表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/61

第六十一話 居残り組への課題

 魔力乱流域での緊急事態から一夜が明けた。

 朝の宿営地は、昨日の混乱が嘘のように静かだったが、空気のどこかに緊張の名残が漂っていた。

 他の班は昨日の中断を受けて、今日から訓練を再開するため、早朝から装備を整えて出発していく。

 一方、第3班はすでに中盤ミッションを終えているため、朝の点呼後も宿営地に残っていた。

 ネプトが伸びをしながら、出発していく他班を眺めて言う。


「なんか変な感じだよな。他の班が出ていくのに、俺たちは残留って」


 ディアナは冷静に答えた。


「昨日の件があったんだから当然よ。むしろ、私たちが先に終わっていたのは幸運だったわ」


 ヴェスタは胸に手を当て、小さく頷く。


「わ、わたしたち……無事でよかったです……」


 アレスは三人の様子を見ながら、一つ疑問に思った。


「そういえば、今日の僕たちは何をすればいいんだろう?」


 そんな中、セレナ先生が姿を現した。

 セレナ先生はいつもの凛とした表情で四人の前に立った。

 その立ち姿は、宿営地のざわめきを一瞬で静めるほどの気迫を帯びている。


「第3班。改めて中盤ミッションのクリアを伝える。昨日の緊急事態における判断も、総じて適切だった」


 ネプトが照れたように笑う。


「へへ……まぁ、アレスが全部判断したんですけどね」


 アレスは慌てて手を振った。


「ち、違うよ。みんなが冷静に動いてくれたから……」


 セレナ先生は軽く頷き、話を続ける。


「さて。あなたたちは一足先に2つ目のミッションを終えている。だが訓練期間はまだ残っているので、宿営地でも取り組める課題を与える」


 ディアナが姿勢を正す。


「課題……ですか?」

「そうだ。昨日の乱流域での経験を踏まえて、魔力感知の精度を高める訓練を行ってもらう。それに加えて、班内の連携を強化するために役割を入れ替えての演習も行う。自分の役割以外を理解することは、連携の幅を広げるうえで重要だ。最後に、昨日の事例をもとに危険予測と判断のレポートをまとめてもらう」


 ネプトが目を丸くする。


「役割交換って……俺が後衛やるとか?」

「そういうことだ。無理に戦わせるわけではない。動き方を理解するだけで十分だ」


 ヴェスタは不安げに手を挙げる。


「わ、わたし……前衛は……」


 セレナ先生は柔らかく、しかし凛とした口調で言った。


「心配はいらない。あなたたちに求めているのは『理解』だ。だが、得意ではないからこそ、実際に前に立ってみなければわからないこともある。そこで、序盤のミッションで使った召喚魔法陣を再利用して、レベルの低いモンスターで試そうというわけだ」


 アレスは真剣に頷いた。


「……分かりました。やってみます」


 セレナ先生は満足げに頷き、最後に言葉を添えた。


「あなたたちは訓練に集中してくれ。私は他の学生たちの見守りもあるのでな」


 そう言い残し、セレナ先生は去っていった。


 ◆


 宿営地の中央で、教務主任のエンディ先生が四人を呼び集めた。

 白髪混じりの髪を後ろで束ね、眼鏡越しの視線は穏やかだが鋭い。

 合宿全体の責任者であり、連絡係でもある彼は、昨日の混乱の中でも常に冷静だった。


「第3班。昨日の判断も含めて、よくやったな。さて。君たちには私がサポートに入る」


 その時、宿営地の外周で重い足音が響いた。

 黒い制服に身を包んだ精鋭たち――大統領警護隊が配置につく。

 ネプトが目を丸くする。


「お、おい……なんで大統領警護隊が……?」


 エンディ先生は淡々と答えた。


「昨日の暴走結晶の件もあったからな。まぁ、キミも要人の一人には違いないわけだが、彼らは戦闘の専門家でもある。それに、キミたちの訓練の見学も兼ねている」


 ディアナは矢筒を握りしめ、緊張した声で言う。


「つまり……私たちの動きも見られるということですね」

「そういうことだ。だが気負う必要はない。普段通りに動けばいい」


 ヴェスタは小さく震えながらも、前を向いた。


「が、頑張ります……!」


 宿営地の裏手にある簡易訓練場で、エンディ先生が魔法で召喚した模擬モンスターが姿を現した。

 実体を持つが、致命傷にはならない安全設計の訓練用魔獣だ。

 エンディ先生が指示を出す。


「今回は、アレスが後衛ではなく後衛火力。ネプトが前衛補助、ディアナが前衛攻撃、ヴェスタが側面支援だ。普段とは異なる配置で動いてみろ」


 ネプトが苦笑する。


「俺が補助系魔法か……まぁ、やってみるか!」


 ディアナは魔力矢ではなく、魔力刀を構える。


「魔法剣……慣れないけど、やってみるわ」


 ヴェスタは深呼吸し、炎を抑えた小規模魔法を準備する。


「そ、側面支援……! アレスさんみたいな火炎散弾ファイアショットで、敵の動きを止めるんですね」


 アレスは仲間たちを見渡し、魔力の流れを整える。

「みんな、僕が火炎放射ファイアスローラーでトドメをさすから、モンスターの動きをかく乱して!」


 模擬モンスターが突進してくる。

 ネプトが氷の壁を展開し、ディアナが魔力剣で牽制し、ヴェスタが横から炎で動きを止める。

 アレスは全員の魔力の乱れを補正しながら、自分は魔力を溜め、最後一気に火炎を送り込む。

 エンディ先生は腕を組みながら、静かに観察していた。


「……悪くない。普段とは違う配置でも、互いの動きを理解しようとしている。第3班は、連携の伸びしろが大きいな」


 大統領警護隊の隊員たちも、無言で頷きながら四人の動きを見ていた。


 ◆


 模擬戦が終わると、四人は息を整えながら互いの動きを振り返った。

 ネプトが笑う。


「いやー……補助魔法って大変だな! でも、面白かった!」


 ディアナは真剣に頷く。


「前衛で牽制も悪くないわね。接近しないとモンスターの細かい動きとかわからないもの」


 ヴェスタはアレスを見つめながら胸に手を当て、ほっとしたように微笑んだ。


「アレスさんって、やっぱり調整が上手いんだなぁって……改めて思いました。小さくまとめて狙いを正確にって、針の穴に糸を通す世界で」


 アレスもヴェスタに言葉を返す。


「逆に、収束じゃなくて火を巨大化させるのって時間かかるんだよね。敵を一網打尽にするのに向いてるし。それをヴェスタは直感で一気に構築しちゃうんだから、僕もまだまだだよ」


 アレスの心に潜むエリスにとっても、今回の訓練は興味深かったらしく、


(ふむ、あえて苦手なポジションで戦うか。今度はアーテーやマケたちと亜空間で模擬戦もよいかもしれんの)


 と、感心するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ