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第五十三話 キャンプだ、ホイッ

 砂浜から森へと続く細い道を、後期入学組の生徒たちが列を組んで歩いていく。

 アレスは第3班の仲間――ネプト、ディアナ、ヴェスタと並び、荷物の重さを肩で受け止めながら進んだ。

 森の入口は薄暗く、木々が高く伸びて空を覆っている。


「うわぁ……この森って、こんなに暗いんだな」

「昼間なのにね……夜になったらどうなるのかしら」

「こ、ここで……ほんとに寝泊まり……するんですよね……?」


 ネプトは森の奥まで目を凝らして感想を漏らす。

 ディアナは肩をすくめ、周囲を警戒するように見回した。

 ヴェスタは緊張で足取りがぎこちなく、不安げに呟く。

 アレスは三人の様子を見守りながら、エリスのアドバイスを受ける。


(アレス、気を抜くでないぞ。この森……魔力の流れが複雑じゃ。忘れ去られた森よりも、若干レベルが高いモンスターもおる。わらわが補助してやるから、歩みを乱すでない)

(うん、エリスさん。ありがとう)


 森を抜けると、開けた広場が現れる。

 地面は平らに整えられ、周囲には簡易トイレや水場が設置されている。

 中央には大きな掲示板があり、班ごとのテント配置図が貼られていた。

 教務主任のエンディ先生が声を張り上げる。


「ここが宿営地だ! 班ごとにテントを張り、荷物を整理しろ! 初日は環境に慣れることを優先する! 森に入るのは明日からだ!」


 生徒たちは一斉に動き出し、テントを運び始めた。


「よし、俺たちもやるか!」


 ネプトが張り切ってテントを抱え上げる。


「ちょ、ちょっと待ってネプト! それ一人じゃ無理よ!」


 ディアナが慌てて支える。

 ヴェスタは説明書を震える手で広げ、必死に読み上げていた。

 アレスは三人の動きを見ながら、自然と指示を出す。


「ネプト、そっちのポール持って。ディアナはロープを固定して。ヴェスタ、説明書のその部分もう一回読んでくれる?」

「う、うん……! こ、ここを……こう……!」


 四人はぎこちないながらも協力し、やがてテントが形になっていく。

 エリスは満足げに囁いた。


「ふむ……悪くない連携じゃ。明日の実戦でも、この調子でいけばよい」

「ありがとう、エリスさん。みんな頑張ってるよ」


 アレスは汗を拭いながら、仲間たちの笑顔を見た。

 テントが張り終わる頃には、空は夕焼けに染まり始めていた。

 森の影が長く伸び、虫の声が響き始める。


「ふぅ……疲れたぁ……!」


 ネプトが地面に倒れ込む。


「でも、なんとか形になったわね」


 ディアナが満足げにテントを見上げる。


「み、みんなでやれば……できるんですね……」


 ヴェスタは胸を撫で下ろしながら小さく笑った。


 ◆


 夕暮れが森の端に沈み、トリナ島の宿営地には焚き火の光が揺れていた。

 マジクラフト後期入学組は全員、中央の広場に集まり、簡易テーブルに並べられた夕食を受け取っていく。

 メニューは野外訓練らしく、温かいスープと焼きパン、保存肉の煮込み。

 第3班の四人も列に並び、皿を受け取って腰を下ろした。


「うわぁ……外で食べると、なんか美味しく感じるな!」


 ネプトはスープを一口飲んで、満面の笑みを浮かべた。


「それはあなたが単純なだけじゃない?」


 ディアナが呆れたように言うが、口元は少し緩んでいる。

 ヴェスタは湯気の立つスープを両手で包みながら、


「で、でも……こういうの、ちょっと憧れてました……。みんなで外で食べるのって……なんか、冒険者みたいで……」

 

 と小さく笑った。

 いっぽうアレスは、この食事の味付けについてだとか、焼き方の工夫といった料理法について、何やらブツブツ口にしながら、思案しているようだった。


「アレスさんって、お料理にこだわりがあるんですか?」


 気になったヴェスタがアレスに声をかける。

 すると、アレスは謙遜しながら応える。


「お弁当とか、僕、いつも自分で作っているんだよね。それに、じいちゃんと住んでいた時は僕が料理作ってたし」

「……え? じゃあ、前に入学試験の時のお弁当もアレスさんが??」

「そうだよー」

「あ、あれ……ものすごくおいしかったんですよぉ! ほんとに、ありがとうございましたっ! おかげで試験に受かりましたから!」


 ヴェスタはメガネの底から目を潤ませながら、何度も何度も感謝の言葉を述べている。

 それを耳にしていたディアナは、興味津々に話に割り込んできた。


「それは聞き捨てならないですね! いつものお弁当が自作だったとは! ぜひ詳しく」


 ここで、ネプトは嫉妬にも似た三枚目的なセリフを投げつけた。


「また君か、どこまでレディたちのハートを射抜けば気が済むんだい?」


 するとここで、そんな雰囲気をリセットするかのように、エンディ先生が声を上げた。

 生徒たちは焚き火の周りに円を描くように座り、静かに耳を傾ける。 


「いいか! これからカンファレンスを行う。安全にもかかわる重要な内容だ! 心して聴くように」

 

 続いて、セレナ先生が発言する。


「今回のトリナ島合宿は、三段階にわける。まずは班ごとの連携確認だ。明日からは教師の監督下で、初級モンスターとの実戦訓練を行う。森の中での立ち回り、索敵、撤退判断――すべてが試されるぞ」


 ネプトが小声でアレスに囁く。


「初級って言っても、やっぱり怖いよな……」

「大丈夫だよ。僕たち、ちゃんと訓練してきたし」


 アレスは落ち着いた声で返した。

 そんな中、まだまだ先生の話は続く。


「中盤では、班ごとにミッションを与える。指定地点への到達、植物の収集、魔獣の巣の確認など、内容は班によって異なる」


 ディアナが眉をひそめる。


「遺跡調査って……絶対なんか出るじゃない」

「で、でも……みんなでやれば……なんとか……」


 ヴェスタが小さく励ますように言った。

 さらにセレナ先生は力を込めて話す。


「終盤は昼夜を通したサバイバルだ。食料管理、火の維持、夜間警戒、天候への対応――班の総合力が問われる」


 ネプトが思わず声を上げる。


「昼夜!? 寝れるのかそれ!?」

「寝る時間は班で調整するのよ」


 ディアナが呆れながらも笑った。

 アレスは三人のやり取りを聞きながら、

 そして先生は最後に、強い口調で言った。


「ただし、何よりも安全が最優先だ。体調不良、怪我、恐怖心の増大――どんな理由でも構わない。ギブアップしたい場合は、魔力灯を高く掲げろ。教師がすぐに駆けつける」


 その言葉に、生徒たちは少しだけ安心した表情を見せた。

 そしてミーティングが終わり、班ごとにテントへ戻る途中。

 第3班の四人は、焚き火の残り香を感じながら歩いていた。


「なんか……思ってたより本格的ね」


 ディアナが腕を組みながら言う。


「でも、ワクワクするよな! 俺、ミッションとか絶対燃えるタイプだし!」


 ネプトは胸を張って笑う。


「わ、わたしは……その……みんなで協力すれば、きっと……」


 ヴェスタは不安と期待が入り混じった声で呟いた。

 アレスは三人の顔を順に見て、励ます。


「大丈夫。僕たちならできるよ。明日はまず連携確認だし、焦らなくていい」


 こうして、第3班のメンバーはそれぞれテントでの床に就くのだった。

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