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第五十一話 合宿前のお買い物

 魔道術専門学校マジクラフトでは、座学や基礎訓練だけでは身につきずらい連携力を育てるため、半期ごとのこの時期に、島でのキャンプ形式の実地訓練が行われる。

 アレスたちの学年も例外ではなく、入学から二ヶ月が経ち、ようやく班としての形が整い始めた今、いよいよ実戦形式の合宿に臨むことになった。

 キャンプで使われるトリナ島は、首都エースターから船で半日ほどの距離にある小島で、島の大半が深い森に覆われている。

 古い魔道遺跡が点在し、初級モンスターが自然繁殖していることから、訓練にはうってつけの環境だった。

 学校側はこの島を「実地指導の場」と位置づけ、班ごとに森へ入り、索敵・連携・戦闘・撤退の一連の流れを直接体験させている。

 座学で学んだ魔法理論や、校内での模擬戦では決して得られない現場の空気を知ることが目的であり、同時に班の結束を深めるための重要な行事でもあった。

 合宿に向けて、各班は必要な備品やキャンプ道具を自分たちで揃えることになっていた。

 テント、調理器具、保存食、魔力灯、簡易結界具、応急処置キットなど、必要なものは多い。

 学校側は最低限の安全装備だけを支給し、それ以外は班の判断に任せる。


「これも訓練の一つだ。現場では、必要なものを、自分たちで判断して揃えなきければならない」


 セレナ先生の説明に、アレスたち第3班は頷きながらも、買い出しリストの多さに少しだけ気圧されていた。

 班での買い物は、自然と役割分担や意思決定の練習になる。

 誰が何を持つか、どれだけの量が必要か、予算内に収めるにはどうするか――こうした小さな判断の積み重ねが、実戦での連携に直結する。

 アレスはリストを見ながら、班の仲間と相談していた。


「保存食はこれくらいで足りるかな? あ、魔力灯は予備もあった方がいいよね」

「テントは二つで十分よ? 男女で分けるし」

「結界具は……安いのは不安です。中級のにしておきますか?」


 そんなやり取りをしながら、班は自然とまとまりを見せていく。

 しかし、相変わらずネプトはその明るさが時に暴走し、ディアナを困らせることも多い。


「ディアナ! 合宿のテントは僕が運ぶよ! 重いのは任せて!」

「い、いいから……! わたくしは自分で持てるってば……!」


 ディアナはネプトの幼馴染で、彼からの好意を真正面から受け止めきれず、いつも微妙な距離を保っている。

 それでも、ネプトの明るさに救われている部分もあるのだろう。

 彼女の表情は、完全に拒絶しているわけではなかった。

 ヴェスタはその二人のやり取りを、眼鏡の奥からおずおずと見守っていた。


「え、えっと……あの……保存食、これで足りますか……?」


 声は小さいが、班の中で最も慎重で、必要なものを漏らさないタイプだ。

 アレスはそんな三人の間に入り、自然と調整役になっていた。


「ヴェスタ、ありがとう。保存食はそれで十分だと思うよ。ネプト、ディアナの荷物は本人に任せてあげなよ」

「えっ、あ、そっか……ごめんディアナ!」

「いいのよ、別に。わたくしは自分ができる仕事をするのだから。そのかわり、あなたも自分の仕事をなさい」


 大統領の息子であるネプトが同じ後期入学組にいるため、学校側は安全確保に特別な配慮をしていた。

 ネプト本人は気さくで、身分を鼻にかけるような性格ではないが、立場上どうしても警備が必要になる。

 そのため、サジタリウス班が買い物に出る際も、ネプトの背後には常に大統領警備隊の影があった。

 黒いスーツに身を包んだ護衛たちは、一定の距離を保ちながら班の動きを見守っている。


「ごめん、みんな……。俺のせいで、なんか物々しくなっちゃって」


 ネプトが申し訳なさそうに言うと、アレスは笑って肩を叩いた。


「気にしないでよ。ネプトのせいじゃないし、護衛の人たちも仕事なんだから」

「そうそう。むしろ安心よ? あ、でも、だったら荷物持ちを手伝ってくれないかしら?」

「そ、それは無理だと思います……」


 そんな流れの中で、ヴェスタがアレスを見つめ、ふと口を開いた。


「そういえばアレスさんって、髪を切ったんですね……!」


 アレスもはっと思い出したように応える。


「そうだ、僕の友達がさ……カットモデル探してるんだ。練習したいって」


 ディアナが目を瞬かせる。


「え、カットモデル? 美容師さんの?」

「うん。幼馴染の女の子で、僕、この間切ってもらったんだけど……よかったら二人もどうかな? 女性の髪も練習したいって言ってたし」


 ディアナは少し驚いたように頬に手を当て、ヴェスタは眼鏡を押し上げながら小さくうなずいた。


「わ、わたくしでよければ……ぜひっ!!」

「私も……アレスさんの幼馴染さんなら、安心だし……」


 アレスは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、紹介するよ。きっと喜ぶと思う」


 一方、そんなやりとりを傍から横目にしていたネプトは、羨ましそうにつぶやいた。


「アレス……なんで君は、女性陣を虜にするような技を使えるんだ!?」

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