第四章
夕焼けが酒場の正面にスポットライトのような光を浴びせている中
今日も誰からも声掛けが無かった。がっくりと肩を落とし、家路の帰路に着く。
私は今年、王から直々に賢者として認定された。資格試験は一生懸命勉強したし、実技試験も
うまくできたとは思っている。だが、はっきり言って実技試験はレベルが違った。他の実技者と出せる
氷の矢の数は少なく、炎の轍は短い。そんな私が様々な賢者候補生の中から選ばれた要因は一つしかない
親のコネである
父は賢者、母は僧侶 として長年多くのキャリアを積んできた。
彼らの一人娘である私は、生まれた時から既に賢者か僧侶か の2択で既に人生は決まっていたのだ。
二人とも、私たちもそうだったように、お前もそのように生きていきなさい とは常々言われ続けて
おり、私もそのように生きていくのだと思っていた。
ただ父のような賢者にはほど遠く、意欲はあっても才能は無い 才能が無いのに人一倍難しい魔術に
挑戦しようとして失敗する これが私の常だった
才能が無い私を何とか賢者として成功させたい両親は、自身が魔術協会の理事長である権限を使い
賢者にさせたのだ。どのようにして私を賢者に仕立て上げたのかは分からない。ただそこには私の知らない政治の力が働いているようである。父はよく「マリアは何も気にしなくていいのだよ」と言われた。
あの時の父と母の憂いを帯びた目を私は一生忘れはしないだろう。
何とか両親の期待に応えないといけない
私は早速実績を積むために酒場で仕事を探した。
仲介者からの話、酒場のマスターからの話から小さな仕事はこなしてきた。
だがいざモンスター退治などとなると、怖気づいてしまう私はだれか協力者への同行依頼を出して
協力して依頼をこなしたかった。実績の伴わない賢者に対しての世間の風当たりはきつく、親の七光りで賢者になった私とパーティーを組むことを好き好んで行う変わり者はいない。おそらく私と同時期に賢者試験を受けて落選した者が風潮して私に嫌がらせをしているのだろう。面白半分で声だけかけてくるが、そのまま音沙汰無しの輩など数えきれないほどである。
父と母は無理してモンスター討伐にいかなくてもいいのではないか、賢者の資格だけあれば充分ではないかと親バカっぷりを発揮しているが、そうもいかない。私だってこのままずっと親のスネをかじりつづけ
るわけにはいかない。何とかして実績を積み、決して親の七光りだけでないことを見せつけたい
私は強く思っていた。
ふと、私は斜め前にいる男性に目を向けた。彼もまた誰も相手がいないようである。
高貴で傷一つついていないマント、宝石品がちりばめられた柄だけが見える大剣
間違いない、彼は以前、王からドラゴン討伐依頼を受けた勇者だ 椅子の上で腕を組み、目は閉じて何かを待っているようだ まがまがしいオーラが勇者の周りを渦巻いているように見える
普段であればなるべくかかわりあいたくない人種だが、彼もまた相棒を探しているのではないか・・・
ちらちらと勇者を見るが、勇者はぴくりとも動かない。
巷の噂ではかなり風変りな人物だと聞いている。父親が勇者だったことから、特に実力も無いくせに
勇者になれたと周りからは悪い噂を主に耳にする。みんな口では言えないが、心の中では勇者をそのように思っているのである。その境遇は少なからず私にも当てはまっており勝手に親近感を抱いていたのだ
同じ境遇を持つ同士、私たち二人であれば、分かり合えるかもしれない・・・
私は意を決して立ち上がった