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生きることに過酷で苛烈な世界。  作者: 慈架太子


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第2章 成長 冒険者としての日々


俺は浮遊し始めた銀色の刃を、**念動テレキネシス**で無理やり押さえつけ、再び球体へと戻してアイテムボックスに放り込んだ。 この世界は過酷で、そして強欲だ。こんな出処の怪しい、一目で高級品だとわかる魔道具を振り回していれば、盗賊どころか騎士団や高ランク冒険者にまで「獲物」として狙われることになる。


「ギルドに戻ったらさっさと金に換える。それか、もっと足のつかない闇の販路を探すか……」


魔導書の方は、中身を俺の「イメージ」として取り込んでしまえば証拠は残らない。だが、実体のある魔道具はリスクでしかない。


「さて、そんなことより……残りのゴミを掃除しに行こうか」


俺は意識を切り替え、森の深部へと向かう。 さらに数百メートル進んだ先、大きな岩壁の影に、先ほどよりも規模の大きいキャンプが見えてきた。焚き火が三箇所、人数はざっと十二、三といったところか。


「(全員、首を折るには十分なMPだな)」


俺は岩陰に身を潜め、最後の確認を行う。


「ステータスオープン」


【ステータス】 名前: ツカサ(内田 司) 年齢: 18歳 職業: 冒険者(ランクE) レベル: 7(上限なし)


HP: 98 / 98 MP: 190 / 190


【固有スキル】


アイテムボックス: 容量無限 / 時間停止 / 劣化防止


前世の記憶: 現代日本の知識・倫理観


【取得魔法(独自開発)】


念動サイコキネシス: 消費MP 2?(出力比例)


念動テレキネシス: 消費MP 2(対象の移動、固定、破壊)


ピュリファイ: 消費MP 2


ピュリフィケーション: 消費MP 5


【装備】


鉄の短剣


冒険者の革鎧


銀嶺のシルバー・スフィア:(※売却予定・非装備)


「……行くぞ」


俺は**念動テレキネシス**の出力を調整し、まずは見張りの二人の首を、左右から同時に内側へ向けて「ねじ切った」。


メキッ、という音が重なり、二人の盗賊が崩れ落ちる。 それが、虐殺の開始を告げる唯一の音だった。


「なっ、なんだ!? ジョー! ギル!」 「敵だ! どこだ、どこから――」


混乱し、武器を抜こうとする男たち。 俺はその一人一人の首へ、事務的に、確実に、不可視の「手」を伸ばしていった。 前世の倫理観など、この返り血と不条理に満ちた世界では、とうの昔に『ピュリファイ』で洗い流してある。



キャンプを包んでいたのは、断末魔すら許されない静寂だった。


「……これで、終わりか」


最後の一人の首を**念動テレキネシス**でへし折り、俺は死体の山を見下ろした。 十数人の盗賊。この世界の理不尽を体現していた男たちは、今や物言わぬ肉の塊に過ぎない。俺のMPは半分近くまで減ったが、一網打尽にした効率を考えれば安いものだ。


俺は歩き出し、キャンプを「掃除」し始めた。


「アイテムボックス」


転がっている死体、奪われていた食料の袋、酒の樽、そして散らばった金品。すべてを空間の歪みへと放り込む。ピュリフィケーションで精製すれば、これらは明日からの俺の血肉となり、活動資金となる。


作業を進める俺の耳に、岩壁の奥から小さな「ガタッ」という音が届いた。


意外な生存者

岩の隙間に隠されるように置かれた、錆びついた鉄格子の檻。 その中にいたのは、貴族の娘……などという華やかな存在ではなかった。


泥にまみれ、ボロ布を纏った幼い少女だ。 ガリガリに痩せ細り、その瞳からは生気が失われている。盗賊たちがどこかの村を襲った際に「売り物」として確保していたのだろう。


彼女は俺と目が合っても、助けを求めることもしなかった。ただ、次に自分を襲う暴力に備えるように、小さく体を丸めるだけだ。


「……あいにくだが、俺は聖者じゃない」


俺は**念動テレキネシス**で檻の錠前を握り潰した。 「勝手に出ろ。街までは自力で歩け。……運が良ければ、野垂れ死ぬ前に誰かが見つけてくれるかもしれないぞ」


突き放すような言葉を投げ、俺は立ち去ろうとした。だが、震える小さな手が俺の裾を掴んだ。 「……お、ねがい。ころして」


前世の倫理観が、胸の奥でズキリと痛んだ。この過酷で苛烈な世界では、「死」こそが唯一の救済になることさえある。俺は無言で彼女を見つめ、それからアイテムボックスから浄化した水と、昨日作ったサンドイッチを一つ取り出し、彼女の前に置いた。


「死ぬのは、これを食ってからにしろ。……それでも死にたきゃ、勝手にしろ」


俺は一度も振り返らず、森を後にした。


ギルドへの帰還:火種の種

数時間後。俺はレムルの街に戻り、ギルドの査定窓口にいた。 山のような『黒牙』の証拠品(死体と装備品)を提出し、周囲の驚愕の視線を浴びながら、俺は最後の一品――あの銀の球体をカウンターに置いた。


「これの査定も頼む」


鑑定士の老人が球体に触れた瞬間、その顔から血の気が引いた。


「……ば、馬鹿な。これは……『銀嶺のシルバー・スフィア』。数十年前に失われた、旧王国の魔導遺産アーティファクトじゃないか!」


周囲の喧騒が、水を打ったように静まり返った。 冒険者たちの視線が、驚きから「強欲」へと変わるのがわかった。


「坊主、これ、どこで手に入れた……? いや、言うな。これは銀貨や金貨で収まる代物じゃない。白金貨はくきんか数枚……いや、国が動くレベルの代物だぞ」


「……そんなに高いのか」


俺は内心で舌打ちした。高値で売れればいいと思っていたが、国が動くレベルとなれば話は別だ。 背後に、隠しきれない殺気がいくつも膨れ上がるのを感じる。


ギルドの奥から、重厚な鎧を纏った一団が歩み寄ってきた。 「その遺産、我が領主家が預かろう。Eランクの冒険者が持っていていいものではないからな」


理不尽な徴収。断れば「盗品の疑い」で捕らえられるか、あるいはギルドを出た瞬間に暗殺されるだろう。 この世界は、どこまでいっても苛烈だ。


俺はステータスを静かに確認する。


【ステータス】 名前: ツカサ レベル: 7 MP: 110 / 190(回復中)


【魔法欄】


念動(サイコキネシス / テレキネシス)


ピュリファイ / ピュリフィケーション


「……わかった。持って行けよ。ただし、代金はきっちり払ってもらうぞ」


俺は笑みを浮かべた。もちろん、素直に渡すつもりなんて毛頭ない。 この銀の球体に、**念動テレキネシス**で「特殊な細工」を仕込みながら。



「Eランク風情が、分不相応な財宝に執着するな。それはこの街、ひいては領主様のものだ。……ありがたく思え。罪に問わぬだけで慈悲なのだぞ」


重厚な鎧を纏った騎士が、傲慢に手を伸ばしてくる。周囲の冒険者たちは、関わり合いを恐れて一斉に道を開けた。


「……慈悲、か」


俺は鼻で笑った。 この苛烈な世界で、略奪を「徴収」と言い換え、弱者からすべてを奪う奴ら。盗賊と何が違うというのか。


「お前らさ……この世界が過酷なのは、魔物のせいだけじゃないよな」


「何を――」


騎士が剣の柄に手をかけた瞬間、俺は**念動テレキネシス**を発動した。


「跪け」


消費MP 10。出力を高めた重圧のイメージ。 騎士の肩に、数トンもの「不可視の重り」を叩きつける。


――ガシャァァァンッ!


「が、はっ……!? な、なんだ……この重さはっ!」


床の石畳がミシミシと音を立ててひび割れる。 一団のリーダー格だった男は、大理石の床に顔を埋めるようにして強制的に土下座させられた。他の部下たちも、見えない巨人の手に押さえつけられたかのように、その場に釘付けにされる。


「ひっ……ひぃい! 魔法か!? 詠唱もなしに……!」


「動くな。動けば、その首をねじ切る。昨日殺した十数人の盗賊と同じようにな」


俺は冷徹な声をギルド中に響かせた。 視界の端でステータスが明滅する。


【ステータス】 名前: ツカサ レベル: 7 MP: 100 / 190


【魔法】


念動テレキネシス:固定・破壊継続中


俺はカウンターに置かれた『銀嶺の星』を無造作に掴み取り、アイテムボックスに放り込んだ。


「これの価値を決めるのは俺だ。お前らじゃない。……次、俺の前にその汚い面を見せたら、今度は首を折る。わかったか」


騎士たちの震える背中を見捨てて、俺は悠然とギルドを出た。 一時の静寂の後、背後で怒号と悲鳴が沸き上がったが、そんなものは知ったことか。


少女との再会

ギルドから離れ、街の裏通りへと入り込む。 このままでは衛兵が動き出す。早々に街を出る準備をしなければならない。


「……離せ! 離して!」


聞き覚えのある枯れた声が、路地裏から響いた。 曲がり角の先、そこには昨日森で逃がしたはずの少女が、下卑た笑みを浮かべる男たちに囲まれていた。


「へへへ、こんな上等の獲物が野垂れ死にかけてるなんてな。傷もないし、洗えばいい値がつくぞ」


男たちは奴隷商の刺青タトゥーを腕に入れていた。 少女は俺が与えたサンドイッチの包み紙を握りしめたまま、必死に抵抗している。俺が「勝手にしろ」と言った結果がこれだ。この世界は、弱者が一人で生きることを一瞬たりとも許さない。


「……おい」


俺の声に、奴隷商たちが不機嫌そうに振り返る。


「あ? なんだガキ。こいつは俺らが見つけたんだ、横取りすんじゃ――」


「死にたいのか?」


俺は歩みを止めず、**念動サイコキネシス**で落ちていた小石を一つ浮かせた。 消費MP 2。 音速に近い速度で射出された石は、奴隷商のリーダーの耳元を掠め、背後のレンガ壁を粉砕した。


「……っ!!?」


「次はその頭を貫く。その子を放せ」


男たちは俺の瞳に宿る、慈悲を削ぎ落とした「殺意」を正しく理解したらしい。 彼らは悲鳴を上げて、少女を放り出し、脱兎のごとく逃げ出した。


「……言ったはずだ。運が良ければ誰かが見つけてくれるかも、と。……どうやら、お前は運が悪かったらしいな」


俺はへたり込む少女の前に立った。 彼女は震える瞳で俺を見上げ、掠れた声で言った。


「……たすけて、くれたの?」


「勘違いするな。俺の飯の恩を、あんなゴミどもに横取りされるのが気に入らなかっただけだ」


俺は溜息をつき、手を差し出した。


「行くぞ。ここもすぐ衛兵が来る。……俺と一緒に来るなら、このクソみたいな世界を、もう少しだけ長く見せてやる。どうする?」


少女は迷うことなく、俺の返り血で汚れた手を握りしめた。


【ステータス(最新)】 名前: ツカサ レベル: 7 MP: 88 / 190


【同行者】


汚れを落とした少女(名前不明)



「……しっかり捕まってろ」


俺は少女を抱え上げると、街の裏通りを最短距離で駆け抜けた。 背後からは衛兵たちの怒号と、石畳を叩く軍靴の音が迫っている。正面の門には、すでに槍を構えた重装歩兵が立ち塞がっていた。


「……どけ」


念動テレキネシス。消費MP 2。 前方で盾を並べる兵士たちの「足首」を、不可視の力で一斉に払い飛ばす。


「ぎゃっ!?」 「うわあああ!」


ドミノ倒しのように崩れる防陣。俺はその頭上を**念動テレキネシス**による跳躍で飛び越え、そのまま街の外へと続く街道へ着地した。追撃の矢が数本放たれたが、背中に意識を割き、飛来する矢の軌道をわずかに「ねじる」だけで、すべて虚空へと外れていった。


少女のケア:世界の歪み

数時間後。追跡を完全に振り切り、俺たちは川沿いの薄暗い洞窟にいた。 少女は極度の疲労と恐怖で、今にも灯火が消えそうなほど衰弱している。


「……ステータスオープン」


【ステータス】 名前: ツカサ レベル: 9(脱出時の戦闘により上昇) HP: 115 / 115 MP: 220 / 220(全回復)

レベルアップのおかげで、俺のコンディションは万全だ。 俺は少女の体に手をかざし、意識を彼女の体内の「澱み」へと集中させた。


「ピュリフィケーション」


消費MP 5。 泥水を真水に変えるように、彼女の体を蝕む疲労物質と、長期間の監禁で溜まった体内の毒素を強制的に「精製」し、体外へ排出させる。


「……ぁ、……っ……」


青白かった少女の頬に、みるみるうちに赤みが戻っていく。 本来は物を磨くための魔法だが、俺のイメージでは「生存に不要な汚れを消す」究極のデトックスだ。


目を覚ました少女は、自分の体の軽さに驚いたような顔をしたが、すぐに絶望に塗りつぶされた瞳で俺を見上げた。


「……ころして。お願い、もう、いやなの」


一族を殺され、売り物にされ、この先にあるのも地獄だと知っている者の顔だ。 俺は無言でそいつを見つめ、それから一歩、距離を詰めた。 **念動テレキネシス**でその細い首を捉える。指一本触れずに、一瞬でこの苦しみから解放してやれる。今の俺には、それは呼吸よりも簡単なことだ。


だが。


「……断る」


俺は首にかかっていた圧力を解き、代わりにそいつの額を指先で弾いた。


「なっ……」


「簡単に『殺せ』なんて言うな。この世界では、願わなくても不条理が勝手にお前を殺しに来る。病気、飢え、盗賊、騎士……死ぬチャンスなんて、そこら中に転がってるんだよ」


俺は冷徹に言い放ち、アイテムボックスから前世の温かいスープと白米を取り出した。


「殺してほしいなら、まずこれを全部食え。体力を戻して、自分でこの森の奥へ歩いていけ。そこで魔物に食われるなら俺は止めない。だが、俺の手を汚して、お前の絶望の片棒を担ぐ義理はないんでね」


少女は呆然として、目の前に置かれた「温かすぎる食事」を見つめていた。


「……食べたら、殺してくれる?」


「食い終わる頃には、腹が膨れて死ぬのが面倒になってるはずだ」


俺はそいつを無視して、自分の短剣の手入れを始めた。 この世界は苛烈だ。死ぬよりも、生きることの方がずっと過酷で、エネルギーが必要だ。 それでも、俺が前世の記憶を持って、この異能を持ってここに立っている以上、安易な死に逃げるのは虫唾が走る。


「……ま、お前がそのスープを飲み干す間くらいは、外敵の首を折ってやるよ」


俺は**念動テレキネシス**の網を洞窟の周囲に広げ、闇に潜む殺意を待ち構えた。



洞窟の外、夜の静寂の中にわずかな不協和音が混じった。 落ち葉を踏む音ではない。気配を殺し、風の音に足音を重ねるプロの所作。領主が放った暗殺部隊か、あるいはギルドの狗か。


「……食ってろ。外を見てくる」


俺はスープを啜る少女に背を向け、洞窟の入り口へと歩んだ。 闇の中に意識を広げる。**念動テレキネシス**の網に触れたのは、四つの殺意。


一人目が岩陰から音もなく跳躍し、着地と同時に毒を塗った短剣を突き出そうとした。だが、その刃が俺に届くことはない。


「……まずは一人」


念動テレキネシス。消費MP 2。 空中で無防備になった男の首を、見えない巨大なペンチで挟むように固定し、そのまま真横に引きちぎるイメージで力を加えた。


――グシャッ。


骨が砕ける鈍い音が闇に響き、男は言葉を発することもなく地面に転がった。


「なっ!? ギルが――」


動揺した二人目が背後の木々から姿を露呈させる。俺はそいつに向け、地面に落ちていた小石を**念動サイコキネシスで弾き飛ばした。 音速に近い速度で放たれた石が男の眉間を貫通し、同時に念動テレキネシス**でその首を後ろへへし折る。


残る二人が左右から同時に仕掛けてきたが、俺は一歩も動かない。 左側の男の喉を『固定』し、右側の男の頭部を『回転』させる。


――メキッ、ボキッ。


二つの乾いた音が重なり、暗殺者たちは崩れ落ちた。 戦闘開始から十秒も経っていない。この過酷な世界において、情けは死に直結する。だから俺は、事務的に、確実に、彼らの命の灯を消した。


少女の決意

洞窟に戻ると、少女は最後の一口のスープを飲み干したところだった。 空になった器を膝の上に置き、彼女は外で起きた「死の音」を聞きながら、じっと自分の手を見つめていた。


「……死ぬのは、やめたのか」


俺の問いに、彼女はゆっくりと顔を上げた。 先ほどまでの、すべてを諦めたような虚ろな瞳ではない。そこには、泥の中から這い上がろうとするような、昏く、しかし強い光が宿っていた。


「……あんた、強い。……悪い人だけど、嘘はつかない」


彼女は震える足で立ち上がり、俺の返り血で汚れた外套の裾を、今度は「助けて」ではなく「離さない」という意志を込めて掴んだ。


「……つれていって。……死ぬのは、いつでもできる。でも、あの人たちが……あいつらが、笑ってるままで死ぬのは、いや」


絞り出すような声。 この苛烈な世界で、絶望を怒りに変えて生きることを選んだ者の言葉だ。


「……足手まといになったら置いていく。それは変わらないぞ」


「……わかってる」


俺は鼻で笑い、ステータスを閉じた。


【ステータス】 名前: ツカサ レベル: 9 HP: 115 / 115 MP: 208 / 220(戦闘により微減)


【同行者】


名もなき少女(生存意欲:確定)


「行くぞ。夜が明ける前にこの森を抜ける。……次はもっと過酷な場所だ」


俺はアイテムボックスから、彼女に予備のボロ布を投げ与えた。 一人は終わった。今日からは、この不条理な世界を二人で踏みにじっていくことになる。



「おい、いつまでも『お前』や『ガキ』と呼ぶのも不便だな。名前はあるのか」


夜の森を移動しながら、俺は隣を歩く少女に問いかけた。 少女は少し俯き、消え入りそうな声で答えた。


「……捨てたわ。前の名前も、家も。あんな地獄に繋がってるものは、もういらない」


「そうか。なら好きにしろ。……今日からお前は**『カレン』**だ。呼びやすければそれでいい」


「……カレン。わかったわ。私は、カレン」


少女はその響きを確かめるように一度だけ呟き、小さく頷いた。 見たところ、年齢は16歳といったところか。俺とそれほど変わらない歳だが、その瞳にはすでに何年も泥を啜ってきたような昏い光が宿っている。


街道を避けて険しい獣道を進む間、俺はカレンに魔力操作の基礎を教えることにした。 この苛烈な世界で、誰かに守られなければ死ぬだけの存在は、いずれ俺の足を引っ張る。生き延びたいなら、自分自身が「凶器」になるしかない。


「カレン、意識を手のひらに集中しろ。熱い塊を転がすようなイメージだ」


「……こう?」


彼女が必死に眉間に皺を寄せると、その小さな手のひらの上が微かに揺らいだ。絶望の淵にいた反動か、その集中力は凄まじいものがあった。


「いいか。魔力は思った通りに具現化する。まずは、その辺に落ちている小石を浮かすことだけを考えろ。指先を動かすのと同じ感覚だ」


移動の合間、俺は彼女に魔力の練り方と、視界に頼らずに気配を探る方法を叩き込んだ。 俺が使っている**念動テレキネシス**で首を折るにはまだ程遠いが、不意を突いて敵の注意を逸らす石を弾くくらいなら、数日で形になるはずだ。


「……できた。浮いたわ、ツカサ」


数時間後、カレンの手のひらの上で、不格好に小石が数センチ浮き上がった。 彼女の顔に、今日初めて「力」を手にした者の、昏い喜びが宿る。


「……ふん。それを寝ながらでもできるようにしろ。この世界じゃ、一瞬の油断が首を飛ばす理由になるんだからな」


俺は突き放しながらも、ステータスを確認した。


【ステータス】 名前: ツカサ(内田 司) 年齢: 18歳 職業: 冒険者(ランクE) レベル: 9


HP: 115 / 115 MP: 210 / 220(回復中)


【固有スキル】


アイテムボックス


前世の記憶


【取得魔法】


念動サイコキネシス: 消費MP 2?


念動テレキネシス: 消費MP 2


ピュリファイ: 消費MP 2


ピュリフィケーション: 消費MP 5


【同行者】


名前: カレン


年齢: 16歳


状態: 念動見習い


「ステータスにも反映されたか」


俺はカレンの成長を横目に見ながら、アイテムボックスからピュリフィケーション済みの干し肉を一枚取り出し、彼女に放った。


「食え。魔力を使えば腹が減る。……夜明けには国境の関所に辿り着くぞ」


「……わかったわ。ツカサ」


カレンは干し肉を必死に噛み締めながら、俺の背中を追って闇の中へと足を進めた。



夜明け前、霧に包まれた国境の関所が姿を現した。 切り立った崖の間に築かれた巨大な石壁。そこには数十人の衛兵と、魔力を帯びた波長を検知する「魔導探知機」の青い光が等間隔に配置されている。


「……あれを越えなきゃいけないの?」


カレンが隣で息を呑む。探知機の光が届く範囲は広く、隠密で通り抜けるのは至難の業だ。


「まともに正面から行く必要はない。だが、探知機を壊せば増援が来る。……一気に抜けるぞ」


俺は**念動テレキネシス**の出力を練り上げる。 関所の門を支える巨大な鉄のかんぬきと、壁の上に据えられた探知機の「中枢」に意識を飛ばす。


「……ステータスオープン」


【ステータス】 名前: ツカサ 年齢: 18歳 レベル: 9 HP: 115 / 115 MP: 210 / 220


【同行者】 名前: カレン 年齢: 16歳 状態: 念動見習い

「行くぞ。……れろ」


念動テレキネシス。消費MP 10。 凄まじい軋み音と共に、門の閂が内側から捻じ切れ、さらに探知機のレンズが一斉に粉砕された。


「敵襲だ! 門が開いたぞ!」 「魔導探知機に異常! どこだ、敵はどこだ!」


混乱する関所内へ、俺はカレンを連れて突っ込んだ。 立ち塞がる兵士たちに対し、俺は無造作に不可視の衝撃を叩きつける。だが、横から槍を構えた兵士がカレンの死角から躍り出た。


「カレン、やれ!」


俺の鋭い声に、カレンが反応した。 彼女は震える右手をその兵士へと突き出す。今まで小石を浮かせることしかできなかった彼女の意識が、初めて明確な「殺意」として一点に収束した。


イメージしたのは、俺が教えていた「関節の破壊」ではない。 もっと確実で、もっと冷徹な「急所」への干渉。


「……止まって」


カレンが呟いた瞬間、兵士の動きが不自然に止まり、次の瞬間、奴の喉仏が「内側」に向かって激しく陥没した。


「が……はっ……」


兵士は槍を落とし、自分の喉を掻きむしりながら崩れ落ちた。カレンの念動テレキネシス。わずかな魔力だが、脆い器官を一点に絞って「握りつぶす」という最も効率的で凄惨な手法。


「……やった。私、やったわ」


カレンの顔に、恐怖を塗り替えるような「力」への陶酔が過る。


「……呆けてる暇はない。行くぞ」


俺は崩れた門を蹴破り、関所の外へと続く下り坂を駆け下りた。 背後で鳴り響く警笛も、国境を越えた俺たちの足取りを止めることはできない。


不条理に奪われる側から、自らの手で首を折る側へ。 隣を走る16歳の少女の横顔には、もう迷いなどなかった。



国境の関所を越え、峻険な山道を数日。俺たちの目の前に、幾重もの黒い煙を吐き出す歪な街が見えてきた。 切り立った岩壁に囲まれた、無法者が集う「自由都市」ベラ。どの国家の法も届かず、力こそが唯一の正典とされる吹き溜まりだ。


「……あそこなら、騎士団も簡単には手が出せない。ただし、隣を歩く奴がいつ背中を刺してくるかもわからない場所だ。気を引き締めろ」


「わかってる。……もう、奪われるだけの私じゃない」


カレンの声には確かな芯があった。 道中、俺は彼女に「不可視の刃」の作り方を叩き込んだ。対象の頸動脈一点に魔力を集中させ、剃刀のように横へ滑らせる技法。小石を浮かすだけの遊びは終わりだ。


「ステータスオープン」


【ステータス】 名前: ツカサ(内田 司) 年齢: 18歳 レベル: 10(上昇!) HP: 130 / 130 MP: 250 / 250


【同行者】 名前: カレン 年齢: 16歳 レベル: 3(上昇!) HP: 70 / 70 MP: 45 / 45 状態: 念動(殺傷特化・見習い)

カレンのレベルが上がっている。一度「急所を突く」味を覚えたことで、彼女の魔力特性は急速に戦闘へと傾斜していた。


ベラの門を潜ると、腐った肉と油の匂いが鼻を突いた。 路地裏から向けられる無数の、品定めするような視線。俺たちはその中でも一際立派な、だが血の匂いが染み付いた宿屋に部屋を取った。


「……ツカサ、誰かつけてきてる」


部屋に入り、ドアを閉める寸前。カレンが短剣を抜きながら、気配の探知を俺に伝えてきた。 成長しているな。俺も気づいていた。


「……ああ。隠れる気もないらしいな」


俺が**念動テレキネシス**でドアを勢いよく開くと、そこには漆黒の装束に身を包んだ女が、影のように立っていた。 彼女の胸元には、この街の裏社会を支配する組織『三枚刃スリーブレイド』の紋章。


「……いい腕ね、お嬢さん。それと、そこのあなた。国境の関所を『突破』したっていう新顔は、あなたたちのことかしら?」


女の視線は鋭く俺を射抜く。 時間停止機能を持つ俺のアイテムボックスからは、魔力も臭いも一切漏れることはない。だが、関所を派手に壊して抜けてきたという「噂」と「事実」だけで、この街の支配者層は俺たちという獲物を特定していた。


「用件を言え。死にたいわけじゃないだろ」


俺は指先を軽く鳴らし、**念動テレキネシス**を女の喉元に「固定」した。いつでもへし折れる準備はできている。


「交渉よ。あなたたちが持ち込んだ『何か』に興味があるの。……私たちの組織に協力するなら、この街での『自由』と、追っ手の首をすべて買い取ってあげるわ」


「……三枚刃、だったか。俺を駒にするつもりなら、その首が胴体と繋がっているうちに失せろ。俺たちが組むのは、俺たちに利益がある時だけだ」


カレンもまた、俺の教えた通りに女の足元の石を浮かせ、いつでも射出できる構えをとる。 この新天地で、平和な暮らしなんて期待していなかった。ここにあるのは、さらに剥き出しの、命を懸けた「ビジネス」だ。


深夜。宿の廊下から、湿った足音が数人分近づいてくる。 先ほどの女を回収し、落とし前をつけに来たか。組織『三枚刃』の対応は予想通りに早かった。


「……カレン、起きてるな」


「ええ、準備はできているわ」


カレンは闇の中で音もなく立ち上がり、俺から教わった「急所への干渉」のために指先を研ぎ澄ませている。 俺はベッドに座ったまま、**念動テレキネシス**の網を部屋の外へと広げた。


扉の向こう側に四人。さらに窓の外、壁を這い上がってくる影が二人。 俺が仕掛けた楔を無理やり突破しようとした瞬間、扉が内側から爆発するように吹き飛んだ。


「――仕掛けろ!」


俺の声と同時に、カレンの指が動いた。 踏み込もうとした先頭の男が、自身の喉を抑えて膝をつく。彼女の放った不可視の「点」が、正確に男の気管を押し潰したのだ。


「が、はっ……!?」


「一人目」


カレンの声は氷のように冷たい。 俺は立ち上がることすらせず、右手を軽く振った。窓から侵入しようとしていた二人の「首」を**念動テレキネシス**で捉え、そのまま互いの頭を全力で叩きつけるイメージで引き寄せた。


――グシャッ。


鈍い音と共に、二つの死体が窓の外へ吸い込まれるように落ちていく。


「化け物め、死ねぇ!」


廊下から残りの三人が一斉に踏み込んできた。一人はボウガン、二人は抜き身の長剣。 俺はアイテムボックスから、さっき腕を折った女から没収しておいた三本の投擲ナイフを空中に取り出した。


念動サイコキネシス


消費MP 6。 浮遊するナイフが、俺の意志を受けて銃弾以上の速度で射出される。 ボウガンを構えていた男の眉間に一本。剣を振り上げた男の心臓に一本。そして、最後の一人の「右足」を地面に縫い止めるように一本。


「ぎ、ぎゃあああああ!」


生き残った最後の一人が、足の激痛に叫び声を上げる。 俺はゆっくりと歩み寄り、そいつの顔を覗き込んだ。


「伝えろと言ったはずだ。次は死体が届くぞ、と。……律儀に届け物を受け取りに来るなんて、随分と教育の行き届いた組織だな」


「あ、あが……っ、ひいっ……!」


俺は男の首を**念動テレキネシス**でゆっくりと締め上げた。 「明日の朝、俺たちがここを出るまでに、ボスの首を持ってくるか、あるいは街の鍵を持ってこい。……三度目はないぞ」


男を廊下へ放り投げ、俺はカレンを見た。 彼女は返り血を浴びることなく、ただ淡々と、自分が殺した男の死体を見つめていた。その瞳に後悔はない。


【ステータス】 名前: ツカサ(内田 司) 年齢: 18歳 レベル: 10 HP: 130 / 130 MP: 234 / 250


【同行者】 名前: カレン 年齢: 16歳 レベル: 3 HP: 70 / 70 MP: 42 / 45

「カレン、寝るぞ。……残りの掃除は明日だ」


「ええ……。ツカサ、私、もっとうまくやれるわ。次はもっと、静かに」


彼女はそう言うと、死体の転がる部屋の隅で、再び静かに目を閉じた。 自由都市ベラの夜は、まだ始まったばかりだ。



翌朝。昨夜の騒動が嘘のように静まり返った廊下には、血痕と破壊された扉の残骸だけが残っていた。


俺はアイテムボックスから、浄化した水を取り出して顔を洗う。隣ではカレンが、昨夜の戦闘を頭の中で反芻するように、静かに指先を動かしていた。


「……ツカサ、あいつら結局来なかったわね。ボスの首も、街の鍵も」


「期待はしてなかった。だが、逃げる時間も与えない。……行くぞ」


宿を出ると、街の空気は昨日よりも張り詰めていた。路地裏に潜むゴロツキたちの視線に、明確な「恐怖」が混じっている。俺は歩きながら、昨夜の襲撃者たちの残した「経験」が体に馴染んでいくのを感じた。


【レベルアップ!】 名前: ツカサ レベル: 10 → 11 HP: 130 → 145 MP: 250 → 280


【同行者レベルアップ!】 名前: カレン レベル: 3 → 4 HP: 70 → 85 MP: 42 → 55

「……感覚が研ぎ澄まされてる。ツカサ、昨日よりも魔力を動かすのがスムーズよ」


「実戦が一番のくすりだってことだ。だが、調子に乗るなよ」


俺たちは迷うことなく、街の中央に位置する巨大な石造りの館へと向かった。そこが組織『三枚刃』の本拠地だ。


館の門前には、昨夜とは比較にならない重武装の男たちが二十人以上展開していた。中央には、両腕を不自然な角度で固定され、憎悪に満ちた目で俺を睨みつける昨日の女の姿もある。


「……来たわね、化け物ども。ボスの首なんて、地獄へ行っても手に入らないわよ!」


女の叫びと共に、男たちが一斉に剣と槍を構える。さらに館の屋上からは、魔導弓を構えた狙撃手たちが俺たちを照準に収めた。


「掃除の続きだ、カレン。……一人も残すな」


「ええ。……すべて終わらせるわ」


俺は**念動テレキネシス**の出力を最大まで引き上げた。館の周囲にある石畳、街灯、そして兵士たちが持つ武器。そのすべてを「俺の支配下」に置く。


「……まずは、その騒がしい口を閉じろ」


俺が視線を向けた瞬間、館の前に立つ女の首が、不自然な速度で真後ろへ一回転した。


「――」


声どころか、呼気が漏れる暇さえなかった。女は自分が殺されたことすら理解せぬまま、崩れた操り人形のように泥の上へ沈んだ。


「…………ッ!?」


周囲の兵士たちは、悲鳴を上げることすら忘れて立ち尽くした。目の前の指揮官が、何の予備動作もなく「物体」に変わった事実を、脳が拒絶している。


「カレン、やれ。掃除の時間だ」


俺の合図と共に、カレンの姿が消えた。 レベル4に上がった彼女の魔力は、その細い肢体に爆発的な速度を与えている。


カレンは地面を蹴ると、正面の兵士たちが槍を突き出すより早く、その懐へと潜り込んだ。 彼女の指先が、最も近い男の喉仏を正確に指し示す。


パキッ、と乾いた小さな音が響く。 男は喉を押さえ、音もなく白目を剥いて倒れ伏した。


カレンの動きは止まらない。 死角から斬りかかろうとした男の側頭部に手をかざせば、不可視の衝撃が頭蓋を内側から粉砕する。 逃げようとした男の背中に意識を向ければ、脊髄が一点でへし折れる。


「……二人。……三人」


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