第三十五話 構築式と直感式
アレスたちは魔導士のタイプについて講義を受けていた。
セレナ先生が黒板に魔法陣を描きながら説明する。
「魔導士は『構築式』と『直感式』に大別される。諸君らはまず、自分がどちらに向いているかを知れ」
班ごとに議論が始まる。
ディアナは優雅に手を挙げた。
「わたくしは……直感式寄りね。魔力の流れを感じ取る方が、しっくりくるの」
ネプトはディアナにかぶせるように、軽く笑いながらしゃべりだす。
「俺は構築式だよ。ディアナとは違う。でもそれは、お互いを永遠に補完しあう関係にあるってことだ。素晴らしいじゃないか!!」
「な、なにを言ってるの……?」
ディアナはネプトに白い目を向けている。
アレスは自分の番になると、真面目に答えた。
「僕は構築式。魔力の流れを『形』として組み立てる方が得意なんだ」
ネプトが興味深そうに言う。
「へぇ……アレスって直感式派に見えるのに。構築式なんだね」
「うん。理論がある方が安心するから」
ヴェスタはおずおずと手を挙げた。
「わ、わたしは……直感式……です。難しいこと考えちゃうと……パニックになっちゃうし……」
アレスは意外そうに彼女に尋ねる。
「ヴェスタも、意外だね。もっと理論派かと思ってた」
「ひゃっ……! い、いえ……その……」
こうしてみると、魔導士といってもそれぞれに個性があるものだな、とエリスは興味津々だった。
頭の中で、アレスに話しかける。
(じゃが、わらわは当然、直感式じゃな。何かあれば、自然と体が動いておる)
(マケもそんな感じ。使い魔も主と似てくるのかな? アーテーさんは構築式だろうし)
(ふむ。ならば、わらわとアレスも、ネプトが言うように補完関係にあるのかもしれんな)
(でもそれって、同じ身体を動かすとなるとなんかタイムラグとかできそう……)
(そうならないための、訓練じゃ!)
◆
魔力を細く伸ばし、魔導石に触れさせる訓練。
ネプトは繊細な魔力操作を見せた。
「んー、こう、だな?」
魔力の糸がすっと伸び、魔導石に触れる。
ヴェスタが目を輝かせた。
「わぁ……! ネプトさん、すごい……」
ネプトは調子に乗って、もっと褒めてほしいとばかりに煽る。
「でしょ、でしょっ? 俺みたいな構築式は……こういうの得意」
ヴェスタはネプトの声で集中力が途切れ、魔力が震えてしまう。
「ひっ……ま、また切れちゃった……!」
アレスがそっと声をかける。
「ヴェスタ、深呼吸して。直感式は『感じる』方が大事だよ」
「は、はい……!」
アレスの助言で、ヴェスタの魔力は少しずつ安定していった。
その様子を見て、ディアナが優しく微笑む。
「アレスくんって、本当に頼りになりますね。教え方も丁寧で……素敵」
「はぁ、もぉっ、ディアナはアレスに甘いなぁ」
ネプトはその横で、ちょっとむくれたようにアレスを見つめていた。
「構築式なのに、直感式の教え方もできるなんて……君、本当に面白いよ」
◆
続いては、校門を出ての学習。
魔道術専門学校から徒歩でもほど近い、魔導植物園は、自然魔力が満ちた静かな場所だった。
ネプトは植物の魔力を観察しながら、ディアナは優雅にスカートを押さえながら歩き、ヴェスタはおずおずと後ろをついてくるが、時折アレスの方を見ていた。
ネプトがアレスに語りかける。
「アレス、こういう自然魔力の場は好き?」
「うん。落ち着くよ。もともとここに近い環境で修行してたしね」
「修行、ですか?」
ヴェスタが珍しく、話に加わってくる。
「うん、じいちゃん……師匠に弟子入りして、魔導士免許初段取ってから半年ね」
「クロノス様の? 御多忙で弟子はとらないってお話を伺ったことが……」
ディアナも興味津々に顔を出す。
「……うん。まぁ身内だからと言っちゃうと身もふたもないけど、もともと生まれた時から一緒に住んでたし。父さんと母さんは遠征も長いし、ばあちゃんも亡くなって独りじゃ寂しいだろうしって。でも忙しいのは本当で、もっといろいろ修行するために学校へ来たんだ」
アレスが身の上のあらましを話すと、ネプトは感心した様子だった。
「なるほどねー。君はほんとにまっすぐなんだなっ! 好きだぜ、そういうの!」
アレスの内側に潜むエリスも、改めてアレスが自分とはまったく異なる環境で成長してきたのだと実感する。
戦いが大きなウェイトを占める魔族において、心の底では平穏さに憧れている彼女は、アレスがちょっぴり羨ましくもあった。
そんな時──
ヴェスタが小さな声で呼んだ。
「あ、アレスさん……これ……」
彼女の指先には、黒い霧をまとった実があった。
触れた瞬間、ヴェスタの魔力が乱れ始める。
「ひっ……な、なにこれ……!」
ネプトがすぐに支える。
「ヴェスタ!」
ディアナは顔色を変えた。
「これって、闇の魔力……!?」
エリスも穏やかな気持ちが豹変し警戒する。
(アレスよ、これは……)
すると、アレスは迷わず即刻ヴェスタの手を取り、自分の白系の魔力をほんの少しだけ流し込む。
淡い光がヴェスタの手を包み、乱れが収まっていった。
ヴェスタは涙目でアレスを見上げた。
「あ、ありがとう……アレスさん……」
アレスはほっとして大きく息を吐いた。
「大丈夫。もう平気だよ」
ディアナは胸を撫で下ろした。
「本当に……助かったわ。アレスがいてくれてよかった……」
そのような中、ネプトは静かにアレスを見つめていた。
そして、次には満面の笑みで言う。
「やっぱり……君は『普通』じゃないね」
アレスは息を呑んだ。




