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Ep2-1:目撃された方はご連絡下さい

「じゃあ、また明日ね!」

「んぁ」


 放課後、幕戸屋(まくどや)の前で二人は別れた。

 普通に歩いているようにしか見えないのに、凄まじい速さであっという間に遠ざかっていく礼祀(れいじ)の背中を見送ると、小輪雁(こわがり)夏水(なつみ)はふぅ、と一息ついて、家路を辿り始める。


 今日も平穏な一日だった。きっと、多分。

 あいかわらず、クラスメイトの半数は欠席だったけれど。

 あいかわらず、四方木くんは休み時間ずっと寝てばかりで、ろくに話もできなかったけれど。


 クラスがこんな状態で、受験、大丈夫なのかなぁ……


 市立狗尾柄(いぬおづか)高校なら赤点じゃなきゃ入れると言われているが、田舎のヤンキーの巣窟とまで言われている所だし……

 できれば地元で一番評価の高い、(あい)学付属こと国際共存大学付属高校を目指したいが、今の成績では少々心もとない。

 やたらと遊びに誘ってきたり電話をかけてきたりしていた友人Aがいない今、勉強に集中すれば成績が伸びたりしないだろうか…… とは言え、時間が空くとついついリリアンを編んだり羊毛にフェルト針を刺したりしてしまうのだけど。


 四方木くんはどこの高校に行くつもりなのかなぁ……


 そんなことを考えながら、表通りから住宅街へ続く路地へと足を踏み入れた時、


 『目撃者を探しています!』


 交通事故現場で時折り見かける例の看板が目に入った。

 確かに、ここは狭い道と広い道が交差する上に交通量が中途半端で、事故が起きやすいと言われている場所だ。


 うわぁ、事故なんてあったんだ。ニュースになってた憶えは無いし、人身事故とかじゃなくてちょっとした当て逃げか何かだろうけど…… と、夏水は何気なく看板に目を()った。


『【6】月【6】日 午【後4】時【15】分ごろ』


 ……ん?


 スマホを見る。6月6日、午後4時10分。

 あれ? 去年の事故? 今朝通った時はこんな看板なかったはずなのに……


 目を(しばたた)かせながら、夏水はもう一度看板を読んでみた。




『【6】月【6】日 午【後4】時【15】分ごろ、この場所で【小輪雁夏水】と【▼▲▼▲】の交通事故が発生しました』




 ………………え?


 目を擦る。6月の太陽はまだ高く、変な見間違いをするほど薄暗くはないはずだけど……


『目撃者を探しています! 【6】月【6】日 午【後4】時【15】分ごろ、この場所で【小輪雁夏水】と【▼▲▼▲】の交通事故が発生しました。目撃された方はご連絡下さい。0▲▼-▲▼▲-▼▲10』


「なに、これ」


 背筋にぞわぞわと怖気が走る。(なん)(わたし)の名前が? (なに)と事故ったって? 妙に字が掠れたり汚れたりしていて、よく見えない。


 え? 誰かの悪戯? それとも、5分後に起きる事故の予言? どっちにしても、気味が悪くて仕方ないんだけど!?


 と、とにかく『この場所』から離れた方がいい? 警察に連絡した方がいいのかな? 大声を上げて人を呼んでみる? どうしよう、どうしよう?


 考えがまとまらない。足が震える。呼吸がままならない。時間だけが過ぎていく。4時11分、12分、13分……




 たんっ


「ひぅっ」


 背後から足音が聞こえた瞬間、へなへなと夏水はアスファルトの上に崩れ落ちた。


 たん、たん、と容赦なく近づいてくる足音。このままじゃいけない、と思いながらも、じゃあどうすればいいのか、全然分からない。


 恐怖に震えながら、魅入られたように、夏水は、足音の方へ、ぎこちなく、ゆっくりと、壊れかけの扇風機のように、振り向き……




「なんでこんなことになってんだ?」


 四方木(よもぎ)礼祀(れいじ)の姿を見つけて、ふにゃああぁ~~、と変な息を()いた。

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