第三十三話 放課後のお茶会
学校内の空気に、少しだけ冬の冷たさが混じり始めた頃。
オットー、ディアナ、ヴェスタ、そしてアレスは「班としての距離を縮めよう」という話になった。
魔法訓練でも座学でも息は合うのに、いざ放課後になると、遊びに行くといったプライベートな時間をとりにくい理由があった。
最大の問題は、オットーである。
大統領の息子という肩書きは、彼自身の望む望まないに関わらず、常に護衛を引き連れる生活を強いていた。
学園内では護衛もなく、自由に動けるので本人ものびのびとしているが、いざ校門から足を踏み外せば行動範囲が限られる窮屈な生活。
ましてや「放課後に4人だけで集まる」など、ほとんど不可能に近い。
そこでディアナが言い出したのだ。
「たまには、みんなでお茶でもしない?」
その一言にアレスは即座に乗り気になり、ヴェスタも「楽しくなりそうですね~」と頷いた。
ただ、普段は陽気なオットーでも、ここでは表情が曇る。
「俺は行きたいんだけど……護衛がね。結界内の学校なら問題ないんだけど、外で4人だけっていうのは、どうしても難しいんだよなぁ……」
アレスが腕を組み、ヴェスタはため息をつき、ディアナは「うーん」と唸る。
このままでは、せっかくの親睦会が流れてしまう。
そこで、ぽつりとアレスが言った。
「……じゃあさ。学校の中でお茶すればいいんじゃない?」
3人が同時にアレスを見る。
「例えば、空き教室。あそこなら外部の人間は入れないし、監視もなし。護衛は駆け付けられる距離で外で護っていてくれる上に、学校だから危険物の持ち込みも制限されてる。護衛も安全が保証されてるならって納得するはず」
ディアナがぱっと顔を明るくし、ヴェスタも「なるほど」と感心したように頷いた。
オットーも目を瞬かせたあと、大きく笑った。
「うぉぉぉっ、それは目からウロコってやつだ! 俺、さっそく警護に掛け合ってみるからちょっと待ってくれ!」
こうして、4人の「放課後のお茶会」は、校舎の隅にある、ほとんど使われていない空き教室に決まった。
学校への申請は書類の処理に長けたヴェスタが行い、即日許可が下りた。
オットーのスケジュール管理は大統領府の警護担当が行っているため、さすがに翌日というわけにはいかなかったが、それでも安全が担保された場所、ということで数日後には検査付きで許しが出た。
「ここなら護衛も納得するだろ。校舎内じゃ先生方の目もあるし、見通しもいい」
オットーが鍵を開けながら言うと、アレスはほっとしたように返す。
「うん、これなら僕も大丈夫だと思う。でも、毒見というか、探知魔法で検査することになるとは思わなかったけれど」
「まぁ、手作り品だと毒のリスクとかもあるからね」
◆
その後、ティータイムの準備に向けて、各自が持ち寄り品を用意することになった。
アレスは自慢の料理の腕で手作り菓子を作ることになり、もはや授業の時よりも全力である。
「よーし、今日は気合い入れるぞ!」
部屋のキッチンでアレスが腕まくりをすると、自分の腹がぐうぅぅぅ、と鳴った。
それは半身のエリスのせいであったが、胃まで共有するアレスも腹が減ってきた。
「アレスの試作品、わらわが味見してあげるのじゃ!」
「エリスさん、それ、味見って言えば何でも食べられると思ってない?」
「思っておる! それに、お主が味見をすれば、自動的にわらわの腹も膨れる。誰も困らんじゃろ!?」
だがアレスもまんざらではなく、むしろ嬉しそうに生地を混ぜ始めた。
そこへ、匂いにつられたのかアーテーとマケもやって来る。
「またアレス様が何か作ってるかにゃ? ……って、うまいにゃっ!?」
マケは人の姿でクッキーを一枚つまんで目を丸くした。
「アレスどの料理は絶品ですからね。エリス様とは違って」
と、アーテーが当然のように刺す。
「おいっ! なんでそこでわらわの名前が出るのじゃ!」
エリスが抗議するが、アーテーは肩をすくめるだけ。
「だって事実ですから。昔、村で砂糖と塩の量を桁数レベルで間違えて――」
「やめろぉぉぉ!」
部屋内にエリスの悲鳴が響いた。
一方、マケはというと、皿の上の焼き菓子をじっと見つめていた。
「……そういえばマケ、さっきも味見してたけど、猫ってお菓子食べられるの?」
アレスが恐る恐る聞くと、マケはこくりと頷く。
「私は猫じゃないにゃ。魔族の一種だから、人間の食べ物も大丈夫。甘いの、大好きにゃ」
「おお、そうなんだ。じゃあ遠慮なく食べてよ?」
マケは嬉しそうに左手をふわりと揺らしながら、クッキーをぽりぽりと食べ始めた。
「しあわせにゃ……」
その一言に、アレスは思わず照れた。
◆
当日の放課後、空き教室に4人が集まる頃には、部屋には甘い香りが充満していた。
ディアナは紅茶のセットを、ヴェスタは上品な焼き菓子を、オットーは護衛に許可された範囲で果物を持参している。
「なんだかんだで、ちゃんとしたティータイムになったわね」
「もう、この空間だけで天国に来た気分です……」
ディアナが微笑むと、ヴェスタも嬉しそうに頷いた。
「うん。俺、こういうの、ずっとやりたかったんだ!!」
オットーも、本当に待ちわびていたことがあふれ出るくらい、嬉しそうだ。
そしてアレスは、みんなの前に自信作のタルトを並べた。
「さあ、食べてよ!」
「わあ……すごい!」
「アレス、これ売れるレベルだぜっ!!」
「アレスくん、って、やっぱり料理上手いわよねぇ」
みんなは口々にその味への絶賛をしながら、言葉と交互にほおばっていく。
しかしオットーは、その合間にディアナへの甘い口説き文句を、ブレることなく浴びせようとする。
「でも君の方がこのお菓子たちより、はるかにとろけそうになるよ?」
「だから私は塩対応になってるのよ!!」
ディアナのあしらいは今日も続く。




