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心臓ひとつ、ココロはふたつ!? 魔力暴走の果てに見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……  作者: 冬馬
第一章 見習い白魔導士男子、女魔王様と半分ずつ融合してしまいまして……
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第十四話 祖父、帰る

 アレスとエリスが家へ戻ると、玄関をくぐった瞬間――


 カチッ、カチッ……


 部屋の奥に置かれた魔道具が、淡い光を点滅させていた。


「……えっ、これ……」


 アレスの胸がざわつく。

 その感情は、心臓を共有するエリスにも伝わる。


「結界のセンサーが反応しておるな。外部からの魔力干渉を検知した証じゃ」


 エリスが淡々と告げる。

 アレスは青ざめた。


「ま、まずい……! これ、さっきの使い魔とかの反応だよ!? ってことは……」


 エリスが静かに頷く。


「お主のじいさんは、すでに異変を察知しておる。間もなく帰還するじゃろう」


 アレスの呼吸が一瞬止まり、胸の奥がきゅっと縮む。

 その動揺がエリスにも流れ込む。


「えっ、えっ、えっ……!? 明日帰ってくる予定だったのに……! どうしよう、どうしよう……!」

「落ち着け、アレス。お主の動揺がそのままわらわにも伝わってくる……」

「だ、だって……! じいちゃんが帰ってきたら、今日のこと全部バレるかもしれないんだよ!?」


 アレスの焦りが波のように押し寄せ、エリスの胸にも同じ焦燥が広がる。

 エリスは深く息を吸い、アレス側の胸に自分の手を置くと、意識を寄せるように語りかけた。


「アレス。まずは状況を整理するぞ」

「う、うん……」

「今日襲ってきた使い魔――パーン。あれは、上位魔族の暗殺者・メルクの眷属じゃ」

「メルク……? そんな……上位魔族が……エリスさんを追ってきたの……?」

「うむ。わらわが魔界で警戒していた者の一人じゃ。奴は魔力を極限まで抑えて身を潜める。人間界でも、探知は難しい」


 アレスの背筋が冷たくなる。


「じゃあ……まだ近くに……?」

「可能性は高い。だが、今は痕跡を消しておるはずじゃ。パーンが消えた以上、より慎重に動くじゃろう」


 アレスは魔道具の点滅を見つめながら呟いた。


「……じいちゃん、絶対に気づくよね……結界の情報書き換えなんて……あの人には通用しないし……」


 エリスも同意する。


「お主のじいさんは結界魔法も達人じゃ。わらわがどうあがこうとも、即座に見抜かれるじゃろう」

「じゃあ……どうすれば……」


 エリスは静かに告げた。


「アレス。お主は『何も知らぬ』で通すのじゃ」

「えっ……」

「転移の痕跡も、戦闘の残留魔力も……すでに消えておる。じいさんが帰還した時には、証拠は何も残っておらぬ」


 アレスは唇を噛む。


「でも……じいちゃん、鋭いよ……僕が嘘ついたら、すぐバレる……」

「嘘をつく必要はない。『なにもわからない』でよい。事実、お主は戦っておらぬし、ユノーもメルクもその顔すら知らん。それに、いくら能力が100倍になったとしてもじゃ、知識も経験も未熟なお主がいきなり戦ったところで、単純にあの使い魔ですら勝てるほど甘くはない。そうじゃろう?」


 アレスはハッとした。


「……そっか。悔しいけど、僕は……まだまだ本当になんにもわかってないや。だから……わからない、で通る……」


 エリスの声が優しく響く。


「うむ。それでよい。わらわが背負うべきことは、お主にまで負わせぬ……」


 アレスの心に、エリスの覚悟と優しさが流れ込む。

 ただ、それでも自分のふがいなさには情けない。


「……ありがとう、エリスさん。僕……頑張って誤魔化すよ」

「誤魔化すのではない。『わからない』のじゃ」


 エリスの言葉に、アレスは小さく笑った。

 しばらくして、家の外で、風が揺れた。

 アレスの額に冷や汗が流れた。

 エリスにも同じ緊張が伝わる。


「……来たか」


 エリスが呟く。

 アレスは震える声で言った。


「じ、じいちゃん……」


 家の前の空間がゆらりと歪み、光の粒子が弾けた。


「――着地!」


 クロノスは飛行魔法を解除し、勢いそのままに玄関へ駆け寄った。


 バンッ!


 扉を開けると、そこにはアレスの姿と、相変わらず点滅を続ける結界センサーがあった。


「無事かっ! アレス!!」

「じ、じい……し、師匠!?」


 アレスは慌てて言い直す。

 クロノスは眉をひそめた。


「どうした。何が起きた?」


 アレスは喉がひきつるような感覚を覚えながら答えた。


「ぼ、僕も……帰ってきたら、もうこの状態で……わかってなくて……」


 クロノスはアレスの表情をじっと見つめた。

 嘘をついているかどうかを見抜くような鋭い視線。

 だが事実、アレスとしては本当にわからないことだらけであった。


「……そうか。ならば、お前はここで待機だ。結界内から出るな」

「わ、わかったよ、師匠」


 クロノスは頷き、外套を翻して外へ飛び出した。


 扉が閉まると同時に、

 アレスは大きく息を吐いた。


「……はぁぁ……緊張した……じいちゃん、こういう時必ず全てを疑うから……」


 エリスの声が静かに響く。


「よくやった、アレス。お主の動揺は伝わってきたが……これに関して『わからぬ』というのは真実じゃ」

「でも……なんというか肝がぎゅっとして……あんな目で見られたら……」

「あやつは、かつての連合軍の一員じゃ。先代との戦いを生き残った豪傑と、こちらでも伝わっておる。人の嘘や魔力の揺らぎに敏いのはさすがじゃのう」


 アレスはクロノスに対するエリスの評価に改めて関心した。


「じいちゃん……先代の魔王を倒したトップパーティーの一員とは聞いていたけれど、やっぱりすごい人だったんだ」

「うむ。先代が討たれ魔王軍が敗退した混乱の中……わらわは魔力と魅惑で王の座を奪取した。じゃがその後はな、わらわは我が領内の立て直しに専念せねばならんでの、人間界とは冷戦状態でバランスをとることになったのじゃ」


 アレスは息を呑む。


「エリスさん……そんな過去が……」

「だからこそ、クロノスは警戒しておる。先代の残り火が再び人間界に現れぬようにな」

 

 アレスの胸に、エリスの過去の重さが流れ込んでくる。


 ◆


 クロノスは森へ入り、結界の外周を慎重に飛びながら魔力を探った。


「……反応があったのは確かだ。だが……以後は完全に消えている」


 闇魔力の痕跡は、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。


「戦闘の跡も……ない。地面の乱れも、魔力の焦げ跡も……誰かが修復したか?」


 クロノスは目を細めた。


「……これは難儀だな」


 結界のセンサーは確かに反応した。

 だが、証拠は何一つ残っていない。


「となれば……警戒を強めるしかないか」


 クロノスは結界に手を当て、魔力を流し込む。


結界強化ガーダー・ブースト


 光の膜が厚みを増し、周囲に新たな魔法陣が展開される。


「自動防衛機能も追加しておくか……アレスを守るためにもな」


 クロノスは静かに呟いた。


 ◆


 翌朝。


「アレス、きょうは自主練に行ってこい。あと結界は強化した。しばらくは問題ないだろう」


 クロノスはそう告げ、同時に更なる対策のための調整に入った。

 アレスは胸の奥にまだ不安を抱えながらも、頷いた。


「……うん。行ってくるよ、師匠」


 エリスの声がそっと寄り添う。


(大丈夫じゃ、アレス。わらわも共におる)


 アレスは笑みをこぼし、いつもの修行場に向かって歩き出した。



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