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第五十七話 魔力乱流域

 朝の冷気がまだ森の奥に残る中、第3班は装備を整え、魔力乱流域へ向かう道を進んでいた。

 昨日の実戦訓練で得た手応えと疲労が混ざり合い、四人の足取りには緊張と期待が入り混じっている。

 森の木々は高く、朝日が差し込むたびに光の筋が揺れた。

 その中を、四人は自然と会話を交わしながら進んでいく。

 ネプトが背伸びをしながら言う。


「いやぁ……昨日のスラッグリザード、マジで重かったよな。ウルフの方がまだマシだった気がするぜ」


 ディアナが苦笑しながら返す。


「あなたは構築式なのに、いつも勢いで突っ込むからそう感じるのよ。あれは正面から受けたら危ないって言われてたでしょ?」


「わ、わたしも……火力で押し切れない相手って、初めてでした……」


 ヴェスタは少し肩をすくめながら言った。

 アレスは三人の会話を耳に入れながら、エリスのアドバイスを受けていた。


(アレス、昨日の戦いで皆の『役割』が見えてきたのう。今日の乱流域では、それがさらに重要になるぞ)

(うん、自分で言うのもあれだけど、僕は司令塔みたいなポジションだったし。基本、補助魔法でサポートしつつ、冷静に周りを見ることができれば……)


 ディアナが地図を見ながら眉を寄せる。


「魔力乱流域って……魔法の精度が落ちるんでしょ?」


 ネプトが横から覗き込みながら言う。


「でもさ、アレスが構築式で補助してくれれば、多少はマシなんじゃね? 直感式の俺が言うのもアレだけど」


 アレスは頷きながら答える。


「うん、魔力の流れを整える補助はできると思う。ただ、乱流域は『魔法陣そのものが揺らぐ』って聞いたから……僕も油断できないよ」


 ヴェスタが不安そうだが、頼るかのようにアレスの方を見つめてに言う。


「で、でも……アレスさんの補助があれば……わ、わたし……頑張れます……」


 ネプトが笑いながら肩を叩く。


「そうそう! アレスの補助はマジで頼りになるからな! まるで彼女のやさしさみたいに……って、何いってんだ、俺……」


 アレスは照れながらも、


(……ネプトの魅了、まだ残ってるな)


 と内心で苦笑した。

 そうしているうちに、足元には魔力の粒子が薄く漂い始めている。

 ここから先が、魔力乱流域――魔法の性質が歪み、感覚すら狂わせる危険地帯であった。

 四人は隊列を組み、慎重に進んでいく。

 先頭のアレスは、周囲の魔力の流れを読み取ろうと意識を集中させ、補助魔法をいつでも展開できるよう備えている。

 ネプトは荷物を揺らしながら、周囲の空気を嗅ぐようにして言葉を漏らす。


「なんか……空気がまとわりつく感じがするな。湿気じゃないよな、これ」


 ディアナは木々の葉を観察し、光の反射を確かめるように目を細めた。


「魔力の粒子が濃いのよ。葉の縁が光ってるでしょう? 乱流域の外側に入った証拠ね」


 ヴェスタは指先をこすり合わせ、驚いたように息を呑む。


「ほ、ほんとです……指が少し痺れます……」


 乱流域に近づくほど、魔力の流れは複雑に絡み合い、四人の魔法タイプの違いがそのまま戦術の差となって現れる。

 ディアナは周囲を警戒しながら、少し不安げに言葉を落とす。


「直感式のわたくしやヴェスタは……魔力の揺れに弱いのよね。わたくしの魔力一矢マジックアローも軌道がぶれたりして、狙いが定まらないとか」


 アレスは振り返り、落ち着いた声で答える。


「大丈夫。僕が魔力の流れを整えるよ。ディアナの矢は『狙い』が強いから、多少の乱れなら修正できるはず」


 ネプトは肩を回しながら、明るい声で続ける。


「俺は構築式だから、魔法陣が崩れなきゃなんとかなるけど……乱流域って、魔法陣そのものが歪むって話だよな?」


 アレスは頷く。


「うん。線が揺れたり、形が崩れたりする。だから僕も慎重に組み替えないと危ない」


 ヴェスタは胸の前で手を組み、少し震える声で言う。


「わ、わたしの火炎放射ファイアスローラーは……どうなるんでしょう……?」


 ネプトが即座に答える。


「火は乱流域で暴れやすい、って先生言ってたけど、ヴェスタのは出力の太さで押すタイプだから、むしろ威力が上がる可能性もあるってさ」


 ディアナが補足する。


「ただし、制御が甘いと暴発するわ。だからアレスの補助が必要になる」


 アレスはヴェスタに向き直り、優しく言葉をかけた。


「大丈夫。僕が魔力の流れを整えるから、ヴェスタはいつも通り撃てばいいよ」


 ヴェスタはほっとしたように微笑んだ。


 ◆


 やがて、森の景色がわずかに揺らぎ始めた。

 熱気の中にいるような、視界の歪み。

 葉の影が風とは逆方向に揺れる。

 ネプトが立ち止まり、目をこする。


「おい……道が揺れて見えるんだけど。俺、寝不足か?」


 ディアナは地図を確認し、眉を寄せる。


「違うわ。地図ではまっすぐなのに、視界では右に曲がって見える……」


 ヴェスタは息を呑む。


「こ、これが……魔力乱流域……?」


 アレスは空気の流れを読み取り、確信した。


「うん。道が曲がってるんじゃなくて、『僕たちの感覚』がずれてるんだ」


 四人は自然とアレスの周囲に集まり、隊列を整えた。

 すると、空気がぐにゃり、と歪んだような感覚が四人を包んだ。

 音の距離が変わり、風の向きが一定でなく、魔力の層がぶつかり合うような圧迫感が漂う。

 ディアナが矢を構えながら言う。


「……魔力の層が跳ねてる。矢を撃ったら、軌道が跳ね返されるかもしれない」


 ネプトは拳を握りしめる。


「なんか……身体が軽いのに、足元だけ重い感じがするな」


 ヴェスタは周囲を見回し、声を震わせる。


「音が……遠くなったり近くなったり……変です……」


 その時――

 茂みの奥で、葉が風とは逆方向に揺れた。

 アレスはすぐに手を上げる。


「……来る。乱流域の影響を受けたモンスターだ」


 四人は一斉に構え、乱れた魔力の中での戦闘に備えた。


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