第七章
朝陽が頭上まで上がってくるまで、俺たち二人はただただ平坦な道を歩き続けていた
アリスが途中休みたいと2回ほど後ろから声がしたが、俺は無視して歩き続けた
だがとうとうへたり込んで歩けなくなってしまったので、仕方なく休憩することにした
俺としては今日中にはオーガの住処に到着しておきたかったが、ここで休むとなると今日の
深夜、下手したら翌日になってしまうかもしれない さすがに不眠のままオーガと戦うのはただでさえ
体格差がある以上、こちらに分が悪すぎる そうなると野宿をするしかない 本来であれば夕方に到着後
お互いに時間交代で仮眠をとりつつ、明け方に奇襲と考えていたため、仮眠時間が少なくなる分、疲労が
溜まって戦いに支障が出る可能性もある なんとかそのような事態は避けねばなるまい
と、俺が今後の戦術を考え込んでいる間も、アリスは近くの小川に流れる水を両手ですくい勢いよく
飲み干して、ぶはーっと大きな声を出して天を仰いでいる
こいつ、俺たちはこれからオーガを倒しに行くというのになんと能天気な事だろうか
というか、こいつはオーガを倒しに行くということを知っているのだろうか・・・
いや、俺がまず伝えただろうか よく考えてみたら伝えた記憶が無い となれば、こいつはこれから
何しに行くのかもしれずにただ付いてきているのというのか?
鼻歌交じりに水を腕にかけているアリスに向け、俺は確認した
「貴様、今から俺たちがどこに行くのか知っているのか」
アリスは振り返って即答した
「いえ、知りませんけど どこに向かっているのですか?」
唖然とした なぜ聞かない これからの仕事内容も聞かずにここまで延々と歩いてきたというのか
とんでもなく能天気 そして馬鹿だ
「オーガが棲むという里だ 俺たちはそこの親玉を刈る それが俺たちの任務だ」
俺がそのように伝えると、アリスの顔からみるみる血の気が引いていくのがわかった
目を点にして固まっている まるでそのままの姿で石像になったようだ
「お、おお、オーガって、あの体長はゆうに3mを超えて、全身毛むくじゃらで、口からは牙がせり出している あのオーガのことですか・・・」
季節は暑いくらいだというのに、アリスの身体は真冬にいるかのうようにガタガタ震えだし、口に出した言葉もぶるぶると震えていた
「そうだ」あっさりと俺は答えた
「えっ、えっ、えっ なんで? オーガとは不可侵条約を結んだからそれを破ってはいけないんですよね
それをなんで私たちがわざわざそれを破るような事をしなければならないのですか そんなことしたら
兵士とオーガたちで大戦争になっちゃいますよ?」 あわあわと能弁たれるアリスに苛立ちを覚えながら
俺は答えた
「貴様が考えていることを俺が考えていないと思ったか そのような事は百も承知だ なぜオーガと兵士が争うようになったのか それは国王が領地拡大を望むためだ しかしオーガの長が強大なため、侵略することが出来ず、常に動向をうかがっているのが現在の状況だ そこで俺たち二人が秘密裏に忍び込んで
オーガの長を暗殺する そうすると統率力を無くしたオーガは混乱し散り散りになる そこを突くのが
国王のやり方なんだよ」なるべく端的に今回の任務を説明した。
「でっ、でも! そんな事私たち二人で出来るのでしょうか・・・」
アリスは戸惑いながら尋ねてくる
「出来るのかどうかではない やるしかないんだよ」
俺はオーガの里の方向を見た
「とりあえずこのまま歩き進めるぞ 一刻も早く近くまで到着したい」
俺はアリスに目も合わさず歩き出した。その後ろからはアリスの立ち上がり草を踏む音が聞こえた