表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/63

第三十三話 放課後のお茶会

 学校内の空気に、少しだけ冬の冷たさが混じり始めた頃。

 オットー、ディアナ、ヴェスタ、そしてアレスは「班としての距離を縮めよう」という話になった。

 魔法訓練でも座学でも息は合うのに、いざ放課後になると、遊びに行くといったプライベートな時間をとりにくい理由があった。

 最大の問題は、オットーである。

 大統領の息子という肩書きは、彼自身の望む望まないに関わらず、常に護衛を引き連れる生活を強いていた。

 学園内では護衛もなく、自由に動けるので本人ものびのびとしているが、いざ校門から足を踏み外せば行動範囲が限られる窮屈な生活。

ましてや「放課後に4人だけで集まる」など、ほとんど不可能に近い。

 そこでディアナが言い出したのだ。


「たまには、みんなでお茶でもしない?」


 その一言にアレスは即座に乗り気になり、ヴェスタも「楽しくなりそうですね~」と頷いた。

 ただ、普段は陽気なオットーでも、ここでは表情が曇る。

 

「俺は行きたいんだけど……護衛がね。結界内の学校なら問題ないんだけど、外で4人だけっていうのは、どうしても難しいんだよなぁ……」


 アレスが腕を組み、ヴェスタはため息をつき、ディアナは「うーん」と唸る。

 このままでは、せっかくの親睦会が流れてしまう。

 そこで、ぽつりとアレスが言った。


「……じゃあさ。学校の中でお茶すればいいんじゃない?」


 3人が同時にアレスを見る。


「例えば、空き教室。あそこなら外部の人間は入れないし、監視もなし。護衛は駆け付けられる距離で外で護っていてくれる上に、学校だから危険物の持ち込みも制限されてる。護衛も安全が保証されてるならって納得するはず」


 ディアナがぱっと顔を明るくし、ヴェスタも「なるほど」と感心したように頷いた。

 オットーも目を瞬かせたあと、大きく笑った。


「うぉぉぉっ、それは目からウロコってやつだ! 俺、さっそく警護に掛け合ってみるからちょっと待ってくれ!」


 こうして、4人の「放課後のお茶会」は、校舎の隅にある、ほとんど使われていない空き教室に決まった。

 学校への申請は書類の処理に長けたヴェスタが行い、即日許可が下りた。

 オットーのスケジュール管理は大統領府の警護担当が行っているため、さすがに翌日というわけにはいかなかったが、それでも安全が担保された場所、ということで数日後には検査付きで許しが出た。 


「ここなら護衛も納得するだろ。校舎内じゃ先生方の目もあるし、見通しもいい」


 オットーが鍵を開けながら言うと、アレスはほっとしたように返す。


「うん、これなら僕も大丈夫だと思う。でも、毒見というか、探知魔法で検査することになるとは思わなかったけれど」

「まぁ、手作り品だと毒のリスクとかもあるからね」


 ◆

 

 その後、ティータイムの準備に向けて、各自が持ち寄り品を用意することになった。

 アレスは自慢の料理の腕で手作り菓子を作ることになり、もはや授業の時よりも全力である。


「よーし、今日は気合い入れるぞ!」


 部屋のキッチンでアレスが腕まくりをすると、自分の腹がぐうぅぅぅ、と鳴った。

 それは半身のエリスのせいであったが、胃まで共有するアレスも腹が減ってきた。


「アレスの試作品、わらわが味見してあげるのじゃ!」

「エリスさん、それ、味見って言えば何でも食べられると思ってない?」

「思っておる! それに、お主が味見をすれば、自動的にわらわの腹も膨れる。誰も困らんじゃろ!?」


 だがアレスもまんざらではなく、むしろ嬉しそうに生地を混ぜ始めた。

 そこへ、匂いにつられたのかアーテーとマケもやって来る。


「またアレス様が何か作ってるかにゃ? ……って、うまいにゃっ!?」


 マケは人の姿でクッキーを一枚つまんで目を丸くした。


「アレスどの料理は絶品ですからね。エリス様とは違って」


 と、アーテーが当然のように刺す。


「おいっ!  なんでそこでわらわの名前が出るのじゃ!」


 エリスが抗議するが、アーテーは肩をすくめるだけ。


「だって事実ですから。昔、村で砂糖と塩の量を桁数レベルで間違えて――」

「やめろぉぉぉ!」


 部屋内にエリスの悲鳴が響いた。

 一方、マケはというと、皿の上の焼き菓子をじっと見つめていた。


「……そういえばマケ、さっきも味見してたけど、猫ってお菓子食べられるの?」


 アレスが恐る恐る聞くと、マケはこくりと頷く。


「私は猫じゃないにゃ。魔族の一種だから、人間の食べ物も大丈夫。甘いの、大好きにゃ」

「おお、そうなんだ。じゃあ遠慮なく食べてよ?」


 マケは嬉しそうに左手をふわりと揺らしながら、クッキーをぽりぽりと食べ始めた。


「しあわせにゃ……」


 その一言に、アレスは思わず照れた。


 ◆


 当日の放課後、空き教室に4人が集まる頃には、部屋には甘い香りが充満していた。

 ディアナは紅茶のセットを、ヴェスタは上品な焼き菓子を、オットーは護衛に許可された範囲で果物を持参している。


「なんだかんだで、ちゃんとしたティータイムになったわね」

「もう、この空間だけで天国に来た気分です……」


 ディアナが微笑むと、ヴェスタも嬉しそうに頷いた。


「うん。俺、こういうの、ずっとやりたかったんだ!!」


 オットーも、本当に待ちわびていたことがあふれ出るくらい、嬉しそうだ。

 そしてアレスは、みんなの前に自信作のタルトを並べた。


「さあ、食べてよ!」

「わあ……すごい!」

「アレス、これ売れるレベルだぜっ!!」

「アレスくん、って、やっぱり料理上手いわよねぇ」


 みんなは口々にその味への絶賛をしながら、言葉と交互にほおばっていく。

 しかしオットーは、その合間にディアナへの甘い口説き文句を、ブレることなく浴びせようとする。


「でも君の方がこのお菓子たちより、はるかにとろけそうになるよ?」

「だから私は塩対応になってるのよ!!」


 ディアナのあしらいは今日も続く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ