第三十二話 サジタリウス組・第3班
式典が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へと案内された。
アレスが「サジタリウス」と書かれた教室に入ると、すでに何人かの生徒が席に座っている。
その中に、入学試験で言葉を交わした見覚えのある顔が三つ。
ディアナ・ルーナ、ヴェスタ・アステ、そして──ネプト・オットー
アレスは思わず立ち止まる。
(……あの子たちみんな、合格していたんだ)
エリスが胸の奥で呟く。
(ふむ、これは……)
そうこうしていると、ネプトがアレスに気づき、大きな声を挙げながら右手をぎゅっと振った。
「やあ、アレス。君と同じクラスなんて運命すぎる! これで俺たちはもう友達だなっ!」
彼は握った手をブンブンと上下に振って、勢いそのままに話をする。
試験前の、あの短い時間しか話していないのに、よくもまぁ友達認定まで至る感覚に、アレスはたじろぎつつも、笑って応じた。
「うん、よろしく!」
ガララッ。
そこへ扉の車輪が横へと転がる音がし、教室に女性教師が入ってきた。
黒髪をきっちりまとめ、眼鏡の奥の瞳は鋭い。
「今日からこのクラスを担当する、セレナ・デーメーだ。よろしく」
生徒たちがざわつく。
「セレナ先生……魔法民生利用の……!」
さらにセレナ先生が続ける。
「では、一人ずつ自己紹介をしてもらう。前から順に」
そうして次々と生徒が順番に立ち上がり、自己紹介を始めた。
ディアナは優雅に、ヴェスタはオドオドしながら、それぞれ出身や得意な魔法の系統などを口にしていく。
ただネプトのノンストップな五月蠅さには、さすがに先生から「他人の話も聴くように」とツッコミが入ったが、それがみんなの笑いを誘い、一気に教室の緊張がほぐれた。
(自己紹介一つとっても、性格が出るものだな……)
エリスはかなり興味深そうに、文字通りの「人間観察」を楽しんでいる様子だった。
そして、ついにアレスが起立し、深呼吸してから名乗る。
「アレス・オリンです。ソル村出身の十六歳で、光の白魔導士ですが、火も扱うことが多いです。よろしくお願いします」
その瞬間、教室がざわっと揺れ、生徒たちがざわめき立つ。
「オリン……?」
「まさか、あの……?」
「トップパーティの……?」
「……孫!?」
アレスは少し照れながら頷いた。
「はい……そうです」
ディアナが目を丸くする。
「えっ、アレスくんってあのクロノス様の……!? どうりで、新聞とかで、見たことのあるような顔立ちだなって」
ヴェスタは相変わらずあわあわしている。
「そ、そんな、すごい人のお孫さん……」
しかしネプトだけは、自分の生い立ちに重なる部分を感じたのだろうか、意外に冷静な反応をした。
「ま、血筋だけで強くなれるわけじゃないからね! 相当頑張ったからこそ、君はここにいる……」
それは大統領の息子ということで、何かと世間から注目されがちな、彼の本音が垣間見えた台詞だった。
ホームルーム後半となり、セレナ先生が名簿を確認しながら告げる。
「では、実習や課題でともに行動するチームを発表する。班のメンバーは四人一組で動いてもらうが、予め属性のバランスで決めさせてもらった」
生徒たちは息を呑む中、先生は一挙に班の番号と氏名を読み上げていく。
「第3班──
ネプト・オットー
ディアナ・ルーナ
ヴェスタ・アステ
……そして、アレス・オリン」
アレスはそこで驚きを隠せなかった。
(……全員、試験会場で会ったメンバーだ)
ネプトが、待ってましたとばかりに、アレスの肩に手をのせる。
「やっぱり、こうなると思ってたよ!」
ディアナは嬉しそうに手を叩く。
「アレスくんと同じチームなんて心強いですわ!」
ヴェスタは恥ずかしそうに挨拶をする。
「よろしくお願いしますっ、アレスさん……」
エリスが胸の奥で囁く。
(アレス……これは『運命』じゃな)
アレスは小さく頷いた。
(うん……ちょっと出来すぎてるような気もするけれど)
◆
入学式から数日。
アレスたち第3班は、毎朝同じ教室で顔を合わせ話をするのが恒例になっていった。
ネプトはいつも通り暑苦しさ全開で、一方的にディアナへの愛を語る。
ディアナはそんなネプトを完全にあしらうかのように、ノートを開いて予習をしている。
ヴェスタは、ネプトから話を振られるとそわそわし、すぐに視線をそらしてしまう。
そこに、少し遅れて入ってきたアレスが、慌てて席に着く。
「おはよう、みんな!」
「おうっ、おはようアレス!」
最初に挨拶を返すのはもちろん、うっとおしいほどの清々しさをみせるネプトだ。
これはもはや、鉄板というかお約束みたいなものといっていい。
一方で、ディアナは背筋を伸ばし、動じることなく白い指先でノートを丁寧にめくる姿は、まさに「育ちの良さ」が滲み出ている。
「おはようございます、アレスくん。昨日の課題……きちんと終えられましたか?」
その口調は柔らかいが、同時に気品がある。
アレスは頷いた。
「もちろん。全部終わってるよ」
「まあ、さすがね。アレスは本当に真面目なのね」
ディアナは微笑み、胸元のリボンを整えた。
その横で、ネプトが椅子に寄りかかりながら言った。
「ディアナ、僕の課題も見てくれる?」
「……ネプト。まさか、まだ手をつけてないのかしら?」
ネプトは悪びれもせず笑った。
「だって、ディアナに教えてもらった方が楽しいからね。君の説明は上品で、聞いてるだけで癒されるよ」
「わ、わたくしを口説いても何も出ません!」
毎度このようなやりとりを繰り返す二人は、これはこれで、ヘンな部分でウマが合っているのかもしれない。
そんな二人の陰に隠れそうになっていたヴェスタは、アレスの姿を見るなり慌ててメガネを押し上げた。
「お、おはよう……アレスさん……」
声は小さく、語尾が震えている。
「ヴェスタ、おはよ」
アレスが優しく微笑むと、ヴェスタは顔が赤くなりさらに身体も小さくなって俯いた。
そのような会話をしているうちに、サジタリウス組にも生徒が続々集まり、始業の鐘が鳴り始めるのだった。




