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第六十話 封印作業

 青白い光を脈動させる巨大な魔力結晶。

 周囲の魔力を吸い込みながら震え、今にも破裂しそうなほど不安定。

 その周囲に群がる、形の定まらない未知の魔獣たち。 

 アレスの胸の奥で、エリスが鋭く囁いた。


(アレス、あれは……『触れてはならぬ』類じゃ。わらわとて、全力を出さねば封じられぬ)

(……やっぱり、そうなんだね)

(うむ。わらわ一人ならば、あるいは封じられよう。だが――今はお主の仲間がおる。お主が全力を出せば、彼らは巻き込まれる)

(……分かってる。僕が全力を出すってことは、エリスさんの力も露わになる。そんなの……絶対にダメだ)

(そうじゃ。わらわの存在は秘すべきもの。そして何より――仲間を守るのが最優先じゃ)


 アレスは強く頷いた。


(うん。だから……撤退する)


 しばらくして、強い魔力の気配が二つ近づいてきた。

 セレナ先生と、もう一人の男性教師が姿を現す。

 教師たちは現場確認を行うが、セレナ先生は魔力結晶を確認した瞬間、表情を引き締めた。


「……これは、訓練生が触れていいものではないな」


 男性教師も険しい顔で頷く。


「暴走結晶……しかもこの規模。よく近づかずに済ませましたね、第3班」


 教師たちが第3班の退避した場所まで戻ってきて、事情を尋ねると、アレスが前に出て報告する。


「魔力の流れを見て……危険だと判断しました。未知の魔獣も……結晶に群がっていましたし」


 セレナ先生はアレスを見て、静かに頷いた。


「正しい判断だ。あなたたちが戦っていたら……全滅していただろう」


 ネプト、ディアナ、ヴェスタは息を呑んだ。

 暴走した魔力結晶は、魔力を吸い込みながら不規則に脈動し、周囲の空間を歪ませている。

 その周囲には、形の定まらない未知の魔獣が群がり、結晶の魔力を啜るたびに姿を変えていた。

 セレナ先生は険しい表情で言った。


「……これは訓練どころではないな。全ミッションを即時中断しよう」


 男性教師も頷く。


「乱流域周辺を封鎖。結界を張り、他の班が近づかないようにしましょう。この規模の暴走結晶は、我々でも慎重に扱わねばなりませんし」


 第3班が安全圏まで下がると、教師たちはさらに応援を呼び、すぐに行動を開始した。

 セレナ先生は広範囲結界を展開し、乱流域の外縁を固定する。

 男性教師は魔力結晶の周囲に複数の封印陣を展開し、未知の魔獣を一体ずつ確実に処理していく。

 その動きは、訓練生とは比較にならないほど洗練されていた。

 ネプトが息を呑む。


「……すげぇ……あれが、魔導士免許四段マジクラス・フォー……」


 ディアナは目を細め、教師たちの魔法陣の精度を見つめる。


「魔力の揺らぎを押し返してる……。あの乱流の中で……」


 ヴェスタは胸に手を当て、震える声で言った。


「わ、わたしたちじゃ……絶対に無理でしたね……」


 アレスは黙って頷いた。

 胸の奥でエリスが静かに囁く。


(アレス、正しい判断じゃった。あの結晶は、仲間を守りながらでは……到底不可能よ)

(……うん。みんながいたからこそ、撤退しかないなって)


 エリスは満足げに微笑む気配を見せた。


(それでよい。お主は『守る者』じゃ)


 男性教師が結晶を観察しながら言う。


「ここは我々が処理する。第3班はすぐに宿営地へ戻れ。乱流域の影響を長く受けるのは危険だ」


 アレスは仲間たちを振り返る。


「みんな、行こう。ここは先生たちに任せよう」


 四人は頷き、乱流域を後にする。

 帰り道、誰も軽口を叩かなかった。

 あの結晶の脈動と、未知の魔獣の形が、脳裏に焼き付いていたからだ。


 ◆



 数時間後、教師たちは暴走結晶の封印と周辺の魔獣の処理を完了させた。

 結晶は安定化され、乱流域の魔力も徐々に落ち着きを取り戻していく。

 セレナ先生も宿営地の第3班の前に戻り、静かに告げた。


「おかげで危険は排除された。きょうのミッションはこれで終わりだ」


 ネプトが驚いたように言う。


「終わり……ですか?」

「ええ。今回の目的は『調査』であって、『討伐』ではないからな。きちんと報告できた時点で合格だ」


 隣にいる男性教師が補足する。


「それと……今回の件は、学校だけで判断できる問題ではない。この島は長年訓練に使われてきたが、先日の下見の際には乱流域だけで結晶はなかったし、あのような結晶が自然発生した記録はない。校長を通じて国の魔導管理局へ報告することになるだろう」


 ディアナが眉を寄せる。


「つまり……この島に『誰かが』が何かをした可能性がある、ということですね」


 セレナ先生は頷いた。


「その通り。だが、ここから先は、我々大人の出番だ。それに、封印作業で安全は確認できたからな。今回のキャンプ自体は校長の判断で継続できることになった」


 その言葉を聞いたヴェスタはとりあえず胸をなでおろす。


「結晶は気になりますけど、安全だってわかってよかった……」


 アレスは仲間たちを見渡し、静かに言った。


「僕たちはちゃんと無事に戻ってきた。それが一番大事だよ」


 ネプトが笑って肩を叩く。


「だな! アレスの判断がなかったら、マジで危なかったしな!」


 こうして第3班は夕食の支度をはじめ、教師たちはネプトの大統領警護隊と協議を重ねたり、学校と国への報告書をまとめ始めた。


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