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第五十九話 緊急事態は即撤退

 植物系モンスターの群れを退けたあとも、森の空気は落ち着く気配を見せなかった。

 むしろ、奥へ進むほど魔力のざらつきは濃くなり、視界の揺らぎも強まっていく。

 四人は息を整えながら、再び隊列を組み直した。

 アレスが周囲の魔力の流れを読み取りながら言う。


「……まだ先がある。乱れの中心は、もっと奥だと思う」


 ネプトは額の汗を拭いながら、苦笑いを浮かべた。


「マジかよ……さっきの群れで終わりじゃねぇのか?」


 ディアナは矢筒を確認し、冷静に答える。


「魔力の密度が上がってる。あれは前座よ。本番はこれからってこと」


 ヴェスタは胸に手を当て、少し震える声で言った。


「で、でも……みんながいるから……わたし、頑張ります……」


 ネプトが笑って肩を叩く。


「おう、頼りにしてるぞ! ヴェスタの火力はマジで心強いからな!」


 アレスは三人のやり取りを見て、静かに頷いた。


「うん。僕たちなら行けるよ……ただ、気をつけて。魔力の流れが、さっきよりずっと不安定だ」


 四人がさらに奥へ進むと、森の空気が突然、逆方向へ流れた。

 風ではない。魔力そのものが吸い込まれるように動いている。

 ディアナが足を止め、眉を寄せる。


「……今の、感じた? 魔力が一瞬、逆流したわ」


 ネプトが周囲を見回す。


「なんだよこれ……森が呼吸してるみたいだぞ?」


 ヴェスタは不安げに呟く。


「ま、魔力が……どこかに集まってる……?」


 アレスは空気の流れを読み取り、確信した。


「……魔力が『一点』に吸い寄せられてる。乱流域の中心……『源』が近い」


 四人は自然と足を速めた。

 進むにつれ、木々の影が不自然に伸びたり縮んだりし始めた。

 まるで森そのものが形を変えているようだ。

 ネプトが目をこすりながら言う。


「おい……あの木、さっきより太くなってないか?」


 ディアナは冷静に分析する。


「違うわ。私たちの距離感が狂ってるの。魔力の層が重なって、空間が歪んでるのよ」


 ヴェスタは息を呑む。


「こ、こんなに……乱れるんですね……」


 アレスは仲間たちを見渡し、声を落とした。


「みんな、僕の近くにいて。魔力の流れを整えるから、離れると危ない」


 ネプトが頷く。


「了解。アレス中心に集まろう!」


 やがて、森の奥に淡い光が見え始めた。

 それは太陽光ではなく、魔力が凝縮したような青白い輝きだった。

 ディアナが矢を構えながら言う。


「……あれが、乱流の中心?」


 ヴェスタは震える声で続ける。


「魔力が……あそこに吸い込まれてます……」


 ネプトは拳を握りしめた。


「よし……行くか。俺たちで原因を突き止めるんだろ?」


 アレスは深く息を吸い、仲間たちを見渡した。


「うん。気をつけて。あの光の中に……何かがいる」


 四人はゆっくりと光の方へ歩みを進めた。

 森の空気はすでに限界まで歪み、光はねじれ、風は逆流し、魔力は一点へ吸い寄せられている。

 その中心に――「それ」はあった。

 木々が途切れた小さな空間に、青白い光が脈動していた。

 地面から突き出すように形成された巨大な魔力結晶。

 本来なら安定した魔力を放つはずの結晶が、今は不規則に震え、周囲の魔力を吸い込みながらタイミングもまばらに点滅している。

 その結晶の周囲には、見たこともない魔獣が群がっていた。

 植物でも獣でもない、魔力の塊が形を得たような異形。

 触手のような枝を伸ばし、結晶の魔力を啜るたびに形を変えていく。

 ネプトが息を呑む。


「……なんだよ、あれ……。あんなの、授業で聞いたことない」


 ディアナは矢を構えながら、目を細めた。


「魔力結晶の暴走……? でも、あの魔獣……形が安定してない。乱流域で生まれた……?」


 ヴェスタは震える声で言う。


「ど、どうします……? あれ、近づくだけで危なそう……」


 三人は自然と戦闘態勢に入りかけていた。

 だが――

 アレスだけは、結晶を見た瞬間に顔色を変えた。

 エリスが囁く。


(あの結晶、魔力が飽和しておる……! 下手に刺激したら、乱流域ごと吹き飛ぶぞ!)


 魔力の流れを読む彼女には、あの結晶が限界に近いことが分かったのだ。


「みんな、武器を下ろして! 戦っちゃダメだ!」


 ネプトが驚いて振り返る。


「は!? なんでだよアレス! あれ、放っといたら――」

「放っとくとかじゃない! あれは……僕たちの手に負える相手じゃない!」


 ディアナも眉を寄せる。


「でも、ミッションは乱流域の調査よ。ここが原因なら――」

「原因だからこそ、危険なんだ! 刺激して爆発とかしたら無事じゃすまない……!!」


 アレスの声は震えていたが、判断は迷いがなかった。

 ヴェスタが息を呑む。


「そ、そんな……爆発……?」


 アレスは頷き、すぐに腰のポーチから魔力灯を取り出した。

 緊急時に教師を呼ぶための信号魔道具だ。


「僕たちじゃ止められない。ここは……先生たちを呼ぶしかない!」


 アレスは魔力灯に魔力を流し込み、空へ向けて放った。


「緊急信号、発射!」


 青白い光が一直線に空へ昇り、乱流域の空気を切り裂くように輝いた。

 その光は、森の外にいる教師たちへ確実に届く。

 ネプトが焦り混じりに言う。


「アレス……本当に戦わなくていいのかよ……?」


 アレスは強く首を振った。


「『緊急事態は即撤退』だよ。戦ったら……全員命がないかも。あれは、僕たちの訓練レベルを超えてる」


 ディアナは矢を下ろし、深く息を吐いた。


「……分かったわ。あなたがそこまで言うなら」


 ヴェスタも頷く。


「アレスさん……信じます……」


 四人は結晶が見えなくなる位置まで大きく距離を取り、教師の到着を待つ体勢に入った。

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