第六章
「おいおい、本当に大丈夫かよ 賢者さまぁ」
私ははっとした。そう、まさに今、私は勇者ガインと一緒に仕事に向かうことが決まったのだ
ガインの姿はもう酒場には無かった どうやら旅支度をしに帰ったのだろう 酒場に残った私は
大杖を抱えながらまだ高鳴る心臓の鼓動を抑えきれない 勇者とペアを組むことになったのだ
その様子を見ていた酒場の一人が嘲笑しながら私を見ていた。さっきの言葉、あいつが放ったのだ
「そんなんであのワガママおぼっちゃまをサポートできるわけぇ?」
男は周りの仲間と一緒にニヤニヤしながら私を見ていた。私は相手をにらみつけ、旅支度をするために
酒場を後にした。
馬鹿にされている。私たちはきっと周りからしたら実績の無いくせに横暴な勇者と親のコネで賢者となった落ちこぼれだと映っているのだろう。そんな二人でろくな仕事が出来るわけない、無理に決まっている
ドラゴンに討伐に行くまでに野垂れ死んで終わりだ 声にならない声が私に向けられた多くの視線から読み取れた
私は踵を返しそそくさと酒場を後にした
やるしかない そのような周りの声を黙らせるには、私たちがしっかりと仕事を遂行することだ
そうして実績をつけるしかないのだ やってやる やってやるぞ!
鼻息を荒く私は家に戻った
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幸い雨は降っていなかったが太陽が上がっていない早朝は、まだ薄暗く寒さが身に沁みる
東門に着いた俺は両手を組み、賢者の到着を待っていた まだ薄暗いこともあり住民達が起きて
活動している様子は無い 時々小さな小鳥がハミングを口ずさみながら目の前を通り過ぎた
オーガ討伐 決して楽な仕事ではない事は重々承知している 酒場から帰宅後、鎧兜のメンテナンスを
依頼した業者は、その話を聞くなりひどく驚いていた オーガ討伐を望んでいる声もある一方で、俺が
無事に帰ってきてほしいことを言っていた 俺が心配なのではない。勇者という金成る木が戻らなくなると困るからだ。結局業者の奴らは自分のことしか考えていないのだ
選ばれた勇者しか持てないという大剣
強度を保ちつつ軽量化を実現した鎧
脚への負担を軽減し機動性も上げたブーツ
厳選生地で編み込まれた勇者専用のマント
俺の装備品はこの城内の叡智に富んだ品物ばかりである 間違いなく装備品は一級品ばかりだ
やるしかないのだ あの毒薬業者の息子が愚痴っていた俺へのイメージを変えないといけない
あのような声を無くすには俺が実績を付けるしかないのだ その為にこのオーガ討伐 必ず
成し遂げなければならない
やがて朝靄から大杖を持つ女の影が見えてきた 影はやがて鮮明になり賢者アリスがはっきりと姿を
表した 相変わらず両手に大杖をつけながら、大きな本を背中に括り付けている
おそらく魔導書であろう そのような本を持って実戦に何の役が立つのだろうか
またアリスの顔も酷かった 目の下にはクマができており、とてもこれから討伐に行く者には見えない
昨日緊張で寝れなかったのだろう なんという小心者だろうか
愚かだ・・・朝靄から現れたアリスを見て率直に思った
だが今更後悔してももう遅い 我々はやらねばならないのだ
「行くぞ」
そう言って俺はマントを翻して東門を出た
アリスはか弱く「はい・・・」と掠れた声で言った
やがて後ろから一筋の光が差し込んできた
太陽が昇って来たのである 一筋の光は徐々に大きな光の束となり俺の周りだけでなく
この世界全体を照らし続けるのだろう 太陽よ勇者としての俺の道を照らし続けるがいい




