが、それで何故こんなにも自信満々に語れるのかがわからない。
とにかく、細かい常識とかは他の人と会って確認する必要がありそうだ。
「それで、あっちの方に町があるんだよな?」
『うん。結構大きい町だったよ』
精霊が指した先は木々しか見えないが、飛べる彼女が見たと言うのであれば間違いないだろう。
空の明るさからして、まだ日は昇って間もないとは思うが、早めに向かうべきだと歩き出そうとしたところで、精霊がいつの間にか俺の頭の上に乗っている事に気付く。
「どうしたんだ? 俺はもう行くんだが……」
『だって一緒に行くんだもん。こっちの方が楽ちんでしょ?』
「だから何で一緒に行くんだよ? 精霊は自由で、人に関わらず生きる存在だとか言っていなかったか?」
『自由だから行くんだよ。だって貴方と一緒だと面白そうだし、何か心配だからこの私が保護者になってあげるよ。どーんと頼りなさい!』
「保護者ねぇ……」
追い払おうにも、精霊の体は手がすり抜けて触れられないので払い落とす事も出来ない。精霊自身が許可しないと触れられないとはこういう事か。
何か憑りつかれたような気分だが、連れて行かない理由もないし……もうこの子の好きにさせるか。
ああ、そういえば見た目の衝撃で、一つ聞き忘れていた事があったな。
「わかった、なら一緒に行くか。それなら精霊って呼ぶのもなんだし、君の名前を教えてくれないか?」
『名前? 私は精霊なんだから、そんなものあるわけないじゃん』
「しかし俺と一緒に行くのなら、名前がないと不便だと思うぞ」
『うーん、言われてみれば人って名前で呼び合っていたね。じゃあ、この私に相応しい立派な名前をちょうだい』
「精霊に相応しい名と言われてもなぁ」
可愛らしい名前で、この子に合いそうな名前でぱっと思いついたのは……。
「じゃあ、『ルル』……とかどうだ?」
「るる? ルル……うん、悪くないじゃない! じゃあ今日から私はルルで、あんたは『クエス』ね!」
「それは俺の名前か? ああ……うん、何もわからないし、もうそれでいいか。というか、それは誰かの名前なのか?」
「そうだよ。昔ね、そういう凄い人がいたなぁってのを思い出したの。十年……うーん、やっぱり千年くらい前かな?」
千年……ねぇ。さすがは精霊だと思うが、そんな昔ならば誰かの名前と被る心配もなさそうか。
ああでも、由緒正しい名前だとしたら面倒が起こりそうな気もするが、まあその時はその時で考えるとしよう。何もわからないんだし、深く考えるのは止めておこう。
「じゃあ、行くとしますか。これからよろしくな、ルル」
『うん! しゅっぱーつ!』
記憶がないのに妙な連れが出来てしまったが、ルルの明るさに引っ張られているのか、不思議と不安はなかった。
我ながら楽観主義というか、以前の俺は精神が強かったんだろうなと思いつつ、俺はルルと共に森の中を進むのだった。
初日は3話分を連続投稿となります。




