第十九話 アレス V.S. アーマーゴーレム
落盤によって、アレスとクロノスは完全に分断された。
クロノスは岩壁に手を当て、魔力を流し込んで強度を確かめる。
「……ふむ。これは自然の落石ではないな。闇属性の魔力で強化されている。破壊は難しいか」
岩肌には黒い魔力の筋が走り、通路を閉ざしている。
クロノスは深く息を吐き、探索魔法を展開しようとした。
「域内探索」
しかし――
魔法陣は一瞬光っただけで、まるで闇に吸い込まれるように霧散した。
「……サーチも封じられているか。まさに魔族版の結界だな」
迷宮の空気が、じわりと重く、冷たく変わっていく。
クロノスは周囲の魔力の流れを読み取りながら歩き出した。
「この類の結界は……我が家同様、どこかに発動源となる魔法陣があるはずだ。我々がスイッチを踏んだことで起動した……そう考えるのが自然だな」
壁に触れると、微かに脈動するような魔力の波が伝わってくる。
「やはり……魔族が動いている。こんなのところをネグラにでもしたか」
クロノスの表情が険しくなる。
「アレスと合流するより、この迷宮の『大本』を破壊したほうが早い」
その瞬間、通路の奥から複数の魔力反応が迫ってきた。
低い唸り声。
金属が擦れるような音。
足音が、地面を震わせる。
「さっそく、敵さんのお出ましか……罠もまとめて突破するしかないか」
クロノスは杖を構え、深部へと歩みを進めた。
その背中は、老いを感じさせないほど力強かった。
◆
アレスの前に立ちはだかるアーマーゴーレムは、まるで火の玉のように深紅を灯し、重々しい金属音を響かせながら動いていた。
「な、なんで……こんなのがここに……!!」
ゴーレムの鎧の上をさらに覆う黒い魔力は、まるで闇そのものがまとわりついているようで、見ているだけで背筋が冷たくなる。
エリスの声が鋭く響く。
「アレス、焦るな。それにわらわが手を貸すのは簡単だが……今は実戦経験を積む時じゃ。オルフェの腕輪で出力は半分に抑えたまま、倒せ」
「力を縛りながら倒すって、結構な無茶ぶりだよ!」
「ここは白魔導士らしく、補助魔法を併用して戦うのじゃ。お主なら倒せる」
アレスは深呼吸し、魔力を練り上げた。
そして次々にアーマーゴーレムへ向け放ってゆく。
「防御低下!!」
「緩和攻撃!!」
「速度減少!!」
いわゆる「デバフ」を敵へ叩きこむという魔法三連撃である。
白魔導士はパーティーメンバーの回復だけではなく、補助魔法を敵味方問わず付与し、戦局の流れをこちらへと引き寄せる役割も担う。
補助魔法は直接ダメージを与える攻撃魔法とは違い地味だが、魔法発動そのものが目に見えにくいため、視覚に頼るモンスターや非生物系の敵には大きな効果が期待できる。
さっそく、ゴーレムの能力低下を観測したエリスが満足げに言う。
「よいぞアレス。白魔導士の戦いは『自分を強め相手を弱く』じゃ」
アレスは頷き、杖を振り続けた。
ドォンッ!!
能力が低下したとはいえ、それでもアーマーゴーレムは地面を砕きながら突進してくる。
その一歩ごとに、石床がひび割れ、粉塵が舞い上がる。
斧を振りかざしたゴーレムを、アレスは横へ跳び、難なく回避した。
しかし風圧だけで身体が吹き飛ばされそうになる。
「うわっ……!」
エリスがすかさず、アレスへの指導を入れた。
「相手は鈍重じゃ。だが力だけはなおも高い。敵ごとの特徴を見極め、落ち着いて回避しながら弱点を狙うのじゃ」
「弱点……!」
「胸部の魔力核じゃ。そこを撃ち抜けば崩れる」
アレスは走り、跳び、ゴーレムの攻撃を避け続ける。
金属の腕が振り下ろされるたび、地面が砕け、破片が飛び散る。
汗が額を伝い、呼吸が荒くなる。
「くっ……!」
「アレス、魔力の流れを感じろ。補助魔法の効果は続いておる。動きながら、隙を作るのじゃ」
アレスは歯を食いしばり、ゴーレムの真下へ回り込む。
その瞬間――ゴーレムの核がほぼゼロ距離で射程に入った。
「今じゃアレス!」
「うおおおおっ!! 火炎散弾!!」
火球がターゲットのごく至近距離から放たれ、胸部の魔力核に命中。
ゴーレムは赤い光を失い、金属の塊となって崩れ落ちた。
アレスはその場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……倒した……!」
エリスが優しく囁く。
「よくやったアレス。これが『実戦』じゃ」
アレスは震える手で杖を握りしめた。
「まだまだこれから……!!」
◆
その頃、迷宮の深部。
メルクは気配を察知し、薄く笑みを浮かべた。
「……二人の侵入者か。しかも、これはクロノス!!……どちらもかなりの魔力……」
闇の魔力が忘れ去られた迷宮全体に広がる。
「飛んで火に入る夏の虫、とはこのこと。邪魔者はここで消す。さて……どちらが最後まで立っていられるかな? 大魔導士クロノスか……それとも、あの小僧か」




