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Ep3-1:小輪雁夏水の平和な朝

「ひっよこっがねっ♪ おっにわっでぴょっこぴょっこかっくれっんぼー♪」


 小輪雁夏水は歌いながら、リズムに合わせて毛玉にフェルト針を突き刺していく。


「どっんなっにじょーずっにかっくれってもー♪ きーろいふんふっふふっふふっふふーん♪」


 うろ覚えだった。ついでにあんまり上手くもない。

 それでも手つきは正確で、手捌きは高速だ。

 高速過ぎる。まるでミシン針だ。

 この技前を見れば誰も彼女のことを可愛いだけの女とは言わないだろうが、あいにく狗尾柄中学に手芸部は無かった。

 INT(かしこさ)AGI(すばやさ)と違って、DEX(きようさ)は学校では評価されにくい項目だ。そういう点ではこの女、青い狸の相棒である射撃の達人と通じるものがある。


「だっんだっんだーれーがめっかったー♪」


 あっという間に、直径15ミリの球体にデフォルメされた黄色いヒヨコが出来上がった。


 四方木礼祀との待ち合わせ(待ち合わせだ)の時間まで、まだ15分は余裕がある。礼祀に時間を合わせて登校するようになっても、以前からの習慣だった起床時間は変わらなかった。これはそのタイムラグの時間潰しだ。


 ヒヨコを膝に乗せた夏水は、余っていた赤い羊毛を手に取ると、ちょっと首を傾げてから、くるりと毛玉を作って、また歌い始めた。


「すっずめっがっねっ♪ おっやねっでちょっこちょっこかっくれっんぼー♪」


 小輪雁夏水は見た目より大雑把だった。

 何色でも、スズメは可愛いのだ。




 15分後、いつまで歌ってるのと母親に急かされた夏水は、恥ずか死にそうなほど顔を真っ赤にして家を飛び出した。




※※※※※※




「どうかな? どうかなコレ?」


 ほめてほめてとジャレついてくる犬の尻尾のようにブンブン揺れる髪の周りで、赤いスズメと黄色いヒヨコが踊っている。


 四方木礼祀は、くぁ、と欠伸(あくび)をした。


「御機嫌な仕上がりだな」


 制作者とセットで、礼祀は2羽の鳥にそんな評価を下した。

 制作時間こそ短いものの、その15分には技術を磨いた11年の時間と執念が込められている。ヘアゴムに飾られたフェルト細工の表面はふわふわとした質感を活かしながらも毛羽立ったところが毛頭無く、髪に絡む様子を全く見せない。素人の仕事では無い。


「でしょー」


 満開の笑顔を見せる夏水。冗談じゃなく道行く車のドライバーが見惚れて事故を起こしかねないと、礼祀は車道側に移動して視線をブロックしながら言葉を続ける。


「何で雀が赤い?」

「えー、いいじゃん可愛いじゃん。赤いきつねって言葉も有るし」

「アカギツネってのはいるけどな」

「ほんと? 赤いの?」

「ギンギツネよりはな」


 中身の無い会話だった。そんなことより赤くても雀だと分かる直径15ミリのデザインを褒めてやりたい礼祀だったが、路上でこれ以上調子に乗らせると朝から死人が出るかもしれない。


「赤いスズメっていないの?」

「アカスズメフクロウってのはいるな」

「何それ可愛(かわい)そう!」

「かわいそう?」


 雑な日本語に欠伸しながら、礼祀は歩く。


「お前は本物の鳥見たらビビって泣くんじゃねーの。こんなに小さくねーぞ」

「うっ」


 エサをあげようとしたら群がってきた鳩にパニックを起こした過去を思い出し、夏水の笑顔が凍る。

 そんな夏水を横目で見ながら、礼祀はまたひとつ欠伸をする。


「なんで動物って(わたし)を見るとタックルしてくるのかな……」

「そういう(にお)いでもするんじゃねーの」

「ええー…… 動物が寄ってこない臭いってどんなのかなぁ」

「刺激臭だろ」

「刺激臭かぁ……」

「トウガラシとか、ネギとか」

「ネギかぁ……」




 学校に着くまで会話は途切れなかった。

次回はこんな感じで教室に突入する予定です。盆休みの間にはなんとか。お付き合いありがとうございました


過去作含め、評価・感想ほんとうにありがとうございます

折を見て返信させていただきます

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