第五十五話 パーティーバトル
「……ここ、魔力を集めるような魔法陣がある……!」
アレスは周囲を見回しながら呟く。
この開けた場所には、初級モンスターを召喚する魔法陣の区域が広がっていた。
教師が結界を張り、班ごとに安全を確保しながら戦闘を行う形式だ。
ネプトは拳を握りしめ、
「よし……やるぞアレス! 俺、今日は絶対やってやるからな!」
と気合十分。
ディアナは深呼吸しながら、
「落ち着いていきましょう。まずは距離を取って……」
と冷静に状況を見ている。
ヴェスタはいつものおどおどした様子が消え、
「……攻撃は任せてください」
と小さく、しかし芯のある声で言った。
エリスがアレスにアドバイスをする。
(アレス、まずは守りを固めるのじゃ。お主の補助があれば、皆が動きやすくなる)
(うん、わかったよエリスさん)
魔法陣から風が噴き出すと茂みが揺れ、二体のフォレストウルフが姿を現した。
低く唸りながら、こちらを警戒している。
「来るぞ……!」
アレスはすぐに詠唱に入った。
「守護防壁!」
「活兎飛脚!」
淡い光の膜が四人を包み、身体が軽くなる。
魔力の流れが整い、駆ける着地の衝撃が無くなり、反応速度が上がるのがわかる。
「おお……なんか身体が軽い!」
ネプトが驚きの声を上げる。
「これなら……いける!」
ディアナも弓状に展開した魔力の矢を構えた。
「じゃあ俺から行くぞ! 氷結加農!」
ネプトの掌から冷気が収束し、砲弾のような氷塊がウルフへと放たれた。
ドンッ!
氷の弾がウルフの足元をえぐり、動きを鈍らせる。
「ナイス、ネプト!」
アレスが声を上げる。
「へへっ、まだまだ行けるぞ!」
「次はわたくしよ……!」
ディアナが魔力を矢の形に収束させる。
彼女の魔法は精密さが売りだ。
「魔力一矢!!」
放たれた魔力の矢は一直線に飛び、ウルフの肩に突き刺さった。
「よし……命中!」
ディアナは息を整えながらも、確かな手応えを感じていた。
そして、最後にヴェスタが前に出る。
普段の彼女からは想像できないほど、その表情はきりっと引き締まっていた。
「……いきます。火炎放射!!」
ゴォォォォッ!!
炎の奔流が地面を舐めるように走り、フォレストウルフを一気に包み込む。
「うわっ……すご……!」
ネプトが思わず後ずさる。
ディアナも目を見開いた。
「ヴェスタ……こんなに火力あったの……?」
アレスは驚愕しながら呟く。
「火炎系の上位魔法!! 火の魔法だけなら……全力の僕よりも上だ……」
胸の奥でエリスがくすりと笑う。
(アレス、あの娘は火属性の適性が高いのじゃ。お主が驚くのも無理はない)
炎が収まると、ウルフは完全に戦闘不能になっていた。
教師が結界を解除しながら近づいてくる。
「よくやった第3班! 連携も悪くない。特にヴェスタの火力が予想以上だな」
ヴェスタは顔を赤くしながら、
「い、いえ……その……」
と小さく縮こまる。
ネプトは肩を叩きながら笑う。
「いやいや、ヴェスタすげぇよ! 俺、ちょっと惚れそうになった!」
「や、やめてください……!」
ヴェスタは慌てて眼鏡を押し上げた。
ディアナはネプトに対して白い目でみている。
「ネプト……あなたはわたくしにお熱なんじゃなかったの? でも……これなら、明日以降のミッションも行けそうね」
アレスはヴェスタにねぎらいの言葉をかける。
「すごいね、ヴェスタ!! 直感式っていってたけど、魔法発動のタイミングがとても速い! 僕の火炎散弾とは威力が桁違いだし」
すると、ヴェスタはキュンとして頬を赤く染める。
「ほ、褒めてもらって、こちらこそ……ありがとうございますっ!」
すると、胸の中でエリスがややむすっとした感じで独り言を思い浮かべた。
(またこのパターンか……って、わらわのこの反応、ネプトと同じではないか!)
フォレストウルフとの初戦闘を終え、息を整えていた第3班の前に、担当教師が歩み寄ってきた。
結界の外で控えていた他の教師たちも、次の準備を進めている。
「よし、第3班。次はスラッグリザードだ。フォレストウルフとはタイプが違うぞ。スピードではなくパワーと耐久で押してくる。戦い方を変えなければ通用しない。準備はいいな?」
ネプトが拳を握りしめる。
「もちろんです、先生!」
教師が結界を張り直し、森の奥へ向かって声を張る。
「スラッグリザード、三体! 出すぞ!」
地面がずるりと揺れ、ぬめった鱗を持つ三体のスラッグリザードが姿を現した。
低い姿勢で地を這いながら、じりじりと距離を詰めてくる。
「うわ……ウルフより迫力あるな……」
ネプトが思わず後ずさる。
「落ち着いて。あれはそんなに速くない。つまり近づかなければ安全ってこと」
ディアナが冷静に言う。
ヴェスタは眼鏡を押し上げ、
「火力だけじゃ……押し切れないかも……」
と呟いた。
アレスはすぐに詠唱に入る。
「守護防壁!」
光の膜が四人を包み、衝撃耐性が上がる。
アレスがオーダーを出す。
「ネプト、敵にデバフをかけるから、距離を取って牽制して!」
「任せろ!」
ネプトは後方に下がり、両手を構える。
「氷結加農!」
氷の砲弾がスラッグリザードの足元を凍らせるが、それはほんの一瞬に過ぎず、パワーで氷を破壊してくる。
「うそ、ネプトの魔法で足止めができないの!? なら……!」
ディアナが驚きの声を挙げつつも、即座に応戦のため構える。
「魔力一矢!」
鋭い矢がリザードの目元をかすめ、注意を引きつける。
そこで、アレスが補助魔法を発動させる。
「防御低下! 緩和攻撃!」
相手の防御力と攻撃力を低下させるのは、忘れ去られた迷宮のアーマーゴーレム戦と同様だ。
その隙を狙って、ヴェスタがとどめの一撃を放つ。
「い、行きます……! 火炎放射!!」
ゴォォォッ!!
炎の奔流がリザードたちを包むが、フォレストウルフのように一撃で倒れない。
「くっ……やっぱり耐久が……!」
ヴェスタが歯を食いしばる。
アレスは驚きながらも状況を読む。
(火力は十分……でも、スラッグリザードは火に耐性があるのか……!)
胸の奥でエリスが囁く。
(アレス、あやつらは重い一撃を持っておる。ヴェスタを狙われれば危険じゃぞ)
二体は倒したが、最後の一体が炎を抜けて突進してきた。
「きゃっ……!」
ヴェスタが後退する。
スラッグリザードは尾を振り上げ、一撃で人間を吹き飛ばすほどの重さを持つ尾撃を放とうとしていた。
「ヴェスタ、下がって!!」
アレスが叫び、瞬時に詠唱した。
「火炎散弾! 連射!!」
ババババッ!!
複数の小さな火球が散弾のように放たれ、スラッグリザードの尾撃と正面衝突する。
衝撃が相殺され、尾の勢いが止まった。
「アレスさん……すごい……!」
ヴェスタが息を呑む。
エリスも満足げに合格点を出す。
(よい判断じゃ、アレス。数の力で力を抑えつつ、的確に『重さ』を中和したのう)
「今だ、ネプト!」
アレスが叫ぶ。
「任せろ! 氷結投槍!!」
氷の槍がスラッグリザードを突き刺さる。
「ディアナ!」
「わかってる!」
ディアナが魔力矢を三本同時に生成し、放つ。
「三連魔矢!!」
矢がリザードの急所を正確に貫き、最後の一体が地面に倒れ込んだ。




