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心臓ひとつ、ココロはふたつ!? 魔力暴走の果てに見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……  作者: 冬馬
第一章 見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……
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第十五話 アレスとクロノスの2か月間

 パーンとの戦いから、2か月が過ぎた。

 あの日、エリスが使い魔を一瞬で消し飛ばした直後から、メルクは完全に姿を消した。

 それは単に「見えない」という程度ではなく、まるで最初から、この世界に魔族などいなかったかのような日常が続いた。


「……完全に潜ったな」


 エリスはそう呟いた。

 アレスにも、同じ不安が重く沈む。

 魔族の「マ」の字すら感じられないということは、メルクが本気で潜伏している証拠でもある。

 嵐の前の静けさのような緊張が、常に二人の中で走っていた。


 一方で、クロノスは違った。

 結界センサーが一度でも反応した以上、彼は「何かが起きた」と判断し、村の防衛を徹底的に強化し始めたのだ。

 ソル村の外周には新たな結界が幾重にも張り巡らされ、魔力障壁は厚みを増し、魔界からの侵入者に対し自動的に反撃する魔法が常時稼働するようになった。

 さらにクロノスは、理事を務めるガレッシア共和国魔導士協会へも魔族対策の強化を上申した。


「これが証拠です。あれから30年ぶりに魔の者が人間界に現れたのです。しかも、我が家の目と鼻の先に!!」


 元老院議員としての権限もフル活用し、魔族の影が見えなくとも「いないとは限らない」と強く訴えた。

 国立の魔導術専門学校マジクラフトにも人材の協力を働きかけ、その徹底ぶりは、村人たちが驚くほどで、傍から見れば過剰防衛とすら思えるほどだった。

 その結果、クロノスは村の防衛整備に追われ、アレスの修行を直接見る時間が激減した。


「すまんアレス。しばらくは自主練で頼む。代わりに修行メニューを作っておいた」


 戦いの翌日、そう言って渡されたのは、分厚い修行メニュー表だった。

 アレスは震えた。


「じいちゃん……これ、普通の人間がやる量じゃないよ……」


 エリスはその表を覗き込み、淡々と告げた。


「ふむ。だが、わらわの修行も追加するぞ」

「えっ!? これ以上!?」


 アレスの声が裏返る。


「当然じゃ。お主は融合状態で基礎能力が上がっておる。今こそ伸ばす好機よ」


 アレスは喉が固まるような感覚を覚えたが、逃げるわけにもいかない。

 こうして、アレスの自主トレは、クロノスの修行メニューとエリスの魔王級の指導が同時に課されるという、地獄のような2か月となった。


「アレス、魔力が漏れておる。もっと内側へ……そうじゃ」

「う、うん……! こう……?」

「違う。そこは押し込むのではなく、流すのじゃ」

「む、難しい……!」

「慣れれば簡単じゃ。ほれ、もう一度」


 エリスの修行は、クロノスのそれとはまったく方向性が違った。

 クロノスのメニューは、あくまで基礎訓練を徹底させるというもので、魔法陣の描写から瞑想、さらに走り込みなどの体力づくり、といったことを繰り返し実施することだった。

 一方のエリスは、魔族特有の魔力循環の基礎から、詠唱の短縮、魔法発動の速度と精度の向上、融合状態での魔力の扱い方、さらには光と闇を同時に扱うという人間では不可能な魔法まで叩き込まれた。

 アレスは汗だくになりながらも、必死に食らいついた。


 そんな日々の中で――

 ひとつだけ、心からほっとできる時間があった。

 それは、ヴィーナが美容師の仕事の合間に差し入れを持ってきてくれる「おやつタイム」だった。


「アレス! おやつ持ってきたよー!」


 修行場で魔力制御の訓練をしていたアレスは、その声を聞いた瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。


(……アレス、急に魔力が緩んだぞ)


 内側からエリスの声が響く。


「だ、だって……ヴィーナちゃんだよ? ちょっとくらい休憩しても……」

(ふむ、まあよい。お主の心が軽くなるのは悪くない)


 アレスは思わず笑った。

 ヴィーナは籠いっぱいに焼き菓子を抱えてやってきた。


「今日はね、クッキー焼いたの! アレスって、作るのも食べるのも好きでしょ?」

「うん! ありがとう、ヴィーナちゃん!」


 アレスの顔がぱっと明るくなる。

 その喜びがエリスにも伝わり、内側でふわりと温かい気配が広がった。


(……良い香りじゃな。まぁよい、この状態なら、わらわも味見できるし……)

「え? 何か言った?」

「ううん! なんでもないよ!」


 アレスは慌ててごまかしながらクッキーを受け取った。


 こうした小さな癒しの時間が、アレスにとってどれほど救いだったか。

 エリスとクロノスの厳しい修行の合間に、ヴィーナの優しさが差し込まれることで、アレスは折れずに前へ進むことができた。


「……良い友人を持ったな、アレス」

「うん。ヴィーナちゃんがいてくれて……本当に良かった」


 だがエリスは、アレスとヴィーナの関係について、心の奥底にモヤっとしたものが生じていることに自身もまだ気づいてはいない。


 そんな厳しくも時には楽しい日々が続き、その成果は確かに現れていった。

 融合による基礎能力の向上もあり、アレスの魔力総量も制御力も、わずか2か月で見違えるほど仕上がっていた。


「よいぞアレス。この調子なら、クロノス殿にも怪しまれずに済む」


 アレスは苦笑した。


「……いや、怪しまれないように抑えるのが大変なんだけど……」

「そこも修行じゃ」


 ◆


 そして、ついにその日がやってきた。

 二か月ぶりに、クロノスがアレスの直接指導を行うのである。


「アレス、準備はいいか?」


 修行場に立つクロノスが、腕を組んで待っている。

 アレスは深呼吸をした。

 緊張がエリスにも伝わり、エリスの声が優しく響く。


(大丈夫じゃ、アレス。抑えればよいだけの話よ。お主はもう十分強くなっておる)

「……うん。ありがとう、エリスさん」


 アレスは真新しい杖を握りしめ、クロノスの前に立った。


「では、見せてもらおう。この二か月間の成果をな」


 アレスは頷き、魔力を静かに練り始めた。

 もちろん、いま現在彼が持つ力よりも大幅に抑えて。

 それでも、以前とはまったくの別人(そもそも半分はそうだが……)となった姿に、クロノスの目が細められる。


「……ほう。これは……」


 アレスは息を整え、最初の魔法を放つ準備をした。

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