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心臓ひとつ、ココロはふたつ!? 魔力暴走の果てに見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……  作者: 冬馬
第一章 見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……
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第八話 アレスとエリスの「いまの実力」

 ヴィーナが帰ったあと、アレスは右手に髪留めを握りしめたまま、深いため息をついた。


「……明日、ヴィーナとお茶会なんて……どうしよう……」

「ふむ。アリスとしての振る舞いを完璧にせねばならんのう」


 エリスは左手をパチンと慣らし髪留めを亜空間へ収納すると、真剣な顔で頷いた。


「じゃが、お茶会とやらの対策は後回しじゃ。今はもっと重要なことがある」


 エリスは立ち上がり、アレス側の腕を引いた。


「えっ、どこ行くの?」

「修行場じゃ。お主の爺さんが帰ってくる前に、わらわとお主の『いまの実力』を把握せねばならん。お主自身としては、まだこの姿になって魔法を発動してもおらんからのう」


 アレスはごくりと喉を鳴らした。


「……僕、そんなに変わってるの?」

「変わっておる。とんでもなく、な」


 そのとき、エリスのまなざしが一気に真剣なものへと変化した。


 ◆


 ソル村外れの修行場。

 昨日、魔力暴走によって融合してしまった場所へとふたりは戻ってきた。

 木々に囲まれた静かな空間で、アレスは深呼吸する。


「じゃあ……軽く魔力を流してみるのじゃ」


 エリスに促され、アレスは魔力を練る。

 ――その瞬間。

 空気が震えた。

 地面が微かに揺れ、周囲の木々がざわりと音を立てる。


「えっ……な、なにこれ……!?」


 アレスは慌てて魔力を抑え込む。

 エリスは目を見開き、口元を押さえた。


「……やはり、そうか」

「エリスさん……?」

「お主、わらわとの融合で――すべての基礎能力がざっと以前の100倍以上に跳ね上がっておる」

「ひゃ、100倍!?」

「肉体の耐久、魔力量、反応速度……人間としてはすべてが桁違いじゃ。わらわの魔力が落ちた分、お主の側が異常に強化されておる」


 アレスは右目を見開いて自分の手を見つめた。


(……僕、こんな力……)


 エリスは続けた。


「まだ試すには早いが、光と闇の相反する魔法の同時発動もおそらくこれなら可能じゃろう。家の周りにあれだけ張り巡らしてある結界が、まったく反応せんから、もしやとは思ったが。それにお主、ほかの系統の魔法も契約しておるんじゃろう?」

「うん、家の風呂もそうだけど、火とか水とか日常生活で役立つ魔法もあるから、使えるようにしておけって、じいちゃんが。もっとも僕の実力じゃ、まだ使えなかったけれど……」


 だが、エリスはこうも続けた。


「……このままでは、クロノスに一発でバレるじゃろう。なんせ、本来のアレスに収まりきる魔力量ではないからな」

「ど、どうすれば……!」


 エリスは左手の人差し指を立てた。


「対策はひとつ。普段は魔力を常時練り続けて抑え込み、必要なときだけ一気に開放するのじゃ。」

「えっ……そんなことできるの?」

「できる。わらわが教える。おそらく、お主の爺さんもやっておろう、魔力を『圧縮して貯める』技術じゃ。練り上げる時間にもよるが、いざという時にだけ、普段のわらわ並みの魔法力を発動できるようになる」


 アレスは息を呑んだ。


「……そんなことが……」

「できねば困るのじゃ。クロノスにバレたら、お主の身も含めて非常に厄介なことになるだろうからな」

 

 アレスは気が引き締まり、思わず武者震いをした。

 それは感覚を共有するエリスにも間髪を置かずに伝わっていく。

 アレスは拳を握った。


「……やるよ。エリスさんを守るためにも、僕がしっかりしないと」


 エリスは少し驚いたように目を瞬かせ、やがて小さく微笑んだ。


(ふむ……頼もしくなったのう)


 その日の午後は、アレスが魔力の練り込みを覚える修行に費やされた。

 だが、いくら身体能力が飛躍したといっても、アレスには白魔導士としての経験が圧倒的に不足していた。

 当然ながら、魔力コントロールもエリスのサポートはあれど、やはり一朝一夕でマスターできるものではない。

 そこで、とりあえず今日はカムフラージュのための「つなぎ」として、日常の魔力量を調整する腕輪を装備することになった。


「オルフェの腕輪じゃ」


 そう話すと、エリスは例によって収納魔法で出現させた。

 だが、そのデザインは当然というか魔族の女性向けで、アレスが悶えることになったのは言うまでもない。


 ◆


 修行場から戻った二人は、アリスとしての設定を固めるため、夜遅くまで作戦会議を続けた。


「明日のは、お茶会っていうか女子会でしょ?……僕、女の子の会話なんて分からないよ……!」

「安心せい。朝、一つになっていた時も難なくこなせていたじゃろ? アリスは『わらわとお主の人格が重なった存在』じゃからな。設定さえ固めれば、自然と振る舞えるはずじゃ」


 アレスは不安げに眉を寄せた。


「設定……?」

「うむ。アリスの出自、旅の目的、村を離れる理由――すべてその場で説明できるようにしておくのじゃ」


 エリスは指を折りながら、次々と案を出す。


「アリスは旅の途中で立ち寄っただけ。明日には別の土地へ向かう予定。クロノスの知り合いということにしておけば、誰も深くは追及せぬ」

「……なるほど……」

「そして、アリスは礼儀正しく、控えめで、少し天然、という設定じゃ。お主の性格とわらわの気品を混ぜれば、自然とそうなる」

「天然って……それ、むしろエリスさんじゃ……?」

「なんじゃとっ!?」


 アレスのツッコミを加えつつ、ふたりは急ピッチでアリスのキャラクターを作っていく。


「アリスのお父さんはじいちゃんの知人で……」

「ヴィーナに聞かれたらこう返すのじゃ……」

「テーブルマナーってどうやるの……?」

「お主は堂々としておればよい」


 明日はお茶会。

 そして、クロノス帰宅まであと一日……。

 

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