第二話 アレスとエリス、二人三脚をする!?
白と黒の光が収まり、森に静寂が戻った。
右半分のアレスと左半分のエリスは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「……あ、あの……えっと……」
「む……お主、名前は?」
先に口を開いたのはエリスだった。
だが、口は一つなので、アレスの声と混ざり合うように響く。
「ぼ、僕はアレス。白魔導士の見習いで……その……」
「アレス、か。わらわは――」
左半身の唇が妖しく笑う。
「魔王エリスじゃ」
「ま、まままま魔王!?」
アレスにまさに雷に打たれたような衝撃が走り、共有している心臓が大きく脈打つ。
ドクンッ!
すると、エリスにまで驚きの感情が沸いてくる。
「ひゃっ……! な、なんでわらわまで……って、お主の動揺が伝わっておるのじゃ。心臓が一つしかないからの」
「そ、そんな……!」
アレスは混乱しながらも、どうにか状況を整理しようとする。
「え、エリスさんは……どうして人間界に……?」
「ユノーという女魔族に追放されかけたのじゃ。
魔力では勝てぬゆえ、転移魔法でわらわを魔界から追い出そうとしたのじゃな」
「そ、そんな……魔王なのに……」
「まぁ、たしかに魔王じゃが、わらわは誘惑と魔力で頂点に立っただけでの。あやつのような魅了無効の女には効かんのじゃ。……じゃが、ユノーだけで大胆にもわらわへの謀反を起こすというのは妙じゃな?」
ここで、エリスの脳裏に疑問符が付いた。
「たとえ、あやつがわらわの座を奪ったとしても、ほかの魔族が黙ってはおるまい。すぐに下克上の連鎖が始まるだけじゃ。それにあの大規模転移魔法は、あやつの力量をはるかに超えておった。......だとすれば、ユノーには誰か別の、後ろ盾がおるのかもしれんの」
「なるほど……」
アレスは頷きかけて、ふと気づく。
「って、そんな話より……なんで僕たち、くっついて……?」
「わらわの転移魔法が暴発し、お主の魔法陣と干渉した結果じゃろうな。わらわの魔力も大幅に落ちておるし……」
「ど、どうすれば元に戻れるんだろ……」
「さあな。だが、ここで立ち尽くしておっても仕方あるまい。まずは安全な場所に移動するのじゃ」
「そ、そうだね……! とりあえず僕の家に……」
アレスは決意して一歩踏み出そうとした、が。
「……あれ?」
右足だけが前に出て、左足がついてこない。
「お主、勝手に動くでない。わらわの足は左側じゃ」
「え、ええ!? じゃあエリスさんが動かしてよ!」
「わらわはわらわで、お主の動きに合わせねばならんのじゃ!」
「ど、どうにもこうにも……!」
右と左がバラバラに動き、二人はその場でぐらぐらと揺れる。
「わっ、ちょ、ちょっと待って、転ぶ転ぶ!」
「お主が遅いのじゃ!」
「エリスさんが速いんだよ!」
森の中に、融合体のぎこちない足音が響く。
そして――
「このままでは目立つのじゃ。仕方ない、わらわが魔法で隠す」
エリスが左手を振ると、黒いローブがふわりと現れ、二人の身体を包んだ。
「すごい……!」
「当然じゃ。わらわは魔王じゃからな」
誇らしげに言うエリスだが、歩くたびにローブの下で足がもつれているのは隠せない。
「だから速いってば!」
「お主が遅いのじゃ!」
そんなやり取りを続けながら、どうにかアレスの家へ向かっていくのだった。




