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乙女ゲームの舞台裏 ~モブとして観察していたら、隣にもう一人いたんだが~  作者: 新田青


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第六話



 気がつけば顔を伏せて俯きがちになっている。


 そんな俺が顔を上げたのは、突然、煩わしい音が聞こえたせいだった。


 横を見ると大きめのゲームセンターが目に入る。


 俺はゲームが好きだ。この世界に転生してからは特にやってなかったが、前の世界では友達と一緒に四六時中ゲームをしていた。


 そんなゲームを桐谷宗介になってからは、一度もやっていない。


「思ったよりストレスも溜まってるのかもしれないな」


 普段より心がざわついている自分がいる。


 そんな鬱憤を晴らすために、俺の脚はゲームセンターの扉へと向いた。


 手をかざすと自動扉が開き、中ではゲームセンター特有の甲高い電子音が鳴り響いていた。


 ちょうど目があった店員の挨拶に会釈を返し、俺はゲームセンター内部を見渡しながら歩く。


 3階建てらしく、一階はUFOキャッチャーなどのクレーンゲーム。2階はアーケードゲーム。3階はダーツやビリヤードがあるらしい。


「格ゲーでもやるか……」


 息を荒くしながら長い階段を登り、2階のアーケードゲームのコーナーに行った。


 すると、何やら一つの筐体に人だかりができていた。


「30連勝!? やばすぎだろ!」

「誰か止めてくれ!」

「プロゲーマーか!?」


 格闘ゲームのコーナーだ。丁度いいと思いながら、俺はその筐体の対面に座る。


 30連勝した猛者らしいが、どれくらい上手いのだろう。


 興味本位で店内対戦を選ぶと、すぐに人だかりで見えない対面とのゲームがマッチした。


「確かに上手いな」


 随分とやり込んでいる様で、座学をしないと知らないテクニックも多く使ってくる。


 ──ゲームはやはり素晴らしい。


 胸中に抱える不安や迷い、そういったものがゲームをしている時にはどこかへ姿を消す。それが強い相手との対戦なら尚更だ。


 画面にノックアウトの文字が映し出される。僅差だが、何とか勝利を納められたみたいだ。


 その後から俺の連勝が始まったが、先ほど戦った相手より上手い人はいなかった。20連勝したところで満足して後ろにいた人に変わってくれと頼んだ。


「くー」


 大きく伸びをしながら筐体を後にすると、背後からぽん、と肩を叩かれる。


「よう不良生徒」


「相馬?」


 俺の肩を叩いてきたのは、一昨日に知り合った相馬アランだった。


 俺は少しカチンと来て、食い気味に言い返す。


「誰が不良だ。お前の方がよっぽどそう見えるぞ?」


「そうか? 制服でゲーセンに寄るやつの方が不良じゃないか?」


 そう言われて相馬を見ると私服姿だった。チェーンが多いチャラチャラした格好はいつも通りで、様式美にさえ感じる。


「……学校帰りだから仕方ないだろ?」


「その事を言ってるんだけどな……」


 言われてみれば、普通の高校は学校帰りにゲームセンターに寄るのを禁止している場合が多い。例に漏れず春ヶ丘高校もそうだろう。


「……やっぱりちょっとテンパってるのかもな」


 ただでさえ不良生徒のレッテルを貼られてる。いつもだったら理性が勝って、そのまま素通りしていた筈だ。


「おいおい。テンパってるだって? 今まで対戦した中で、一番強かったぞお前」


 どうやら、30連勝をしていたのは相馬だったらしい。ぶっ飛んだ見た目の割には、ゲームのプレイは堅実だったためイメージが崩れる感覚がした。


「ゲームは唯一の得意分野なんだよ。それで? 相馬はここで何してたんだ?」


「何って……学校サボって入り浸ってただけだよ。ここには知り合いも多いし」


 俺なんかよりよっぽど不良だと思ったが、それを言うと分が悪いため大人しく飲み込む。


「そうか……まあ、ほどほどにな」


 そう言って別れようとすると、相馬が今度は力強く俺の肩を掴んだ。


「まだだ。次はレースゲーで勝負しよう」


「……いいけど、負けても泣くんじゃねえぞ?」


 ことゲームにおいては俺は大の負けず嫌いだ。それがこの世界の重要キャラだろうと、友人だろうと、勝ちを譲ってやる気は毛頭ない。


「ぬかせ」


 花開くような満面の笑みで俺の腕を掴む相馬。これが男女だったら青春のワンシーンにカウントできそうだが、残念ながら相手は男である。


「ほら! 行こうぜ!」


「あんま引っ張らないでくれ。運動は苦手なんだよ」


 ぶっきらぼうに相馬に言ったが、内心ではワクワクしていた。友達と遊ぶのは久しぶりだったからだ。


 相馬も同じようで、初めて会った時には見せなかった表情をしている。


 楽しいという感情を少しも隠さない相馬を見て、まるで犬みたいだな、と思いながら数々のゲームを一緒に遊んだ。

 


 ***

 


 最後のゲームはストラックアウトだった。


 相馬は九個の的を正確無比に全て当てた。しかも手を抜いてる感じさえあった。


 俺は本気でやって二個だ。ビンゴ一個にもならない。


 少し疲れたため、ゲームセンターのベンチで二人でジュースを飲みながら休憩をしていた時だ。


 何の気無しに相馬に訊ねてみた。


「野球上手いんだな。やってたのか?」


「ああ……高校まではな」


 それまではゲームの話で盛り上がっていたが、野球の話を出すと相馬は少し歯切れが悪くなる。


「どうして辞めたんだ?」


「直球だな……? 普通、この雰囲気でそんな風に訊かないぞ?」


「はは。もう友達だろ? なら、聞きたいことがあったら悩むより先に聞くさ。気を悪くしたなら謝るよ」


 俺がそう言うと、相馬は少し微笑んで「謝らなくていい」と手を振った。


 相馬は少し逡巡しながらも、ポツポツと語り始めた。


「──肘を怪我したんだ。ピッチャーだったんだけど、もう思い切り投げられなくなった。野球の名門に推薦も決まってたんだけど、それも取りやめになってな……」


 なるほど。それで春ヶ丘高校に来たって設定なのか。


 思い返すと、初めて相馬に会った時、どこかで見たことがある様な印象を受けた。


 あれは多分、乙女ゲームの表紙で見たのだろう。


 それを今更になって思い出す自分に肩を落とす。


「悪かったな。筆箱投げさせたり、ストラックアウトさせたり」


 自分の顔を鏡で見たら、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。


 言い訳になるが、俺が相馬アランというキャラについてちゃんと知っていれば、トラウマを抉るような事はしなかった。


 それどころか、俺が引っ掻き回さなければヘアピンは相馬の手に渡り、春風との出会いで救われるストーリーだったのだろうか。


 その出会いを潰したとするならば、なるほど、堀田も怒るはずだ。


 堀田とは違って、俺はこの世界について全くの無知だ。せいぜいが主人公の春風というキャラと、その周辺のキャラを一人、二人知ってるくらい。


 相馬のことを知らないせいか、彼をキャラクターとして見れない。そのせいで彼に打ち明けられた傷が重くのしかかるようだ。


 自己嫌悪に陥る俺を見て、相馬は苦笑した。


「謝らないでくれ……桐谷には感謝してるんだよ。あの時、お前のおかげだって言ってくれただろ? その時に単純かもしれないけど、俺のやってきた事は無駄じゃ無かったって思えたんだ」


 相馬は拙い言葉でどうにか感謝を伝えようとしてくれているのか、手振りも合わせて俺に語る。


 心が弱っていたからだろうか、その言葉に俺は妙に目頭が熱くなった。


 だから普段は絶対にしない質問を、相馬に投げかける。


「なあ相馬。ちょっと相談に乗ってもらってもいいか?」


「も、勿論! 何でも話してくれよ! あ……勉強以外の事で頼むな?」


 よほど俺が相談することが意外だったのか、相馬は少し動揺しながらも嬉しそうに応えてくれた。


 俺は少し深呼吸してから口を開く。


「──もし、だけど……自分のせいで誰かが虐められたら、お前ならどうする?」


 これはある意味、卑怯な質問だ。相馬ならこの質問にどういった答えをくれるのかなんて分かりきっていた。


 彼はゲームの主要キャラで(モブキャラ)とは違って舞台では春風と同じ場所に立っている。


 眩いスポットライトが照らす場所にいる彼が、馬鹿らしくなるほど善良な人間だってことは端から理解していた。


 だから、俺はただ背中を押して欲しかっただけなのかもしれない。


 僅かに緊張しながら答えを待つ俺に、相馬は笑った。


「──そんなの悩んでる時点で、助けたいと思ってるんだろ?」


「っ……」


 想像を容易く超えてきた相馬の言葉に、俺は呆然とベンチの背もたれに体を預けた。


 思わず天井を仰ぎ見ながら言葉の意味を咀嚼すると、徐々に決意が固まっていく気がした。


 俺を心配そうに見る相馬に、どうにか絞り出すように言葉を発する。


「──ありがとう。その言葉が聞きたかったんだ」


 ただのキャラクターの言葉だと言ってしまえばそうだろう。そんなもので心を動かされるなんて、誰かが聞いたら馬鹿にされるかもしれない。


 だが、画面外の大勢に向けられた物ではなく、俺だけに向けられた答え。


 それがこんなに心地よく響くなら、モブキャラと主要キャラの垣根など、今はどうでもいいとさえ思えた。


 


 


 

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