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第四十三話 一撃必殺

 キャンクローは巨大な鋏を肩に担ぎ、マケは低く身を沈めて対峙した。


「……またお前かよ、猫……今度は逃がさねぇ」

「にゃ……今回は決着つけるにゃ」


 二人は同時に踏み込み、鋏と爪が火花を散らす。


 ガァンッ! ギィィンッ!


 キャンクローの鋏は重く、マケの爪は鋭い。

 だが、どちらも決定打にならない。

 互いに一撃を入れ、互いに距離を取り、互いに呼吸を整える。


(……やっぱり、物理戦じゃ互角にゃ……このままじゃラチがあかないにゃ……)


 マケは胸の奥に潜む影の魔力を引き上げた。

 爪が黒く染まり、影が滴るように揺らめく。


「……来るかよ、その技……!」


 キャンクローの顔が強張る。

 暗部鍵爪シャドウクロー――影を媒介に内部から破壊する一撃必殺。

 だが、発動には一瞬の「溜め」が必要で、その間にカウンター攻撃されればマケは終わり。

 キャンクローはそれを知っている。

 だからこそ、キャンクロー自身も一切の隙を見せない。


「来いよ……その爪、受け止めてやる……!」

「いくにゃ……!!」


 二人は動かない。

 一歩踏み出せば死ぬ。

 そんな緊張が張り詰める。

 キャンクローの大鋏が横薙ぎに振るわれ、マケはそれを紙一重でくぐり抜ける。


「にゃっ……!」


 すぐさま反撃に転じ、爪でキャンクローの脇腹を狙うが、鋏の柄で弾かれる。


 ガキィンッ!


「一撃必殺がくるってわかってちゃ、わざわざ隙なんか見せねぇよ!」


 キャンクローは笑いながらも、一瞬たりとも視線をマケから外さない。

 マケは距離を取りながら、胸の奥で考えていた。

 ふと、夕方の路地裏での戦いが脳裏をよぎる。

 あの時も、互いに決め手を欠いたまま終わった。


(……ダメにゃ。この距離、この構え、この警戒心……正面から飛び込んでも、絶対に弾かれるにゃ)


 ここで、いったん間合いを両者がとると、キャンクローが告げる。


「さてと、今度はこっちの番だ。てめぇとの因縁、ここで終わらせるぜ……!」


 キャンクローは大鋏をゆっくりと構え直し、その刃を互いに擦り合わせた。

 ギリ……ギリギリギリッ……!

 金属が悲鳴を上げるような音が亜空間に響き、刃の間から黒い火花が散る。

 マケの耳がぴくりと動く。


(……にゃ……この音……来るにゃ……!)


 キャンクローの全身から、

 黒紫の魔力が噴き上がった。


「――断罪裂鋏ジャッジメント・シザーズ!!」


 叫びと同時に、キャンクローは大鋏を大きく開いた。

 その刃の間に、空間そのものに裂け目ができはじめている。


「にゃっ……あれに刻まれたら……!」


 マケの目に、刃の間に走る黒い亀裂が映る。

 それはただの斬撃ではない。

 空間ごと切断する必殺技。

 キャンクローは地を蹴り、一直線にマケへ突進した。


「一撃必殺ってのはなぁ、こぅやるんだよォォォッ!!」


 大鋏が閉じる瞬間、空間が悲鳴を上げた。


 バキィィィィィンッ!!


 白黒の床が割れ、黒い裂け目が一直線に走る。

 マケは紙一重で跳び、頬をかすめた衝撃で毛が逆立つ。


「にゃっ……危なっ……!」


 キャンクローは振り返り、大鋏を再び開いた。


「もう一発だァァァ!!」


 刃の間に再び黒い亀裂が走り、空間が吸い込まれる。

 マケは悟った。


(……この技……まともに食らったらおわりにゃ……避けるだけじゃ、いつか捕まるにゃ……隙を……作らにゃいと……!)


 キャンクローは大鋏を構え、殺意をむき出しにして彷徨する。


「終わりだ、猫ォォォ!!」


 その迫力は、まさに死神の刃そのものだった。 

 近づけない。

 一歩踏み出せば、大鋏に切断される未来が見える。


(……じゃあ、どうするにゃ……? どうやって、崩すにゃ……? せいぜい、影の先くらいまでしか触れられないにゃ……かげ……ん? もしかするとにゃ……)


 マケは一度、爪に込めた影の魔力をわざと弱めた。

 黒い輝きが薄れ、爪の周りの影が静まる。

 キャンクローの口元に、わずかな嘲笑が浮かぶ。


「……ビビったか?」

「にゃ……そう思うなら、勝手にゃ」


 マケは肩の力を抜いたように見せ、あえて普通の爪で飛び込んだ。


「はあっ!」


 キャンクローは断罪裂鋏ジャッジメント・シザーズをやめ、余裕を持って鋏を振るい、その爪を弾き返す。


 ガキィンッ!


「そんな攻撃、効かねぇって言ってんだよ!」


 マケは弾かれる勢いを利用して、大きく後ろへ跳んだ。


(……今のでいいにゃ。『もう必殺技は引っ込めた』って思わせるにゃ)


 着地した場所は、キャンクローの影が伸びている方向。

 白黒の床に落ちる、濃い黒のシルエット。

 マケの足元の影と、キャンクローの影が、じわりと重なり合う。


(……ここにゃ。影と影が重なった場所。ここなら、暗部鍵爪シャドウクローを『影越し』に通せるにゃ)


 キャンクローは、マケの着地点など気にも留めていない。


「逃げんなよ、猫!」


 一気に距離を詰めようと、前へ踏み込む。

 マケは横へ跳び退く。

 キャンクローが追撃に移ろうとしたその瞬間。

 その影が、マケの影と完全に重なった。

 マケの瞳が全開になる。


「……にゃ……今にゃ!!」


 マケは影を媒介にして暗部鍵爪シャドウクローを発動した。

 影が裂け、黒い爪がキャンクローの背後から飛び出す。


「なっ……後ろ……!? 影から……!」


 避けられない。

 キャンクローは咄嗟に鋏を盾にするが――


 ガギィィィンッ!!


 鋏が内部から砕け、キャンクローの胸に深い傷が走る。


「ぐああああっ……!」


 キャンクローはそのまま倒れ込んだ。

 マケはぜぇぜぇ息を切らせながら、倒れたキャンクローを見つめた。


「……ふぅ……これで……勝負はついたにゃ」


 マケは静かに目を閉じ、エリスのもとへ意識を向けた。

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